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蒼天に掲げて

作者:ダウアー
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六話

 爺に連行されている途中、俺は照姫と念話を飛ばして話をしていた。

(おい照姫、この爺は一体なんなんだ?)

『分かんないわね、只者ではないと思うけれど』

 俺が聞きたかったのはこの爺のことだったのだが、どうやら照姫も知らないようでうーんと唸り不思議がっていた。

『普通はこの森の奥まで来れないはずなんだけれどね』

「そういえばお主、名はなんというんじゃ?」

「ん?」

「名じゃよ、名。お主にもそれくらいあるじゃろう」

「ああ、俺は柏也っていうんだ」

「柏也か。儂は羽須(はま)じゃ」

 俺は爺が名乗った名に聞き覚えがなく、三国志に登場する武将などではないようだと判断した。

(てか今三国志のどの辺りなんだ?)

『あ、いうの忘れてたわね。えーとちょっと待っててよ、今確認するから……うん、柏也に分かりやすくいうわね。今は黄巾の乱が起きる十年前くらいかしら』

(なんだと!?)

『え、そんなに驚くようなことだった?』

(当たり前だ! ということはだ、反乱分子が五胡を掌握するまでの期間はどのくらいだ?)

『だから貴方が天下をとるくらいよ』

(それに今から何年かかると思ってんだよ!)

『えーと……結構かかるわね!』

(俺は既に魏呉蜀で対立してるのかと思ったわ!)

『悪かったわよ、でもまだまだ強くなる期間があったほうがいいでしょ?』

(そりゃな、だが次からは重要そうだったら、なんでもいいから教えてくれよ?)

『ええ、分かってるわよ』

「先程からなにやらぶつぶついうておるが、どうかしたのかの?」

 俺達が念話で話をしていたからだろう。爺が不思議そうな顔をして俺を見ていた。

「なんでもねえよ爺、それより俺をさっさと解放しろ」

「それはできぬのう、儂もこの森は苦手じゃからの」

 いや得意な奴はいないと思うぞ爺。

「それよりお主、本当にこの森で五年も過ごしたのか?」

「それがどうかしたのか?」

「いやの、ここは誰も近寄らぬ森でな、狼やら熊やらがとても凶暴で強いのじゃよ」

「なんだって!?」
『なんですって!?』

 驚愕の事実を知った俺と照姫は、二人そろって驚きの声をあげた。
 ……ん?

(いや待て待て待て! お前がここに連れて来たんだよな!?)

『え、ええ、そうよ? 全部計算の内に決まってるじゃない』

(嘘つけてめえ! 明らかに今知りましたみたいな感じだったじゃないか!)

『まあまあいいじゃないの、今まで生きてこれたんだし』

(それで済むと思って――)

「知らんでここに住んでおったのか、馬鹿じゃのうお主」

「爺、てめえさっきから好き放題いいやがって!」

 堪忍袋の緒が切れた俺は、爺に八つ当たりしようと殴りかかる。

「血気盛んじゃのう」

 爺は俺の突撃に動きもせず、俺が繰り出した右ストレートを受け止めると、そのまま投げ技のように組み敷いた。

「じゃがあまり良いこととはいえんの、頭に血が上ると動きが単調になるぞ?」

 俺はいきなりのことに頭が追いつかず、投げ飛ばされたことに気づかなかった。
 てかなんださっきの技は? 力を利用されたような感じがしたぞ。

「お、ようやく見つけたぞ。ここじゃ」

 俺が起き上がると、爺が変な建物の前で腕組みをしながら頷いていた。

「うわー、つるまみれだな」

「十年も前じゃからの」

 感傷的に家に入っていく爺のあとを追い、中の光景を見て驚いた。

「鍛冶工房じゃねえか、てことは息子は鍛冶屋だったのか」

「そうじゃ、少し名の知れた鍛冶屋だったらしいがの」

「へー、ならもっと良いところに住めばよかったのにな」

 俺がそういって爺を見れば、爺は既に部屋の隅で物色を始めていた。

「ここにずっとおるわけにもいくまい。はよう用を終わらせて出るぞ」

 爺にそう催促され、渋々部屋の中を探して回る。
 出てきたものは包丁、金槌、クナイのようなもの、刀、盾っぽいもの、両刃剣、薙刀、棍棒等々、金属の武器やら道具やらが山ほど出てきた。
 そんな中で、俺は部屋の奥に立てかけてある二本の巨大な野太刀を発見した。

「なんだこれ」

 俺がその太刀を持とうとしたところ、太刀の予想以上の重さに体がフラフラとよろめいた。

「重ッ!?」

 俺はこけそうになる体を必死に支えながら、太刀を鞘から抜き放つ。抜き身になった太刀は鈍く光り、そこら辺に置いてある武器等とは明らかに違う異様な空気を醸し出していた。

「おい爺、これすげえぞ。すげえカッコいい」

 俺は目をキラキラさせながら爺に見せびらかすと、爺はなにか紙のようなものを持っており、それをしまいながらこちらを見た。

「形見ってこれでいいんじゃないか? だってこれ他の武器と比べて明らかに丹念に作られてるぞ?」

「ほう、確かに他のものに比べるとこれが一番よさそうじゃのう」

 爺も頷き、形見はこの二本にしたようだ。

「じゃ、形見も見つかったんだから俺は帰るぞ」

 目的が達成できたので帰ろうとすると、爺に首根っこを掴まれた。

「もう少し待たんか」

「ずいぶん長い間付き合ってやったじゃねえか、他になんかあるのかよ?」

「これもなにかの縁じゃ、お主儂と一緒に旅をせぬか?」

 突然爺から勧誘され、俺は即拒否しようと口を開けようとしたが。

『ちょっとストップ!』

 何故か照姫に止められてしまった。

(なんだよ? もしかして俺に爺と旅しろってか?)

『そういうことよ。別にいいでしょ?』

(精神的にいやだ)

『この程度なら大丈夫でしょ、それに私達もそろそろ新しい行動しないといけないんだし、ちょうどいいじゃない』

 照姫にそういわれ、確かに俺もそうだと思ってしまったので頷くしかない。

「仕方ねえな。そのかわり爺、俺にこの世で生き残る術を教えろ。それが条件だ」

 爺は俺の条件を聞き、にこやかな笑顔で快諾した。

「任せておけ、最初からそうするつもりじゃったからのう」

 最初から? と俺が声に出そうとすると、爺が、持っていた二本の太刀を俺に渡してきた。

「お主にやろう」

「え? いいのか爺、これお前の息子の形見だろ?」

「その息子の頼みじゃ、その武器を使いこなせる者を探してほしいと」

「いや俺には絶対使いこなせねえぞ?」

 俺はそういって爺に野太刀を返そうとする。

 だってこれ一本ですごい重いんだぜ? しかも二メートルほどもあるから俺の身長じゃ背負うことすらできないし。

「今はできんがお主が修行をすれば可能じゃろう。なにせその歳でこの森を生き抜くことができるんじゃからな」

 自信に満ち溢れた顔でそういわれ、俺は少しの間迷った。

 確かに魅力的な話だ。こんな業物といってもいい太刀を二本ももらい、しかも爺が修行をつけてくれるらしい。だがしかし、まだ俺には早いんじゃないかとも思う。
 爺と子供が二人で旅をすればこの世の中だ。賊なんかから見れば俺達は格好の獲物だ。爺がどれほど強くたって限度があるだろう、それに爺だ老いもある。そこでお荷物になる俺がいればどれほど大変だろうか。

「大丈夫じゃよ」

 俺の考えていることが分かったのだろうか。爺が自信満々に宣言する。

「儂だって馬鹿ではない、ちゃんと考えておるわい」

 それに、と爺が俺を見てニヤリと笑う。

「お主がすぐに強くなればいいんじゃろうが」

 爺のその顔に、俺は不思議と嫌悪感は感じなかった。そのかわり、煽られた自分の顔にもニヤリと笑みが浮かび、爺に仕返しとばかりにこういった。

「すぐに老いぼれ爺くらい守れるようになってやるよ、このクソジジイ」

 こうして俺はこの森を抜け、ジジイと旅に出るのだった。
 
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