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蒼天に掲げて

作者:ダウアー
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五話

 久々にこの森に来たが、やはりここの生き物は皆強いのう。
 狼共はこの森では何故か個体のものが多く、凶暴性が他の狼と比べ格段にひどくなっておる。他の生き物も大抵そうじゃ。
 儂ももう老い先短いこの体じゃ、少しばかりキツイかもしれん。しかし息子のため、アレを探しにいくとしようかの。
 じゃがしかし、アレを手に入れたところで扱えるものがおらんからのう。
 どこかにおればいいんじゃがな、両の腕に重い刀剣を持ち、疲れを知らずに振り回すことのできる人物が……






 照姫がいうに(俺は正確な日数をもう覚えていない)あれから五年、俺は修行をかかすことなく行い、狼程度なら二匹、三匹いてもなんなく倒せるようになっていた。

 ま、それも多分照姫のおかげなんだろうな。

 俺がそう思った理由は、五年もの間孤独で修行と狩りしかせず黙々と生き延びていたのなら、俺はその時人間でいられなかったのではないかという、まあ危惧というか、一つの危機感が頭の中をよぎったからである。

 俺一人だったら孤独で自殺してたかもしれないし。

 その辺を考えると俺はすごく照姫に助けてもらっているのだろう。まあ照姫はそんなこと微塵も考えてないだろうが。

『柏也ー』

 そんなことを考えていれば当の本人が来たようだ。俺は鍛錬をやめ、ゆっくりくつろぐことができる木の上に登り、意識を念話に集中することにした。

(よー、今回はなんか進展あったか?)

『ええ、アイツの考えていることがやっと判明したわ』

 照姫が嬉しそうな声になっているので、かなりの話だろう。ちなみにアイツとは反乱分子のことで、照姫が念話を送ってくる度こうして情報を教えてもらっているのである。

(てことは俺もそろそろ行動を始めなきゃいけないのか)

『そういうことになるわね』

(了解。それで、判明したことってなんなんだ?)

『それがね、実はアイツ、この大陸を統一しようとしてたらしいのよ!』

(ん? なんでそんなことをするんだよ?)

 照姫のいったことに、俺は頭にはてなマークを浮かべながら聞き返した。

『それは分からないわ。けど今アイツは自分で行動することができないみたいよ』

(なるほど……だがなにもしてないわけじゃないんだろ?)

『その通りよ、駒を作ろうとしているみたい。自分で動けないなら誰かに動いてもらおうってわけね』

(それなら今が狙い時じゃないか? どこにいるんだ、そのアイツってのは)

 そういって立ち上がった俺に、照姫はいつぞやの土下座念力をかましてきやがった。

『確か五胡の民族達のところなんだけどね、今はまだやめておいたほうがいいわ』

(……なんでだよ?)

 俺は必死に抵抗しているが、照姫は涼しい顔をしながら話を続ける。

『もうすでに五胡の人達が影響され始めてるの、この外史では五胡の人達は最初からあまりいい考えをもってなかったんだけどね』

(なるほどな、俺が一人でいったところで意味はないと)

『ええ、だからこそ貴方にお願いがあってきたんだけれど……』

 少しいいにくそうにする照姫に、俺は心外だとでもいうように首を横に振る。必死に土下座を抵抗しながら。

(今さらだろ、どんな内容でもお前が最善だと思うなら従うさ)

『……そ、そうよね! 柏也は私の使いなんだもの、なんだってやってくれるわよね!』

(いや使いではないんだが、なにすりゃいいんだ?)

『貴方にはまずどこかの国で仕えてもらいたいの、別に貴方が国を作ってもいいのだけれど、できるだけ早く天下を治めてもらいたいから』

(国をつくる度量なんて俺にはねえよ、どの国でもいいんだな?)

『ええ、どの国でもいいわ。そこで貴方が活躍してくれれば天下だってとれるでしょ?』

(なんともすごい期待のされ方だが、まあがんばろうじゃないか)

『お願いね。でも本当に大丈夫? 国に仕えるってことは敵を、人間を殺すことだってあるのよ?』

(いいたくないが三国志の時代じゃ仕方ないだろ。誰も殺さずなんてできる奴は一人もいねえよ)

『でも、貴方はまだ誰も、人を殺したことなんて――』

(大丈夫だ、なんとかなるさ)

 俺が自信たっぷりにいうと、照姫は少し嬉しそうに口元をゆるめる。

『ふふ、貴方がいうと説得力ありすぎるわね』

(そりゃ五年間この森で生き抜いたんだからな)

『そうだったわね、それじゃあお願いしてもいいかしら?』

「ああ、任せろ。あととりあえずその念力を止めろ」

「誰かそこにおるのか?」





 森に入って早や一刻(約二時間)、儂はこの異常な事態にかなり困惑していた。

 おかしい、ここまで歩いたのに狼はおろかウサギさえ出てこないとは。
 昔は少し入ればすぐに狼共がわらわらと出て来おったのにのう。

 まあ既に十年前のことじゃからそこまでおかしくはないのじゃが、しかしここまで数が減るものかと首をひねらずにはいられなんだ。

 ふむ、もしや何者かが狼を狩っているのではないじゃろうか?

 しかし誰が? という疑問と、こんな荒くれの狼共をどうやって? という疑問によって、その考えを捨てようと思ったが、その時人間の声が聞こえた儂は、もしやと思ってしまった。

「ああ、任せろ。あととりあえずその念力を止めろ」

「誰かそこにおるのか?」






 五年間森にいて初めての人の声を聞き、俺はびっくりしすぎて木から転げ落ちることになった。

「いててて」

「大丈夫かの?」

 心配するような声の方を向くと、そこには白髪の爺が鎧で身を包み、大鎚を腰に下げてこちらを見ていた。

「ああ、最近はこの程度じゃなんともならなくなったから大丈夫だ」

「あの高さから落ちて大丈夫とは、頑丈じゃのう」

「そりゃまあこの森に五年も住んでるからな、家が木の上だから寝相で落ちることだってよくあるんだよ」

 俺が落ち葉を払いながら爺に向き直ると、何故か爺が驚愕な顔をして俺の顔を凝視していた。

「お主、その歳でこの森を五年も住んでおったのか?」

「ああ、ずっと修行してたが」

 爺の真剣な顔に俺は少しうろたえながら答えると、爺は嬉しそうに顔をゆるめ、俺の肩をバンバンと叩きながら豪快に笑った。

「はっはっはっは、そうかそうか、この森で五年も修行か! そりゃあすごいことじゃ!」

 爺のテンションの上がりように俺はかなり驚いたが、爺はそんなことにすら気づかず俺を持ち上げよう体を持とうとしてきた。

「そんな年じゃねえんだよ爺、さっさと手をどけろ」

 が、俺だってせっかく体が大きくなってきたのにそんなことはされたくない。爺の持ち上げる力に抵抗し、重力と共同作業するように地面に踏みとどまる。

「ふむ、筋力はかなりあるようじゃの」

 だが俺が必死に踏みとどまっているのにも関わらず、爺は涼しい顔で確認するように少しずつ俺を持ち上げようと力を上げていく。

「だからやめろっつってんだろ!!」

 限界まで粘ったがまだ爺の方が強いようで、俺は踏みとどまるのをやめ、爺の身体にドロップキックをぶちかます。

「てめえさっきからどういうつもりだ!」

「すまぬすまぬ、悪気はなかったんじゃがのう」

 俺の渾身のドロップキックにも、爺はケロッとしたようすで体勢を立て直し、にこやかな笑顔を絶やさない。

「それで、こんな森になんのようだ爺? ただの好奇心なんだったらさっさと出て行ったほうがいいぞ」

「儂もさっさと出たいんじゃがのう、昔ここに息子が住んでおったんじゃが、あやつ形見すら置いておらんかったのじゃ」

 じゃから儂が探しに来たわけじゃ。と爺は語る。

「へえ、そりゃごくろうなこった。
 じゃ、俺には関係なさそうだしこの辺で御暇(おいとま)させてもらおうかな――!?」

「つれないことをいうのう。体の不自由な爺を助けてやろうとは思わんのか?」

「体が不自由ならこんな森に入って来れるわけないだろ!」

「はっはっは、ごちゃごちゃいわず、はよういくぞ」

 こうして俺は強引に爺に連行させられることとなった。

 
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