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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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百二十二話 The Red-Nosed Reindeer─赤鼻のトナカイ─

 
前書き
どうもです。鳩麦です。

キャリバー!?と思った皆さん。申し訳ありません。

今回はちょっとしたGGO終わりの記念話です。
あ、後少し気が早いですが、なんかもう少しで4000を超えそうなのでそのお礼も兼ねまして……

ただし、相当季節外れなのでそこだけ申し訳ありませんw

てわけでみなさん、今だけ!!意識を2025年の12月に飛ばして下さい!!

あ、あとがきに重大発表的な何かもあります。

では、どうぞ!!
 

 
「で、お前らどっか行くの?」

2025年 12月23日。午後六時

ALOの中で、リョウがアスナとキリトに聞いた。
現在いるのは、第二十二層の、少し主街区から離れた森の中。そう、あの森の家が有った、丁度その場所。その家だ。
新生アインクラッドとして、そのマップデータの全てがコピーされた場所に立つその家を手に入れる為、アスナを先頭とした九人を超えるパーティが解放された二十一層から二十二層までを一気に後略したのは、つい数日前の、日曜日の事である。まぁ、それについてはまた追々、別の場所で語るとして、今は彼等の話に集中するとしよう。
さて、クリスマスイブの一日前、本日23日にこんな事を涼人がカップルたる二人に聞くのは、当然、明日24日や25日の予定の事である。すると、アスナが少し嬉しそうに微笑んで言う。

「うん!キリト君とユイちゃんも一緒に放課後都心の方にイルミネーション見に行こうって」
「都内だと色々あるだろ?バイクで幾つか回ろうと思ってる」
「ほっほぉ、それ、どっちから提案したんだ?」
ニヤニヤと笑いながら涼人が問うと、アスナはますます嬉しげにキリトの方を見て、とうのキリトはと言うと、少し恥ずかしげに頬を掻く。

「ま、まぁ、一応クリスマスだし……俺から」
「そうなんだ~。いっつもそう言うの言いだすの私の方からだから、今回は嬉しい!」
「パパもスキルアップですね~」
言いながら、部屋の仲をちょろちょろと飛びまわっていたユイがアスナの方の上にとまる少しからかうように笑って言ったユイに、キリトが「何処でそんな言葉覚えて来るんだ……」とぼやいた。まぁ無論、ネットだろうが。

「ほっほぉ……いやぁ、お前成長したなぁキリト……」
「ほっとけ!て言うか悪意を感じるその台詞!!」
「気のせいだ」
「…………」
ニヤニヤと笑みを張りつけたまま言うリョウを、キリトはうー、と見ながら、その後はぁ。と息を吐いた。

「そうだよ。俺も成長したの」
「はっはっは!っま!俺にとっても大切な義妹さんだ。大事にしろよぉ?」
「って、義兄さんがそういってるよ。キリト君」
「任せろ!」
何時だか聞いたような台詞まわしで返したキリトに、四人の間に明るい笑い声が響く。少しの間そのまま笑いあっていた四人は、やがて笑い終えて、ふとしたようにアスナがリョウに聞く。

「そう言えば……リョウは?」
「ん?」
「リョウは、クリスマスの予定。無いの?」
何故か少々期待したように聞いたアスナに、涼人は苦笑して言った。

「ねーよ。精々家でチキン喰うくらいじゃねぇか?やる事っつったら」
「……えぇ!?」
「おわっ!?」
聞いて、行き成り大きな声を上げたアスナに、リョウが驚いた。途端にアスナが怒ったような顔でつかつかとリョウに詰めより、同時にユイが彼女の肩から飛び上がってリョウの顔の目の前まで接近する。
と同時に、アスナの顔もリョウの顔の前まで接近してくる。

「ちょっとリョウ!クリスマスなのにサチと約束の一つも無いの!?」
「ねーねはほったらかしなのですか!!」
「は、はぁ?なんでそこで彼奴が出るし……ねぇよ。なんでわざわざ……」
其処まで言った所で、アスナ(とユイ)はますます怒ったらしく、怒鳴った。

「もー!あり得ないよ!」
「信じられません!!」
「俺が何をしたと……つーかんな事考えてる暇なかったっつーの」
対して其処まで言われる覚えのないリョウは少々不満げに口をとがらせる。しかしそれに更に怒ったように、アスナはリョウに問うた。

「なにもしないから問題なの!!もう!イブもクリスマスも一人で、サチが可哀そうだって思わないの!?」
「思わないんですか!!」
「思わないっ……て言ったら殴りそうなんだがなお前ら。俺の事」
「「当然でしょ(です)!!?」」
「理不尽極まりないわ!!てか近い!離れろ!」
リズムよく答えた二人に、涼人が突っ込むが、二人の勢いはとどまる事を知らずだ。
ますます迫る二人から逃げるように、涼人は背骨を反らす。

「いい!?サチがきたら、ちゃんと明日か明後日どっか行こうって誘うの!分かった!!?」
「はぁ!?だから、なんで俺がんな事……」
「良・い・か・ら!!」
「叔父さんは鈍すぎです!!!」
更に更にと涼人に迫る二人から必死に身を引きながら、せっぱ詰まったように返した。

「わ、わぁった!わぁったから離れろって!いい加減この体勢キツイキツイ!!」
「本当?ちゃんと誘う!?」
「叔父さんの名前に誓いますか!?」
「誓う誓う誓う!!父と精霊の御名において誓うから離れろぉぉぉ!!」
いい加減床に向けて座っている椅子がひっくりかえりそうになった事を本気で恐れたリョウがご大層な物に誓うと、ようやく二人は体を離した。

「ってか……キリトお前、助けろよ……お前の奥さんと娘、どうかしてる……」
「いや、悪い。俺も二人が正しいと思うし、何より無理!」
「薄情な……」
そう言ったリョウが息を整えていると……図ったように丁度、玄関の扉がノックされた。

「あ、はーい!」
うってかわって明るい声でアスナが玄関に向けてかけて行き、ユイはその手前で止まる。

「ごめんね?遅くなって」
「ううん。別にただお話し寄ってだけだもん。気にしないで?今お茶入れるね?」
「あ、手伝う」
「ううん!良いの!それよりリョウが何か用が有るって!」
「え?」
「…………」
そんな会話が聞こえ、リョウは額を押さえて黙りこみ、キリトは苦笑しながら彼女の到着を待つ。

「お邪魔します」
「ねーねー!」
「わっ!?」
サチが部屋に入ってくると、途端に十歳児モードになったユイが彼女に抱きつく。
サチは一瞬驚いたようだったが、すぐに反応しその小さな体を抱きとめると、慈しむような微笑みを浮かべて行った。

「ユイちゃん。こんばんは」
「はい!こんばんはですねーね!」
少しの間ユイと触れ合っていたサチだったが、そのうち少し気になったように周囲を見渡し、リョウの姿を見止めるとその視線を止める。

「えっと……」
「あ!そうでした!」
その視線にきがつくと、ユイは即座にポンっと音を立てて妖精モードに戻ると、サチに向けて言った。

「叔父さんが、用事があるらしいです!」
「あ、うん。どうしたの?リョウ」
「あー、おう」
トコトコと駆け寄ってきたサチに立ち上がり、頭の後ろを掻くと、リョウは言いづらそうに言った。

「あー、いや、なんつーか……お前、明日暇か?」
「え?」
「いや、明日イブだし、学校も四十分の五限終わりではえぇしよ、ちょいと、どっか行くかと思ったんだが……どうだ?」
そう言ってサチの表情をうかがうリョウだが、彼女はまるでフリーズしたように動かない。その様子に、頬を掻いてリョウが言った。

「あー、都合悪きゃ良いぞ?」
「え!?う、ううん!!行く!行くよ!ど、何処に……?」
「それは、今から決める」
「あ、そ、そっか……」
再び頬を掻いて言った涼人に、サチは顔を真っ赤にして俯き、それぞれ顔を見ない。
なので、涼人には見えなかったのだが……サチの顔は心底嬉しそうに微笑んでいた。

「……(グッ!)」
「……(グッ!)」
そんな二人の死角で、母と娘がサムズアップを互いに躱しているのを、父が苦笑ながら見ていたとかそうで無かったとか。

「んじゃま、明日がっこ終わってから車で行けるとこな。制服のままで良いか?」
「う、うん……っ!」
リョウの問いにコクンコクンと頷いているサチをみて少し苦笑したリョウは、ようやく再び椅子に座り込んだ。

――――

さて、翌日。授業が終わり、リョウは大きく伸びをすると、そのまま美幸の席へと向かった。

「美幸」
「……(ぽけー)」
「……?おいっ!?美幸さん起きてるか?」
「ひゃっ!?え?あ、うんっ、はいっ!何!?」
何故かぽけっとしている美幸に、涼人が呼びかけると、パニクったような反応で一瞬跳ねた後、彼女は涼人の方に向く。

「なんだよ、ぼーっとして、熱か?」
「う、ううん!平気だよ!?えっと……」
「あぁ、駅の近くに車止めてあっから、とりあえず駅まで行くぞ」
「う、うん……もしかして、今日の朝、乗ってきたの?」
少し探るように美幸が聞くと、涼人はニヤリと笑って答えた。

「駐車場に止めてきた。がっこには乗り入れてねえし、教師陣は知らねえ。バレてねぇから校則違反じゃねぇ」
「だ、駄目だよ……もう……」
少し困ったように言った美幸だったが、最後の一言は笑顔で言って、二人は歩き出した。

「あ、桐ヶ谷君。……うん。ちゃんと美幸も一緒ね」
廊下でぱったりと出会って二人を迎えたのは、風巻杏奈だった。

「アン。こんにちは」
「よぉ風巻……って、どういう意味だよそりゃあ。俺が嘘でも言ってっと思ったのかお前」
不服そうに聞いた涼人に、杏奈はフンッと鼻を鳴らして答える。

「普段の自分の行いを省みてから文句は言うのね。……まあ仕事サボる為なら何でもしそうな感は有るけど、流石に美幸の事をそのダシにするほど貴方も落ちては無いだろうとは思ってるし。安心して良いわよ?」
「誉めんのか貶すのかはっきりしろや手前ェ」
「え、えっと、ふ、二人とも……」
若干カチンと来た様子の涼人と杏奈の間にパチパチと火花が散り……それを吹き飛ばすように、明るい声が三人の間に響いた。

「あ!涼人君!アン!美幸ちゃーん!」
「っ!?」
「あら、美雨」
「美雨ちゃん!こんにちは」
生徒会副長こと、天松美雨の物であるとはっきり、一発で分かるその声に、杏奈と美幸は即座に其方を向いて微笑み、涼人は何故か一瞬身体を硬直させる。

「三人で何してるの?」
「ちょっと桐ヶ谷君に説教をね」
「あははは……」
訪ねた彼女に何でも無いことのように言った杏奈だったが、美幸の苦笑に合わせるように、美雨は笑って言った。

「ありゃりゃ、大変だね〜。アンのお説教長いもんね」
「…………」
「?涼人君どしたの?」
黙り込んで美雨の事を若干怪訝そうに見る涼人と目が合い、美雨は首を傾げながら訪ねる。
それで、涼人は何か自分の中で結論を付けたらしく、首を横に振る。

「いんや、何でもねぇよ。てかまったくだぜ。いちいち説教ばっか長ったらしいんだからよ……まあ、何時もの事っちゃ事だがな」
「説教“ばっか”って何かしら?“ばっか”って」
イラッとした様子で聞いた杏奈に、涼人はニヤリと笑って返しながら言った。

「さぁな?見に覚えが無いなら、多分気にするようなことじゃねぇんだろ。さてと、行くか。美幸」
「ムカつく言い方得意よね貴方って……」
「え!?あ、えっと、ご、ごめんねアン!」
何故か慌てたように頭を下げた美幸に、杏奈は苦笑して返す。

「なんで美幸が謝るのよ」
「きっとあれだよ!アン!」
そう言って、美雨が杏奈に何かを耳打ちする。すると杏奈は、少し微笑んで小さく頷いた。

「……成程ねぇ」
「……へっ?な、何?美雨ちゃん何て……」
「おーい!美幸行くぞー!お二人さん明日な!」
「あ、待ってりょう!えと、また明日ね!」
「えぇ、またね」
「頑張ってね〜」
杏奈と、ブンブン手を振っている美雨に軽く手を振ってから、美幸は涼人を追い掛ける。その背中を見ながら、残った二人は呟くように話す。

「……美雨、良いのよね?」
「あははは。アンは心配症だね〜、ちゃんとキリの付いた事で何時までもめそめそしないよ?」
「……そ」
そう言って、杏奈と美雨は涼人達とは逆方向に歩いていく。美雨の真意は、正直な所杏奈には図れなかったが、深く探るような事では無い気がして、それ以上の追求は止めた。

――――

「高速乗るの?」
「おう。中央道使わねえと倍くれぇ掛かるからなぁ……」
言いながら涼人はETCを通り抜けて、スピードを上げていく。
何だかんだで涼人の車には既に何度も乗って居るが、未だに狭い車内で自分が助手席、涼人が運転席で二人きりとなると、少々鼓動が早まってしまう。
明日奈などはしょっちゅう和人の背中にくっ付いてバイクで二人乗りをしているが、同じ事をしろと言われたら流石に自分にはハードルが高いだろうなぁ、と勝手に思って居る美幸だった。

『どこに行くんだろ……?』
しかし……涼人と出掛けるのに川越の桐ヶ谷家に行く以外だと、都内から出るのは結構珍しい。
先程それとなく聞いたら「こういうのは着くまで秘密が定番だろ」と言われてしまった。

都内から西の方に向けて伸びる中央自動車道を使って行くとなると、山の方だろうか?そんな事を考えて居る内に……

『あ、れ……?』
車の揺れのせいか、急激に眠気がやってきて、意識が落ちて行くのが分かった。
昨晩はいきなりリョウが誘いをかけたせいで、碌に眠れなかったし、授業中もずっとボーっとしてたからかな……

等と考えているうちに、美幸の意識は下へ、下へと落ちて行った。

――――

「ん?美幸……っはは。寝たか……」
真っ直ぐに続く中央道を走りながらチラリと隣を見ると、すぅすぅと寝息を立てている少女が目に入り、涼人は苦笑した。

車内は静かに成り、聞こえてくるのは音量を絞ったラジオと音と、美幸の静かな寝息の音だけだ。

「……もう、二年か……」
サチの同級生だったケイタ達が死んだ後、サチとリョウがキリトを立ち直らせてから……もうすぐ、二年になろうとしていた。
あの日、キリトの心を暗闇から引きずり上げたのはサチの心と、優しさだった。しかし、彼女の心がキリトの心に届くほどの光を取り戻すまでの道のりは、決して楽な物だったとは言えない。

あのケイタ達が死んでから後の一月と半分くらいの間、サチの心は乱れ、恐怖と、悲しみの暗闇に囚われ続けていた。
微笑みは今のような温かい物ではなく、死人が浮かべたような虚ろな物で、ベットに入れば夜な夜なリョウの背や胸に顔を押し付けて泣き疲れるまで泣き続け、碌に眠れない日も少なくなかった。

別段彼女に恩を売るつもりが有った訳ではない。
リョウはリョウなりに、あの時彼女を積極的に守ろうとしなかった、キリトと黒猫団との関係をきちんと取り持とうとせず、しっかりとしたアドバイスをする事も出来なかった責任を果たしていただけだ。

ただそれでも、サチはやキリトはリョウに感謝の言葉を伝えて来た。
何時だったか。サチが言った言葉だ。
きっと、あの時近くにリョウがいなかったなら、私の心は暗闇に沈んだまま帰っては来られなかったから。近くに居てくれた。それだけの事が、私にもう一度あの世界で立って歩く勇気をくれたのだと、彼女はそう言った。

大げさな奴だとリョウはその言葉に笑ったが、彼女が本気でそう思っている事は、リョウも理解していた。
ただ、其れを言うなら……

「まぁ……結果的に良い方向に進んだなら、良いとすっか」
苦笑しながら、リョウは言った。
そう。あの時の自分の行動は、けっかとして今のサチを良い方向に導いて居る。
少なくとも、すぐ隣から聞こえる静かな寝息は、リョウに其れを確信させてくれる、十分な材料だと言えた。

────

「、い……ゆき……きろ……美幸」
「う、ん……?」
目を覚ますといつの間にか車は停車していた。肩を揺すられて居ることに、少しして気が付く。触れている手には、覚えが有った。

「ん……りょう……?どうしたの?」
「どうしたのってお前な……寝ぼけてねーではよ起きろ。着いたぞ」
「…………?」
未だにはっきりしない脳味噌を起床させつつ、美幸は左右を見渡す。
周囲は殺風景で暗く、よくは見えないが広さからどこかの公園の駐車場のようだ。それにしても……

「何だか……混んでるね?」
唯の公園の駐車場にしては、かなり混んでいると言うのが素直な印象だった。
実際、見通せる限り空いている駐車スペースは無いように見える。苦笑気味に、涼人も答えた。

「っはは。まあ、今日はお祭りみてぇなもんだからなぁ。どれ、行こうぜ?」
「う、うん……!」
未だに浮ついている気持ちを抑えつつ、美幸は涼人に続いて外へ出る。ひんやりとしていて、サラサラとした空気は普段暮らしている場所の空気と比べると大分綺麗で、吸い込んでみると気持ちが良い。まあ寒いは寒いが。

「さて、行くぞ〜」
「あ、ま、待って!」
歩き出した涼人に慌てたように美幸が続く。駐車場を抜けて、横断歩道を渡る。と、もう其処に目的の物が見えていた。

「わぁ……!」
「お、やってるやってる」
其処に有ったのは、左右に広がる建物全てが、赤やら黄やら青やら紫、緑にオレンジ、白、黄緑、に輝いている光景だった。
土産物屋や喫茶店、宿まで、あらゆる建物が有ったが、それらに例外なくLED灯の或いは旧式の小型豆電球まで沢山の電飾が貼り付けられ、その区画全体が一つのパレードのように、なったイルミネーション。

宮ヶ瀬湖。
東丹沢に有る。宮ヶ瀬ダムによって出来たダム湖である。
神奈川県、愛甲群、愛川町。清川村。そして相模原市緑区。にまたがり、毎年多くのイベントを湖畔に有る公園で行っているが、特にこのクリスマスイルミネーションは、日本でもトップレベルに巨大な、高さ30メートルのモミの木を使ったツリーが有る事で有名で、毎年多くの客が訪れる。

思わず、美幸は歓声を上げていた。

「凄いね……」
「おいおい、立ち止まるにはまだまだ早かぁ有りませんかい?お嬢さん?」
「え?」
言いながら涼人が歩き出すので、美幸はそれに続く。と……

「おっと……」
「ひ、人いっぱいだね」
「まあなぁ、こんだけのもんなら見に来る奴も多いわな……しゃあねぇ」
「ひゃっ!?」
「!?」
涼人が動くと同時に、美幸の音程の跳ね上がった声が響いて、涼人の方が驚く。

「何だよ!?」
「り、りょう、て、て、手首……」
「はぁ?」
涼人の手は、美幸の右手“首”を掴んで引っ張っていた。一応繰り返して置くが“手首”である。“手”ではない。
しかし美幸にとっては大事件である。幼い頃はそれこそしょっちゅう互いの手を握っていた物だが、今は既に二人とも19である。

『こ、これじゃまるで……』
思い浮かべてあっという間に、ボボボボッと顔が熱を持つのが分かる。しかも掴まれた手首から間違い無く涼人の手の暖かさが染み込んで来るのだから堪らない。益々身体が熱くなり……。

「あぅ……」
「……?」
真っ赤になって妙な声を上げながら俯いた美幸の手を怪訝そうな顔で引いていき(何度も言うが、掴んでいるのは“手首”だ)人混みの中を抜けていく。

そうして……

「っと、おい美幸、地面はいいから前見ろ前」
「え……?」
相変わらずの赤いままで顔を上げた美幸は……即座に目を見開いた。
いつの間にか、目の前には開けた空間が広がっていた。

美幸の直ぐ目の前には、下へ向かう長い階段が広がっている。広く、横へ横へと広い大きな階段を下った先にはかなり広い野原が有り、その中心に大きなモミの木が立っていた。
白を基調として、虹の七色をイメージしたような美しいイルミネーションが下から上へと施されたそれを目にして、美幸はこぼれるように呟く。

「綺麗……」
「だな……」
二人揃って感嘆の声を上げながら、暫く並んでその光景を眺めていた。しかしその内に、涼人はふと明後日の方向を見て、ニヤリと笑う。

「うし、次はアレだな」
「へ?アレ?」
美幸が首を傾げながら涼人の見ている方向に目を向けると、其処には汽車が有った。

『……じゃなくて!』
否。汽車ではない。と言うかこんな所に本物の汽車など有るわけがない。
正確には汽車を模した、連結式の自動車だ。何両かが繋がれた状態で走っており、側面や天井部には周囲の建物と同じように色とりどりのイルミネーションが施されており、ポップなデザインになっている。

「ほれ、行こうぜ!」
「もぅ……うん!」
子供のように美幸の手首を引く涼人に呆れつつも、彼女は涼人に続いていく。刺すよな物である筈の寒さは、イルミネーションの柔らかな光と、と手首から伝わる暖かさが和らげてくれていた。

─────

汽車型の移動車の座席に並んで座ったのだが、予想外に座席が狭く、非常に密着する形で座るはめになった為に、心臓がやたら早鐘を打つのに耐える事数分。美幸と涼人は、先程まで居た建物群から少し離れた位置に来ていた。坂を下りるような形で車は走っていたので、高さ的にも先程居た位置寄りは大分下だ。見上げるような遠目に見ると、先程までごく近くに居た建物もまた違った美しさを持ってみる事が出来る。しかしそれ以上に圧巻なのは……

「……凄いね」
「……だな。でけぇわ」
目の前に有る。高さ三十メートルの自生モミの木を使った、クリスマスツリーだった。先程眺めていた物よりも、更に大きいそれを見上げつつ、美幸と涼人はしばらく固まったようにそれを見上げている。

「私、こんなに大きいツリー見たの始めてかも」
「あぁ?ALOで世界樹散々見たろ?」
世界樹も、クリスマスシーズンの今はそこら中にライトエフェクトが付き、きらびやかに飾りつけられている。そこかしこではイベントも起きているらしいから、今頃そっち方面で楽しんでいる人々も居る事だろう。
と、言われて美幸は首を左右に振った。

「ううん。そう言う事じゃなくて……リョウが言う通り、世界樹はこれよりおっきいんだけど……やっぱり、今目の前に有るこの木は、少し違う気がするの……何て言えばいいのかな……?ちゃんと、生きてる?」
「……って、木がか?」
「う、うん……緑色の葉っぱが見えて、木の皮が有って……やっぱり、何だか向こうとは少し違うような感じ……変、かな?」
「…………」
涼人の方を向いて聞く。と……いつものように、ニヤリと笑う気配がして、涼人は言った。

「いんや。良いんじゃねぇの?お前がそう思うなら、やっぱ違いがあんだろ。俺はよく分かんねーけど……」
「…………」
なんとも要領を得ないと言うか、気の利いた返しとは言い難かったが、それもまた涼人らしいと思い、苦笑してまた木を見上げる。

……と、

「あー、そうだ、美幸……?」
「?なぁに?」
突然涼人が思い出したように……しかしどこかワザとらしく声を上げ、美幸はそちらを向く。涼人の手には何時の間に取り出したのか、少し大きめの紙袋が握られていた。

「?」
「あー、これな、やる……クリスマスプレゼントって奴だ」
「……へ?」
首を傾げた美幸に、涼人がやりずらそうに紙袋を差し出し、咄嗟に尋ね返してしまう。
涼人はそっぽを向いて、頭を掻きながら言った。

「まぁ、去年はお前寝てたし、一昨年はそれどころじゃなかったしで、お前とSAOで会ってからクリスマスのプレゼント何かやった事無かったろ。だから、元々今日明日渡そうと思って買っといたんだよ。ガキの頃は毎年やってたしな」
「…………!!こ、これ、私に!?」
「そう言ってんだろ。はよ受け取れ」
「う、うんっ!!」
コクコク頷きながら返事をして、紙袋を受け取る。中には、紙に包まれた柔らかい何かが入っていた。

「これ……」
「……丁度良いか。此処で開けろよ。今役に立つからよ」
「え?う、うん……」
そう言うと、美幸は涼人に手伝ってもらいながら紙袋の中身を取り出す。中身を見て……また歓声を上げた。

「わぁ……!!」
中身は、白を基調とした淡い色の可愛らしいコートだった。早速着てみると、なんとも驚くべきか。サイズはぴったりだ。何より……

「あったかい……」
美幸はコートその物を抱くように、胸元に手を寄せて服をつかんだ。涼人がニヤリと笑って言う。

「お気に召しましたかな?お嬢さん」
「え!?えっと……はい!とても!……その、りょう」
「ん?」
美幸は涼人の目を真っ直ぐに見詰めながら、彼女らしい、可愛らしい笑顔を浮かべながら言った。

「ありがとう……!」
「…………!」
言った途端、涼人が驚いたように目を見開き……

「?どうしたの?」
突然、美幸から顔を反らした。

「な、なんでもねぇ。んじゃ、そろそろ行こうぜ。もうすぐ向こうでタダでシュークリームくれるんだと」
「え?う、うん。あ、待って!」
何故か焦ったようにトコトコと歩き出した涼人に続くように、美幸も小走りに歩きだす。
隣に並んでから、再び美幸は口を開いた。

「……ねぇ、りょう」
「んん?」
「あのね、今日……帰ったら……ちょっと、ALOに来てくれないかな?」
「帰ってからか?あー、まぁちょいと約束あるからまぁあんまり長いとこだとアレだけどな……」
「あ、えっと……駄目なら、良いんだけど……」
俯きがちにそう言うと、ようやくまた美幸の顔を見た涼人は苦笑気味に言った。

「全然良いって顔じゃねぇっつーの。いいぜ。キリトの家の前で良いか?」
「う、うんっ!」

────

それから、数時間。
あれから更にしばらく遊んで、家に戻った時には既に九時を回っていた。
見慣れないコートを着ていたせいか母である真理に色々聞かれたのをなんとか躱してサチは今、22層のキリトの家の前に居る。と……

「よっ。悪い悪い。待たせたか?」
「あ、ううん。ちっとも」
表れたリョウが右手を立てて謝るのを見て、サチは首を左右に振る。
リョウは、ALOの時と変わらぬ赤いジャケットを羽織っていた。髪は黒くクセの付いた髪で、一部の種族だけは色を変えられる翅は、何故か趣味なのかジャケットとは合わない若葉色に変えている。そうか。と言ってカラカラと笑うと、リョウは首を傾げて尋ねる。

「で……何だ?わざわざ呼び出して」
「あ、うんっ!あのね!リョウ、これ、やっとできたから……」
そう言って、サチは有る物を取り出し、それをリョウに手渡した。それがなんであるか確認した途端、リョウの眼が見開かれる。

「お前……コレ……!!」
「うんっ。私からのプレゼントのお返しだよ?」
「おぉ!今着て良いか!!?」
「う、うん。勿論」
「っしゃ!」
予想以上の喜びように驚きつつも、促すと、リョウは即座にトレードウィンドウを開いてサチからシステム的にもそれを渡され、即座にメニューを操作する。と……

ザァッ……!

と音を立てて、少し強めの風が吹いた。

「っ……!」
強風によってか、周囲の雪が巻きあがり、粉のようなそれが周囲に舞う。
咄嗟にサチは顔をかばい、しかしすぐにその手を外す。そして、見た。

「…………!!」
以前とは違い、灰色は無く、完全な新緑色のそれ。着流したそれが風に煽られてふわりと浮きあがる。それを、ヴンッ!!と重々しく風を切る音を響かせた冷裂が圧するように収め、同時に間違いようも無く、周囲の空間がビリビリと振動する。

──それはまるで、浮遊上の全てが英雄たる彼の再びの訪れを歓迎するかのように──

ニヤリと笑ったその口が開き、自身に満ちた声で言った。

「っしゃぁ!!リョウコウ完全復活だ!!!」
続いて、最近はとんと聞く機会の無かった。とても明るい声。

「最高だぜ!ありがとな、サチ!!」
「……っ!うん!」
まるで子供のように、弾けるような笑顔で笑いながら、礼を言った涼人に釣られるように、美幸は笑顔で頷いた。
高揚した顔で、浴衣を見ている涼人が、不意に思い出したように口を開く。

「こりゃ、アガるなぁ……!うっし!ちょいと来いよ!サチ!」
「え!?ちょ、ちょっとリョウ……きゃぁっ!!?」
突然サチの手“首”を掴んだリョウが、背中から生えた若葉色の羽で空へと舞い上がる。引っ張られるように行き成り空へ連れ出されたサチは、そのまま星の瞬く浮遊城の外となる天空へ連れ出され……しかしなんとか体勢を立て直して、自分の翅も振るわせ始める。

「もう!酷いよリョウ!」
「っはは!悪い悪い!!!今日ちょっと野良連中と約束あってよ!ぜってー楽しいから付き合えよ!」
「え?は、はいっ……!」
言いながら突然急降下しだしたリョウを、サチは必死に追い掛ける。たしか、今浮遊城が居るのは……
目の前に、サーカスのテントのような物が乱立する街が見えた。プーカの首都、ブレィメンだ。

「ブレィメンに行くの!?」
「おう!ちゃんと付いてこいな!!」
「うんっ!」
そのまま全速力で下降していくリョウに続いて、サチはどんどん下降していく。風は身を切るように冷たかったが、不思議と高揚した胸が、体を温める。
そうして、サチとリョウはゆっくりと地面に降り立った。ブレィメンの中央広場だ。

「間に合ったな。こっちだ!」
「え、えぇ!?」
再びサチの手を引いて、リョウは歩きだす。少し歩いて……其処から手をはなして「此処で待ってろ」と言うと歩いて行き、何や広場中央に集まっていたメンバーと話す。そうして、少しすると。再びサチの所に戻ってきた。

「うし!サチ、今から此処で演奏会やるんで参加すんぞ~。お前ボーカルな」
「……え?」
疑問の声を上げている間にもサチは広場の中心に連れ出され……

「えぇぇ!!?」
「ほれ!準備しろ!」
周囲のメンバーが楽器を構え出す中、中心にマイクを持って立たされた。
周囲の妖精たちが、一片にサチの事を見ている。

「ま、まって!リョウ!!」
「あん?何だよ」
「な、なんで突然こんな事になるの!?そ、それに……何歌えばいいの!!?」
「あぁ、そだったな!」
言うと、リョウは行き成りテキストデータであろう羊皮紙を実体化させ、美幸に手渡します。

「大丈夫だ。日本語で良いぞ」
「え!?に、日本語でって……」
言いながらトランペットを取り出し遠ざかるリョウに慌てながらも、サチはタイトルを見る。


Rudolph The Red-Nosed Reindeer─ルドルフ・赤鼻のトナカイ─


「……あ」
そのタイトルを見た途端、サチの頭の中に、一つの記憶がよみがえった。
二年以上前に、今とは全く違う状況で、ある一人の少年の為に歌ったあの時の曲。ニ年前の今から十数分後、自分の運命が違っていたら、かの少年に聞かせる筈だった歌……

「…………」
あれから時が経ち……自分達は変わった。
いま自分は、あの時と違って、とても幸せだし、死を毎日恐れても居ない。あの時とは、何もかもが、反対の状況。

「うっし……リハも何もねーけど、菓子は知ってるよな?サチ、良いか?」
「……うん。良いよ」
リョウの問いに。コクリと頷き、微笑んで答える。

もうまもなくで、クリスマスだ。そうしたら、リョウにメリークリスマスを言おう。

音楽の波が、サチの全身を包み込んだ。

────

ALO・イグドラシルシティ・某酒場。

「はー、やれやれ。今頃あの二人はお熱くデートかしらねぇ……やれやれまったく……」
「り、リズさん酔ってませんか?」
「こっちの酒でどうやって酔えってのよ~」
「あう」
むふー。と息を突きながら言ったリズに、シリカが引き気味に声を掛けるとリズはぽこんとシリカの頭を奴突きながら言ってジョッキの中身をもう一度煽る。

「そうやって文句言う割には、リズって結構応援してたりしてるみたいじゃない?」
「そうなんですよ~。全く略奪愛なんかも良いかもねとか言ってましたけど、そう言うの苦手なんですよ。やっぱりリズさんは」
「其処二人!うるさ~い!」
隣で苦笑しながら冷静な分析を漏らした少女……シノンの言葉に、シリカが同意し、リズはジョッキをブンブン振って文句を言う。

「そりゃ~あたしだってさ。初めはアスナからキリトを~何て考えてた事もあったけど……いざ会ってみたらもう隙なんて全然だし?寧ろあんだけ頑張ってたの見てたらさ。応援したくも成るわよそりゃ」
「あ~。もう何か、敗北宣言って感じね」
「ですね~。略奪愛を実践するにはリズさん優しすぎです」
「うぅ~……」
むすっ。として顔を机に伏せたリズに苦笑しつつ、シノンはシリカに問う。

「それより、シリカは?誰かお相手は居ないの?」
「え?あ、いえいえ。私はまだまだ~って感じで。正直、どう選んでいいのか……」
と、そんな事を言っていた時である。

「あ、すみません。メッセージです」
言いながら、シリカは自分のウィンドウを表示して、メッセージを読み始める。そして……

「っ!?」
「!?ど、どうしたの?」
突然椅子から立ち上がった。
驚き声を上げたシノンに。シリカはわたふたとして混乱したようにウィンドウとシノンを見比べた後、早口で言う。

「あ、あの、ちょっと私行く所が出来てしまったので、これで失礼します!すみません!」
「え?えと、ちょっと!?」
言うが早いが、シリカは何やら大急ぎで酒場を出て、空へと飛び立っていった。
唖然とした様子でその様子を眺めていたシノンは首を傾げるとカウンターに向き直る。

「男ね」
「わっ」
と、何時の間にやらムクリと身体を起き上がらせたリズが、低い声でそんな事を言い、シノンは一瞬驚いたような顔をした後苦笑する。

「リズ、貴女やっぱり少し酔ってると思う」
「むぅ……」
口を尖らせるリズを苦笑して見ながら、シノンは今は会えない場所に居る彼女の友人の事を思った。

『君にも、少しでも届いてると良いな……』

────

「はー、お兄ちゃん達は今頃デートかー」
「ふふふ。和人達も大人になったわねぇ」
「ふーん。私は子供ですよーだ」
腹いせなのかチキンをガツガツ食べながら、直葉は言った。そんな娘の姿を微笑ましく思いつつ、翠は微笑んで言う。

「そう言うけど、スグには居ないの?良い人」
「えー?」
言いながら、直葉は目の前のパエリアを平らげつつ、自分の回りに居る男どもを確認しだす。

『お兄ちゃん達……は駄目だし、他の何時もパーティに居る人は歳が慣れてるし、クラスの男どもはヘタレばっかりだし……』
そうは言うが、彼女は全国レベルの剣道少女でありALOでも屈指のスピードスターである。その彼女から見てヘタレ出ないとなると、大分ハードルが高いだろうと思われた。しかし男性に関してはまだ妥協すると言う事等一切念頭に無いピュアな十代女子である彼女は、やはりいないな。と溜息をつきかけて……

『そーいえば……』
中学の終わり頃一度だけ自分に告白をしてきた少年(バカ)が居たのを思い出す。中学を卒業してからと言う物、まともに連絡をよこしても居ないあの少年。今頃何処で何をしているのだろうか?

「……居ない」
「あら?今の間は何?もしかして……」
「いないの!何でも無いの!」
「えー?ちょっと隠さなくても良いじゃない?」
「ちーがーうー!」
言いながらバクバクと料理を食べつつ、直葉は思った。

『彼奴次あったらぶん殴る!!』
理不尽極まりない。

────

「っと。おぉ、やりやがるぜ此奴っ!」
「ちょっと遼太郎!出来たよ!」
「おぉう!?おう!ちょい待ってくれや!」
言いながら、呼ばれた壷井 遼太郎……クラインは、やって居た固定機のゲームを一旦中断して今に走る。

今日はクリスマスなので、クラインは山梨の実家に一旦帰って来ていた。家には今は母親と父親が住んでいて、普通に元気だ。

「どれ、そんじゃ皆さんご一緒に!」
「「「頂きます!!」」」
言いながら、ささやかな家族のクリスマスディナーが始まる。

「うんめぇ!やっぱかーちゃんの料理が一番だぜ!」
「がはは!おめぇも分かってきたじゃねーか!遼太郎!」
出された料理を次々にかっ込むクラインに、父親が豪快に笑ってビールを飲む。
苦笑しながら、母親が言った。

「あのねぇ……褒め言葉は受け取っとくとして、アンタそろそろ良い子の一人でも居ないのかい?いい加減決めないと……」
「う、うう、うるせぇ!出会いがねーンだよ出会いが!」
「そんなもん作るもんだろう……?」
「ぐふっ……」
クリティカルヒットな言葉によって、クラインの精神的なHPゲージがガンガン削られる中、父親の豪快な声が彼を救った。

「まーまー良いじゃねぇかかーちゃん。その内此奴にも良い相手が出来るって。なぁ?」
「お、おう!あったりめぇよ!」
「だと良いけどねぇ……」
疑うような視線を自分に向ける母親から目を反らしつつ、壷井 遼太郎ことクラインは、ディナーをかっ込むのだった。

────

「きれいだねぇ……」
「あぁ」
『すごいです~』
所変わって都内某所。
キラキラと光る光の瞬きの中に、二人の人影……いや。正確には、一人の少年と、二人の少女がベンチに腰掛けていた。
目の前を歩き去る何組もの自分達と同じ関係の男女をしり目に二人は少し冷たい空気の中で、互いを温めるように近くに座り、間では結ばれた手が相手の手の暖かさを伝えていた。

その手の暖かさが、明日奈は好きだった。
唯の体温としての熱しか持たない其れは、どう言う訳か温度以上の物を、自分に伝えてくれる事が有る事を、彼女はSAOに居た時代から知っている。
実際今も、彼女は隣に居る少年の心の穏やかさが何となく伝わって来ている。柔らかく笑って彼女は口を開く。

「でもびっくりしたよー。キリト君普段こういうのに鈍いし」
「うっ……」
少しからかい調子に言ってやると、和人は一瞬言葉に詰まったような顔をして、頬を掻きながら言う。

「いや、まぁ……其れは自覚あるんですよ……でもほら、流石に俺も、クリスマス位は知っていると言うか……寧ろこれくらいじゃないとちゃんと分かってないと言うか……」
言いながらやりずらそうに頬を掻き続ける少年にアスナは柔らかく笑う。

「うん。分かってるよ。ありがとう、大切にしてくれて」
「あ、あぁ……」
『パパの体温、順調に上昇中です。ママ』
「なっ!?ユイ、そう言うの良いってば!」
「ふふふ……ユイちゃんが言わなくても分かるよ~?顔真っ赤だもん、キリト君」
「うぐぅ……」
娘と妻からの挟み撃ちについに項垂れて、和人は「叶わないよなぁ……」等と言葉を漏らす。
少しその顔を眺めて、再び光輝く夜の街へと視線を戻す。
隣で、呟くように、彼が言った。

「……綺麗だな」
「……うん」
『星屑みたいです……』
三人の声が、夜の街に溶けて行く。
ふと思いついたように、アスナは言った。

「……ね、キリト君」
「うん?」
「……来年も、三人で一緒にこようね?」
「あぁ……そうだな」
少女は少年の肩に頭を乗せて、間に二人の娘を幻想の中で抱きながら、その場所にある幸せを慈しみ続けていた。

────

「やっぱうめーよな。お前の歌」
「そ、そう……?」
隣を歩くサチに言いながら、涼人は苦笑して言った。

「あぁ。つか普通にあの拍手が証明だろ」
コンサートは、大成功でおわった。サチの歌声が、予想以上に観客の心に響いたらしく、結局彼女は知っている曲を三曲歌い、アンコールまで叫ばれた程だ。

「で、でもやっぱり恥ずかしいね……ああいうの」
「そう言う割に昔から舞台上に上がるとつえーよな。お前」
「そう……なのかな?」
「間違いねーよ」
言って、リョウは顔を朱くして俯くサチに笑いかける。

子供のころは、毎年彼女と共にこの日を祝っていて、其れは当たり前の事だった。

あれから色々な事が合って、もう自分達も大分大人へと近づいたけれど……今またこうして当たり前のように彼女とこの日を迎えられている事は、きっと奇跡のような事なのだと思う。

もし願えるのなら……この時間を、心に刻んでいよう。

仮に何時か来る時が、こんな当たり前のような日を奪って行ったとしても、心に残る思い出が、この時を思い出させてくれるように。

青年はそう、心から願った。

Sub story 《変わり終えた未来》 完
 
 

 
後書き
はい!いかがだったでしょうか!?

手わけで今回。夏なのにクリスマス編でお送りいたしましたww
本っとに季節外れですが、書きたいものを書いて居たらこんなことにw

随分恋愛色強くなったなぁ……砂糖吐きそうだ。

次回からは、キャリバー編に入りますw


さて、それでは終わる前に、まえがきで書いた、重大発表的な何か。です。

このたび、この戦士達の物語も、ついにキャリバー編を経て、MR(マザーズロザリオ)編に突入出来る見込みが立ちました!
それに先立ちまして、今回読者の皆さまから、またひとつ、募集したいものがございます!!


ただし前回採用したアイリさんのように、オリキャラではありません。
今回募集するのは……“ダンジョン”です!!

MR編において、ユウキやアスナ、サチ、キリト、リョウが攻略するダンジョンを、ひとつご考案いただきたいのです!!

内部デザイン:
仕掛け(あれば):
特徴:
もととなった伝説等(あれば)
BOSS:
その他:

と、こんな感じで、リョウだろうがユウキだろうが掛かってこいやぁ!!なダンジョンを大募集します!
かなり、アイデア力や想像力を試す形になってしまう募集です。
以前のようにたくさんのご応募は期待できないかなと思っていますが、読者も小説に混ざって楽しむ。と言うのがこの募集の趣旨なので、思いつき次第応募して下されば幸いです。

なお、採用された際にネタばれになってしまう事を防止するため、募集は全て“メッセージ”でお願いいたします。

それ以外は一切受け付け出来ませんので、ご了承ください。

募集期間は、キャリバー編終了までです!

ではっ!!


今回の曲

Rudolph The Red-Nosed Reindeer─ルドルフ・赤鼻のトナカイ─

http://www.youtube.com/watch?v=9BBLb8dorXI

色々なアレンジが有るこの曲ですが、今回はなるべく明るいアレンジを選びました。
今のサチの状況と照らし合わせて、お楽しみ下さい。 
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