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ソードアート・オンライン 穹色の風

作者:Cor Leonis
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アインクラッド編
  視えざる《風》を捉えろ!

 
前書き
どうも、相変わらず執筆速度が全く上がらないCor Leonisです。……何だか最近こんなことばっかしか言ってないような気がするなぁ……3日に一度更新とかやってた頃が懐かしい……(遠い目) 

 
「消え……た……?」

 驚愕と困惑が入り混じった声がトウマの口から漏れた。蚊の鳴くような声量が、この部屋の静けさを何よりも如実に物語る。

「マ、マサキ。これはさすがにヤバいだろ……撤退した方が……」
「いや、まだだ」

 じりじりと後ずさるトウマに、マサキは努めて冷静に返した。肺に溜まった空気を大きく吐き出して喉につっかえていた動転を取り除くと、針の先端に乗ったこまのような声色を紡ぐ。

「消えたと言っても、恐らくは《隠蔽(ハイディング)》スキルで身を隠しているんだろう。となれば、移動する際にハイディング率は大きく下がる。……つまり逆に考えれば、俺たちが相手を見つけられない状態にある限り、俺たちが攻撃を喰らう可能性は極端に低いということだ」

 何とかこまが針の上から転落する前に言い切ったマサキは、無意識にぎゅっと唇を結んだ。すると今度はトウマが口を開く。

「そっか……そうだよな。うん、そうだそうだ。マサキ、ゴメン。俺ちょっと変に怖がりすぎてた。そうだよな、《隠蔽》スキルは動けばすぐ見破られるんだから、大丈夫だ。それに、やっぱりここで帰るよりもボスを倒したほうがいいに決まってるし。……よし! そうと決まれば、さっさと隠れてるボスを倒して上の層に行こうぜ!」
「あ、ああ……」

 急に態度を豹変させたトウマ前にして、マサキはただ面食らうしかなかった。
 マサキに向けられた妄信とも言える信頼度を表している、トウマの顔面に浮かぶ屈託のない笑顔と並べられた言葉。それらはかび臭い空気と共に肺へと侵入し、胸の中で二つの旋律を奏で始める。二つの旋律は互いに侵しあい、混ざり合って不協和音へと形を変え、更に大きく不愉快なメロディをがなりたてる。

「……なんだってんだよ、クソ……」

 マサキは俯くと、彼らしからぬ粗雑な言葉遣いで肺に溜まった不快な空気を押し出した。それでも不協和音はその音量を緩めようとはせず、自らの存在を声高に主張し続ける。
 そしてその音量に耐えかねたマサキが、どうにかしてそれを追い出そうと深呼吸しようと大きく息を吸い込んで――。

「! マサキ危ない!!」

 無音の部屋に突如響き渡った警告。それから数瞬遅れてマサキが認識したのは、自らの身体が宙に浮いているという、紛れもない、そして信じがたい事実だった。


「…………?」

 上下が逆転した天地と自由落下の浮遊感、視界の端に映る、砕け散る曲刀と腰元から放物線を描いて落ちていく幾つかの青い光を確認してなお、マサキは自分が置かれている状況が判断できなかった。彼の頭の中に恐怖感はまるでなく、それどころか浮遊感に付随した心地良さを感じるほど悠然としている。
 ……だが、それも長くは続かなかった。天高く投げられたボールもいつかは堕ちてくるように、どれだけ空中で心地良い浮遊感を謳歌しようとも、いつかは地面に叩きつけられるように、マサキの身体と地面との彼我距離は重力によって縮められていき、そしてゼロになる。

「カハッ……! ゲホッ! ゴホッ!!」

 地面を離れていた代償として、石畳が強かにマサキへぶつかった。それだけではとどまらず、硬い地面を何度もバウンドしながら転がっていき、かなりの勢いを維持したまま壁に打ち付けられたところでようやく停止する。衝撃で肺に溜まった空気が一気に逆流し、暴走した空気の奔流がマサキの息をかき乱す。

「マサキ!!」
「ああ、大丈……ゲホッ! ゴホッ!」

 ゆっくりと身体を起こしながら右手をひらひらと振り、言葉にならなかったその先を駆け寄ってくるトウマに伝達する。トウマはマサキのもとに駆け寄ると、身体を支えながらポーチから小瓶を取り出した。

「マサキ、ほら、飲め」
「……ああ、すまない」

 マサキは掠れた声で言うと、壁にもたれて足を投げ出した状態でトウマの手に握られた小瓶を受け取り、一気に(あお)った。お世辞にも美味とは言えないレモン風味のポーションを胃へと注ぎ込み、ようやく一息つくことに成功する。

「……マサキ」
「ああ、分かってる。……流石にこれ以上は無理だ。撤退しよう」

 ようやく息を整えたマサキは、尚も冷静に言った。
 今の攻撃、敵の予備動作はおろか敵の位置、攻撃方法など何から何までが不明だった。それほど不確定要素が強い状況で戦い続けるなど、文字通り自殺行為だ。ここは一度撤退し、今得た情報を元に攻略会議を行ってから再度攻略を試みるしかないだろう。

 マサキの言葉に、トウマは真剣な表情で力強く頷くと、腰元のポーチから転移結晶を取り出した。マサキも続いてポーチをまさぐる。
 ――しかし。

「…………?」

 ポーチ内のどこを探っても、転移結晶が手に触れることはなかった。苛立ったマサキがより深くポーチに手を突っ込むが、その手に触れるのはポーション類の小瓶のみ。しかも、やけに数が少ない。
 不審に思ったマサキがポーチを覗き込むと、そこに入っていたのは明らかに朝よりも少ない、たった数個のポーションだけだった。

「馬鹿な……!」
「どうした……って、え? マサキ、転移結晶は!?」

 ポーチを覗き込んだトウマの声に反応するよりも速く、マサキは記憶を巻き戻した。それによると、確かに朝の時点で転移結晶はポーチ内に存在していたし、ポーションの数も多かったはずだ。そして、それから今までの間にそれらを使ったことはおろか、ポーチから取り出したことさえ一度としてない。

(どこかに落とした? ……そんなバカな。第一、硬い石畳の上にビンを落とせば耐久値がゼロになって消滅するものが出てもおかしくない。そうなれば、消滅時特有の青い光を見逃すはずが……待てよ? 青い光、青い光……青い……光……)

「あの時か……!」

 今からたった数十秒前、天地が逆転した視界で瞬いていた青い光が、マサキが以前見た消滅時ライトエフェクトと脳裏で一致した。おそらく先ほどの攻撃が腰のポーチに直撃し、内部のビンや結晶が破損。吹っ飛ばされた際にポーチから落ちたのだろう。

「ハァ……そういうことか……」
「どういうことでもいいから早く結晶を出せよ! じゃないと、二撃目が来ちまう!」
「まあ、待て」

 合点がいったマサキは、一度大きく首を横に振りながら溜息をつくと、焦るトウマに(さじ)を投げたような態度で言った。

「結論から言おう、転移結晶はない。どうやらさっきの攻撃を喰らった際に砕けたらしい」
「なっ……! おい、ウソだろ!? そんなのって、アリなのかよ……!?」
「俺に訊かれても困るがな。この仮想現実を操るカーディナル様はアリだと判断したんだろう」
「そ……んな……それじゃ、一体どうやってここから逃げ出せばいいんだ!?」
「どうやっても何も、逃げようがないだろう。転移結晶はない、武器もない、ポーションだって残りはたった数個。……この状況で逃げ切るなんて、GMでもない限り不可能だ」
「…………」

 他人事のように淡々と語るマサキの一言一言が、例外なくトウマの顔色を青白く変化させていく。そして、マサキが「不可能」の一言を口に出したとき、遂にトウマは俯いた状態で押し黙ってしまった。短い前髪で隠された表情は見えないが、何かを迷っているようにも見える。

「……まあ、そういうことだ。お前一人で帰ってくれ。俺はここでゲームオーバーだが……ま、せいぜい元気にやれ」
「そんな……マサキはそれでいいのかよ!?」

 まるで喫茶店でオーダーでも待っているかのように投げ出した足を組み、両手も頭の後ろで組んだマサキに、トウマが少し上ずった声で問うた。相変わらず顔は見えないが、その声には葛藤が色濃く写っている。

「いいも何も、それしかないんだから仕方ない。今この状況で、俺に選択権はないんだからな。……ほら、さっさと転移しないと、本当に二撃目が……「――だったら」ん?」

 いつまで経っても転移しようとしないトウマにマサキは半ば呆れながら催促しようとしたが、トウマは俯いたままポツリとそれを遮った。一瞬の間をおいて、低く抑えられた、しかし葛藤と決意と不安が三つ巴になって滲み出る声を紡いでいく。

「だったら……もし、もしマサキにその選択権があれば……マサキはここから逃げるのか?」
「……言っている意味が分からないな。第一、こんなときに“たられば”か?」
「……違う。“たられば”じゃない」

 その一言と共に、トウマは右手に握られた転移結晶をマサキに差し出した。流石のマサキもこの行動は予測できず、その右手を見て目を丸くする。

「……一体何のつもりだ?」
「……コレはマサキが使ってくれ。俺がここに残る」
「何だって?」

 下を向いたトウマの唇から飛び出した、あまりにも予想外なその言葉に、マサキは思わず聞き返した。
 マサキの耳が正しければ、今トウマは自分がここに残ると宣言したのだ。そして筋力優位型のビルドである彼にとって、それは即ちゲームオーバーと同義になる。足の遅いビルドではそうでないものと比べてボスの攻撃に晒される時間が長く、それだけダメージも多く喰らってしまうからだ。

「……お前、自分が今何を言っているのか、分かってるのか?」
「ああ、分かってる」

 トウマは短く答えると、右手をさらにマサキに向けて差し出した。見ると、その手は震え、それを鎮めるためかギュッと手の中の結晶を握り締めている。

「……分からないな。どうしてそこまで、俺に肩入れする? 別に俺がどうなろうと、お前の知ったことではないだろう」
「……それ、本気で言ってんのか……?」

 それまで迷うように震えていたトウマの右手が、一瞬だけピクリと大きく反応したのを最後に微動だにしなくなった。わけが分からないマサキは、柄にもなく困惑した様子を見せながら遮られた言葉の後半を口に出していく。

「ああ。確かにパーティーメンバーの欠員という損害は出るが、別に新しく組みなおすなりギルドに入るなりのやりようはいくらでもある。最悪ソロという選択肢だって……」
「ふざ……けんな……!!」

 ドン、という鈍い衝撃と共に、マサキの背中が壁へと打ちつけられた。同時に首元を圧迫される息苦しさが胸の奥からせりあがる。
 マサキが胸元に視線を投げると、トウマの両手が胸倉(むなぐら)を掴んでいた。現実であれば爪が掌の皮膚を引き裂いているのではないかと思わせるほどの握力で作られた握り拳は、なお余りある力と感情の渦を制御することが出来ず、小刻みに震える。喉の奥からは喘ぐような息が漏れ、胸倉を掴む両手に雫が断続的に滴り、流れ落ちていく。

「何で……何でそんなこと言うんだよ……! やっと……やっとこの世界でできた親友なのに……そんなに簡単に見捨てられるわけ、ないだろ……!!」

 今まで俯いていた顔面がその言葉と共にマサキの目前に突き出され、ようやく隠れていた表情が(あらわ)になった。――両目を真っ赤に泣き腫らし、唇は腕と同じように震え、頬全体が溢れ出した感情(なみだ)にグシャグシャに蹂躙された、その表情が。

「…………」

 抑えきれない感情に打ち震えるトウマを前にして、マサキは咄嗟に言葉を返すことができなかった。頭の中を幾つもの疑問符が駆け巡り、思考を覆う。
 そして鈍った思考で捻り出された受け答えは、最悪のものとなった。

「……親友? 親友だって? 俺が? お前の?」
「…………!!」

 次の瞬間、それまで胸倉を握り締めていた両手が急に胸元を離れた。だらりと垂れた右手から力が抜け、握られていた転移結晶が滑り落ちる。
 青い結晶が石畳の上に転がって奏でる乾いた音と同時に、トウマはその身を翻した。乱暴な仕草で目元を拭うと、背中に吊られた無骨な両手剣を抜き放つ。

「……それでも。それでも俺はマサキのこと……たとえこの馬鹿でかい城がひっくり返ったって、親友だと思ってるから」
「お、おい……」
「……さあ、出て来いよ! 俺が相手になってやる!」

 トウマはそれだけ言い残すと、部屋の中央へ向かって駆け出した。上ずった声を張り上げて、大剣を正中線に構える。
 すると、その言葉に反応したように、トウマを不可視の攻撃が襲った。攻撃に関しての一切は目に映らないが、どうやって攻撃を予測しているのかその度にトウマは横っ飛びで、這いつくばって攻撃をかわす。

 ――何故だ? 何故彼はここまでして、赤の他人を助けようとする?
 既にショートして真っ白になった思考回路で、マサキは飛び交う疑問符を追いかけた。

 そもそも人と人との繋がりなんて物は“お互いの存在が自分にとって有益である”というあまりにも脆い前提条件の上に成り立っていて、その前提条件が崩壊したとき、人は何の躊躇(ためら)いもなくそれを断ち切る。どれだけ無邪気な笑顔を見せようと、すぐにその笑みを嗤笑(ししょう)に変える。……今までに出会った奴等は、例外なくそうだった。仕事を請け負った会社のビジネスマンも、美辞麗句を並べ立てる校長や教育委員会の役員も、それまでは何処に行くにもつるんでいたクラスメートでさえ――。

「…………!」

 深い記憶に埋もれ去った冷酷な表情を思い出し、マサキの体は一瞬にして凍りついた。蔑みの視線と(あざけ)りの(わら)い声が粘ついた霧のように纏わり付き、光を、音を奪う。どんなに強く目を閉じ、耳を塞いでもそれらが消えることはなく、逆に嗤い声は増し、視線は更に冷たくなっていく。
 ――どんなに一時親密になろうと、結局いつかはどちらかが裏切りどんなに相手が自分の心を占めようと、いつかは消えていく。最後に残るのは、空空漠漠(くうくうばくばく)とした無意味な空間だけ。
 そんな今更なメッセージが焦ったように飛び交い、凍った心身をさらに冷却させようとする。

「……キ」

 ふと、冷笑で埋め尽くされた視界の中に、一つのシルエットが浮かび上がった。背中に無骨な大剣を吊り、革製のコートを着込んだそのシルエットは、やがてゆっくりと回転を始める。

「……サキ」

 回転するにつれ、視界がシルエットの顔にクローズアップされていく。マサキはそれに抵抗し、視線をそらそうと試みるが、まるで金縛りにあったように身体を動かすことができない。そしてそんなマサキを嘲笑うが如くシルエットは回転を続ける。そして視界に入った横顔には、上向きの口角が刻まれていて――。

「マサキ! 何やってんだよ!? 早く転移しろって!!」

 耳を塞いだ手を突き破って侵入した声によって、ようやくマサキは現実へと引き戻された。心臓は今にも張り裂けそうな勢いで脈を打ち、浅い呼吸は存在しないはずの空気を求めて喘ぐ。
 その視界の中央には、大剣を構えたトウマの背中が映っていた。頭上のHPバーは既に黄色く染まっているが、一向に退く気配を見せることはない。

「さっさと行けって! 俺だってそう長く時間を稼げるわけじゃ……くっ!!」

 大声で叫びながら思い切り横に跳ぶ。が、少し掠ったようで、HPが数ドットほど減少する。それでもすぐに立ち上がり、再び剣を構える。
 転がり、這いつくばっては立ち上がり、ただ一心にマサキのために己が命を投げ出そうとするその背中は、億兆の言葉よりも雄弁に、マサキの心に訴えかける。

「――んでだよ……」

 震える唇から、掠れた声が零れ落ちた。一度漏れ出した感情の濁流は、全てを呑み込みながら制御不能な津波となって胸から、喉から飛び出していく。

「……何で、何でお前はそこまでして、俺を助けようとするんだよ!? こんなことして、お前にメリットなんてあるのかよ!?」
「……何でって、そんなの決まってるだろ」

 マサキの叫びを聞いたトウマは、一言呟くと握った大剣ごと両手を下ろした。そしてゆっくりと身体を反転させる。その姿は、霧の中で見た二回のシルエットと完全に一致していて――。

「……俺、言っただろ?  『それでも俺はマサキのこと……たとえこの馬鹿でかい城がひっくり返ったって、親友だと思ってる』って。……親友が助かる以上のメリットなんて、あるはずないだろ?」

 そして、柔らかな声と共に遂に視界に移ったその顔に刻まれていたのは、これ以上ないほどに澄み切った、純度百パーセントの笑顔だった。


「…………!」

 数瞬の間をおいてようやく我に帰ったマサキは、自分の頬が濡れていることに気付いた。腕で乱暴に拭ってみるが、後から後から溢れてくる透明な雫は止まるところを知らず、頬を伝いながらその温かさで凍てついた身体を融かし、乾いた心を潤わせる。
 涙が止まらないことを、止める必要がないことを悟ったマサキは、ぼやけていく視界と晴れていく霧を眺めながら、そっと目を閉じた。涙で冷やされた頭をフル回転させ、今も必死に戦っている大剣使いを助けるための策を練る。

(何か……何かあるはずだ。考えろ、考えろ、考えろ……)

 記録されている記憶の全てを巻き戻し、そこから使えそうな情報を抜き出していく。部屋に入る前後の会話、ボスの特徴、挙動、ボスが見えなくなってからの視界、音、感触――。

「待てよ……?」

 サルベージした記憶の断片、その中のさらに一単語が、些細な違和感となって網に引っかかった。ごくごく最近に再び聞いたその違和感は掘り下げるごとに強さを増していき、その先にくくりつけられた細い糸を慎重に手繰り寄せれば寄せるだけ、絡まった事象が紐解かれていく。

(……だが、それだけでは意味が無い。一度奴の位置を特定しない限りは……何か、何かないか……!)

 その時、マサキの頬を風が撫でた。
 今までも度々吹いていた。別段おかしなことではない。
 ……そう、この部屋の状態と、風切り音が存在しないことを除けば。

「…………!」

 瞬間、マサキの脳裏でスパークが弾けた。そこから幾つもの方程式が生み出され、脳内で展開、それぞれに解が割り振られる。その情報を元に見えないはずの敵座標がプロットされ、これ以上ないほどに正確かつ現実的なイメージが作成される。

 ――そしてようやく開かれた二つの瞳には、今まで霧に隠されていた二つと半透明のウインドウとがはっきりと映っていた。

「ハッ、なるほど、こういうことか……!」

 マサキは口元を獰猛に歪めると、ウインドウを左手で操りながら走り出した。正面に見える少年の体力は既に一割を切っている。
 マサキは何もない右手を渾身の力で握り締めると、今にも倒れそうな少年の横に辿り着く寸前、一気に突き出した。水色のライトエフェクトが溢れ出し、右手から濃紺の柄と(つば)が、さらにそこから半透明の、圧縮した空気のような刃が伸びる。出現した刃は見えない壁に突き刺さり、突如出現したHPバーのドットを削り取っていく。

「マ、マサキ……? 何で……」

 ドットが減るに従って、バーの色が変化した。緑から黄へ、黄からオレンジへ、そしてオレンジから赤へと――。

「何を今更。『親友が助かる以上のメリットなんて、あるはずない』んだろう?」
「…………!」

 ニヤリと笑うマサキの横で、遂に表示されたHPが底を付いた。直後、今まで何も見えなかった空間に闇色のシルエットが浮かび上がり、数瞬の間をおいてそれがまるで幻想であったかのように砕け散る。

「『汚ねぇ花火だ』……とでも言えばいいのか?」

 消滅していくポリゴンを背景に、マサキがぼそりと呟いた。突き出されていた刀を鞘にしまうと、その右手は呆気に取られているトウマの前に差し出される。
 差し出された右手の脇、細めの胴体の前に開かれたウインドウには、紫色の文字が誇らしげに並び自己主張を続けていた――。

 ――《You got a《風刀》skill!!》 
 

 
後書き
オラに……オラに感想と評価Pを分けてくれえぇぇぇぇッ!
……ハイ、スミマセン。調子に乗りました。
いや、本文で一度パク……コホン、引用したのでこっちでもやっていいかなぁ……と。ただそれだけなんです。出来心なんです! だからお願い石を投げ(ry。

……ということで、感想と評価Pください(オイ。
いや、感想がもらえればモチベーションが上がって執筆速度も上がる(ハズ)なんです! お願いします!!(土下座) 
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