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なのは一途のはずがどうしてこうなった?

作者:葛根
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第三十八章 教えたいこと



「娘に好かれるのは構わんが、好きにさせてしまっても良いのだろうか?」
「ダメに決まってるの!」

発情期の雌の顔をしているヴィヴィオを前に親同士話し合った。

「娘の恋路を邪魔するとは酷い母親だ」

トーレは黙ってろ。

「うるさい! 家庭の問題に他人が口出しするな!」

なのは激怒である。

「まあまあ。娘を教育するのも親の役目ということで。なのは、3人相手にいける?」

トーレ、チンク、ディエチが構える。

「ケイタは……、ヴィヴィオだね。私なんか眼中に無いって感じだし……。わからず屋の娘をよろしくなの」

全てを言わなくても通じ合っている。
俺は、ヴィヴィオの相手。
なのはは、3人の相手。

「負けるとは思わないけど、無理はするなよ」
「そっちこそ。無茶はダメだからね」

コツンと拳を合わせて、飛ぶ。



虹色の魔力光が炸裂する。

「パパをノックダウンさせて、貞操を奪わせる!」

拳に魔力光が収束し、連打が繰り出された。

「近接戦闘系か! 遠慮無い連打っ、と」

ヴィヴィオの言葉は無視した。
聞かなかった事にするのが良い。
捌く。防ぐ。

「古代ベルカの戦闘技法か……」

バックステップで距離を取る、が。
虹色の砲撃が来た。

「プロテクション」

掌の先に小さめのバリアを張って砲撃を受けるのではなく、逸らす。

「そいういう防ぎ方もあるんだね!」

ヴィヴィオの拳が飛んできた。
砲撃から打撃への切り替えが早い。
ヴィヴィオの拳には虹色の魔力光が、施されている

「パパ、コレも防ぐんだ……。綺麗な水色だね……」

俺の魔力光の事か。ヴィヴィオの拳を掌で受け止めて握る。
拳に魔力を収束させて、相手に攻撃する方法は知っている。

「余所見するとは余裕だなっ!」

足は動く。
右足をヴィヴィオの左側頭部へ向けて蹴り上げる。
同時にヴィヴィオの左手で防がせない様に抑えこむ。

「肩で受けるか! 生意気な! バリアくらい張れよな」
「攻撃しといて防げって変だよ……?」

拳を突き放して距離を開ける。
仕切り直しだ。

「今度は俺から攻めるから、ちゃんと受け止めるか捌くか、大人しくダメージ受けるかしなさい」
「パパったら大胆。でも始めに言った通り、パパを倒すのは私だよ!」

右手で掌打《しょうだ》を打つ。

「あんまり早くないね。パパ!」
「避けたのは良い判断だ。ただし俺相手では点数低いよ」

身体を左回転させて、右足を軸に回転。
左足の後ろ回し蹴りを放つ。

「掌打は囮! 本命は蹴りって事だね? 足にもちゃんと魔力を収束させてるんだね!」
「バインド!」

左足をガードしたヴィヴィオ。
コレが、本命だ。
掌打も蹴りもヴィヴィオに俺の攻撃をガードさせる囮だ。
ガードと同時にバインドで拘束が俺の本命。
左足をヴィヴィオから蹴って今度は逆回転する。
右足を軸にコマのように回転、更に左足を一歩踏み込み、その回転力を左手の掌打に乗せて打つ。

「ぐっ……うぅっ……」

2、3歩ヴィヴィオは後退する。
身体内部へのダメージに加え、魔力を込めた掌打なので内部レリックコアにもダメージがある。

「結構本気で打ったのになあ……」

一撃必倒のつもりで打ったんだが。
ヴィヴィオは倒れなかった。

「パパ、本気だね」
「ああ、娘に負けるわけにはいかないからな」

バインドが解かれた。
追撃のタイミングはなかったと思う。
恐らく、追撃しようと不用意に近づいたところで反撃を用意していたはずだ。

「あんまり手の内を読まないで欲しいかな。心の中を見られているみたいで恥ずかしいよ?」
「そりゃ無理な相談だ。娘の早めの反抗期を正すのが親ってもんだ」
「強いねパパ。本気で惚れたよ。だから、貞操を奪わせるんだっ!」
「性教育にはまだ速すぎるっ!」

拳と拳が交差する。



ヴィヴィオは、聖王の血を引いている。
古代ベルカ王族が遺伝子レベルで保有する防衛能力がある。
五体を武器化する、古代ベルカの戦乱の中で生まれ、編み上げられた防衛機能だ。
その他にも聖王のゆりかごの駆動炉から無限とも言える魔力供給があり、戦闘経験を高速に収集して覚え、相手の攻撃を無力化及び学習し相手を圧倒する能力があるのだ。
これらの高能力に加えて、相手は熟練の技と経験を持つミウラ・ケイタであるのがヴィヴィオを成長させていた。
戦闘中に劇的に成長する。
徐々に、均衡は崩れていく。
ミウラ・ケイタの経験が。
ミウラ・ケイタの技が。
ミウラ・ケイタの老練さが。
全て聖王であるヴィヴィオの糧になり、燃料になり、爆発的な成長を加速させていく。
届かなかった拳が届く。
防げなかった攻撃が防げる。
攻防が入り乱れる。
砲撃が届く。
追撃が届く。
体術も、魔法も。
ヴィヴィオが勝り初めていた。



「ペッ。あー、久しぶりに口の中切った」
「パパ、そろそろ私勝ちそうだよ?」
「親を殴る娘が悪いのか、娘を相手にマジで殴る親が悪いのか……」

心のどこかでヴィヴィオに対してストッパーがかかっていた。
無意識的に加減していた。
どんどん強くなる娘の姿を見たいと思ってしまっていた。

「ヴィヴィオ、俺は、初出動の前に必ずいう言葉がある。それは、現場においては頑張るな、努力するな、全力を出せ。それで駄目なら生き残れ、ってな」
「うん……」
「……この言葉には続きがある」

新人達が一人前になって贈る言葉が。

「お前達は強い。だが、慢心するな。成長を忘れるな。考えるのを止めるな。いざという時は己の全ての能力を掘り起こしてその場で成長して困難を切り抜けてみせろ。お前達にはそれができるはずだ」
「パパの強さが少しわかってきた気がするよ」

ヴィヴィオが踏み出そうと足に力を入れた瞬間。

「――」

地に足がつかない浮遊感と、目の前の光景が歪んで見えた。

「行動の起こりを突いた」

ヴィヴィオは、前のめりに倒れ地面に叩きつけられる前にミウラ・ケイタに支えられ、埋め込まれていたレリックコアが破壊された。

「何よりも大切な事は、不屈の心だ」

薄れ行く意識の中、ヴィヴィオは確かにその言葉を聞き遂げた。



高町なのはがミウラ・ケイタに教えたもの。
配点:(不屈の心)
 
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