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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第28話 キリトと5人のパーティ


~2023年4月8日~


 時は大分進み、この場所は第10層の迷宮区。主にゴブリン達が根城にしている迷宮だ。

「ふぅ……。まぁ こんなもの……か」

 一通りの狩りを終えたリュウキは、片手直剣を鞘に収めた。別にこの場所にレベルあげに来たわけではない。そして、欲しい素材があったわけでもない。
 目的はダンジョンを視る事。

 彼は、定期的に 各ダンジョンを視て(・・)回っているのだ。モンスターたちの情報、そして、アルゴリズム。それにイレギュラー姓があるのか、ないのか? 変わっていないか? もしあったとして……それはどのタイミングで、そうなるのか? 致命的な行動は無いのか?
 と言った具合に、それらを視て回っている。

 そして、何か判れば、それをアルゴに情報として発信してもらう。別に、誰かに頼まれているわけでもない。適当に探索しているだけだし、狩場にするつもりも毛頭ない。
 レベルはその過程で上昇して行くが、場を荒らしたりも 勿論していない。下層の狩場を強さにものを言わせ、上層のプレイヤーが荒らしたりすれば、上層のギルドに排除以来が飛び、散々つるし上げられた挙句、新聞で、《非マナープレイヤー》として載ってしまうのだ。

 それに、それが≪ビーター≫と呼ばれているプレイヤーならなおさらだ。

「まぁ……そこまで、目立つような事はしてないがな……」

 リュウキはそう呟く。様々な場所を転々と歩き回っているリュウキ。それは非常に効率の悪い狩であり、誰もそんな印象を残さないのだ。一部のプレイヤー達には強烈に印象を残しているが。

「さて……」

 リュウキはあたりを視渡した。モンスターの気配はまるで無かった。どうやら、粗方モンスターを狩ったクーリングタイムにでも突入したのか、PoPする気配も無い。
 ある程度、早く狩ればPoPするのに、時間が掛かるのは判っているが、それを考えても長かった。

「ふむ……」

 リュウキは、探索場所を変えることにしていたその時。


『きゃああっ!!』


 迷宮区内に、声色から女性であろう悲鳴が響き渡った。
 建物内であるせいなのか、壁・天井に音響が反射するように設定されているせいなのか 判らないが、屋内の戦闘や叫びはかなり響き渡る。

 それを訊いたリュウキは、直ぐに行動を開始した。

「……いくか」

 誰かに危険が迫っているのは間違いない。
 このデスゲームでもう、1000を軽く超える数のプレイヤーが命を落としているのだ。
 限りなく死亡者を0にしたい、と思うリュウキだったが、現実世界で言う、交通事故死亡者を0にしようとするような試みのように、犯罪者を完全撲滅を目指す様に、到底無理な事だった。

 如何に様々な情報を集めても、アルゴを通じて発信し続けても。

 それは、変わらなかった。だからこそ、せめて、この眼に映る範囲のプレイヤーは、助けを乞う声が聞こえる範囲のプレイヤーであれば、救いたい。リュウキはそう考えていたのだ。

 足早に 声がする方へとリュウキは駆け出した。

 そして、暫く走った先。リュウキが向かった先に、意外な光景が広がっていた。


 6人のプレイヤーがそこにはいた。
 


 そのパーティは、ゴブリン集団に襲われている様に見えた。でも、リュウキは問題視しなかった。確かにレベルが低ければかなり危険だ。このフロアに出てくるゴブリンには厄介な能力も備わっているから。

 だけど、リュウキは問題視しない。何故なら……。


「ちょっと前 支えてましょうか?」


 そう提案する人物がいたからだ。見覚えがある人物。頭の先から足元まで真っ黒の服装。そう、同じソロプレイヤーであるキリトが 助っ人をしていたのだ。
 もっと上の層を中心に動いているキリトであれば、例え1人であったとしても、余裕で切り抜ける事が出来るだろう。
 だから、リュウキは一先ず安心した。……が。

「キリトがいれば……まぁ 大丈夫か。いや……一応しておくか」

 リュウキは安心した事は確かだが、妙なイレギュラーが発生しても厄介だと判断し、帰ったりはせず、少し見守る事にした。

 そして、リュウキは再び剣を取り出す。

「……あの集団ゴブリンは、中心(コア)のゴブリンを潰さないと、只管出てくるんだったな」

 キリト達が対峙しているゴブリンの集団。
 あれとは、この層を主戦場にしていた時に相当やった相手だった。そして、その時視て確認したところ、リーダー格ではない、仲間を呼ぶゴブリンがいるのだ。放置をしていれば、通常の倍以上の速度で再出現する仕様になっている。

 情報として、提供したかどうか、覚えてなかったから、彼らがそれを知っているかどうかは、判らない。勿論キリトもそうだ。

視た(・・)ところ……後ろで待機している《アレ》だな」

 あのパーティから不自然に離れたところで動かないゴブリン。遠くから見れば一目瞭然なのだ。それは、リュウキだけかもしれないけれど。

「よし、行くか………」

 リュウキは構えなおして、歩を進めた。

 キリトがいるから大丈夫、とは言っても それ以外の5人のプレイヤー達のピンチには違いないから。




 そして、数秒後の事。

「あれっ? 急にPoPしなくなった? 大分少なくなったよ」

 槍使いの女性がそう声を上げた。何度か、ゴブリンを退けつつ、後退をしていたのだが、押し切れそうな感じがしてきたのだ。

「えっ……?」

 手伝っていたキリトは少しおかしい、と違和感を感じていた様だ。自分も以前は、この集団と何度もやり合っている。だからこそ、判るのだが、この相手は簡単に少なくなるような事は無い。
 経験上、少なくとも今の倍以上は狩るか、もしくは、エリアの外にまで逃げる必要があるのだ。

「よかった! 畳み掛けるぞ!」

 棍使いのリーダーがそう叫ぶと、皆が頷く。勿論、キリト支える、と買ってでたから、最後まで気を抜かず、サポートに徹していた。
 
 剣技スキルも、上位のものを使用しないで、下位のものだけで、そして無事に ゴブリンの集団を撃破することが出来た。厳しい戦い、と言っていい戦いを制した彼らは、歓声を上げていた。

 結構離れていたリュウキにまで、届く程だ。歓声を上げ、ハイタッチを繰り返していた。




 それを、遠目で見ていたリュウキは微笑む。
 その先に、キリトが戸惑いながらも、彼らと一緒にハイタッチをするキリトを見てだった。

「まぁ……アイツもあんな顔できるって事……だな。ソロは良い所もあるが悪い所もある、ハイリスクハイリターンだ。 ……仲間が出来るならそれに越した事は無い」

 あのメンバーとキリトを見て、顔が緩むのが止められない。
 いや、それだけでない事をリュウキは感じ取った。最初はそんな自分に戸惑った。あのメンバーを見ていて、芽生えそうになったからだ。

「羨ましく……思っているのか? オレは。あの雰囲気が……?」

 リュウキの頭の中を過る。だが、それも直ぐにありえないとリュウキは一笑した。

「……そんなバカな、ある筈が無い」

 これまでも、そしてこれからも、ソロである事を意識していたリュウキ。だから、そう思った感情を、気のせいだと一蹴したのだ。 
 
 そして、リュウキはその場を離れて行こうとしたその時。

「やっぱり、お前だったか……」

 後ろから声が、聞こえてきた。

「……キリト」

 リュウキが思うのは、勿論本当に、声をかけるのはいつも後ろからだな、と言う事。正面から声を掛けられた事など、身に覚えがない程だった。

「……今のは仕方ないだろ? お前が、ここから離れて言ってたんだから」

 リュウキが考えている事をだいたい察したのか、先手を打つようにキリトがそう言った。因みにそれは、間違いではない。

「……それで? あのメンバーと共に行かなくて良いのか?」

 リュウキは、とりあえずそれを聞いていた。まだ、迷宮区内だし、彼らの実力を知っている訳じゃないから、少し心配だったのだ。

「ああ、少し待ってもらっている。この場に知り合いが来ていたからちょっと話してくるって言ってな」

 キリトはそう答えた。ちゃんと伝えているのであれば、もしも、何かあればこちら側に伝えに来るだろうから、彼らに関しては大丈夫そうだ。

「そうか? それで何か様なのか?」
「いや……その、一緒に来ないか? たまには……さ」

 キリトが誰かを誘う。あまり無い事だ。フロアBOSS、フィールドBOSS、攻略会議等で、誘われた事はあるが、それ以外となれば、特に記憶にない。

 誘われたリュウキだったが、首を横に振った。

「………残念だが、まだ する事があるんだ」

 そう言うとリュウキは、顔を暗める。

 思い返すのは、見つめ直すのは、自分の心だ。

 さっきは、一笑し、一蹴した感情。羨ましく見ていたと言う事、それが、ありえ無い事なんて事は無いのだ。1人だったから、無意識に強がったんだろう。 今はキリトが前にいる。あまり嘘をつきたくない。
 

 それでも、リュウキには最後の一線が越えられなかったのだ。


「悪いな……キリト。誘ってくれて、ありがとう」

 その返事をもらったキリトは、以前から思っていた事を確信をしていた。それは、レイナにも言われた事でもある。
 本当に誰かと組むのが嫌なだけなのなら、こんな断り方はしないだろう。


――……この男は何かを背負っている。


 いつか、それはレイナに聞いた言葉だ。今ならよく判る。
 確かに、集団行動に馴染めないのは自分も同じだ。
 だけど、リュウキのそれは何かが違う。自分のそれとは比べ物にならない何かを持っている気がするのだ。

 リュウキとは、BOSS攻略の時は共に参加する。その際、彼は迷ったりはしていない。そして、拒否もしたりしない。

 あの時と今。その差はいったい何なのか、いったい何が彼を抑えつけているのだろうか。この時のキリトにそれを知る由も無かった。


「……キリト、行け。また……襲われているかもしれないぞ? 近くにいるとは言え、何が起きるか判らないんだからな」 
 
 リュウキはそう言うと、後ろを向いた。

「……ああ、わかった。じゃあ……」

 キリトは遅れて手を上げた。
 
「次のBOSS攻略でな……。たまにはコンビを組むっていうのも悪くないだろ?」

 笑って言った。リュウキはその言葉を聞いて。

「………ああ、そうだな。……また、な」

 リュウキは振り向かず、手を上げてそう応えて、迷宮区の奥へと消えていった。



 リュウキの姿が見えなくなった所で、キリトは考える。彼が消えていった方を見つめながら。

「アイツに……いったい何が…………」

 キリトは、柄にも無く心配しているようだった。だが、同時に矛盾も感じる。

――いったい、アイツの何を心配するのか?

 あの戦闘能力、洞察力、観察力。全てのスキルが一線を越えている。ゲームバランスを崩しかねない程にだ。だからこそ、そんな男の何を心配する事がある?
 それがキリトには判らなかった。相反する感情が渦巻いている。だけど、それでも何か気になるんだ。

 リュウキの事を、心配をしてしまうんだ。



「あの………。」

 その時だった。
 槍使いの少女がキリトの傍まで来ていた。キリトが離れて、不安だった様だ。勿論、自分達が、と言うより助けてくれた人が突然いなくなってしまう事に、強く。

「ああ、ゴメン。今戻るよ」

 キリトはそう返すと、彼女の所へ向かっていった。声が聞こえてくる程近くにいた様で 少し離れた所にまで彼女は来ていた。

「あ……あの、さっきの人……いいん……ですか?」

 少女は、さっきまでの恐怖心がまだ去っていないのだろう。そう訊くその言葉には僅かに震えがあったから。

「ああ、まだ することがあるってさ。それに心配しなくて良い。オレがしっかりカバーするから」

 キリトは少女が落ち着くよう、微笑みかけた。

「あ……っ、う……うんっ」

 キリトの言葉を訊いて、キリトの笑顔を見て、少しだけ軽くなったようだ。まだ、ぎこちないが、彼女は笑顔を出す事が出来る様になっていた。
 

 そして、キリト達は、残った4人と合流しこの迷宮区から離れていった。


 だが、キリトはこの時思いもしなかった。

 これからキリト達を待ち受ける残酷な運命を……。

 
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