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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第72話

何とかステイル達に気づかれる事なく、競技場まで無事に着く事が出来た。
次の競技は大玉転がしだ。
他校の同学年の生徒と争われた学年対抗競技。
左右両サイドに配置された二十五個ずつ合計五〇個の大玉を転がし、相手の後方にあるゴールラインに押し込む。
先に半分以上を押し込めば勝利。
麻生が選手の控えエリアには麻生の学年の生徒以外にたくさんの生徒がいた。
とりあえず、近くの壁に背中を預け、競技が始まるまで空を見る事にした。
少ししてから上条と土御門もやってきた。
土御門の方はいつもの様に笑っているが、上条を見た限り、心此処にあらずといった感じだった。
運営委員の生徒が入ってきて、競技の準備に入る。
麻生のクラスの大玉は男子が二個で女子が一個だ。
麻生と上条は別々の玉を転がす事になった。
土御門は集中しているが上条の方は全く集中できていない。
パン!!という号砲が響く。
考え事していた上条は一瞬だけ遅れてしまう。
麻生も適当に大玉を転がしながら、視界の端で上条の様子を窺っていた。
大玉に置いてきぼりにされないように、慌てて走る上条。
大玉の中身は空気なので重さは感じないが、逆に風船のように風の影響を受けやすい。
なので気を抜いているとすぐに横に流されてしまう。
大玉は少しずつ勢いに乗って速度を増していく。
上条達の大玉は、自軍の中では一歩先んじていた。
これは、一番初めに敵軍の大玉と接触する危険性が高いと言える事だ。
ちなみに、麻生達の大玉はそれほど突出してなく、上条達より二、三歩くらい後ろくらいだ。
大玉が巨大すぎて、上条の位置からでは前方が良く見えない。
もうすぐ来そうやでーっ!という青髪ピアスの言葉に上条は意識を集中させる。
だが、次の瞬間には危ない!という声が後ろから聞こえた。
また考え事していたのか、上条以外の生徒は一斉に大玉から飛び散っていく。
上条はというと。

(あれ、敵軍と接触するのって、まだもうちょっと先だよな?)

と、呑気に考えていた。
首を傾げていると、後ろから衝撃がきた。
後方から猛烈なスピードで追い上げてきたクラスメイト達(女子)の大玉が、背後から上条を呑み込んでいった。
麻生達が転がしている大玉や男女混合の大玉が追い抜いていき、吹寄制理は上条に冷たい言葉を言う。

「何をやっているのよ上条当麻!」

と、言いその後から姫神愛沙はやっぱり。君には女難の相が出ているのかも、とでも言いたそうな横目で上条を見ていた。
麻生も麻生で呆れたようなため息を吐きながら大玉を転がしていた。








結果を言うと上条の学校はまた勝つ事が出来た。
あまりにも集中していないのを見かねた制理は。

「ほらアミノ酸よアミノ酸。
 黒酢と大豆イソフラボンはこっち。」

強引に上条にスポーツドリンクを押し付ける。
上条も喉が渇いていたのか、拒否することなく受け取った。
貰ったスポーツドリンクを飲みながら上条は土御門に提案する。

「なぁ、この一件、恭介にも手伝ってもらった方が良くないか?」

この一件とは、ステイルが土御門に話していた内容だ。
本来なら上条は関わっていなかったのだが、彼らの話す声を聞いてしまったのでほっとくにほっとけなかったのだ。
簡単に説明すると、この学園都市には二人の魔術師が潜入しているらしい。
もっと正確に言うと、ローマ正教のリドヴィア=ロレンツェッティとその人が雇ったイギリス生まれの運び屋、オリアナ=トムソンの二人である。
彼女らの狙いはインデックスの誘拐などではなく、教会に伝わる霊装の受け渡しをするというものらしい。
なぜ、学園都市で受け渡しをするのかというと魔術側は不用意に科学側に手出しする事は出来ない。
これは逆も言える。
故に、学園都市の上層部が魔術師がこの街に潜入している事が分かっても警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)を使って迎撃する事は出来ない。
これも逆も言える。
不用意に魔術師が警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)に手出しする事もできない。
この街はどの勢力も迂闊に手を出す事が出来ない街なのだ。
だが、今は大覇星祭中だ。
一般客も参加する大覇星祭の都合上、どうしてもセキュリティを甘くしないといけない。
なので、彼女ら魔術師達も簡単にこの街に侵入する事が出来る。
ステイルは「上条の知り合いだから、個人的に遊びに来た」という大義名分があり学園都市に入ってくる事が出来た。
もし、上条達とは無縁のイギリス清教の魔術師たちが無闇に入ってくれば、他の魔術組織も学園都市に入ってくる。
基本的に彼ら魔術師は学園都市に友好的とは言えない。
潜入してくれば破壊工作をしてくる可能性もある。
そうなれば、戦争が始まってしまう恐れがある。
なので、ステイルのような特定の知り合いがいる魔術師だけしか入ってこれない。
自ずと少数精鋭なる。
上条は神裂も呼べばいいのでは?、と提案したがステイルと土御門に却下される。
なぜなら、リドヴィアが受け渡しする魔術霊装の名前は「刺突杭剣(スタブソード)」。
効果はあらゆる聖人を一撃で即死させるモノ。
それも切っ先を向けただけでなので距離も障害物も関係ない。
聖人とは生まれた時から神の子に似た身体的特徴・魔術的記号を持つ人間の事を言う。
神の子の力が宿るので、普通では考えられない力を発揮できるが、欠点もある。
それは神の子の弱点(処刑・刺殺)も受け継いでしまっている事だ。
刺突杭剣(スタブソード)」は処刑と刺殺に特化した魔術霊装。
これほどまでに聖人の弱点をついた霊装は極端に少ない。
これらの理由から神裂を呼ぶ事が出来ない。
必然とメンバーは土御門、ステイル、上条になる。
ちなみにインデックスは呼ぶ事が出来ない。
彼女は魔術に関する問題なら、例外を除いて誰よりも知っているだろう。
だが、この学園都市で起こった様々な魔術的な事件は上条と麻生が解決したが、それらは全部は禁書目録が解決したという事になっている。
なので、何としてでも学園都市に入りたい魔術組織はインデックスの周りに特殊なサーチをかけており、ステイルや土御門などの特定の魔術師以外の魔力を探知した瞬間、突入するように準備している筈だ。
だから、少しでも戦力が欲しいこの状況で上条は麻生を誘おうと提案している。
あの神裂を倒した事のある麻生が手伝ってくれればこれまでにない戦力になるだろう。
上条の提案を聞いた土御門は苦笑いを浮かべて答えた。

「カミやんの言いたい事も最もだけどにゃー。
 おそらく、キョウやんは手伝わないと思うぜい。」

「何でだ?」

「キョウやんが手伝う理由がないからにゃー。」

「?」

土御門の言葉がよく分からないのか上条は首を傾げる。

「いいか、カミやん。
 あいつは自分に被害を受ける事が分かったら動くが、被害がかからないと思ったら動かないぜよ。
 気まぐれで被害関係なく動いてくれる事もあるが、よほどの事がない限りないだろうにゃー。
 後、自分が守るべき存在に危険が及ぶ可能性が出た時と、動く場合の理由が限られてくるにゃー。
 この「刺突杭剣(スタブソード)」はキョウやんには全然被害がないし、科学側にもそれほど大きな取引でもないにゃー。
 あくまで聖人を殺す為に特化したようなもんだぜよ。
 キョウやんに頼んでも自分達で何とかしろ、って一蹴されることが目に見えてるにゃー。
 おそらく、ステイルもそれが分かっているからキョウやんに頼むなんて簡単な答えを出さなかったんだぜよ。」

土御門に言われて気づいた。
あの麻生が動いた時は誰かが死にそうな目に遭っている事の方が多い事を。
しかし、気になった。
土御門はそれほど麻生に関わっていないのにどうしてそこまで分かっているのか。
それを聞いてみると土御門はにっこりと笑みを浮かべた。

「キョウやんは自分で思っているよりかは分かりやすい奴ぜよ。
 交渉や話術などに関してはオレより強いと思うが、自分の事となると分かりやすい奴だにゃー。」

笑みを浮かべて答える土御門だが、上条はそうなのか?、と首を傾げるのだった。







大玉転がしが終わった後、麻生はまた街中をブラブラと歩いていた。
最低限の競技しか出場しないようにしたので、今から結構時間が空いている。
愛穂の所に行こうかと思ったが、相手は仕事中なので邪魔は出来ない。
桔梗は未だに入院中、一方通行(アクセラレータ)の所に行ったら行ったで、打ち止め(ラストオーダー)の相手をしなればならなくなる。
上条達が関わっている魔術事件に関わる気もない。
ようするに暇なのだ。
麻生はどこか涼しい所で寝るか、と考えた時だった。

「見つけたわよ、麻生恭介!!」

後ろから名前を呼ばれたので振り返る。
後ろには如何にも怒ってますよオーラを出した制理がドシン!ドシン!、という効果音が出てきそうな足踏みで近づいてくる。

「大玉転がしが終わってからすぐにいなくなって、貴様は皆の応援をやろうとは思わないのか!!
 この学校の裏切者が!!」

応援に行かなかっただけで裏切り者とは言い過ぎだろ、と思ったが言い返しても火に油を注ぐようなものなので止めておく。
制理はそのまま麻生の襟首を掴むと、そのまま強引に引っ張っていく。

「全く、少しは大会を成功させようという努力はできないの、貴様は?
 最も努力すべきは運営委員だというのはあたしも分かるけど、ここまでやる気がない人間を見ると腹が立ってくる!」

言いながら、パーカーのポケットから牛乳を取り出して、飲み始める。
よほどご立腹なのだと、麻生は考える。

「んで、今は何の競技をしているんだ?」

引きずられながらも麻生は制理に聞く。

「それぐらい何で覚えられない?
 脳に栄養が足りてないのか。
 そうかそうか、なら今この場で最優先すべきなのは当分の摂取ね!」

「いや、充分に足りてるから遠慮しておく。」

絶対に受け取りません、という麻生の雰囲気を感じ取ったのか、ポケットから出したシュガースティックをポケットに入れ戻す。

「今ウチの学校が参加しているのは二年女子の綱引きと三年男子選抜のトライアスロン。
 どっちの応援が良い?
 やっぱり女子か。
 そうよね所詮は麻生だもんね!
 常盤台の生徒とかにちやほらされてさ!」

「勝手に決めつけるな。
 あと、あいつらが勝手に来ただけで俺は関係ないぞ。
 それより、お前は俺なんかを相手していいのか?」

「どういう事?」

「運営委員。
 仕事は大変なんだろう?」

「何で貴様にいちいち心配されなくちゃいけないのよ。」

「別に俺に構っているせいで仕事が出来ませんでした、何て言い訳にされるとこっちが迷惑だからな。」

「安心しなさい。
 私は突発的な事態にも対処できるように、スケジュールにはある程度ゆとりを設けておいたから問題ないわ!」

「だったら尚の事、俺なんかじゃなくて友達と屋台とか回ればよかったじゃないか。」

「思い出の作り方は人それぞれよ。
 あの子達だってちゃんと納得してくれてるし!」

そう言った制理の表情は、その時だけ人並みに角が取れていた。
相変わらずズルズルと引きずられる麻生はため息を吐いて言う。

「まぁ、俺には関係のない事だが。
 それより、襟首を掴むのを止めろ。」

「それでは、手。」

「・・・・・・」

本当は離したら逃げようと考えていたが、それも無理のようだ。
手にはハンドクリームを塗られた柔らかい掌だ。
どうせまた通販番組で買った流行りの健康グッズだろう。
麻生はもう一度ため息を吐くと、制理の差し出された手を掴む。
制理はちらりとこちらを向いて言った。

「歩くの遅い。」

「・・・・・」

やっぱり逃げればよかったと麻生は後悔した。
制理に連れられる形で麻生は街を歩いていた。

「ねぇ麻生。
 大覇星祭ってつまんない?」

唐突に手を繋いでいる制理が言ってきた。
その言葉に麻生は何も答えない。

「どうも貴様はやる気がないというか、あの棒倒しは例外だけど、貴様は授業中でもどんな時でも退屈というかそんな表情をしている。」

その言葉に麻生は少しだけ驚く。
まさか制理が自分を観察されているとは思ってもいなかったのだ。

「ま、絶対に大覇星祭に集中しなくちゃ駄目なんて強制はできないし、楽しめ、って命令も出来ない。
 退屈ならリタイヤしても止められないんだけどさ。
 でも、やっぱり企画を立てて今日まで頑張ってきた身としては、わがままでも皆に参加して、楽しい思い出を共有してもらいたいと思ってしまうのね。
 それで皆が笑えれば言う事はないけど・・・・。
 麻生が今日つまんないと感じたのなら、やっぱり準備を進めてきたあたしが何か不足していたという訳だから、何ともね。」

それを聞いて麻生は三度目のため息を吐いた。
正直、麻生はこの世界で楽しく生きていく事が出来ない。
なぜなら星の真理を知り、人間の闇を知った。
今も制理達が頑張って考えた大覇星祭も、上層部が何かしら自分達の利益に変える為に動いたりしているだろう。
他にも屑な人間はいくらでもいる。
そんな世界で、そんな人間が多い世界をどうやって楽しく生きていけばいいのか麻生は逆に教えてほしいくらいだ。
けど、そんな事を制理に言える訳がない。
愛穂は言った、この世界はまだ楽しい事などがたくさんある事を。
桔梗は言った、この世界の人間の全部が全部醜い人間ではない事を。
そして、あの時、あの幼い少女は笑顔で言った。
生きていて楽しい、と。
その少女が今、目の前にいる。
せめて彼女には彼女達だけは楽しくこの世界を生きていてほしい。
麻生は四度目のため息を吐いた。
だが、その後に小さな笑みを浮かべた。
麻生は制理と繋いでいる手を振りほどくと、両手で制理の頭を優しく掴むと自分の額と額をくっつける。

「なっ!?・・・麻生、一体何を!!」

制理は驚くのも無理はない。
いきなり、こんな事をされて驚かない方がおかしい。

「馬鹿だな、お前。」

「え?」

「俺の事なんてほっといて大覇星祭を楽しべいいのに。
 お前が楽しなくて誰が楽しむんだ。
 自分を楽します事が出来ないのに他人を楽します事なんてできない。
 俺はお前にこの大覇星祭を楽しんでほしい。
 お前達、運営委員が必死なって考えたて作った祭りなんだからな。」

額を合わせながら麻生は少しだけ笑みを浮かべて言う。
自分の言いたい事を言い終えて離れる。

「此処から一番近い所はどこだ?」

また唐突に聞かれてしまい、制理は少しだけ唖然とするが答える。

「え、えっと・・・三年男子のトライアスロン。」

さっきの麻生の行動を思い出したのか、顔が少し赤くなっている。
だが、麻生がそんな事に気づく訳がなかった。

「まずはそこに向かうか。
 今からでも応援くらいはできるだろ。」

さっきとは逆で麻生が制理の手を掴んで歩き出す。

「それでどの道を歩けばいいんだ?」

麻生の問いかけに制理が答えようとして前を見た時だった。

「麻生!前を見なさい!」

「え?」

制理に言われて前を向くと、ドン、と誰かと軽くぶるかる
制理に気を取られていたのか前を全く気にしていなかったのだ。
麻生はすぐに顔を離して確かめると、それは金髪の女性だった。

「すみません。
 怪我はありませんか?」

ぶつかった女性に軽く頭を下げる。
ぶつかったのは、地味な作業服を着た一八歳ぐらいの女性だった。
身長は麻生より少しだけ低い。
色の強い金髪や青い瞳、さらには制理のスタイルが霞んで見えるほど色っぽい。
長い金髪は、ワックスや巻き髪用のアイロンなどで相当手を入れてあるようだ。
全体的に髪を細い束ごとアイロンでクセをつけ、小さな巻き髪をお互いに絡めるように三本の太い束に分けている。
その他にも細かい所に様々な手が入り、一回セットするのが大変そうな髪型だ。
一方、アクセサリーはない。
塗装業の関係者なのか、作業服にはあちこちに乾いたペンキがこびりついている。
脇には真っ白な布で覆われた、長さ一・五メートル、幅七〇センチぐらいの看板を挟んでいる。
さらには作業服のボタンが大きく開いている。
正確には、第二ボタンまで開いているとかではなく、第二ボタン以外、一つもボタンを留めていない。
ズボンもかなり緩そうで、腰の辺りに引っ掛けて穿いている、といった感じだ。

「ああーっと。
 ごめんねごめんね。
 少し急いでいて。」

大した怪我もしていないのか女性の方は優しく話しかけてくれたが少しだけ後ろを気にしている。
だが、その見方は素人ではなく周りに気づかれないように見ていた。

(この女性、普通の女性じゃない。)

麻生は警戒したがその女性は本当に急いでいるのかもう一度ごめんね、と言って走って行ってしまった。
その後だった。
女性を追いかけるように上条が人混みの中を走っていた。
それも携帯電話を片手に持ちながら誰かと喋っていた。

「あっ!上条当麻!!」

麻生の他に応援さぼり組を見つけた制理は上条を追いかけようとしたが、麻生が手を掴んで止める。

「どうしたの?」

「あいつがあんなに必死になって追いかけているんだ。
 何か大事な理由があるんだろう。
 今はほっといてやろう。」

麻生に言われて制理は殺気の上条の顔を思い出す。
確かに何か焦っているようにも見えた。
制理はため息を吐くと、麻生の手を引っ張って前に進む。

「ほら、男子トライアスロンの競技場はこっちよ。」

何とか注意を逸らす事が出来て、麻生は少しだけ安心する。
おそらく、上条が追っているあの女性は魔術師だろう。
携帯ではステイルか土御門に連絡しているのだろうと、麻生は考える。
麻生は制理を魔術(あちら)側の領域に入れたくなかった。
彼女には大覇星祭を楽しんでほしいから。 
 

 
後書き
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