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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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推定・戦闘

 
前書き
 息抜きに少し更新しました。八月からまたちょくちょく書いていきます。 

 
 「はっ」
 左に避けた矢先、そこを弾丸が穿つ。爆破の威力はかつて無い程強烈で、英霊の技を間近に感じたような煽りを受ける。が、この手にはそれに匹敵するだけの力があった。
 右手を振るう、瞬間、周囲の空間が歪み三条のレーザーが矢のように駆ける。
 学園を舞台にした相次ぐ群像劇、その舞台は今や最高潮の盛り上がりを見せていた。片や、亡国企業の若き首領スコール・ミューゼット。片や、未知のISを扱う衛宮切嗣。それは戦闘と呼ぶには余りに滑稽で、ありきたりで、それでいて苛烈だった。
 仮定1) スコール・ミューゼットが扱うISは二タイプある。一つは、強制的にISを解除する能力(チート技)を使う形態。もう一つは、今切嗣との戦闘で見せている、戦闘に特化したフォーム。
 ――後者の力も厄介だが、前者の能力は危険だ。アレは気を抜いた瞬間にこちらを殺す。
 スコールのISに装着されていた厳つい装置は、現在どこへともなく消えており、代わりに明らかに戦闘にウェイトを置いた形になっていた。空気抵抗を減らすためか、全体的に尖っており、余分なパーツは無い。
 放った三条のビームは敵に当たることなく、虚しく空を切る。虚空を高速で飛来するその様は、科学の極みを証明する。
 仮定2) だが代償として、現在のフォルムには致命的な威力を誇る武装は無い。
 シチュエーションに応じて変えることの出来る武装。加えて、前者の圧倒的な兵器。合理的に考えるなら、後者の形態には特に目立った機能は加えず、ただ堅実な戦いが出来る様アレンジする筈だ。
 ――最も、相手が合理性のみを追求しているならの仮定だが。
 ミサイルと見まがうが如きの高速で移動するスコールのISから吐き出されたのは、広範囲を焼くことを前提とした中規模ミサイル。炎の中を駆けていた切嗣はそれを見咎めると、多目的弾が一つ「加速弾」を発砲する。周囲を炎が覆い尽くす中、足場を奪う攻撃に対しては、空中で処理を終えるほかなかった。逆説的に言うなら
 仮定Ⅰ) シルバームーンに飛行能力は無い。
 少なくとも、スコールはそう捉えた。ISの花形である空中戦をすてでも地上戦に固執する切嗣。幾ら空中戦に不慣れだからとは言え、この状況で拒む理由となればそれ以外考えられない。
 ――最も、ブラフである可能性は捨てられないが。
 爆破されたミサイルが生んだ炎の中を、マシンガンを片手に突き進む。が、本能的に機体を旋回させ、その場を脱する。直後、そこを物凄い衝撃波を纏った弾丸が通過した。試合中、ラウラを吹き飛ばした例の弾丸だろう。指数関数的に速度を上昇させるかの弾丸を、距離を保った状態で受ければ一撃で墜ちる。かと言って接近戦に持ち込めば、
 「っ!」
 切嗣が腰のポシェットから弾丸を取り出す。脳裏に蘇るのは、彼の弾丸を受け崩れる様に崩壊したサイレント・ゼフィルスの最期。
 接近戦だけは、不味い。理由は解らないが、常人とは思えないような速度で動く切嗣に加わり、ISを使い物にできなくするジョーカーな弾。その周囲はビームで防衛される。
 事実Ⅰ) 切嗣のISシルバームーンは、その形に反して極めて近接戦闘向きである。
 中距離は「加速弾」の致死距離だが、今の所それ以外の武装は確認されていない。反して近接戦闘に於いては、セカンドシフト前とは言え、ラウラを下すほどの力。欲を言えば遠距離戦に持ち込みたいが、そのための武装が無い。無難な中距離戦で長期戦に持ち込む他ない。逆を言えば、中距離はあの弾に注意を払う限りこちらの独壇場だ。
 ミドルレンジからサブマシンガンの弾をばら撒く。ISを持たない常人には回避不可能な、そして致命的な一撃。だが、衛宮の口が何かを紡いだ瞬間、その動きがさらに苛烈になる。あろうことか銃弾の中を掻い潜り、こちらに近づいてくる。一発を避け、二発をコンテンダーで撃ち落とし、三発目が穿った大地の破片を身に受け、それでも尚突き進む。石の破片が彼の脇腹を貫き、次の瞬間にはその傷口は治癒していた。
 ――おかしい。ISを装着しているなら、今のダメージは本来ダメージに成り得ない。しかし、シルバームーンはその攻撃を一旦は受け入れ、無かったことにしている。




 まるで、ダメージを負う事を前提にされたように




 ――馬鹿な。有り得ない。ISの最大の武器はその防御力だ。それが欠如すれば、ISはインフィニット・ストラトスと足り得ない。現代兵器にも勝機を見出せるただの武器に
 だが、その事実とは裏腹に、切嗣のISはスコール・ミューゼットに迫っていた。本来の実力を完全に無視して。
 中距離に在るときはスコールが狩人となり、その矢を掻い潜った次には切嗣が処刑人になる。究極の鬼ごっこにして、最悪のいたちごっこ。
 土砂降りを思わせるような銃弾の雨に切嗣の銃弾が曇天の中心を穿つ。多目的弾が一つ「貫通」爆発力を犠牲にその名を関するに相応しい効果を発揮する。何よりこの弾丸、初速度が異常に早い。その弾丸が腕に当たった。ISの原則は操縦者にダメージを与えない。つまり貫通弾は貫通しない。裏を返せば、そのダメージを貫通することで軽減できない。悪辣なのは、敢えて「貫通」と名付けたところか。
 ――シールドエネルギーを半分持っていかれたか
 「何なんだ、こいつは……」
 その武装は当然ながら、今のシルバームーンは非常におかしな形をとっていた。いや、消えていた。
 炎の中を駆ける切嗣を見る。その体には、今まで要所についていた最低限のISのフォルムすらが消えていた。見た目、彼は生身でISに応戦しているように見える。だが、それは無いとスコールは否定する。ISに挑むはISで。幾ら目の前の男が異常の塊とはいえ、その原則を破るに足るとは思えなかったし、何よりあの回復力。どう考えても現代の医療技術では無い。だが、その未来の科学技術を全て前倒しにしたマシーンに心当たりがあった。言うまでもない……
 ――恐らく、あのISは使用者の体内に在って効果を発揮する。その効力は、聞いたことが無いが使用者の治癒。しかし、解らない。
 何故、絶対の盾を捨ててまで治癒を選んだ?
 シールドエネルギーの効率の問題か?いや、違う。一理はあるがそれだけだ。回復しきれないダメージを負えば、その時点でゲームオーバー。幾らなんでも天秤が釣り合わない。現に、幾らかダメージを負ってか切嗣の表情は苦悶に歪んでいた。
 仮定Ⅱ) シルバームーンの能力は治癒
 仮定Ⅲ) しかし、痛みは無効に出来ない。
 ――いや、この仮定は殆ど事実と見なしていいだろう。
 一瞬、手持ちの武装を全て打ち込もうかと考えるが、即座に却下する。
 ――衛宮切嗣は痛覚を無視できる
 現に、これまでその表情が歪むことが在ろうと、その手を止めることは無かった。即ち、一瞬でも動きを止めればこちらがやられる。全砲口を向ける余裕はない。ならば……
 通信回線を開き、エムに呼びかける。来なさいと。
 その直後、切嗣の背後からレーザーが照射された。見ると、エムとそれに対峙する敵は100mほど離れた場所で戦っていた。すんで回避した切嗣だが、スコールはそれを見ていない。
 ――戦線を押されている?あのエムが?
 久しぶりの戦闘に勘が鈍っていたか。いや、盾無とでは多少地力に差が在ったか……
 「エム、代わりなさい」
 「っ!了解」
 一瞬歯噛みしたものの、相性の悪さ、技術の違い、そして何より切嗣との雪辱。それらを一瞬で天秤にかけ、スコールの命を受け入れる。スコールの銃なら遠距離から攻撃が出来る。そして、スコールなら或は更識盾無と互角以上に戦える。
 スコールとエムがその位置を入れ替える。自然と戦闘に空白が出来る。その合間を縫い、盾無が切嗣の隣に降り立つ。
 「切嗣君!無事!?」
 切嗣の服は所々破れ、血に濡れていたがそれでも立っていた。傍目には壮絶な有様だが、切嗣自身に問題は無い。ならば彼が言うべき言葉は決まっている。
 「まだ戦える。問題ない」
 切嗣は機械的に答える。
 「でも、君、生身じゃない!」
 珍しく盾無が動揺する。が、切嗣の視線は常に敵のISを捕らえて離さない。
 「それより集中しろ。敵が動く」
 誰が誰と戦うか、その決定権はスコール達にある。切嗣が飛べない以上、必然とそうなる。
 ――見立てでは、恐らく更識盾無と戦闘を行っていた敵が此方に向かって来るはずだ。そうでないなば、呼んだ意味が無い。
 果たして、その通りになった。スコールとエムの基本に沿った、それでいて最高レベルで行われる制圧射撃が二人を分断する。一人は青い空が広がる天空へ舞い戻り、一人は炎渦巻く地獄を駆ける。


 ********


 天空に舞い戻った盾無に対峙するはスコール・ミューゼット。
 「土砂降り。今日は一体何の目的でこんなイベントを開いたの?」
 油断なく水のランスを構える。上から俯瞰する地上の光景は正に地獄。そこを駆けずり回る切嗣が、まるで罪人の様に見える。
 「目的、ね。いいわ、教えてあげる」
 対するスコールは構えを解き、まるで友人に接するように話す。
 「ねえ、更識盾無。私達が今使っているISって、そもそもなんだと思う?ああ、答えなくていいから。私は一方的に話をするだけ。と言っても、私も確かな事を知っている訳では無い。だから一つ、一つだけ教えてあげる。


 篠ノ之束はISのコアを開発していない」


 「……冗談にしても、本当に性質の悪いカミングアウトね」
 冷汗が頬を伝う。この場で絶叫してしまいたい気持ちを抑えるだけで精一杯だった。
 ――馬鹿な。篠ノ之束がISを作ってないとしたら、いったい誰が……
 嘘という可能性もあるが、態々このタイミングでするとは思えない。実際、口に笑みを浮かべるスコールも、その表情には緊張がはしっていた。
 ――流石に、その真偽は直ぐには解らないか……
 「じゃあ、残りは貴女を地に落としてからにしましょうか」
 何とか何時もの不敵な笑いを取戻し、嗤う。
 「どちらにせよ、こんな舐めた真似をされては、生徒会長としては看過できないので」
 「どうぞご自由に」
 それはつまり、やれるものならやってみろと言う事だろう。
 “start”
 とスコールが呟く。それが会戦の狼煙になった。
 
 

 
後書き
 少し日をおいたら、少し修正を入れるかな……どうも最近評論しか読んでいないから、感覚が思い出せない。 
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