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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第五十九話 水の中の闘い

湖に飛び込むと、最初に冷たい感触と空を飛ぶ時とはまた違った浮遊感が体を包み込んだ。ソレイユの体を覆っていた細やかな気泡が晴れると、ソレイユの視界は蒼一色で満たされた。

「(水中戦も久しぶりだなー・・・最後にやったのは、オーシャン戦かー。あの水中はこんな明るくなかったけど・・・)」

ジェネシアスの最奥に通じる道を守護する三界の獣神の一体、海の獣神≪The Crystal Ocean≫。海の中で戦っているといっても過言ではなかったあの時。この湖の様なクリアブルーではなくダークブルーだったのだ。よくあんな状況の中で勝てたな、といまさらながら思うソレイユ。まぁ、何はともあれ、あれとの激闘を境に水中戦などやらなくなったのでソレイユからしてみれば本当に久しぶりな水中戦だった。

「(そういや、魔法って使えんかな?)」

思い立ったが吉日ではないが、出来ることは即行動に移すソレイユ。試に通常魔法の簡単な攻撃魔法を詠唱してみるが、ガボガボ言うだけで魔法詠唱はできなかった。

「(まぁ、当然か・・・魔法が使えないから水中でも問題なく魔法が使えるウンディーネの援護が必要となってくるわけだ、なるほどな)」

なぜウンディーネの援護がなければ水中戦が不利なのか、という疑問に得心したソレイユは――

「(さて、肝心のお相手は、と・・・おっ、あれかー)」

きょろきょろと周りを見渡す。そして、ソレイユがとらえたのは細長い体を蒼く艶めく鱗が覆っている龍の姿だった。翅の様なものは一切なく、完全に水中でのみ活動する仕様みたいである。と、そこまでソレイユが考えたところで顔にある二対四つの紅い瞳がソレイユのことを捉えた。獲物を発見した水龍はプレイヤーを丸呑みできるほどの口から咆哮を上げる。

「(さぁて、戦闘開始ですかね)」

水中戦とは空中戦と同じで前後左右に加えて上下の運動も加わってくる。前後左右が平気でも上または下からダメージを喰らうことなどざらにある。ここまでくれば空中戦と何ら変わりはしない。だが、水中戦で厄介な所は水という存在である。自身を覆う水によって動きが制限されるのは当然、息継ぎなんかも必要になってくる分、空中戦よりめんどくさいのである。さらに羽も使えないときている。水中活動に長けたウンディーネがいないと自殺行為というのも理解できなくはない。

「(まぁ、だからと言って負ける気はないんですけどねー)」

水龍は一度体をしならせると、螺旋の軌道を描きながらソレイユに向かって突進してきた。それを体を横に捻ることで移動し、突進を回避する。地面を蹴ることも、翅を使うこともできない水中戦ではこういった技術が必要になってくるのである。
突進を避けられた水龍は壁に激突する前に華麗な動きで身を翻し、細長い体を捻り勢いの向きを変えて再びソレイユに突進していく。だが――

「(オーシャンの方が早かったんだよねー)」

先ほどよりもワンテンポ早く体を横に捻り突進を避けたソレイユはエクリシスを抜き放ち、突進中の水龍へとその刃を振るっていく。水龍が起こす水流などお構いなしに。突進中なためさすがによける術を持たない水龍はその刃を受けてしまいダメージを喰らう。再び華麗な動きで身を翻す水龍はたいしたダメージになっていないようであった。
そんな水龍にソレイユ少しでも近づこうと、エクリシスを持ったまま水を蹴って、掻き分けながら泳いでいく。だが、そんなソレイユを嘲笑かのごとく、巨大な口を開き、周囲の水を吸い込んでいく。

「(ふむ・・・)」

あまり良い予感がしなかったソレイユは、咄嗟に体を横に捻り水龍の正面から外れるように移動した。そして、次の瞬間、先ほどまでソレイユのいた場所を何かが通り抜けて行った。

「(・・・ウォーターカッターみたいなもんか。オーシャンも似たようなことやってたしな・・・規模は全然違うけど・・・)」

冷静に分析するソレイユ。予備動作が大きいのでそれにさえ注意しておけば食らうことはまずないだろう。そして、ウォーターカッターの隙のおかげである程度接近出来たソレイユ。

「(さて、ここはおれの間合いですよっと)」

そして顔面に向かって刀を振りぬくも、それに構わず水龍がソレイユのことを飲み込もうと口を開きながら迫ってくるが、それを体を捻って横に回避する。空振りした口が勢いよく閉じられたところで、ソレイユは右目の一つに向かって突きを放つ。さすがの水龍と言えど絶妙なタイミングで繰り出された突きを躱すことはできず、目に突き刺されてしまった。さらにそこから抉るように刀を捻ってから、刀を引き抜くソレイユ。さらにその勢いを利用して、もう一つの眼も潰そうと考えたソレイユであったが、さすがに水龍はそれを許さなかった。ソレイユが眼をつぶすために突きを繰り出す直前、水龍は一度後方へ体をしならせると、口を大きく開き直線的な線を描きながら突進を繰り出してきた。

「(ちっ!!)」

後方へしならせられた時に即座に攻撃の手を止め、その場を離れたのが幸いした。直線的な突進に巻きい込まれず、ぎりぎりで回避することができたソレイユは体勢を立て直す。

「(さて、どう戦おうか・・・)」

これからどのようにして水龍と戦っていくか考えるソレイユ。 ウンディーネではないソレイユが水中にいる時間は限られている。なので、必然的に短期決戦をしなければならないのだ。

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「(やれやれ、ずいぶんてこずらせてくれたな・・・)」

そう心の中で愚痴るソレイユだったが、実際にはソレイユが水龍と戦闘を開始してから五分ほどしか経過してないのであるが。

「(さて、あと少しか・・・)」

水龍のHPはほとんどなく、ソレイユのHPはほぼ全快な状態である。もはや、力の差は歴然だった。リーファの言っていたことは正しい。常人にはこの水龍は手ごわく感じるだろう。それこそ、水中活動が種族特性として設定されているウンディーネの支援が必要なほどに。だが、ソレイユを常人の枠にはめていいわけがない。Mobとはいえ、一万の敵をいっせいに相手にして笑っていられるほどである。これを考えるだけでもソレイユの戦闘力は、一人で一個師団並みというわけだ。これを常人の枠に入れるやつがどこにいる。いや、いない(反語)。
それに極めつけは――

「(いっちゃあなんだが、≪クリスタル・オーシャン≫より弱いんだよなぁ・・・)」

海の獣神との死闘が(水中戦に限りだが)ソレイユをここまで強くした。もはや、あのクラス以上のMobが出現しなければソレイユを倒すことなど水中戦といえど不可能だろう。

「(んじゃ、これで終わりっと)」

懲りずに突進を敢行してきた水龍を最小限の動きで避けると、カウンター気味に剣を振るう。それが水龍の残りのHPを消滅させた。五分間という短い先頭時間だったが、久しぶりに水中戦を堪能したソレイユだった。

「(さて、何が出たかな・・・おっ)」

Mobを倒せば相応の戦利品がもらえるのがRPGというゲームである。それは、このアルヴヘイム・オンラインも例外ではない。アイテムウインドウを開き、戦利品を確認しているとなにやら見知ったアイテムが出てきた。

「(こんなところで、またお目にかかるとは思っても見なかったぜ・・・グリモワール)」

こうもこのアイテムを目にする機会が多いと本当に希少アイテムなのか疑いたくなるソレイユ。果たしてこれが何%の確率で出現するのか、知りたいような知りたくないような。まぁ、それはソレイユが異常なだけで、これほどこのアイテムとめぐり合うプレイヤーなどそうはいない。

「(まぁ、出たんなら使ってみっか)」

上では仲間が戦っているというのに暢気な事を言いながらアイテムウインドウを操作していくソレイユ。グリモワールを実体化させ、表紙の部分をタップして使用する。

【特殊魔法を習得します。よろしいですか?Yes/No】

表示されたそれのYesボタンを押すと本のページが自動的にめくれそして、あるページが開かれた。そこに記されていたのは――

【強化魔法「燃え盛る天空の太陽」を習得しました】

というものだった。よりにもよって、一番出現率が低いものを当ててしまった。後にこれを聞いたルシフェルは呆れてものが言えなかったという。まぁ、それも仕方ないのかもしれない。

「(んじゃ、上に行きますか・・・と、その前に)」

海面に向かって水を蹴ろうとした時、何かを思いつくとメニューウインドウを開き、操作していく。

「(たまには趣向を変えてみるのも一興だな)」

そう心の中で呟きながらウインドウを操作して≪ザ・ネームレス≫を収納すると、今度は左手に鮮やかな紅色で造られたガラスの飾り紐が巻きつけられた。それだけではなく、ステータスウインドウを操作して、セットされているスキルと魔法も変更した。

「(さて、おれもそろそろ上で戦うかね)」

準備が整え終わると今更になって、本当に今更になってそんなことを言い出すソレイユは今度こそ海面に向かって水を蹴りながら浮上していく。



「もういいよ、キリト君!またスイルベーンから何時間か飛べば済むことじゃない!奪われたアイテムだってまた買えばいいよ、もう諦めようよ・・・・・・!」

絶体絶命の中に叫んだリーファ。アルヴヘイム・オンラインはデスゲームではない。ならば、絶体絶命の状況で無駄になるであろう努力はせず諦めるのも一つの選択である。しかし、キリトは頭を横に振った。

「嫌だ。俺が生きてる間は、パーティーメンバーは殺させやしない。それだけは絶対嫌だ」

デスゲームを生き延びた者と普通のVRMMORPGをプレイする者の価値観の差。それがここに来て顕著になった。何としても生き延びようとする意志と諦める気持ち。≪本気≫か≪遊び≫か。その気持ちの差がはっきりと顕わになった。

「うおああああ!!」

キリトが気合を入れるように吼え、シールドを構えたプレイヤーに向かって無謀な突進を敢行しようとしたところで―――

ザバァン

と、突如水の弾ける音が辺り一帯に響いた。突然の音に戸惑うキリトたちとサラマンダーたち。そして、次の瞬間橋の下に広がる湖から橋の上へと這い上がってくる影があった。
翅を使って這い上がってきたその影は橋の上に降り立つと、キリトたちを見た後サラマンダーたちを見て再びキリトたちの方に向きなおってから口を開いた。

「さて、今はどういう状況なんだ?」 
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