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鋼殻のレギオス IFの物語

作者:七織
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六話

 
前書き
 天剣の給与について補足。あくまでも得る機会が減るのと、レイフォンが望む水準が高かっただけで、別に低いわけじゃなく、なかなかに高いと思います。誤解するような書き方ですみません
 クララ初登場。 

 
 見渡す限り平坦な有機プレートが広がり、その先を見れば都市の足が動く様が見える
 広く作られた外縁部に立ち、戦闘衣に包まれた彼らはここ、グレンダンの武芸者たちであり、そしてこれから襲い来る汚染獣たちを迎撃するために集まった人員である
 そんな彼らの中で一人、周囲から見れば幼さが際立ち、ここに居ることを疑問視するほどの外見をした少女は期待と、そして落胆に近い僅かな疑問を抱きながらここに立っていた
 彼女の名前はクラリーベル・ロンスマイア。ここグレンダンにおける三王家、ロンスマイア家の娘にして天剣授受者ティグリスの孫であり、十歳にして今日、汚染獣に対する初陣に出る所である

(おじい様は、一体どういうつもりなのでしょうか?)

 期待は、これから行う戦闘に対しての物。そして疑問を生じさせている原因である後ろを振り返る
 そこには今日の自分の後見人として、自分の祖父であるティグリスに紹介された少年、レイフォンが同じく戦闘衣に身を包んでこちらを向いている
 話なら既に聞いている。自分と同年代の(正確には一つ上の)少年であり、前回の授受者決定戦で優勝した経歴を持ち、天剣に匹敵するだけの実力を持ちうるのだと

 事実、強いのだろう。それこそ、今の自分よりはずっと。だが、クラリーベルの不満は消えない
 本来ならばそこには、天剣のうちの誰かが、恐らくだが祖父のティグリスがいるはずだったのだ
 同年代ということで祖父は彼をつかせたのだろう。事実、別の会い方をしていたなら、それだけの力を持つ相手に対し、自分の彼に対する感情は違っていただろう
 興味なら十分にある。だが、本来天剣がいるはずだったそこに、天剣でない者がいるということが少しの不満として残る
 いくら天剣級だと言われても、天剣を持っていないという事実、そして今までに見てきた天剣達の威圧感とでも言うべき剄力を彼から感じない事が、実力は及ぶものは無いのだとクラリーベルに思わせる
 そんなことを考えている中、汚染獣接近の報を受け意識を切り替え剄を巡らす

(いいでしょう。なら、少しでもわたしの力を見てもらいましょう)

 天剣には及ばないとしても、自分の同年代の少年が見ているのだ、無様な所は見せられない
 この僅かな不満は、目の前の汚染獣相手にぶつけることにするとしよう
 そんな思いを抱きながら、クラリーベルは笑みを浮かべ、現れた敵に切りかかって行った




(どうしてこうなった……)

 目の前の光景を見ながらレイフォンは自問自答を繰り返す
 既に意識を戦闘に切り替えたその顔は無表情に近く、いつもあるべき気が抜けた笑顔のようなものは無い
 それでもって、今の自分が置かれている状況を整理してみる

 何の連絡もなく、ノイエラン卿が現れる
  ↓
 是非とも孫の初陣の後見人に今日なってほしいと頼まれる
  ↓
 訳が分からず、萎縮しているうちに話が終わり、気が付いたらドナドナ
  ↓
 今ここ

 余計訳が分からなくなった

(え、あれ、僕なんかしたっけ? ノイエラン卿の孫ってことは、王家の一員だよね?)

 ならば非常にまずい。もしも力を隠していることがばれたりなんかしたら不味い。が、後見人として万が一が会ったらもっと不味い

(もしもクラリーベル様がミスをしたら、力を隠している場合じゃない。錬金鋼さえ見られなければなんとかなるんだ。気付かれないうちに一瞬で青石錬金鋼に変えればなんとか……)

 見ている限り、非常に良く動いている。同年代と比べてもずっと抜きん出ているだろう。ミスさえなければいいのだ
 どうか何事もありませんように。そう心中で祈りながらひたすらに見守る
 だが、最近不幸に愛されているレイフォンの願いが届くわけがない

 剄の流れが見えるレイフォンは気付いてしまった。戦っているクラリーベルの体を巡る剄にまるで、意味無く力んでいるかのように無駄があることに。力の配分を間違っているかのような流れを
 そして視界の中、汚染獣に向かって行ったクラリーベルは止めを差すつもりなのか、手に持つ剣に剄を込め地を蹴ろうとし————そのままその場に倒れた
 原因は一目瞭然。力の配分を間違えたこと
 そしてこのままでは、動けない彼女が間近に迫った汚染獣に潰されるのは自明のこと
 心の中で泣き音を言ったのは一瞬。そして、それを理解した瞬間には既に意識は切りかえられ、レイフォンの姿はその場には無かった



 両手に持った愛剣によって、相対する汚染獣を切り裂く
 剣の届く部分しか切り裂けないそれは、今までに残したものの一つとなり相手の動きを遅くする
 今現在クラリーベルが相手している汚染獣は、今回襲ってきた内の一体である雄性体一期
 既に幾つもの傷を負い、最初から見ると随分と機動性が落ちているそれを見て、次で決めると今まで以上に剣に剄を込める

(これで、終わりで————!)

 地を蹴ろうとした瞬間、力が入らずにその場に倒れ伏す
 今現在まで意外に長期戦となっており、後ろで見ているレイフォンを意識してやや力んでいたためか、スタミナ配分を間違えたのが此処になってきたのだ
 それを理解し、思い通りに動かず倒れている自分の体を動かそうとするも、力が入らず足掻くことしか出来ない
 顔をあげればこちらに向かって迫りくる汚染獣。健常ならたやすいそれも、今の状態では避けることさえ出来ない。最低でも腕の一本程度は覚悟しなけらばならないだろう
 
 間近に迫りくる汚染獣を意識してか、視界がやや緩慢になり世界がスローモーションに感じられる
 自分のふがいなさが嫌になる。後ろを意識して、力を見せつけようとした結果のこの体たらく
 この年にして初陣を許された事に舞い上がっていたのか。それとも周囲にいる人物を見て勘違いし、自分なら大丈夫とでも思ったのか
 一瞬、死を意識しかけたその瞬間————



—————自分を圧倒する強大な剄が、後ろで動いたのを感じた



 自分の横を通り抜け、スローモーションの世界でなお遅さを感じさせぬそれは、背後にいたはずの自分の後見人のはず
 手にはその身に余る大きさの剣を持ち、先ほどまでは微塵も感じさせなかった剄を纏い、駆け抜け、自分では傷をつけることしかできなかったそれを、抜き打ちの一刀の下に正面から二つに分断する

「大丈夫ですか?」

 無表情に尋ねられたその一言に、なんとか返す

「……ええ、ありがとうございます」

 既になりを潜めたそれは一瞬だったが、間近にいた自分には感じ取れた
 他者を圧倒する威圧感。今までに会ったことのある天剣を自分に意識させるだけの剄量。乱れない断面を生み出す精錬された技の冴え

(ああ、おじい様の言葉に、間違いは無かった)

 今ならば分かる。あの言葉に間違い等無かった。この自分の後見人は、レイフォンは、天剣に比するだけの力を持っている

「後は僕が片付けますので、クラリーベル様は休んでいてください」
「分かりました」
 
 自分の体が少しは動けるようになったのを見抜いてか、レイフォンが声をかけてきたのに返す
 それを受けたレイフォンが青石錬金鋼の剣を持ち、残った汚染獣に向かって行くのを、クラリーベルは熱い目で見る

(ああ、あなたは最高です)

 自分が笑っているのが分かる
 自分と同じ年代で有るというのに、既に天剣に比するだけの力を持つであろう相手に興味を持つなと言う方が無理なのだ
 どうして隠すようなことをしているのかは知らないが、選ばれたなら史上最年少ではないか
 戦う前まで抱いていた不満など既に消え、逆にそれによって自分の彼に対する関心は一層高くなっている
 自分の胸に宿った熱い思いを意識し、そして芽生えた、未だ名づけるに値しない小さな感情を意識出来ぬまま、クラリーベルは剣を振るい続けるレイフォンを見続けていた





「これで終わり、と」

 そういい、出来あがったお菓子を皿に乗せる
 いつも通り、せがまれて作ってしまったお菓子を乗せた皿を持ち、レイフォンは弟たちがいるだろう大部屋に戻る
 聞こえてくる話し声に、誰かいるのだろうかと思いながら部屋に行き、一瞬、理解が出来なかった

「レイフォン兄ちゃんすげー強いんだぜ。俺もいつかああなるんだー」
「料理作るのも上手いんだよー。リーリンには負けるけど」
「でも、おかしは兄さんの方がおいしいよね」
「うん! それに兄ちゃん押しに弱いから、頼めば作ってくれるんだぜ—」
『あらあら。それは是非とも相伴に預かりたいですね。……あら、噂をすれば』

 室内に弟たちと居たのは人ではなく、宙に浮く念威端子
 自分の記憶が正しければ、弟たちが気安く話しかけているその人物は確か————

「キュアンテス、卿?」
『ええ、正解です。ただ出来れば、もっと気さくに呼んでくれると嬉しいですよ、レイフォン・アルセイフ』

 ふよふよとこちらに向かいながら言われる言葉に戸惑いながら、何とか返す
 子供たち既にこちらになど関心は無く、お菓子に群がっている

「キュア……デルボネ様は、何を?」
『今ちょうど、あなたの事を聞いていた所です。随分好かれているようですね。まるで孫と話しているようで楽しかったですよ』
「あ、ええと……ありがとうございます」
『ああ、それと。先日はご苦労様でした』

 恐らく、つい先日の後見人の事だろう。あの後、ティグリス様からも礼を言われたが、未だに天剣の人から礼を言われるのには慣れない。日ごろあっている人があれだけに

「ありがとうございます。それよりも、僕なんかでよかったんでしょうか?」
『謙遜することはありませんよ。あの子と同年代で十分な強さを持っていると聞いていたので頼んだのですが、あなたは十分に役目を果たしてくれました』
「それなら良かっ……た!?」

 何かミスをしていないかと少し心配だったのだが、その言葉を聞いて安心すると同時に、もう食べ終わり、お皿を返すのと同時に突っ込んできた弟たちに、レイフォンはよろめきながらもなんとか踏ん張る

『あらあら、大丈夫ですか? それはそうと、これから何か用でもありますか?』
「いえ、少し外に出ようと思っているだけで、特に何も有りませんが……。あの何かご用でしょうか」
『いえ、少し聞いてみただけです。私の方からは、特に何もありませんよ。では、そろそろお暇するとしましょう』

 またこの間のようなものかと少し身構えるが、特に何もないようなので安心する
 窓から出て行こうとする端子に向かい、子供たちがまた来てねーなどと言うのに続き、レイフォンも別れの言葉を告げるのに対し、デルボネも最後に一言、言葉を返す

『ええ。————では、良き出会いを』




(あれはどういう意味なんだろう)

 外を歩きながら、レイフォンは最後にかけられた言葉の意味を考える
 
(“良き出会いを”って、どういうことだろう? 今日弟たちと会ったこと? でもそれならもっと前にはずだし、これからのこと? それとも、サヴァリスさんみたいな口癖?)

 もっとも、サヴァリスの場合は“殺らないか?”みたいなノリのものばかりだが
 それから比べれば随分と穏やかで和やかなものだ
 違和感を覚えながらそんなことを考え、レイフォンは歩き続ける

(でも、これからの事だったら、いったい何の—————)
「レイフォン様ですね?」

 唐突に声をかけられ、思考を中断して声の方を見る
 そこにはつい先日、自分が後見をした相手であるクラリーベルがこちらを見て立っていた
 レイフォンの感じる違和感が、少し大きくなる

「ああ、やはりそうでした。やっと会うことができましたよ、レイフォン様」
「ええと、お久しぶりですクラリーベル様。……その、その呼び方は一体?」

 どうして自分が三王家の一員である人物から敬称で呼ばれているのか分からず、周囲に居る人物やや不可思議な目を向けてくる中、つい尋ねてしまう
 それを受けてクラリーベルは顔に笑みを浮かべながら、その問いに答える
 レイフォンの感じる違和感が更に大きくなる

「いやですわ。あれだけの実力を持つ相手を呼び捨てになど出来ません。それよりも、そんな堅苦しく呼ばないでください。親しい人物のように、クララ、と呼んで下さい。それはそうと、今日はお願いがあってきたのです」
「い、いえ。さすがにそれはちょっと……。それより、用とは一体何でしょうか?」

 笑顔を浮かべて話すクラリーベルは非常に楽しげで、まるで好意を抱く相手と話すようであり、知らない人が見れば可愛らしく思えるだろう
 だが何故だか、レイフォンはその顔をどこかで見たような気がしてならず、自分の意志とは反対に体は少し強張って行き。違和感がこれ以上ないほどまでに大きくなる
 そしてそれは、相手が錬金鋼を復元させ、手に赤い剣を持った所で加速し、気付く

「この間は無様な所を見せてしまいましたので、直に私の力を見てもらいたいのです」

 あの違和感は、デジャヴと言うものだと
 そしてあの笑顔は、まるで自分を追い回すサヴァリスにそっくりだということに

「あの、出来れば遠慮したいなーと」
「クオルラフィン卿もずるいですわ。一人でレイフォン様と会うだなんて。教えてくれればいいものを」
「あの、ですから」
「ですから、私の全力を見て下さい」

 もはやこちらの言葉など聞いていない。そんな所までサヴァリスだ
 違いがあるとすれば、あちらにはやる気があって殺る気もあり、こちらにはやる気はあっても殺る気は無いことぐらい
 そして相手の体中に剄が満ちたのを確認し、もうどうしようもないことを悟り、理解する
 一人増えた、と
 もはや諦めの境地に達しかけたレイフォンは、迫りくるクラリーベルを見ながら、半ば本気で出稼ぎの事を考え始めていた





『非常に可愛らしいですね』
「だがあれでは、まるでサヴァリスだ。好意の表し方が偏り過ぎとるわ」

 言葉とは裏腹に、年老いた二人はにこやかな顔をしながら端子によって映し出される映像を見ていたとさ


 
 

 
後書き
 原作みたいに片腕チョンパまで書こうと思ったが、状況が違う以上それはまずいと思って戦闘描写は無し。
 
  
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