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Tales Of The Abyss 〜Another story〜

作者:じーくw
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#9 負けられない戦い


 あの巨大ゴーレムが出現した事は、勿論この町の住人達も気づいた。だからこそ、住民達は、必死に抵抗を続けていた。動く厄災、と言っていい化物相手に、決して逃げる者はいなかった。なぜなら、ここが破られれば背後にいる自分達の家族に危険が及ぶからだ。

 ……その思いだけが彼らを突き動かしていた。

 しかし、幾ら集まっても状況は全く変わらない。1人……また1人と動けなくなっていく……。まるで悪夢を見ている様に。

「く、そぉっ……! こ、こんな化け物、いったい どうすりゃ良いんだよ!」

 片ひざを付き、倒れている男の1人が叫ぶ。これまで一通りの銃火器を、刀類を使用し 巨大生物の攻めのセオリーである足元から切り崩しにかかる。その攻撃を繰り返していたのだが。

 あの化け物(ゴーレム)はそれをものともせずに、攻撃を繰り返していた。

 基本的に鉱山の男たちの仕事は戦う事ではない。モンスターが鉱山に存在するとは言え、大規模な戦闘は無い。……鉱山の力仕事で体力はあっても戦いにはまるで素人同然なのだ。
 その上ここアクゼリュスは領土問題もあり、マルクト帝国に所属するのだが、その問題もあって軍隊も迂闊には動いてくれない。

 そんな中、ガーランドは町一番のの力持ちであり、元軍人で戦闘の経験もある為、戦いに慣れていた。 それでも、幾ら彼でも、ここまでの敵とやり合った事は無かった。
 そして、ついに、皆の頼みの綱であったガーランドも。

 ゴーレムが使用する譜術 第二音素である《ロックブレイク》。

 地面が大きく揺れ、隆起し……その大地其のものの攻撃が襲う。ガーランドは躱しきれずに、自身の脚に直撃してしまう。

「ぐぁぁっ……! ……くっ」

 脚に深手を負い、動けなくなってしまった。頼みの綱であるガーランドの戦線離脱もあったが、以外の皆も、もう既に満身創痍だった。

「く……そぉ…… ここまで…… なのか………?いやっ…… オレの後ろには…… あいつらが!!」

 ガーランドは 力を振り絞るが。身体が全く言う事を聞いてくれない。これまでも、町中を走り回り、救助活動・魔物討伐もし、体力共に限界に近かったと言うのに、この相手だから、誰も彼を責めたりは出来ない。

「ぐ ぉ ぉ ぉ 」 

 そして、ゴーレムも待ってはくれない。自分よりも遥かにデカいゴーレムの腕が空高くに持ち上がる。もう、後ほんの数秒で、まるで地震を起こすかの様な、大地が割れてしまうかの様な一撃が自分に襲うだろう。……そして、もう抗う術はない。

(あ、る。……。すまない。オレの、家族を……)

 ガーランドは目を閉じた。 もう、覚悟を決めた様だった。
 そして無情にも、ゴーレムはガーランド目掛けてその巨大な腕、拳を振り下ろした。……もう、誰もが絶望していたその時、だった。

 突如、突風が吹き荒れたかと思った瞬間。

「我らを護れ! 聖なる盾。 干戈を和らぐ障壁(かべ)となれ!!《ミスティック・シールド》」

 凄まじい光が生まれ、それと同時に激突音が響いた。
 それは凄まじい衝撃音だった。音だけで、人が吹き飛ばされかねない程のもの。だが、ガーランドは自分自身の体はなんともなく、痛みも全く無い。

(なんだ…… 今の……音、は。 ……まだオレぁ……死んで無い。なら、今のは……、いったい……)

 死を覚悟し、眼を瞑っていたガーランドは、ゆっくりと目を開けた。
 そこに見えたのは。

「ガーランドさん! しっかりしてっ!」

 見えたのは、アルだった。そして、アルの先に、あのゴーレムの巨大な拳が迫っていた。その拳をアルは、光の壁の様な物で化け物の攻撃を受け止めていた。

「ア……ル………?」

 ガーランドは、突然の事で頭が混乱する。アルがいる事は判ったけれど、この光景を見て、理解が出来ない。だが、突然身体を抱き抱えられた気がした。
 そんなガーランドを担いだ者がいたのだ。

「ガーランドっ! 逃げるぞ!!」

 それは、ガーランドの仕事仲間の1人であるファンだ。

「ファ……ン…… こいつぁいったい………?」

 ガーランドは朦朧となりながらもファンに聞いた。先ほどまで一緒に闘っていた男だったからだこそ、言葉を交わす事ができた。

「オレも聞きてぇよ! ……あの化け物がおめぇに攻撃してくる少し前だ! アルのヤツがオレのそばに来て 『オレが、アイツを止めるからその隙にガーランドさんを頼む!』って言ったんだよ! オレがそんなの無茶だ、って言おうとしたんだがな! もう言ったと同時に、アイツは駆け出しやがった。 あんな小僧が、オレよりも一回りも二回りも歳下のアイツが命張っていったんだ! なのに、オレがいつまでも、おねんねしてるワケにゃいけねえだろう!?」
「アル……が……?」

 ガーランドは、その言葉を訊いて、眼を見開かせた。それと同時に失いかけていた闘志が戻ってくる。諦めかけた心を恥じている。何より。

「あいつ…… くそ! あいつ……を1人で戦わせるわけには…、いかないっ」

 1人にさせるなんて事は出来ない。家族(サラ)を助けてくれたのに、自分は何も出来ないのは、情けなさすぎる、と強く思った。だからこそ、ガーランドは目に生気が戻り再び体に力を入れる事ができたのだ。
だが、ファンは決して下ろす事はしなかった。

「ガーランド、動くな! じっとしてろ!! ……悔しいが、今の俺たちにゃ、アレはどうにもなんねぇんだよ! 今は、譜術を扱えるアイツに、アルに全部賭けるしかなんねぇんだ!」

 ファンも、そう断言したのだが……、全てを納得した訳じゃない。当然だ。その訳は、自分自身が言っていた。

――……あんな子供に任せるなんて。

と、そう言っていた。だけど、あの場に留まったとして、今の状況、もう満身創痍で全身ぼろぼろである自分達が何か出来るのだろうか? 寧ろ足手まといになる可能性がかなり高い事も理解できていたのだ。
 死を畏れている訳じゃない。家族の為に命を捨てるつもりだったから。だけど……、それを加味しても、足でまといになり、その上自分を守ろうとして、怪我をするアル自身を見たく無かった。

「ファン……!」

 ガーランド自身も理屈は判っている。納得できない気持ちもファンにも負けてない。いや、これはここに倒れている誰もが納得なんて出来やしないのだ。1人だけ戦わせる事を恥じているのだ。

「ああ! 最低だよ! 大の大人のオレ達が、子供1人で戦わせるなんてよ! 情けねぇよ!! だが、な……  アイツが、アルが、もし殺られたら……、次はオレが真っ先に死ぬ!! そして、死んでも 家族には、仲間達には指一本触れさせねぇ!! 死んでも食らいついてやる!」

 ファンの強い決意が感じられた。言うとおり、死んでも止まらない。と言う程の決意を。それを訊いたガーランドは。

「おいファン…… それ、オレも一杯つき合わせろや……、死ぬときゃ一緒だ……」

 にやけ顔をつくり、笑いながら、答えた。その心意気に乗る為に。

「あぁ……わかってるよ。おめーなら絶対そう言うと思ったぜ! だが、その前に、片付ける事がある!」

 そう言うと、ファンはガーランドを戦闘範囲から離れたところまで運びガーランドを地面に座らせ、再び立ち上がる。……他の仲間たちを運ぶ為にだ。
 再び、鉱山入口、……戦場戻っていった。








 その戦場では戦塵が渦巻き、衝撃音、轟音も迸っている。ゴーレムは、何度も何度もその巨大な拳を、あのアルの光の壁(ミスティック・シールド)にぶつけているのだ。

「ぐうぅっ…………」

 その威力は初めて受けるものだ。記憶がない自分にとって、初めての経験なのかはわからない。でも、それでも、先ほどのゴーレム達に比べれば、見たとおり まさに大人と子供の差だった。作り出した障壁(かべ)越しにではあるが、アルの腕に鈍い痛みが再び走る。

「くそっ!!」

 腕を放したその時、ばきぃん、と言う硝子が割れる音と共に、障壁が破られた。破られる瞬間、後ろに下がった為、アル自身は、その一撃の直撃は避ける事ができた様だ。

「堅牢なる守護の力……来い!《バリア》」

 次に使用するのは、自身防御強化の譜術。先ほどとは違い自らの身体に譜術で作った光の膜を張って 基本防御力を上げる譜術。
 あの巨大な攻撃の前には、正直焼け石に水かもしれない。それでも、ゴーレムは、あの無茶な威力、ミサイルの様な一撃以外の攻撃で、自分自身の岩の身体の一部を散弾銃の様に飛ばしてくる攻撃もしてきている。
 バリアの譜術をかけている状態と、かけていない状態とでは全然違った。そして、防御だけでは、倒す事は出来ない。

「天を切り裂く力! 雷撃の剣となり我が敵に降り落ちろ。《サンダー・ブレード》」

 第三音素の譜術。雷を帯びた巨大な紫色の剣だ。その剣がゴーレムの足に突き刺さると同時に雷鳴が轟き、その身体を穿つ。雷撃特有の激音が響く中。

「ぐ お ぉ ぉ ぉ ぉ !」

 これまでとは明らかに違う唸り声。今回、初めてのゴーレムの苦しむ叫びがあたりに響いたのだ。

「うおおお!!」
「す…… すごい!!」
「頑張れ!!!」

 倒れていた人たちもアルに気付き、鼓舞するように、力の限り声を上げた。アルとしては、彼らにも逃げて欲しかったが、今の彼らは足を負傷している為、動けないのだ。
 だからと言って、その彼等を運び出そうとすれば 良い的だと言っていい。そして、何よりも。


――……鉱山の男達は決して仲間1人だけ残して逃げるという選択肢は持ってない。


 皆が、ファンやガーランドの様に強い芯を持っており、『もしも、アルが倒れたら次はオレだ……』と、皆がそう考えていたのだ。

 その決意は嫌でも感じた。そして、それは責任重大とも取れる。

 もしも、今自分が倒れたとしたら、彼等は玉砕を覚悟で特攻するだろう。……死さえ厭わない。

(今……っオレが倒れるわけにはいかない!)

 だからこそ、アルは強くそう想い、まだ、呻き声を上げながらも暴れているゴーレムに向きなおし、身構えたのだった。








〜????????〜




 それは、町の外での会話。

「これは…… 一体何事ですか?」

 場所は、マルクト帝国が所有している《大型軍艦タルタロス》。

(あれは……アクゼリュス、ですか………)

 その街で戦塵が見えるのだ。そして、軍艦タルタロスに乗っていると言うのに、大地の震えも感じる。……その震源は鉱山の町アクゼリュスだ。
 確かにマルクトの領土になっても国境に位置するせいか、両国の小競り合いも少なくない。だが、それは、あまりにも巨大な戦塵だった。人間同士で言えば、下手をすれば《戦争》とも取れる程のもの

「大佐!」

 丁度、偵察に兵士を出した部下が帰ってきた。無闇に、軍艦で近付く事は出来ないのだ 小競り合いならば混乱をさらに増す可能性が有るからだ。

「お疲れ様です。町について、何か分かりましたか?」

 大佐と呼ばれる長身・長髪の男が尋ねていた。

「はっ!! 確認に向かったところ!鉱山奥より大量のモンスターが出現したとの事! それらは撃退したそうなのですが、その後、巨大なモンスターが現れ、町で暴れている模様です」

 兵士は、敬礼しながら町の現状を伝えた。予断を許さない状況だと言う事も。

「巨大なモンスターが……、ジェイド……申し訳ありません。今は時間がないのは分かりますが……」

 大佐に比べると少し背丈の小さい中性的な顔立ちの男が不安そうに伝えた。その表情から、何が言いたいのか、直ぐに判った様だ。

「……判りました。確かに領土問題は、まだありますが、町の住人を救う為です。そういうことならば問題はないでしょう。ただし、少数精鋭でいきます。軍艦がそのまま行きますと混乱が有るでしょうから。」

 マルクト帝国軍大佐。本名ジェイド・カーティス。非常に優秀な譜術士であり、そして槍使いでもある男だ。

「もー!イオン様は、ここに残ってくださいよ! 危ないですよー!」

 続いて出てきたのが小さな女の子。歳は10代前半だろうか?にしても軍艦に乗るには少し場違いな気がするような子である。

「いいえ アニス。僕も行きます。町の住民の人はきっと傷ついてしまっている人達もいるはずです。ならば僕の力が役に立ちます。」

 イオンと呼ばれている中性的な顔立ちの男性(男の子かな?)。アニスと言う名の彼女が『行くな』と、言っている様だが 全く聞く気はなく、どうやら行く気満々のようだ。

「んもーー、イオン様は一度言うと聞かないんだから。 はぁ〜…… じゃ、わたしも行きますよ!」

 アニスは、ため息を吐き、盛大に肩を落としながらも ついて行く事に決めた様だ。この会話を聞くと、アニスはイオンの護衛なのかもしれない。結論、皆でアクゼリュスに向かうとの事だ。成り行きを見守っていたジェイドは、一歩前に出ると。

「じゃっ 話はまとまりましたね!さっ 早速行きますよ。」

 妙に笑顔でそう言っていた。アニスは、更に肩を落とし。

「もー 大佐もあっさりしすぎ〜! 少しは止めてくださいよぅ!!」

 文句を言うが、それでも笑顔は崩さない。……まるで信用出来ない笑顔、とも思える。

「はっはっはー♪ イオン様は言ったくらいでは止まらないでしょう?」

 最後まで笑いながらそう言っているから。でも、それを見たイオンだけは、表情をこわばらせていた。

「すみません。ジェイド、アニス。」

 自分が行く、と言い出したからこうなったのだ。……アニスに行くな、と言われても発言を改める訳じゃないが。

「もー わかりましたってば! イオン様っ! 早く行ってちゃっちゃと解決しちゃいましょ」
「はい」
「では、行きましょうか。油断は禁物です」

 ジェイド、アニス、そしてイオンの3名+警備隊数名の少数精鋭は艦を降り、鉱山の町アクゼリュスへと向かっていった。



 
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