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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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無印編 破壊者、魔法と出会う
  19話:別れは辛いが、だからこそ再会は楽しみになる

 
前書き
 
無印最終話です。なんとか書けました。
  

 
 



「知らない天井……という訳でもないが…」

意識が覚醒し目を開けると、目の前に映ったのは無機質ながらしっかりとした天井。どこかで見たような覚えがあるものだ。
唐突に目覚めた瞬間に見たものが天井とは、と思いながら自分の記憶の最新のものを掘り出し始めるが、

「確か…ジャーク将軍を倒して……どうしたんだっけか?」

結局掘り出しきれずに終わる。今の状態じゃどうにもならないと思い、体を起こすことに。
左手を支えに上半身だけを起こす。若干右手に拘束感を感じながらも、それを気にさせない程の体に染みる痛覚に、表情を歪める。

「~~~っ!つぅ~……と、包帯か…」

その苦痛と共にやってきた頭痛に対し、左手で頭を抑える。
痛みが落ち着いてくると、士はようやく左手に巻かれた包帯に気づく。包帯が巻かれていない指先でも包帯の手触りがある。どうやら頭も巻かれているようだ。

「…やっぱ体にきたかな……少しダルい…」

包帯が巻かれた左手を見ながら自分の体の現状を分析する。

はぁ、と一息入れて、士はようやく重みを感じる右手の状況分析に入る。

「片手を体全体で抑えられるのは、初体験だな」
「すぅ〜…すぅ〜…」

右手に乗っかっているのは、両手とその両手の持ち主である人物―――なのはの体だった。
ずっと看病していてくれたのか、ずっと側にいてくれたのか……と考えながらなのはの顔を伺う。士の耳にはなのはの小さな呼吸が聞こえてくる。

「しかし……利き手である右手を封じられると、結構困るんだな」
「……ん…ん~…」

そう言いながら、士がなのはの頭を開いている左手で撫でていると、さすがに安眠を妨害してしまったのか、なのはが目を開けてしまう。

「……つかさ…くん…?」
「おはようさん、なの―――」

刹那、ようやく右手から拘束感がなくなると同時に、士に向かってなのはが飛び込んでくる。

「っ~~~~!!」
「よかった…士君……目、覚めたんだ……」

強く抱きしめられて、士は先程とは別次元並の痛みに、顔を歪める。そんなもの知る由もなく、なのはは抱きしめる力をさらに強くする。

「な、なのは…うれしいのはわかっ、るけど……もう少し…力を…!」
「もう……目を覚まさないかも、って…おもってたんだよ……」

そう呟きながら、なのははより一層腕の力を強くする。士の体から、嫌な音が聞こえてくる。


「っ、ぎゃああああああああああああああああああ!!」


さすがに耐えきれなくなった士の叫び声が、アースラに響き渡った。


















「ははは……災難だったね、士」
「お前…10分って……俺叫んで10分ってお前……カップラーメンいくつできると思ってんだ……」

あの悲痛な叫びから約10分後、ユーノが士となのはがいる部屋にやってきた。

「絶対聞こえてたよね?聞こえてたよね俺の声。聞こえてない筈ないよな?なぁ!?」
「いやぁ…クロノがその方が面白いって」
「彼奴…絶対後でムッコロす…!!」

士はそう言いながら、手の平を上にして鷲がものを掴むように指を動かしていた。
それを見ながらユーノは苦笑いをして、なのはは少し頬を赤くして俯いていた。

「たく……お前もお前だよ、なのは。怪我人相手に……死ぬかと思ったよ…」
「だって…士君ずっと寝てたから……」

士が呆れ顔でそういうと、なのははさらに顔を赤らめて頭を垂らす。

「いつもより時間をかけて、いつもよりぐっすり寝てただけだろ?大げさにも程が―――」
「まぁ、三日間も寝てたら心配になるよね」
「………『三日』?」

士の台詞を遮るように言い放たれたユーノの言葉に、士はなのはに向けていた呆れ顔を驚きに変える。

「ちょっと待て…三日?俺が三日も寝てた?つまり…72時間も寝てたのか?」
「うん、それはもうぐっすり」

それはさすがに人生最長記録だな、と呟きながらベットの上に投げ出している両足をベットから降ろし、ベットに座る形になる。

「そういえば俺、いつ倒れたんだ?」
「あの戦闘からプレシアを抱えてアースラに戻ったらすぐ。医療班の人からは、魔力の枯渇と体の疲労、多少の出血…その他諸々の事が相まったから……ということらしいけど、数日体休めて魔法で治療すれば治るって」
「あ~、そりゃあ確かに心配になるわな……すまないな」
「う、うん。私の方こそ、ごめんね」
「…そういえば、フェイト達は?」

顔を上げて申し訳なさそうに言うなのは。士は話題を切り替える為にユーノにフェイト達の事を尋ねた。

「うん…二人共、今はアースラの護送室にいるよ。あの状況だったとは言え、一応彼女達は重要参考人だから」
「そう、か…」

聞かれたユーノは、少し顔を暗くしながら言った。士もそれを聞いて若干顔色を変える。
はぁ、と小さいため息をつきながら左手で顔を覆う。

「士君……」
「あ、悪い……大丈夫だから」

少し心配そうになのはが顔をのぞいてくる。それに気づいた士は微笑みながら言葉を返す。

「それじゃあ、医療班の人呼んでくるから」
「あぁ、頼むな」
「うん。なのは、行こう」
「え?でも…」
「俺の方は大丈夫だから、行ってくれ」
「う、うん……」

ユーノはそう言いながら自動ドアの近くに立ち、ドアを開ける。呼ばれたなのはは士の顔をのぞきながら少しためらっていたが、士の言葉に頷きユーノの後に続いた。

どこか無機質な壁に囲まれ、一人ベットに腰掛ける士。

「…………」

鼻で長く息を出しながら、両手を目の前で開いていた。
しばらく見つめていたが、次第に下唇を噛み、噛む力を強くしていった。その表情は丁度三日前の時と同じ、後悔しか見えないものだった。

「…っ……」

顔を上げ、背中を壁に預ける。先程まで開いていた手を、力強く…端から見たら爪が食い込んで、血が出るんじゃないかと思われるぐらい強く、拳を握っていた。

「……くっそ…」

目をつぶり、奥歯を軋ませる士。

「くそぉ!!」

そう叫んで、拳を壁に叩き付けた。ガァンと派手な音が出て、部屋に響き渡る。

「結局…何も守れなかったじゃないか…!」

プレシアも…フェイトが守りたかったものも……過ごしたかった筈の幸せを……
そう呟きながら、頬から一筋の雫が落ちる。

「くっそぉ!!」

三度叫んでまた拳を叩き付ける。士の叫びと壁から出た音が、部屋に響いた。


















―――数日後

俺の怪我も一通り治り、包帯も取れた頃。俺達はアースラの会議室にて、簡単ながらも表彰式を執り行っていた。

「今回の事件解決について、大きな功績があったものとして、ここに略式ながら、その功績を讃え、表彰いたします。高町 なのはさん、門寺 士君、ユーノ・スクライア君。ありがとう」

その言葉と共に、リンディさんが表彰状を差し出す。目の前にいるなのはが、緊張しながらも前に出てそれを受け取る。
それと同時に会議室にいたアースラクルー達から拍手が送られた。

まだ小学生のなのはにはまだ経験の少ない式が終わり、俺達はクロノについていきながら会議室を去った。
その途中、なのはが足を止める。前を歩いていたクロノも後ろにいたユーノも、続いて立ち止まる。

「クロノ君。フェイトちゃんは、これからどうなるの?」
「事情があったとは言え、彼女が次元干渉犯罪の一端を担っていたのは、まぎれもない事実。重罪だからね、本当だと数百年の幽閉が普通なんだが…」
「そんな!?」

クロノの言葉に、なのはは反応を見せるが、その肩を俺が軽く掴んで止める。

「落ち着けなのは。クロノの話はまだ途中だぞ」
「え?」
「そうはならないって言ってるんだ、クロノは」

そう投げかけながらクロノを見ると、クロノは黙って頷いた。

「状況が状況だし、彼女が自ら意思で次元犯罪に加担していなかったことは、プレシア自身もこれまでの事からもわかっていることだ。
 後は偉い人達に、それをどう伝えるかなんだけど…その辺にはちょっと自信がある。心配しなくていい」
「クロノ君…」
「何も知らされず、ただ母親の願いを叶えようと一生懸命だった子を罪に問う程、時空管理局は冷徹な集団じゃないからね」

クロノは優しい目でそう言いきり、なのはは若干目を潤ませていた。こいつがここまで言うなら…大丈夫かな。
するとなのはがツインテールを弾ませて、クロノへと一歩前に出た。

「クロノ君って、もしかしてすごく優しい?」
「なっ!?」

なのはがそう言うと、クロノは今にも沸騰しそうな程顔を赤くし、思考を一瞬フリーズさせてしまう。それを見たなのはは笑みを浮かべ、ユーノは苦笑いをしていた。
俺?俺は別に……いや、腹の奥の方で煮えたぎるものを感じている。どうやらあのシスコンの影響を少なからず受けているようだ。

「し、執務官として当然の発言だ!私情は別に、入っていない!」
「まぁ、まぁ。そういうなよ、堅物執務官」
「別に照れなくてもいいのに」
「だっ、誰が照れてる!?誰が!」
「そういう反応しておいてまだシラをきるつもりか?」
「な…士、君まで…」










その後、リンディさんに呼ばれ俺達三人はアースラの食堂にやってきた。
リンディさんの話によると、俺やなのはは明日にでも地球の方へ帰れるが、ユーノの故郷、つまりミッドチルダ方面への航路は、まだちゃんとしてないようで。いつ帰れるかは、わからないらしい。

んで、その帰れるようになるまでユーノは何処で生活するか、という問題が出たところで……

「じゃあ、家にいればいいよ!今まで通りに!」
「なのは、いいの?」
「うん!ユーノ君さえ良ければ」
「で、でも……」

なのはの提案に、ユーノはこちらを伺いながら言葉を詰まらせていた。

「なんだ?俺が反対するとでも?」
「え?だって士、僕は…」
「あの事を引きずってるなら、それとこれとは別の話。あの事はもういいし、今はお前の事を信用している」
「じゃ、じゃあ…えっと……」
「ただし!」

俺の言葉に少し慌てているユーノに、軽めにアイアンクローをして笑い(黒)ながら言う。

「なのはに何かあったら…どうなるかわからんぞ?」
「は、はい……以後、気をつけます…」

その様子を見ていたなのはは首を傾げ、リンディさんはふふ、と笑みを浮かべていた。
そんな軽めの話題で話しているとき、クロノと眠そうなエイミィが食堂へ入ってくるのを横目で見ながら、リンディさんの話に耳を傾ける。

「あの人が目指していた、『アルハザード』って場所…ユーノ君は知ってるわよね?」
「はい、聞いた事があります。旧暦以前、全盛期に存在していた空間で…今はもう失われた秘術が眠る土地だって」
「だけど、とっくの昔に次元断層に落ちて滅んだ、て言われてる」
「ど〜も」

途中からクロノとエイミィが参加して、少しにぎやかな食事になった。まぁ、話題は少しくらい話だがな。

「あらゆる魔法が、その究極の姿にたどり着き、その力を持ってすれば叶わぬ願いはないとさえいわれたアルハザードの秘術。
 時間と空間をさかのぼり、過去さえ書き換える事ができる魔法。失われた命を、もう一度蘇らせる魔法。彼女はそれを求めたのね」
「でも、魔法を学ぶものなら誰もが知っている。過去をさかのぼる事も、死者を蘇らせる事も、決してできないって」
「だから、その両方を望んだ彼女はおとぎ話に等しいような伝承にしか頼れなかった。頼らざるおえなかったんだ」
「でも、アレだけの大魔導師が、自分の命さえ懸けて探してたのだから…彼女はもしかして、本当に見つけたのかもしれないわ。アルハザードへの道を。今となっては、わからずじまいだけど…」

そんな会話を俺はパンをくわえながら聞いていた。
しっかし…死者は蘇らない、ねぇ……。いや…俺がその命の蘇生みたいなことしてるから、なんだか怖いな…ほんと。あの神、いつか会えたら殴ろうかな?前は殴る暇もなかったし。

「あ、ごめんなさい。食事中に長話になっちゃった。冷めないうちにいただきましょ」
「なのはと士には、多分これがアースラでの最後の食事になるだろうし」

クロノは少し表情を厳しくしながら言うが、隣のエイミィが笑いながら口を開く。

「お別れが寂しいなら、素直にそう言えばいいのになぁ。クロノ君てば、照れ屋さん」
「なっ、何を!?」
「クロノ君の照れ屋さん(棒)」
「つ、士!君まで何を言って…!」
「なのはちゃん、ここにはいつでも遊びにきていいんだからね!」
「はい、ありがとうございます」
「勿論、士君も」
「あぁ」
「エイミィ!アースラは遊び場じゃないんだからそんなこと…」
「まぁまぁ、いいじゃない。「え!?」どうせ巡航任務中は暇を持て余してるんだし」
「ほれ、艦長も認めてくれたぞ。どうする執務官殿?」
「ぐぬぬ…」

先程までの暗い雰囲気は何処へやら、最終的には笑いながらとなった今回の食事。ただ一つ不満を言えるのなら……

「やっぱり俺はパンより飯派だな」


















そして、遂に俺達が地上に戻る日やってきた。俺達は荷物をまとめ、アースラの転送装置の上に立つ。

「それじゃ、今回は本当にありがとう。なのはさん、士君、ユーノ君」
「協力に感謝する」

クロノはそういってなのはに手を差し出す。なのはもそれを受け、クロノと握手を交わす。そのとき、クロノの顔が若干赤くなっているのがわかった。

「おい、俺とは握手しないのか?それとも、なのはの手をずっと握ってたいとか?」
「なっ!?ふざけるな!別に僕は…!」
「はいはい、そこまで。ユーノ君、帰りたければいつでも連絡してね」
「はい、ありがとうございます」
「フェイトの方は、処遇が決まり次第連絡する。大丈夫、悪いようには、絶対しないから」
「うん、ありがと」
「頼むぜ、クロノ執務官」

俺の言葉に、クロノは黙って頷く。エイミィの方から準備ができたと言われ、ユーノはなのはのツインテールの片方にしがみつく形になった。

「それじゃあ」
「うん。またね、クロノ君、エイミィさん、リンディさん」

光の向こうで手を振る三人に、返すように軽く手を振りながら、俺達は光に包まれた。
そして光が収まり、俺達は久しぶりのアスファルトに足をつけた。

「…帰ろうか、士君、ユーノ君」
「「おう(うん)」」


















それからまた数日。久しぶりの我が家や学校に、少し懐かしさを感じながら過ごして。だけど、心の奥の方で引っかかるものを感じながらの数日。
まだ朝日が昇って早い段階で、俺の部屋の扉がノックされた。

「士君、起きてる?」
「ん?なのはか?起きてるぞ」

少し興奮しているなのはの声にそう答えると、なのはが扉を開けて入ってくる。

「実はさっきクロノ君から連絡があって」
「っ、フェイトのことか?」
「うん!フェイトちゃん、時空管理局の本局に移動して、事情聴取と裁判が行われるんだけど、ほとんど確実に無罪になるって!」
「そうか…」

クロノからの伝言だろうか、その言葉を聞いて俺は胸のつっかえが一つ取れ、軽く笑う。なのははさらに言葉を継ぎ足す。

「それで、その本局に移動になる前に、フェイトちゃんが私達に会いたいって!」
「っ……」

それを聞いた俺は、少し眉を寄せる。これからフェイトに会う、か……

「…わかった、今すぐなんだよな?」
「うん!私、準備してくる!」

そう言って元気そうに俺の部屋を出て行くなのは。俺はそれを見届けてからベットに腰掛け、ため息をつく。

「……フェイトと会う、のか…」











海にかかる石橋に、フェイト、アルフ、クロノがいた。俺はそこへなのはに手を引かれながら向かっていった。

「フェイトちゃーーーん!」
「ちょ、なのは体勢きつい!引っ張るな!」

フェイト達の元にたどり着くと、ユーノはなのはの肩から降りてアルフの肩へ。俺は少し乱れた制服を整えた。

「あんまり時間はないんだが、しばらく話すといい。僕達は向こうにいるから」
「ありがとう」
「…ありがとう」

そう言って離れていくクロノ達。三人だけになったこの空間で、なのはとフェイトはお互い向き合って笑い合った。

「にゃはは、なんだかいっぱい話したいことがあったのに…変だね。フェイトちゃんの顔見たら、忘れちゃった」
「私は…そうだね。私もうまく、言葉にできない」

石橋の鉄柵に手をかけながら、海を見て話す二人。俺は腕ごと鉄柵に置いて、その上に顎を乗せて二人と同じように海を眺めていた。

「だけど…うれしかった」
「え?」
「まっすぐ向き合ってくれて」
「うん、友達になれればいいなって思ったの」

そういって海からフェイトへと視線を変え、笑顔を見せるなのは。

「でも、今日はこれから出かけちゃうんだよね?」
「…そうだね。少し長い旅になる」
「また会えるんだよね!?」

尋ねるなのはの顔には、少し不安の色が見える。でもフェイトは優しく頷いた。

「少し寂しいけど、やっとほんとの自分を始められるから。来てもらったのは、返事をするため」
「え?」

フェイトの言葉に少し驚くなのはに、フェイトは頬を若干赤くしながら言い始める。

「君が言ってくれた言葉。友達になりたい、て…」
「っ!うん、うん!」
「私にできるなら、私で言いならって…。だけど私、どうしていいかわからない。だから教えてほしいんだ。どうしたら友達になれるのか」

途中から少し俯いて話すフェイトの表情は、どこか寂しそうだった。
それもそうか。アルフが言うには、フェイトは産まれてすぐプレシアの使い魔、リニスに魔法や言葉を教えてもらっていた。ならば、その当時は当然、友と呼べる存在などいなかったのかもしれない。
そう思うと、やはりこちらも表情を暗くしてしまう。そう、なのはとフェイトのやり取りを横目で見ながら思った。

「簡単だよ」
「え?」

すると、なのはが意を決して声をかける。その言葉に、フェイトは少し驚きを見せる。

「友達になるの、すごく簡単」
「…………」
「名前を呼んで。最初は「君」とか「あなた」とかじゃなくて、ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの。私、高町 なのは。「なのは」だよ!」
「……なのは…」
「うん、そう!」
「…な、の、は」
「うん」
「……なのは」
「……うん…!」

何度もフェイトに名前を呼ばれ、なのはは涙を浮かばせながらフェイトの手を握った。そこに、海からの風が優しく吹いて、二人の髪をなびかせる。

「ありがとう、なのは」
「…うん……」
「なのは…」
「………うん!」
「君の手は温かいね、なのは」

そして遂になのはの涙が、なのはの頬に流れる。フェイトはその涙を拭う。

「一つわかったことがある。友達が泣いてると、同じように自分も悲しいんだ」
「フェイトちゃん!」

フェイトの言葉に、なのははフェイトに抱きつく。フェイトもそれを受け止め、その両手で優しく包み込む。

「ありがとう、なのは。今は少し離れてしまうけど、きっとまた会える。そうしたら、また君の名前を呼んでもいい?」
「うん…うん…!」
「会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ。だから、なのはも私を呼んで。なのはに困った事があったら、今度はきっと…私がなのはを助けるから」

フェイトの顔を見上げていたなのはは、また顔をフェイトの体へと埋め、フェイトを抱きしめる。フェイトも抵抗する事なく、しっかりと返すように抱きしめる。

「…フェイト」
「士…」

ここまで一度も開けずにいた口を、俺はようやく開いた。俺の視界には今、まっすぐ俺の目を見るフェイトしか映っていない。

「士には、たくさん助けてもらったね。ありがとう」
「ありがとうなんて、やめてくれ。結局俺は、何も守れなかった」

そう返した俺の言葉に、フェイトは少し驚いた様子で首を傾げた。

「…プレシアを、守ってやれなかった。本当に…すまない…」
「士……」
「お前が守りたかったものを…目の前で失わせてしまった……」

さすがにフェイトの姿を直視できなくなり、俺は頭を垂らしてしまう。言葉で赦されるとは思っていない。だからせめて今、あいつの悲しみの受け皿になろうと思ってた。



「ううん、それは違うよ。士」



「……え?」

だが、次に聞こえてきた言葉は、予想外のものだった。
驚いて、思わず垂らしていた頭を上げる。その先には、さすがに抱きしめるのを止めたなのはと、フェイトがいた。

「士は、何も守れなかった訳じゃない。私を…なのはを守っていくれた。母さんの本当の気持ちを、私に…母さん自身に教えてくれたのは……紛れもない、士、君なんだよ」
「……だけど、俺は…!」

さらに言葉を続けようとするが、それを阻むように、金色の髪が、俺の視界に映った。
気づいた時には、フェイトが俺を抱きしめていた。

「っ!?」
「だから…私はお礼をいいたい。士…君と出会えて、私は良かったって思ってる。士の存在が、士の言葉が…私を支えてくれた。私を後押ししてくれた」
「……止めてくれ…俺は、そんなことを…」
「ううん。私にとって士は、士の言葉は……とても大切なもの。だから……」

そこで一旦言葉を切り、フェイトは俺の顔を見てくる。

「母さんの死を、一人で背負おうとしないで。母さんが死んじゃったのは、士のせいじゃないから」

俺は目から出そうな雫を抑えながら、フェイトを抱きしめる。

「…俺の方こそ、ありがとう。今のは俺には、もったいない言葉だ。ありがとう…」
「うん…」

少しの間、フェイトを抱きしめていると、クロノがやってくる。

「悪いが、そろそろ時間だ」
「…うん」
「フェイトちゃん!」

クロノの言葉に対し、俺から離れたフェイトが頷く。なのはは慌てて、自分がつけているリボンを外し、フェイトに差し出す。

「…思い出にできるもの、こんなのしかないんだけど…」
「じゃあ、私も」

そう言って、フェイトは黒いリボンを外し、差し出す。二人はお互いに出されたものを受け取る。

「ありがとう、なのは」
「うん、フェイトちゃん」
「きっとまた…」
「うん。きっとまた…」

そんな二人を見て、俺は首にかけていたトイカメラを手に取り、レンズを覗く。

「二人とも、一枚いいか?俺には、これぐらいしかできないから」
「あ、うん!」
「お願い、士」

そう言って二人は近くに寄り添う。それに合わせて、俺はシャッターを切る。

「できたら渡したいけど…手紙のやり取りとかできるのか?」
「普通は難しいが、なんとかしてみせる」
「それはありがたい」

クロノとそう話していると、一緒にやってきたアルフがユーノをなのはの肩に乗せた。
軽く会話を交わし、別れの時がきた。クロノが足下に魔法陣を展開し、その上にフェイトとアルフも乗る。
魔法陣の光が増していく中、フェイトが俺達に向けて手を振ってくる。俺もなのはもユーノも、それに応じて手を振る。

そして光が溢れていき、フェイト達はアースラへと戻っていった。
海鳴の海から吹いてくる風が、俺達の髪をなびかせる。

「なのは…」
「行くか」
「うん!!」

こうして俺達は、以前とはわずかに違う日常へと戻っていった。
















とある場所。暗がりの中で、金色の影が動いていた。

「余は…余はこんなところで…」

その影は、時の庭園で士が倒した筈の、ジャーク将軍だった。

「余はまだ、大ショッカーが目指す世界を…この目で…!」

士の攻撃をどう回避したかはわからないが、多少の無理をしたのだろう。体は既にボロボロだった。

「だいぶまいってるようですね、ジャーク将軍殿」

そこに、ジャーク将軍の後ろから声がかかる。振り向くと、そこは深い闇だけがあった。

「その声…そちは!?」
「そう、私ですよ。井坂先生の協力もあって、ようやく私の体が完成しました」

ジャーク将軍はその闇から聞こえる声だけで、その声の主を判断し話しかける。相手もゆっくりとジャーク将軍に近づきながら声を出す。

「ならば共に彼奴を…」
「いえ、それはできない相談です」
「な、何故だ!?」

ジャーク将軍の提案に、声の主は反対する。その予想外の事に、ジャーク将軍は声色を変える。


「何故なら…あなたには、ここで消えてもらうからです」


「っ!?」

その言葉と共に、闇の奥にいる男の姿が変わっていく。闇に紛れてその姿はよく見えないが、わずかに差す光に男が持つ刃で反射する。

「な、何故だ!?」
「それが上からの命令ですから。もうあなたは用無し、という訳ですよ」

そう言ってジャーク将軍に近づいてくる男が、反射する刃を振り上げる。その光景に、ジャーク将軍は死の恐怖に震える。

「や、止めろ!余はまだ…!!」
「さよなら、です」

それと同時に、肉を割く音が響く。そして、ジャーク将軍だったものが動かなくなる。
それを見下ろしながら、姿を元に戻す。

「……さて。私の今回の任務も終わりましたし……例のものが起動するのも、もう少し後ですし……今は戻りますか」

踵を返しながら、男はそう呟き闇に消えていく。

「ディケイド……あなたとはいずれ、戦ってみたいですね。私の…この力で」

最後にそう言い残し、男は闇の中から去っていった。



  
 

 
後書き
 
次回はサウンドステージの話を混ぜた話を。
日常編は季節に応じた話をいくつか入れていく予定です。

(7/17 修正)
 
  
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