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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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レーヴァティン~クロスクエスト~
  レーヴァティン

「さあ、はじめようか!!」


 スルトがレーヴァティンを高々と掲げ、振り下ろす。


 ただそれだけの動作。非常に簡単な動作だった。しかし、それがもたらした効果はあまりにも絶大だった。

 
 ――――――ムスペルヘイムの地面が割れた。地割れはどんどん広がり、セモン達を飲み込むところまで来た。


「あぶねぇ!!」

 全員が一斉に飛びずさる。


「くははははは!!どうした!!戦いは始まったばかりだぞ!!もう臥するか!!?」
「そんなワケないでしょ」

 
 スルトのすぐ後ろに小さな影。レンホウだ。

「消えてね」

 ワイヤーをふるってスルトの首を一思いに断ち切―――――れなかった。

 カキン!!という小さな音と共に、レンホウのワイヤーがはじかれたのだ。

「!?」
「小僧――――我にそのようなモノが効くとでも?」

 
 スルトが剣を握っていない左の拳でレンホウをぶん殴った。


「かは!?」
「レン!!」
「レンホウ!!」


 レンホウのステータスデータは本来ヒット&アウェイ用――――すなわち、防御力にあまり自信がない構成となっている。そのため、今レンホウのHPは一気にレッドゾーンまで叩き落されてしまっていた。

「ちぃ!」

 ゲツガがレンホウを抱きとめると同時に、趣味(?)で全属性の魔法をかなり習得しているシャノンとゲイザーの高位回復魔法が届いた。レンホウのHPは見る見るうちにグリーンゾーンまで戻った。


「ゲホッ……か、硬いねオジサン……」
「当然だ」

 
 再びスルトが剣をふるう。


「来るぞ!!回避しつつ攻撃だ!装甲の継ぎ目を狙え!!攻撃力にさしたる自信がないものは後方支援!!」
「「「了解!!」」」
「OK!」
「まかせて!」

 スルトの剣戟を回避し、セモンは刀を構える。鎧の継ぎ目を狙って、《神話剣》横薙ぎ2連撃、《アラブル・バイト》。片手剣技《スネーク・バイト》によく似た軌道の剣戟だが、このスキルは刀カテゴリの技だ。

 並のモンスターなら一撃で屠る濃縮された威力をはらむ一撃は、しかしスルトの足の鎧の継ぎ目にヒットし、わずかにそのHPを減らしたのみだった。その量――――一ドット。

「マジか……」
「セモン!!下がって!!」


 コハクが叫ぶ。今回コハクは後方支援組のようだ。

「ヤァ!!」

 コハクが放ったのは三本の水の槍。それらはスルトの腕に当たると散った。

 HP、一ドット減少。

「くっ……」
「なんて防御力だ……」



 こうして、スルトとの長い長い戦いが始まった。

 スルトの特殊攻撃パターンは
 
 ①レーヴァティンによる斬りおろしからの地面叩き付けによる地割れor地震攻撃。どちらにせよかなり行動を封じられる。

 ②左拳に劫火を宿してのパンチ

 ③レーヴァティンに劫火を纏わせて薙ぎ払う。モーションは①とほぼ同じだが、この攻撃の凶悪なところはその後炎の衝撃波が飛んでくることにある。さらには通常攻撃の際に剣に炎を纏わせてくることもあった。


 これに加えて、文字通り化け物の攻撃力および防御力。HP総数はボスモンスターの中ではさほど突出しているわけでもないが――――それでも十分多いが――――圧倒的な防御力補正のせいでいくら攻撃してもHPが一向に減らない。

 この状況で大いに役に立っているのがゲツガと、ハザードのレノン、そしてレンホウのクーだ。

 ゲツガのプレイヤー離れした攻撃力は、少しではあるが確実にスルトのHPを削いでいったし、レノンとクーは文字通りの人外の攻撃力と機動力でスルトを翻弄した。  

 
「よし!!残り一本だ!!」


 戦闘開始から二時間。ついにスルトのHPバーが最後の一本に突入した。すでにセモン達の精神はぼろぼろに擦り切れていた。


「くくく…フハハハハハハハハッ!!ここまでこの我を追い詰めるとはッ!!素晴らしい!!どれ、我も本気を出すとするか……」

 
 次の瞬間。

 スルトの纏っていた炎が、今までの真紅から、黒に変わった。

 同時にその鎧も赤から血よりもなお濃い、限りなく闇色に近いダーククリムゾンに。

「気をつけろ!!攻撃パターンが変わる!!」

 ゲイザーが叫ぶ。


「さぁ、余興は終わりだ。我が煉獄に抱かれて踊れ、いと小さき者たちよ」

 
 スルトのレーヴァティンが振り下ろされる。

 地面に叩き付けられて、地割れが起きる。

 そこまでは同じだった。

 そこまでは。


 出現した地割れの大きさが、けた違いだった。

「な!?」
「なんて大きさだ……」

 レノンを丸ごとの見込めるほどの大きさの地割れが出現した。

「きゃぁ!?」
「コハク!!」

 コハクが落ちかける。セモンが間一髪で手首をつかみ、引っ張り上げる。

「あ、ありがと……」
「気にすんな」

「二人とも!!後ろ――――――――――――――」


 レンホウが叫ぶ。

 見れば、スルトのレーヴァティンが振り下ろされるところだった。

「……!?」
「くっ……!!」

 
 レーヴァティンがセモン達に当たる直前。その剣の腹に、黒い弾丸が激突した。

 見れば、クーにまたがったレンホウとゲツガだ。

「むう!?」
「隙アリだよ、オジサン!!」

 レンホウのワイヤーがうなる。

 たちまちそれはスルトの体に絡まりつき、動きを封じた。

「斬る斬る斬る斬るkill・・・」

 レンホウの眼がたちまち真紅に染まる。同時にワイヤーにも心意の炎が宿り、スルトの鎧を溶かしていく。

「ぐぅう……ぬおぁあああああ!!!」

 しかし。

 スルトはレーヴァティンに炎を宿すと、ワイヤーを断ち切った。

「な!?うそ、《心意技》ぁ!?」


 スルトは炎の宿った大剣をやみくもに振るうと、次々とフィールドを破壊し始めた。

「オオオオオオオオオッ」

「や、やばいぞこれは……」
「クエストどころじゃない、このままじゃ《ムスペルヘイム》が……ALOが崩壊する!!」

 スルトのレーヴァティンは《黙示録の魔剣》にふさわしい威力で世界を破壊し始めた。

 ムスペルヘイムのフィールドはすでに原形をとどめておらず、ニヴルヘイムへとつながる天井も崩れかけていた。

「オオオオオオオァアアアアア……ぁ!?」

 
 ドスッ……


 静かに、その音が響いたのはその時だった。


「あ……」
「え?」



「危なかったですね☆私が来なかったら負けてたかもしれませんよお兄様♪」


 スルトの胸から突き出していたのは、巨大な鎌。いや、()()()()()()だった。

 それを持つのは……グリヴィネ。いや、本当に彼女なのだろうか。

 短かった白い髪は腰あたりまでの長髪に変わり、白い一枚布のような服を着て、マフラーも白になっている。

 そして最大の違いが、()()()()()()()()()()()ことだった。

「……刹那、それ、どこから引っ張り出してきた?」
「わかんないです。気付いたらみなさんとはぐれてて……で、このカッコになってました。でも、お兄様のところまでたどり着けてよかったです。だって、もうすぐ終わっちゃうところだったんですもの♪」

 外見上ではわからなかった変わり様。それは間違いなく、その『喋り方』だ。まるで違う人間なのかのようにしゃべっていた。

「スルトさん、ごめんなさいね☆私がとどめ指しちゃいましたから」

 スルトのHPは、確かにゼロになっていた。

「く、く、く……あっぱれだ、妖精の騎士たちよ……」


 スルトの炎が消えて、彼は元の姿に戻った。


「スルト!」

 直後、空が割れた。

 そこから現れたのは、クエストのスタート地点だった、スルトの妻、シンモラ……

「スルト!!大丈夫ですか」
「シンモラか。我は……一体?」
「あなたは闇にとらわれ、世界を滅ぼそうとしていたのですよ」
「我が……そのような……」

 なんだか性格まで変わったらしきスルトは、こちらを向くと言った。

「貴君らが我を闇より解放してくれたのだな?」
「い、一応ね」
「そうか。礼を言おう。これは我の感謝の気持ちだ。貴君らの戦いに役立ててほしい」

 スルトの剣が光り出した。

 そこから炎のかけらが落ちると、地面に落下た。

 閃光。


 次に目を開けた時、炎のかけらが零れ落ちたところには通常の大剣の二回りはでかいだろう巨大な剣が突き刺さっていた。

「我が《総てを焼き払う業炎(レーヴァティン)》の現身だ。さすがにこのツルギそのものを渡すわけにはいかぬが、これと遜色のない働きをしてくれるだろう。それと」

 スルトの左手に炎が宿る。

 そこにまるで彼自身の炎を閉じ込めたかのようなプリズムが出現した。

「これは我が炎の一部だ。これを使えば、貴君らの剣に我が剣の力の一端を咥えることが可能だ」


 スルトは立ち上がると、

「もう一度礼を言おう。我を、このムスペルヘイムを救ってくれてありがとう。強き妖精の騎士たちよ。彼の闇の力に気をつけるがよい。あれは世界を滅ぼす………」

 しかしそこで、遠くから竜の遠吠えが聞こえ、それによってスルトの声がかき消されてしまった。

「ふむ。我が竜たちが我の帰りを待ち望んでしびれを切らしているようだ」
「本当にありがとうございました。これは私からのお礼です」

 シンモラが言った直後、一同のアイテムストレージに大量のコルとアイテムが入ってきた。


「それではさらばだ、妖精たちよ」

 
 スルトは、シンモラが出てきた空の割れ目に、彼女と共に帰っていった。



「……さて、どうする?レーヴァティン」
「大剣使いが結構いるからな」

 この場にいる大剣使いは、シャノン、ハザード、ゲツガの三人だった。

「俺はパスだ。こういうのはごめんだ」

 ハザードがさっそく権利を放棄した。

「こういう場合は、ゲツガ君に譲るべきなんだろうね。何せわざわざ別の世界から来てもらっちゃったわけだし?」

 シャノンが言うと、しかしゲツガは首を振った。

「いや、いいよ。俺はこの剣で満足してるし。それに、伝説武器(レジェンダリィウェポン)ってのもなんか憧れるものはあるけど、そんなに欲しいわけでもないというか……なんか、俺には合わない気がするんだよね」
「……そうかい?じゃぁ」
「ああ。その剣はシャノンがもらってくれ」
 
 
 シャノンは、ゲツガにありがとう、というと、レーヴァティンの柄を握った。

 その瞬間。

 レーヴァティンが赤く輝き始め……

 先ほどまでの大剣から、まるで一枚の板の様な真紅の巨剣へと姿を変えた。

「『使い手によって姿を変える大剣』か……いいね」
「おめでと~シャノン兄ちゃん」

 レンホウがぱちぱちと手をたたく。

「クエストクリア、だな」
「さぁ、帰りましょう♪」

 
 一同は、アルンへ続く出口の方向へと歩き始めた。 
 

 
後書き
 やっとコラボ編がクライマックス!!

 次回はいよいよコラボ編最終回!!おたのしみに!

 
 ……暗黒少年先生、話の流れ上ゲツガ君にレーヴァティンを授けられませんでした…。本当にごめんなさい。
 ……なべさん先生、レンホウ君が強すぎてモンスターを瞬殺、彼が戦闘するシーンが少ないという状況に…。本当にごめんなさい。

ハザ「お前の文才がないだけだろ」

 ひぐ! 
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