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コシ=ファン=トゥッテ

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第二幕その十四


第二幕その十四

「戦死しないって言えるの?」
「それは」
「そうでしょう?若しあの人達が戦死したら」
 妹は言葉を続ける。
「残された私達はそうなるのよ」
「生きていたらどうするのよ」
 姉はもう一つ考えられるケースを出した。もっともどちらかしかないのであるが。
「その場合は」
「その場合はもうあの人と一緒にトルコに行ってるわ」
「ムスリムの国に!?」
「キリスト教徒も大勢いるそうよ」
 これは本当のことである。オスマン=トルコは極めて寛容な国でありキリスト教徒も大勢いたのである。無論ムスリムに様々な特典が与えられてはいたが。
「だったらそれでいいじゃない」
「一日で考えがこんなに変わるなんて」
「それが女ってものなんでしょうね」
 ドラベッラはあっけらかんとして返した。
「デスピーナも言ってるけれど」
「その通りですよ」
 ここでそのドラベッラとデスピーナがにこりと笑い合って言葉を交えさせた。
「こんなことで驚いてどうするのですか」
「そうよ姉さん」
 二人はそのうえでフィオルディリージに対して言うのだった。
「女は多くの恋を経て奇麗になっていくのよ」
「ですから十五になれば」
「いえ、私は勝つわ」
 しかしフィオルディリージはその気持ちを退けようと思うのだった。
「絶対に。何があっても」
「それは無理ですよ」
「そうよ」
 デスピーナもドラベッラも彼女の今の言葉を信じようとしない。
「必ず敗れますわ」
「断言できるけれど」
「いえ、私はやるわ」
 フィオルディリージも引こうとしない。
「何があっても」
「降参した方がいいわよ、姉さん」
 ドラベッラは悪戯っぽく笑ってまた告げた。そうしてそのうえで姉に対して言うのだった。
「恋は小さな泥棒、蛇みたいなもの。心に安らぎを与えたり奪ったり」
「悪党だっていうの?」
「まあ聞いて」
 楽しく笑いながら姉にさらに言う。
「恋は私達の目を通して心に道をそけあっという間にその心を縛って自由を奪ってしまうのよ」
「それじゃあやっぱり」
「けれど恋の為すがままにさせれば甘い美しい思いができます。けれど」
 ここで言葉を変えてきた。
「逆らえば惨めな思いがやって来るのよ。だから」
「だから。どうするの?」
「若しも恋が胸に忍び込んだら後は任せればいいのよ」
「そんな軽薄な」
「けれど私はそうするわ」
 実際にもうそうしてしまっているドラベッラだった。
「そういうふうにね」
「ではお嬢様」
「ええ。食べ終わったし」
「はい、散歩を為されては如何でしょうか」
 見れば二人はもうマッケローニを食べ終えていた。ワインもだ。デスピーナはそれを見て早速食器をなおしはじめた。仕事もかなり早く的確だ。
「そのうえでシェスタでも」
「そうね。それかあの人とまたお話をして」
「ええ、どうぞそのように」
「じゃあ姉さんお先に」
「どうぞ」
 二人は上機嫌で部屋を後にする。残ったのはフィオルディリージ一人だった。一人になった彼女は項垂れたまま呟くのだった。
「皆で私を誘惑するのね。けれど負けないわ」
 そのことをあらためて決意するのだった。
「ドラベッラとデスピーナに本心を言ったのはまずかったけれど。それが若しあの人の耳に入ったら」
 自分の迂闊さも呪うのだった。
「二度と会いたくはないわ。今度あの人を家に入れたらデスピーナを怒って。誘惑する殿方なんて最低よ」
 ここまで言ってふと。デスピーナを呼ぶのだった。
 
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