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鋼殻のレギオス IFの物語

作者:七織
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第零章
  三話

 
前書き
 サヴァリスは自分に正直なので書きやすくてありがたいでござる
 

 
 活剄によって高められた身体能力で汚染獣の中に飛び込み剣を振り回す

 あれから一月半が過ぎた
 あれ以来汚染獣の襲来は一度しか無く、それも老性体だったために出られなかったので大会以後初めて、それも、幼性体が四桁に雄性体が二桁に雌性体が数匹という久しぶりの大群が相手である

 賭け試合には出続けている。そのことについて思うことなど特に無い
 自分にとって武芸は目的のための手段に過ぎない
 生きるためには、食べ物を手に入れるには金が必要で有る以上金儲けに使うことに抵抗はないし、何よりも死んでしまってからでは遅い
 ただ、思うことが有るとするならば、養父を裏切り続けていることだけだ
 そのことと、これがあれ以来初めての戦闘だということが少し、目の前の汚染獣に何時も以上に集中させた
 だから気付かなかった、その連絡に

『雄性体の五期を二体、並びに四期五体を確認。天剣授受者クオルラフィン卿が出陣なさるため、一時撤退して下さい』



 閃断を放ち、幼性体を蹴散らしながら雄性体に近付く
 比較的低空を飛んでいる個体の背に乗り、その背から切り付け前後に分けると同時に別の個体へと移る
 一撃で落とすには無理だと判断し、羽を切り付けて地に落とす
 周囲に集まってきた幼性体や雄性体の性でこれ以上は無理だと判断し、落ちるままに落下、激突する寸前にその背を切り付けながら衝撃を殺すために上方に跳ぶ
 地につくまでの僅かな対空時間。それを待っていたかのように汚染獣が突っ込んでくる
 数いる幼性体には閃断や九乃を出して牽制、雄性体には体を捻り、轟剣でもって切り付ける
 しかし、通常よりも大型な相手は一刀では絶命せず、起動を反らすだけに留まった

 本来、汚染獣相手にはチームを組んで当たるのが普通だ
 自分一人がへまをしても他が補ってくれるため、危険が減る
 しかし、少しでも報奨金を多く貰うためにレイフォンは一人で戦うことが多く、そしてそれをするだけの実力があった
 しかし、今回はそれが裏目に出てしまった


(かなり大きい。恐らくは四期、又は五期辺りか。流石に抑えた一撃じゃ簡単には倒せない!)

 地に着き、突っ込んでくる汚染獣相手に周囲を確認しようとし、誰もいない事に気づく

(誰もいない。そういえばなにも連絡がない、まさか端末が故障したのか? こんな時に)

 驚いたのは一瞬。しかし、それだけの間に敵は既にかなり接近していた
 周囲は敵に囲まれている上、前方は恐らく先ほど切り付けた四期ほどの雄性体だ。一撃で倒すのも難しいだろう
 しかし、この状態から逃げるのは厳しい。一番確実な方法としては前方の敵を一撃で打倒、離脱すること
 瞬時にそのことを理解し、行動に写す

(仕方が、ない!)

 前方の汚染獣に向かうのと同時に、手に握る錬金鋼に手加減を抜いた剄を込める

──外力系衝剄 ・轟剣

 通常よりも遥かに大きな剄の剣によって一刀の下に敵を両断、同時に旋剄で距離をとりつつ赤くなり今にも爆発しそうな剣を基礎状態に戻し、念のために予備の青石錬金鋼を復元する

(よかった、なんとか壊れずに済んだ。後は僕も撤退すれば────ッ!!)

 直ぐさま撤退しようとした瞬間、背後に発生した莫大な剄を感じ振り返る

「全員撤退したと聞いたんですがね。雑魚の露払いかと思えば、随分と面白いものを見させて貰いましたよ」

 見るものを威圧するほどの剄量に、防護服に縫い付けられた個別の紋章、白く輝く手甲

「君はたしか、前回の決定戦で優勝した子ですね」

 天剣授受者 サヴァリス・クオルラフィン・ルッケンスがそこにいた




「では、頑張って下さい」
「は?」

 先程の四期、更に見渡せば恐らく五期だろうと見える雄性体のために彼は出てきたのだろう。大群の際にはたまに有ることだ
 それで、彼は今何と言ったのだろう

「雄性体の駆除ですよ。本来は僕の仕事ですが、君なら大丈夫でしょう」
「いやいやいや、何で僕なんですか!?無理ですよ!」
「君が戦っている所が見たいからです。先程四期を倒したじゃないですか」
「ですが──」
「安心して下さい。危なくなったら助けますので」

 そういいつつ、手甲に剄が込められるのを感じて黙る
 危なくなったらも何も、断ればその一撃が汚染獣ではなく自分に向かってきそうなのを感じ、少し泣きそうになりながら汚染獣の方を向いて錬金鋼を構える

「雌性体の方には他の者が向かっていますから、時間を心配する必要はありませんよ」

 つまりそのまま観戦ですかそうですか
 そういえばクオルラフィン卿は戦闘狂って噂だったなーと思い出しつつ、防護服の上からでも笑っているのがわかる相手に送り出されながらレイフォンは涙を堪えて戦場に戻った




「いい動きですねえ。決定戦では違和感がありましたがやはり力を抑えていましたか」

 せっかく込めたのだからと群れに対して一発放ち、四期一体と幼性体を幾つか潰してサヴァリスはレイフォンの戦いを観戦していた
 先程後ろから自分が放った一撃にも反応したし、見る限り優勢を保っている
 天剣授受者等といった例外を除けば、本来幾人かで組んで当たるのが普通であり、四期五期ともなれば特にその傾向が強いというのに一人で当たり前の様に対応している
 そのことがレイフォンのレベルの高さを表し、剄量の事から言っても天剣にさえ相当するだろう

「彼が同僚になったらどうなるでしょうかね。一応女王陛下にでも伝えておきましょうか」

 そう呟きながら、あの女王が知らない訳が無いと思う
 実力を隠す様な相手だ、敢えて放っておいているのか
 口元が歪むのが抑えられない
 天剣が無い以上、彼の本気を見られないのは残念だが、代わりにやり合うことは出来るのだ
 天剣に成ってしまえば女王の管轄下に入り互いに好き勝手に争うことなど出来ない
 しかし、彼は違うのだ
 莫大な剄量に卓越した技術を持つものと限度はあれどやり合える
 弱い相手と戦うのはつまらない。ただただ強者との戦いを求める自分としてはそれが知れただけで来たかいはあった

(まあ、後で色々言われないように、やはり女王には伝えておきますか)

 レイフォンの方を見れば、既に二体を倒し残りは三体。このままならすぐにでも終わるだろう
 その姿を見、これからの事を思いやはり口元が歪んでしまう

 既に連絡を受け、他の場所を問題が無いことは分かっている
 もはや見届ける必要もなくなった戦場に踵を返し、サヴァリスは今後の事を思い、上機嫌で都市へと戻っていった



 最後の一体を倒した所で息を吐き、レイフォンは体から力を抜いていく
 今まで流石に四期五期を複数相手に援護無しの単身で挑んだことは無く、思ったよりも楽に終わったが精神的な疲労が溜まってしまった
 剄の余波が飛んだのか、幼性体も数えるほどしか残っていない
 体を巡る剄を次第に落ち着かせながら残った相手を片付ける
 後ろを見ればもうあの莫大な剄を感じることは無く、姿が無いことから途中で帰ったのだろうと推測する

(いきなり後ろから撃つのは死ぬかと思った。けれど特に何もせずに帰ってくれて良かったな)

 本来ならどうかと思うところだが、噂や実際に会ってみて、係わり合いになりたく無かったので特になにも無かっただけで良かったとレイフォンは思う

(今日の夕ご飯、リーリン何作ってくれるかなあ)

 片付けも終わり、既に今日の夕ご飯のことを考えながら都市へとレイフォンは戻って行く
 今までと何も変わらない日が続くと思っていた
 しかし、次の日、レイフォンは気付く。それは間違いだと
 天剣授受者、サヴァリス・クオルラフィン・ルッケンスの来訪によってレイフォンの日常は波瀾万丈に満ちたモノへと変わる
 今はまだ、そのことを誰も知らない

 
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