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コシ=ファン=トゥッテ

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第一幕その一


第一幕その一

                    コシ=ファン=トゥッテ
                     第一幕  変装をして
「いや、凄いだろ」
「いや、僕の方こそ」
 十八世紀のナポリのあるカフェに白いみらびやかな軍服を着た二人の若い軍人達が笑顔で言い合っていた。一人はすらりとしていて明るい顔立ちをしている。髪は黒くかなり癖の強く細いものである。目は黒くはっきりとした光をたたえている。全体的に整っている顔だ。
 もう一人は茶色の髪の背の高い男で顔はやや細長い。そして目の光は青だ。黒髪の青年に比べるといささか知的な印象を受ける。そして二人の間に黒い学者を思わせる服を来た白髪の老人がいる。彼はやけに知的な、それでいて意地の悪そうな黒い光を放つ目をしている。その顔は面長で端整であり学者然としているがそれでも何処か意地悪そうなものを漂わせている。彼はそのまま二人の話を聞いていた。
「ドラベッラの美しさといったら」
「フィオルデリージも」
 黒髪の青年が言えば茶髪の青年も言い返す。
「しかも貞淑で」
「おまけに操もあって」
「いやいや。それはどうですかな」
 しかしここでその老学者が笑って言うのでした。
「フェランドさん」
「はい」
 黒髪の青年が応えた。
「グリエルモさん」
「はい」
 今度は茶髪の青年が応える。二人に声をかけたうえでまた語るのだった。
「私は髪は白いですし人生は熟知している」
「ふむ。それで」
「どうだというのですか?」
「もうこの議論は止めましょう」
 笑って二人に言うのだった。
「これで」
「いやいや、ドン=アルフォンソ」
「それはどうでしょう」
 しかし二人は少しむっとした顔で彼に言葉を返すのだった。
「それを言い出したのは貴方ですよ」
「二人が浮気すると仰ったのは」
「証明ですか」
「そうですよ。見せてもらわないと」
「僕達は納得しませんよ」
 二人はなおも言うのだった。
「さもないと本当に」
「僕達も怒りますよ」
「またそんなことを」
「いえいえ、本当に彼女達が浮気するなんて」
「あまりいいとは言えませんよ」
 こう言ってまた顔を顰めさせるのだった。
「ではどうされよというのですか?」
「その証明を見せて頂ければ」
「二人が浮気するということを」
 彼等が問うのはこのことだった。二人も最早引くつもりはなかった。
「ですから是非共」
「それを見せて下さい」
「ではそれで宜しいのですか?」
「はい、それでどうやってですか?」
「まあ二人が浮気しないというのは確信していますよ」
「ふむ、それはいけません」
 だがこのグリエルモの言葉でアルフォンソの目に如何にも意地悪そうなその目の光がさらに光った。それだけを見ても何かありそうである。
「私はふざけてはおりません」
「ふざけていないと」
「そうです。ただ女性はです」
 グリエルモに応えて言うのだった。
「肉と骨と皮でできていて食事をしスカートをはきます」
「それは当然ですが」
「女性ですから」
 グリエルモだけでなくフェランドも言う。
「しかしそれがどうしたというのですか?」
「何を今更」
「女性は操を守るもの」
 アルフォンソの言葉は胸を張って何かを見るようなものになってきていた。
「果たしてそれが真実かどうか」
「ドラベッラに関してはそうですよ」
「フィオルディリージもですよ」
 二人はあくまでこう主張するのだった。
 
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