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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第183話

レギンスは腰を少しだけ落すと、麻生の目の前まで一瞬で距離を詰める。
この程度の動きと速度はある程度予想していた麻生は、全身に星の力を纏わせて、レギンスが振りかぶる右手の拳を左手で受け止める。
瞬間、麻生の両足付近の地面が凹み盛り上がる。
それほどまでにレギンスのただの拳による攻撃は相当な威力を秘めている。
星の力を身に纏っている麻生に大きなダメージはないが、この状態でなければレギンスの攻撃を受け止める事すらできないのが分かる。
続けてレギンスは左手の拳で麻生の顔面に向けて振りかぶるが、受け止めず首を横に傾げて避ける。
避けた時に腰を沈め受け止めた右手を引っ張り、さらに左足でレギンスの両足を払い、地面に向けて投げるように叩きつける。
星の力によるサポートのおかげで難なく投げられ、かなりの重量と叩きつけた威力が強いのか地面はクレータの痕ができる。

(手は緩めない。)

星の力を集めた右手でレギンスの顔面を地面と挟んで、押し潰そうとする。
今度はレギンスが麻生の右手を左手で掴み、足で麻生の腹を蹴り、そのまま後ろに投げる。
空中で受け身を取り、体勢を整えながらレギンスを視界から外さない。

(行ける。)

幹部級と名乗っていたがどうやら一番弱いと言うのは嘘ではないらしい。
こちらのペースに流れは傾きつつあったが、変化は突然だった。
全身に伸びていた血管は脈動を始め、駆動鎧(パワードスーツ)の色がどす黒い色へと変貌していく。
特殊な装甲で覆われた駆動鎧(パワードスーツ)は内側から内臓のような肉塊が噴き出し覆う。
もはや鎧という言葉が似合わない風貌へと変化した。

「ようやく馴染みました。
 さて、本番はこれからですよ。」

駆動鎧(パワードスーツ)から発せられる雰囲気や空気がガラリと変わった。
まとわりつく空気は冷や汗が流れるほどおぞましいモノに変化した。
再び腰が落すのを見て、構えをとった。
次の瞬間、レギンスの姿が消えたように見えた。
ギョロリと眼を動かす。
さっきとは倍以上の速度で麻生の横に移動したのだ。
限界まで引き上げた視力では移動する影を捉えるのでやっと。
レギンスは既に足を振り被っている。
今、避けようとしても確実に当たり殺される。
咄嗟に麻生は重力に干渉し、自分にかかる重力を数十倍に上げて無理矢理下に避ける。
無茶な体制で避けた事で脇腹や首筋の腱が切れる音、骨が折れる音がしたが歯を喰いしばって痛みを耐える。
続けて追撃が来るが、空間移動(テレポート)で飛び、距離を開ける。
レギンスに負わされた怪我ではないので、すぐさま治療する。

(探知結界と未来予測をしてやっと避けられるってところか。)

この麻生の言う未来予測は、周りにある物質の老朽化や状態などを観察して、この先何が起こるかを予測すると言うもの。
生物相手なら癖や挙動、筋肉の動きなどを読み取り行動を予測する。
レギンスを観察してまだ間もないが、しないよりましである。

「初めての駆動鎧(パワードスーツ)の装備ですからね、慣れない所がありましたがもう大丈夫です。」

そう言ってレギンスは両手を突き出し、一〇の指先を麻生に向ける。
そして、指先の装甲が開き、小さな銃口が確認できた。
一斉に火を噴く。
十発の銃弾が麻生に向かって飛んでくる。
弾丸の速度は並みの銃弾速度のおよそ一〇倍。
強化された目でわずかに確認できたのは、弾丸にも同じように血管が浮かび上がっていた。

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)ッ!!」

まさに神反応。
七つの花弁が展開され、銃弾を防ぐが、わずか一秒で花弁全て破壊されしまった。
麻生は目を見開き、銃弾は麻生の胸部を貫き、大きな穴を開けて貫通していく。
膝から崩れ落ちていく麻生だが、ボン!と音を立てて麻生は人の形をした紙へと変化した。
レギンスは全く慌てず、すぐさま状況を理解し、右の方に視線を向ける。

「人型の紙を使った変わり身ですか。
 あの一瞬でここまで防ぐとは中々ですね。」

称賛の言葉を送るレギンスだが、麻生自身も驚いている。
あの一瞬だが死を感じ、無意識に身体と本能が反応した。

(何とか防げたが。)

何となく悟った。
この男に二度同じ手で逃げる事はできない。
仮にも科学者の名を名乗っている。
こちらの手段を分析し、何かしらの対抗策を講じているだろう。
かと言って体術は相手の方が上、加えて遠距離の攻撃も持っている。
どれも麻生の攻撃を上回る。
はっきり言って積んでいる。

だが、それでも

(それでも、諦めるわけにはいかない。
 こいつら相手に諦めたくない。
 死ぬその時まで足掻いてやる。)

どうしてそう思うかは分からない。
心の奥底で誓いのように強い意志があった。
誰かの意思ではなく自分の意思。
だからこそ、諦める事なんてできない。

「良い目ですね。
 良いデータを出してくださいよ!」

肩の装甲が開くと何かが勢いよく飛び出す。
それはゆっくりと軌道を描き、麻生に向かってくる飛来物は小型ミサイル。
例の如く血管が浮かんでいるのを見る限り、魔術が掛かったミサイルなのは間違いない。
どうやらあの駆動鎧(パワードスーツ)は次々と兵器を生み出す兵器らしい。
ミサイルの速度もかなりのものだが、避けれない速度ではない。
数は五。
撃ち落そうと銃を創ろうとしたが。

「簡単に撃ち落させると思いますか?」

「ちっ!」

苛立った舌打ちをつきながら、星の力で創った剣でレギンズの腕と鍔迫り合う。
探知の結界と未来予測のおかげで何とか防げた。
弱点である星の力で創られた剣なのに、鍔迫り合いをしているのを見て住民から奪ったエネルギーを腕に集めて、膜を張って剣と鍔迫り合いを可能にしている。
こうしている間にもミサイルは接近している。

(仕方がない。
 あまり大規模な魔術や超能力は使いたくなかったが。)

麻生は左足で地面を強く踏む。
踏んだだけなのに地面は二メートルほど前に裂け、レギンズの右足は裂けた穴に嵌り体勢が一瞬崩れた。
それを見逃さず、胸の辺りに星の力を溜めたエネルギー弾を創りぶつけ、空間移動(テレポート)で退避。
何とかミサイルが接触する前に逃げれた、と安心したがミサイルは地面に着弾せず急に方向を変え、麻生に再び飛んでくる。

(俺に当たるまで追跡し続けるのか!?)

逃げる事は意味がないと知り、風速一五〇メートルクラスの風を周りに発生させミサイルの軌道を強引に逸らす。
両手を合わせ、片目を閉じる。
レギンズが余計な事をしないように、交信や攻撃を六次元まで遮断する結界を生成し封じ込める。

「天より轟く雷よ、我が認めし邪悪を一条の光となりて、眩い閃光と共に振り下ろせ!」

空は晴れ。
雨雲など一つも存在しない空に、雷の音が聞こえた。
音よりも早く五つの雷はミサイルに直撃。
天から降り注いだ雷は高密度の魔力が凝縮された雷の魔術。
何とかミサイルは撃墜した。
レギンスの様子を確認した時、麻生は息を呑んだ。
駆動鎧(パワードスーツ)の両肩と中心にある目から紫の光が放出され、三つの妖しい光はレギンズの前方に集まっている。

あれはまずい。

麻生の直感が今までにないくらい警報を鳴らす。
感じた事のない魔力と莫大な魔力が一点に集まっている。
がむしゃらに麻生は横へ逃げた。
逃げた瞬間、あらゆる音が消えた。
いや、消えたのではなくレギンズから発射された妖しい光の波動砲のようなのに音を持って行かれた。
光は行く手にある全てを呑み込み、地面を削り、直線状にある数百キロ離れた山にぶつかる。
そして、激しい爆発と光と衝撃波の三点が麻生を襲った。
両腕で顔を防御し、吹き飛ばされないように能力で支える。
ぶつかった山から数百キロ離れているのに至近距離で爆発を受けたような衝撃。
山は噴火したかのように極太の火柱を上げ、跡形もなく消し飛んでいる。
レギンスに視線を送る。
駆動鎧(パワードスーツ)から蒸気のような白い煙が噴き出す。

「ふむ。」

レギンスは視界に見えるモニターを見て、言葉を洩らした。
モニターには駆動鎧(パワードスーツ)の状態の検査や、エネルギーの残量など細かに表示されている。
今の波動砲は半分くらいのエネルギーを失ったのが確認できる。

(さすがにもう一発撃てばガス欠ですね。
 威力を抑えれば数発はいける、といったところですか。)

エネルギーの残量からできる戦闘手段をざっと浮かべ、麻生を注視する。
跡形もなく吹き飛ばした山の事などまるで気にしていない。
ミサイルを飛ばした箇所からガトリングガンのような形状の小銃が出現し、弾幕を張る。
麻生は弾丸を防ごうとせず、その場から姿を消した。

(また、空間移動(テレポート)ですか。
 それはもう通じませんよ。)



立っていた場所から約五キロほど離れた地点で麻生は立っていた。

(どうすればあいつを倒せる・・・・
 あのエネルギー砲はそう何度も撃てないはず。
 再び再装填とかに時間がかかるとするのなら、今倒さないといけないのに・・・)

焦る気持ちを抑えつつ、必死に頭を回す。
どうにかして状況を打破しなければならない、と考えていた。

避けろ、と。

急に直感が警告を出した。
迷わず従い横に跳んだ時、麻生が立っていた所に先ほどとは威力が衰えているが、同じ光の波動砲が通り過ぎた。
ギョッと眼を見開く。
光の波動砲は街から数十キロ離れた場所で爆発した。
さっきとは爆発も威力も格段に下だが、直撃すれば確実に死ぬのは変わりなかった。
それよりも麻生が動揺しているのは。

「どうして俺の居場所が分かった!?」

辺りには探知できないように結界を張っている。
念には念をと星の力も纏っていない。
なのにどうして?

(ともかくここから移動)

辺りに視線を向けると・・・・一〇のミサイルが建物の死角から飛び出してきた。

「しまっ!?」

ミサイルは麻生が空間移動(テレポート)するより速く、着弾する前に爆発し、麻生は爆風の中に呑まれていった。 
 

 
後書き
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