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Tales Of The Abyss 〜Another story〜

作者:じーくw
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#5 静寂に訪れる絶望




 サラとの幸せな時間。いつまでも、この幸せのままで。……時間が止まって欲しいとさえ思っていた時だ。

――……それ(・・)は突然訪れた。


『きゃあぁぁぁぁぁっ!!』


 この秘密の場所で 休息を取って1,2時間程経った後、だろうか。
 突然 静寂な時が打ち破られたのだ。静寂を打ち破ったのは、突然の悲鳴だった。

「っ! なっ なんだ!」

 アルは、突然の絶叫で体が跳ね起きる。今のが悲鳴と判断するのは難しくなかった。
 なぜなら……。


『うわぁぁぁ!!』
『ぎゃあああっ!!』


 最初の悲鳴の後も絶えず、聞こえてくるからだ。1人や2人じゃない。沢山の人の悲鳴が……。

「っ!! サラ起きろ!」

 アルは尋常じゃない事態だと、すぐさま、アルの膝を枕にして寝ているサラを揺さぶり、起こした。

「ん〜〜……」

 夢の中だったサラは、最初ははっきりと聞こえていなかった様で、目覚めた後もまだ眠たそうにしていたが、……更に続けて悲鳴が聞えてきた為、サラも数秒後には、すぐにはっきりと目が覚めたようだ。

「な…なにっ?おにいちゃん…… みんなのこえが……」

 突然訳が判らなくなり、咄嗟にサラは、アルの服をぎゅっと握り締めながらそう聞いた。

「わからない……今は、町へ戻ろう! 皆の所に」

 アルは、そのままサラを抱えて来た道を引き返していった。町の皆は自分の事を知っている。……ガーランドにだけじゃないのだ、助けられたのは。町の皆が、得体の知れない、と言っても良い自分自身を温かく受け入れてくれたんだ。
 
 だからこそ、何かが起きた今、不安で不安で仕方が無かった。

 サラが傍にいるから、その不安感を出す訳にはいかない。……それでも、頭の中では不安と混乱が渦巻いていた。 


 そして、あの中間ポイント、と認識していた少し開けた場所で、 先ほどの町の皆の悲鳴が起きた理由が判る事になるのだった。

 さっき通った時には、何も無かった。……ただただ、岩肌が続いているだけであり、本当に生き物すら居なかった筈、なのに……。


「モッ モンスター!!」


 目の前にいたのは、ここの岩から生まれたのであろう異形な姿を持つ者。……アルの身体は優に超しそうな泥人形、《ゴーレム》が数匹。そして、獰猛な牙をギラリと光らせ、針の様な毛を逆立てている狼、《ウルフ》が数匹がいたのだ。

「ひっ!!」

 町の外には基本的に出ない。鉱山の奥にも入らない。そんなサラは、モンスターなどとは縁の無い生活をしていた。その存在を見た事も無い。絵本の世界くらいでしか、見た事が無かった。
 絵本の様に、好感が持てる様なファンタジーな姿ではなく、敵意を、そして殺意を剥き出しにした姿は、本当にかけ離れすぎている。

 だからこそ、怯えていた。

 それに町の外へ行くなと、外には危険なモンスターがいるぞー! と親に脅かされていた存在でもあった。

「お、おにいちゃん……っ、こ、こわい……こわい、よ……」

 サラは、アルの手を強く握って、そして震えていた。今にも泣きそうなのに、泣けないし、動けない。突然の事で神経が麻痺してしまったかの様だ。


「大丈夫、サラ…… オレの後ろにいろ」

 アルは、咄嗟にサラを後ろにやり、魔物(モンスター)を彼女から遠ざけた。サラが目に入らない様にする為に、標的をサラに向けさせない様に。

 そうしている間にも、魔物(モンスター)の群れは、自分達を標的と、……獲物と見定めた様だ。低い唸り声と共に、姿勢を低くさせていた。
 
 ……今にでも、飛び掛ってくる。魔物(モンスター)独特の殺気も、感じられる。

 この感じが、臨戦態勢なんだろう。

(迂闊、だった……。 坑道の中にモンスターは、いると聞いていたが、町まで出てくるなんて……)

 確かにモンスターは、この町にも存在する。だが、それは、鉱山の坑道の奥の方だけだ。そこまで強力なモノはいないらしく、武器らしい武器が無くても、仕事道具で。そして、鉱山で働く男達だけでも十分撃退出来る為、町にまで入ってくる事は無かったそうだ。

 そう、これまで、町中にまで(厳密には此処は違うが)出てくることはこれまでに一度も無かった筈なのに。

(今、嘆いていても始まらない。 ……サラは、サラだけは絶対に守らないと。っ、だけど丸腰のオレに何ができる? 隙を見て逃げ出すか? しかし 敵の数が多い…… 何か無いのかっ!?)

 アルは、あたりを見渡す。だが、生憎此処は自然が作り出した岩の通路。しかし 武器になるような物は無く、自分自身も持ち合わせていなかった。

 そんな次の瞬間!

低い唸りを上げていたモンスター達が、咆哮を上げながら、一斉にが飛び掛ってきた。

「っっ!!」

考えが纏まる間のなく、待ってくれる事も無く、飛び掛ってくる群れ。

「く、そっっ!!」

 飛び掛ってきた1匹のウルフ目掛けてアルは、反射的に蹴りを放った。これまでで、身体を動かしたりはリハビリの過程でしてきたが、格闘に関しては皆無だ。そんな破れかぶれな攻撃だったけれど。
 1匹のウルフの丁度飛び上がり、頭から突っ込んできた為、その頭蓋に、カウンター気味に当たった。
 ぎゃん! と言う鳴き声を上げながら、倒れるウルフ。何とか、1匹には・・攻撃を当てる事が出来た。

 だが……。

 格闘の素人同然の者が、一度に複数の相手を出来る筈も無い。
 続けざまに、襲ってきた数匹の攻撃を躱す事はできず、その獰猛な爪と牙の連撃をその身体に受けてしまった。

「っぁ!!」

 これまでに受けた事の無い痛みが身体を襲う。痛覚と言う感覚信号が一気に脳に叩き込まれ、膝をつきそうになったその時だ、そのウルフ達の次は移動速度の遅いゴーレムがその豪腕を振り上げそのまま叩き付けた。

 ずがぁんっ! と言うこの小さな坑道内に鈍き響き渡る轟音。その根源たる力が、そのままアルに叩き込められたのだ。

「ぐぁっ!!」

 当然、防具などつけている筈も無い普段着の姿。
 アルは、そんな衝撃に、攻撃に身体が堪えきれるわけも無く、吹き飛ばされ、この坑道の壁に背中から激突した。

「ッ……ぁ……く……っ……」

 アルは、たった一撃で、体がバラバラになりそうな感覚に襲われていた。肺の中に詰まっていた空気が一気に吐き出され、内部を思い切り上へと持ち上げられた感じがする。……新たな空気を吸う事が出来ない。
 感じた事も無い感覚、痛み。それは、死を意識した感覚だった。

 アルが吹き飛ばされたのを間近で見たサラは……、その場から動く事が出来なかった。ただただ、涙を流しながら、アルの方を見て、手を伸ばしていた。


「おっ おにいちゃん……っ、お、おにいちゃんっ……!」

 サラは力いっぱい叫んだ。大切な、大好きな人があんなことになってしまったから。

 そして、当然の如く、その叫び声にモンスター達は反応する。今度は、標的を動けないアルでは無く、サラに変えた。いや、アルが飛ばされた事で必然的にサラが一番近い標的となってしまい、そのまま 変えられてしまったのだ。

「く……そっ……! さ、サラっ! に、 にげろ、にげるんだ……っ!」


 アルは、必死に叫ぶ。せり上がった肺に空気を無理矢理ねじ込むと、そのまま声として吐き出した。

『逃げろ』と。

 だが、その想いも届かず。

「あっ……ああっ……」

 あまりにも、ショックが大きいのかサラはその場で震えているだけだった。
 もう 数秒もせずに モンスター達は襲い掛かるだろう。……自分の時の様に、待ってはくれないだろう。

「た、たのむ、おねがいだ。……に、にげてくれ!サラぁぁっ!!」

 アルは、動けない身体にムチを打つ様に、気力で立ち上がろうとするが、全く身体が言う事を利いてくれない。自分の身体じゃないかの様に、まるで動けない。


――……絶望がすぐそこまで迫っていると言うのに。ずっと、ずっと、こんな幸せな時間が続けばいい。この温もりをずっと、と思っていたのに、こんな所で、全部終わってしまうのか?


 アルは涙を流しながら、サラへ声を、叫び声を掛け続けた。逃げてくれ、と。
 だが、絶望の方が早かった。

「お、おにい……」

 手を伸ばすサラ。……そして、獲物(サラ)に狙いを定めたモンスター達。
 後ほんの刹那の時間後に……、接触してしまう。

――……誰か、誰か助けてくれっ!

 もう、声も出なくなってしまったのだろうか。必死に叫ぶが、全く言葉が、声が出てこなかった。

「ッッ!!!」

 サラに届くか届かないかの刹那の瞬間。



 目の空間が……いや、目の前の《世界》が動きを止めたのだった。
 
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