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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter8「罪の証」


ティアナとのその日の午後の訓練をなのはと交代し隊舎に戻ったルドガーは今、とある事をデバイスマイスターのシャーリーに頼む為デバイスルームに向かっていた。その途中で2人の人物と会った。

「あっ、ルドガーさんどうしたんですかぁ?まだ訓練の時間ですよね?」

「ん?リインにシグナムか。珍しいなシグナムとリインが一緒に動いているのは」

「私がレヴァンティンのメンテナンスでフィニーノに用があってな、リインもデバイスルームに仕事が残っているとかで供に行く事になったのだ」

「2人もデバイスルームに用があるのか。奇遇だな」
奇遇と言う台詞を聞きどういう事か尋ねる。

「シャーリーに俺も頼み事があってさ」

「シャーリーに頼み事?もしかしてルドガーさん武器に関する事ですかぁ?」

武器という単語を聞くとシグナムが目を光らせる。とりあえず見なかった事にするルドガー。またやりすぎではやてからお咎めを受けたくはない。

「武器とは関係ないよ。俺の私物の修理を頼みたくて……」

「「私物?」」

腰に付けてあるポーチに手を伸ばし、中から包みを取出しそれを手であけて中身を見せる。

「金色の…懐中時計?」

「これはまた派手に壊れているな…いや壊されたのか?」

破損具合を見てどのように懐中時計が壊れたのか見当が付ける事ができるシグナムの洞察力にルドガーは流石だと彼女の評価を高める。表情に出ていたのかシグナムはルドガーに何となくそう思ったのだと告げた。

「まぁ、な…シグナムの推測通り壊されたんだ」

「そ、そうだったんですかぁ……こんな綺麗な時計を壊す人がリインには信じられません!」

「………」

“綺麗”と言う言葉に複雑な心境を抱いてしまう。この懐中時計は自分がクルスニク一族の証である事を証明する品だ。だがこの懐中時計は決して一族の証明と単純に時間を見る為の物ではない。今でこそ破壊されその能力を失ってはいるが、この懐中時計には大精霊クロノスがクルスニク一族に与えた力、“骸殻”を引き出す“鍵”だ。その力は精霊の力だけあって人知が及ばない圧倒的な力を使用者に与える上、正史世界から枝分かれした分史世界を、その核である“時歪の因子”を破壊する能力をも手にする事になる。分史世界を破壊しなければ正史世界に送られる魂の分量が枯渇し、正史世界が滅んでしまうが、骸殻能力者は唯一その危機から正史世界を救う事ができる為、これだけを聞くと骸殻能力者を救世主に思えてくる人間もいるはずだ。しかし事は複雑である。考えてもみれば一つの分史世界を破壊するという事はそこで生きる者達を、数えきれない命を奪う事になる。正史世界を守る事だから仕方のない事だとはいえ簡単に割り切れるものではない。ルドガーもその一人だ。
本当はこの懐中時計を修復する気はさらさらなかった。骸殻の力はもう自分には必要ない…世界を壊す必要はもうない。ならそれでいい……と最初はそう思っていた。だがそうしてしまえば自分が逃げ出してしまうという事に気付いてしまう。この懐中時計はルドガーの…クルスニク一族の業そのもの。捨てると言う事は同時に多くの命を奪ったという罪を忘れるという事になってしまう。ならばせめてその罪を忘れない為にもこの懐中時計は完全な状態で持っておきたい。修復して骸殻の力が戻るかはわからないが、それはもうルドガーにとってどちらでもいい事。ただルドガーは自分を戒める意味で持って時計を持っていたい……失った者達の時の進みを受け継ぐ事……それがルドガーの懐中時計を修復させる理由となった。

「丁度いい、2人供俺と一緒にデバイスルームに行かないか?」

「勿論ですよぉ~」

「私はかまわない。…ただこの後私と鍛練に付き合ってくれると嬉」

「行くぞリイン」

「あっ、ルドガーさん!」

シグナムの言葉を言い終える前にルドガーはデバイスルームに足を動かす。
リインも慌てルドガーについて行こうとする。

……厄介事にこれ以上関わる前に速やかにその場を去る……何という危険予測能力だろうか。

そして一人残されたシグナムは…………

「……人の話は最後まで聞くものだぞ、クルスニク」

視界に映るルドガーの背に恨めしい視線を送ると、シグナムも2人に合流する為足を動かす。

………気持ちはわからなくもないが、もう少しその騎士道精神は改めた方がいいのではと背後から感じる視線に思うルドガーだった。

--------------

「ヤッホーですぅ、シャーリー!」

「あれ?シグナム副隊長とリイン曹長にルドガーさんまで。どうされたんですか?」

シャーリーからしても珍しい面子だったのか物珍しそうな者を見るような目で突然訪れた来客を見ていた。
「忘れたかフィニーノ?昨日お前にレヴァンティンのメンテナンスをこの時間に頼んだはずだが?」

「あっ!」

目を見開き手で口を押さえるシャーリー。どうやら完全に忘れていたようだ。
そんな様子を見たシグナムは呆れた感じでため息を吐く。

「仕方のない奴だ……」

「あ、ははは、すみません!新人達の新デバイスの設計をしていたら時間を全く見てなくて、つい……」

「新デバイス?」

シグナムに誤っているシャーリーの言葉に興味深い単語が含まれていた事に気付き疑問の声をもらす。

「そう言えばルドガーさんは知りませんよね。実は今フォワード達4人の新しいデバイスを開発中なんです」

「へぇ」

シャーリーはカプセルに入ったそれぞれ2つのデバイスをルドガーに見せる。青いクリスタル型のペンダントと白いカードの中心に赤い×印の装飾が施されたカードがカプセルの中で浮遊している。これが例の新デバイスという奴なのだろう。だがここで新たに疑問が浮かんでくる。

「何で2つしかないんだ?」
そう、フォワードは4人にもかかわらずカプセルの中のデバイスは2つしか入っていない。

「ここにある2つのデバイスはスバルとティアナのデバイスですぅ。エリオとキャロのデバイスは2人がデバイスの使用経験が少ないので最低限の基礎フレームと機能だけで渡してましたから、中を少し弄るだけでOKなんですよ」

「どれも最新の技術を投入した最新鋭デバイスです!技術屋としては腕を奮わずにはいられません!」

「あまり暴走して可笑しな機能を加えるなよ」

「わかってますよ♪」

シグナムから待機状態のレヴァンティンを預かり、メンテナンスの準備に取り掛かりながらオモチャを与えられた子供のように楽しそうに話すシャーリーに本当に心からデバイス弄りが好きなのだとルドガーは感じていた。

「ところでルドガーさんはどうして此方にいらしたんですか?」

「ああ、実はな」

腰のポーチから包みに巻かれた懐中時計を取出しシャーリーに見せる。

「うわぁ…いい懐中時計なのにものの見事に壊れちゃってますね……もしかしてこの懐中時計の修理を私に?」

「察しがいいな、ああそうだよ。新デバイスなんて作ってる時にこんな私物の修理を頼むのも心苦しいんだけど、暇がある時にでも直してもらえないか?」

「ちょっとその時計貸してもらっても?」

そう頼まれシャーリーにルドガーは包み事懐中時計を渡す。シャーリーは懐中時計を掴み、全体を余すところなく見る。
その顔は完全に職人の物その物だった。

「んー…破損は酷いですけど、直せない訳でもないですね…材質は解析しないと分かりませんが、まぁ何とかなると思いますよ」

「そうか…それで修理を引き受けてくれるか?」

「勿論ですよ!てか引き受けなかったら私が八神部隊長に睨まれますか」

「はやてが?」

ここで出てくると思わなかった人物の名が出て来て目を丸くするルドガー。何故ルドガーの頼みを断ったらはやてに睨まれるのだろうか?

「え?八神部隊長とルドガーさんって付き合ってるんじゃないんですか?」

「…ちょっと待て」

予想を斜め行く答えが返ってきた。何処をどう見たらその答えにたどり着く?

「だってあんなに仲いいじゃないですか!八神部隊長があんなに異性と話すところなんて見た事もないですよ!」

それが本当だとしたらはやては余程男運がないのか、意図して男を避けているのかと思ってしまう。
後者はないが前者はあり得る。よく自分に冗談混じりで、デートに行こうだの自称超絶美少女(ルドガーからすれば笑)だと会う度に口にしている為、男嫌いという訳でもない。だとしたら自分にここまで献身的に面倒も見てくれないだろし、あのヴェルでも男嫌いではないのだ。
ただヴェルの場合は極度の顔には出ない上がり症で、それに直面した男性も健康食品顔負けの減量を発揮するという副産物付きだが………

「あとこの話は一部の六課の女性陣では大分話が広まってますよ?」

「早いなオイ、流石うら若き乙女のLOVEパワーって言うのか?」

「何だかルドガーさんオッサンくさいですぅ」

「いっ!?」

何となくこういう時はアルヴィンならこう言うんじゃないかと思ってアルヴィンの言いそうな事を想像して言ったらリインにオッサン呼ばわり……報復代わりにルドガーの心の中で今、アルヴィン=オッサンという図式が出来上がった。

----------------------

「な、何だ?」

「どうしたのアルヴィン?」

トリグラフの街並みで隣を歩いていたレイアとエリーゼが引きつった顔をしたアルヴィンを不審に思い声をかけた。

「何か今俺の預かり知らぬ所で俺=オッサンという図式が組み立てられたような気が……」

そんな謎の発言をしたアルヴィンに一瞬だけ目を丸くするレイアとエリーゼだか、暫くすると大爆笑。ティポに至っては地面に転がって笑い踊る始末。

「な、何で笑うお前ら!?せめてそこは何か言おうよ!?」

アルヴィンの必死のツッコミが入っても2人は笑うのを止めない。だがその中でティポだけが笑うのを止め、アルヴィンの顔の前で浮遊する。

「もうアルヴィンはー立派なオッサンだよねー!」

「うっせーよ!!」

-----------------------

「クルスニクがジジ臭いのはともかく、確かにここ最近の主はやてはどこか楽しそうにしていらしゃるのは確かだ」

「リインもそう見えるですぅ!ルドガーさんがオッサン臭いのはともかく」

「………」

暴言?の嵐の中に晒されてもルドガーは決して負けはしない。だって俺男の子だもんという心のスキルが彼の心を支えているのだ。

……そんなスキルあったか?

「かと言ってそう易々我らの主を受け渡す気はないがな」

「おーシグナム副隊長からまさかのウチの娘はやらん発言が!」

「…そういった立場からの物言いではないが、我ら守護騎士は主はやてに仕えその身をお守りするのが絶対なる使命……主に相応しい男を見極めるのも立派な責務なのだ」

「はやてちゃんがリイン達から離れて行ってしまうのはちょっと寂しいですけど、リイン達ははやてちゃんの家族ですから、その時が来たら喜んで祝福するですよ!それが祝福の風の勤めです!」

この2人のはやてに対する想いを聞いていると、心のそこから家族という物が羨ましく思えてきた。
自分は男ではあるが、もし自分が誰かと結婚する事になったらユリウスも今のようなシグナムとリインみたいな反応をするのかと想像してしまう。そう言えば分史世界のルドガーであるヴィクトルは大分親だったらしい。エルを溺愛しすぎてエルと結婚するなどと言っていた事をエル自身から聞かされていたルドガーも、自分にも子供---娘が出来たらヴィクトルのようになるのかと別の意味で心配になってしまう。分史世界の事だ…10年後のルドガーがそうなっていてもあり得なくはない。

「はやては幸せ者だな……ただその生涯の伴侶を見極めてくれる方が“障害”になってなかなか結婚出来そうに見えないんだけどなぁ」

腕を組み横目でシグナムを冷やかすような口調で話す。それを見たシグナムはルドガーが挑発している事に気付きわざとらしくそれ乗り始める。

「ほぅ、言ってくれるなクルスニク。お前も主はやての事を大切に想ってくれてるようだし、同じ剣の道を往く者の好で主の婿候補に加えてもいいんだぞ?」

「はっはっ!遠慮しておくよ。うっかり後ろからバッサリ斬られそうでオチオチ夜道も歩いていられなくなりそうだしさ」


「何だ、期待外れだな」

六課に来て三週間余りだが、朝の鍛練にたまに付き合っているルドガーはシグナムとこのような軽口を叩けるようにまで親密になっている。このまま行けば共鳴秘奥義をシグナムと行う事も決して夢ではない?

「じゃあシャーリー時計の修理をよろしく」

「任せてください!ついでに開いたら中から魔力弾を放てるように改造も加えますから!」

「いや、そんな事しなくていいから。普通で頼む」

冗談だと言うがシャーリーなら本当にやりかねないので、人選を間違えたのではないかと今更思い始める。返却された懐中時計が以前のままの姿である事を切に願う。

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デバイスルームを出てからは夕食の仕込みの為厨房へと足を進める。その途中でルドガーは部隊長室の前を通りそこで立ち止まってしまう。

(……シグナム達が変な事を言い出したから変に意識してしまうな)

別にはやての事は嫌いではないし、むしろ好きな方だ。だがそれは愛だの愛してますだのとは違いあくまで友達と同じような感じだ。

(顔も性格も生活面も理想の女の子って感じだしモテるはずなんだけどなぁ……)

その割りには男と付き合った事がないとは、この世界の男は意気地なしばかりなのだろうか?本人は胸が足りないなどと嘆いていたが男からすれば十分あると同じく男であるルドガーも素直に思う。

はやてにもし迫られたら……

(な、何考えてるんだ俺は!?)

いつの間にか確実に女性から軽蔑されるような事を想像する一歩手前まで来ていた事に気付き、辛うじて現実に戻る。今の心の声がシグナムやヴィータに聞こえていたら思わずぞっとしてしまう。そんな時だった。ルドガーが煩悩を振り払っていると部隊長室のドアが開き、中から人が出てきた。

「あれ、ルドガーやないの?どないしたんこないな場所で?」

「い、いや偶然通りかかってたまたま部隊長室のドアが目に入って、だから別にやましい事は……!」

墓穴を掘った。自分でも驚くほど動揺しているのがルドガー自身も身に染みるほどわかっている。

もうあれだ……滑稽すぎる。

「はぁ?ルドガー何言っとるん?…ん?やましい事?………まさか私に何かするつもりやったんか!?」

「ち、違う!誤解だ!」

自分で体を抱きルドガーから距離をとってジト目で見るはやてに、ルドガーはもう何を言っても信じてもらえないのではないかと確信に近いものを感じ始めた。

「そんな反応見せられたら余計信じられへんわぁ」

「うっ……」

予感的中。
おまけに完全にはやてに話の主導権を握られてしまい、下手にをそらす事すらできない。

(どうするルドガー!?)

こんな時こそ選択だ。幾つかの選択肢を頭に思い浮かべる。

しかし………


L1『はやてを襲う』R1『はやてを襲う』

(どっちも同じだし、破滅への道まっしぐらだろ!?)

いつか正しい選択なんてないのかもしれないなどと言っていたが、これは確実にアウトだ。
BADEND直行の片道切符を駅員に選べと言われるようなものだ。


もうオリジンの審判のへったくれもない。


「まぁルドガーも男の子やし?そんな衝動に駆られるんも仕方ないと思うよ?」

妙に納得したような言葉だが今のルドガーには生殺しに等しい言葉でもある。

「まぁせやけどこれだけは言わせてな?」

「 ? 」

ニッコリと笑う。そして可哀想な物を見るかのような視線を向けながらある事を口にした。

「このスケベ大魔王♪」

途端、ルドガーは崩れ落ちた。涙は流していないが、唯一黒い髪の部分まで全体が真っ白に見えあまりにも哀れな姿だ。そしてはやてに何か言う事があるかと聞かれた際彼はまるで何かに取り憑かれたかのように震えた口でこう答えた。


「俺は悪くねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


………何処かの聖なる焔の光が乗り遷った瞬間だった。


 
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