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神々の黄昏

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第一幕その六


第一幕その六

「かつては私と共に大胆に空を走り」
「空を」
「しかし私と共にこの馬は力を失い最早雲の間も雷光閃く嵐の中も勇敢に駆けることは適わないとしても」
 その言葉を続けていく。
「貴方の行くところに、炎の中でもグラーネは向かうでしょう。この馬は必ず貴方に従う」
「私に」
「そう、だからこの馬を」
「では私はその馬に乗り」 
 グラーネを見ての言葉である。
「そして戦いと勝利を得て来る」
「そうされるのですね」
「私はブリュンヒルテがいるからこそ勇気に燃える」
「では貴方は自分と私も中にいて」
「そう、私の行くところ二人もまたいる」
 こうブリュンヒルテに話す。
「では私の岩屋は今は何もなく」
「いや、私はここにもいる」
 ブリュンヒルテの今の言葉は否定した。
「ここにも。私は貴女の中にもいるのだから」
「私の中にも」
「そう、だから」
「では私達は離れていても誰も引き離すことはできない」
 ブリュンヒルテは恍惚として言った。
「そして別れていても別れてはいない
「ブリュンヒルテ、煌く星よ」
 そのブリュンヒルテにまた話した。
「輝く愛よ、幸あれ」
「ジークフリート、勝利の光よ」
 ブリュンヒルテもまた彼に言葉を返した・
「輝く生よ、幸あれ」
「二人に幸いあれ、永遠に」
 こう言い合いそのうえで別れてである。ジークフリートは剣を手に旅立った。その前には聳え立つ高層ビルが立ち並んでいる。そこに向かってグラーネに乗り今ライン河に乗り出した。
 ギービヒ家。豪奢な宮殿である。水晶のシャングリラが上にあり黄金で所々を飾られ見事な芸術品が並んでいる。絹のカーテンとビロードの絨毯に覆われたこの宮殿の中でとりわけ豪奢な部屋に二つの椅子が置かれている。 
 その椅子は横に並んで置かれており一方には男がいる。黄金の髪を後ろに撫で付け青い目をしている。見事なスーツを着ておりネクタイもしている。顔は端整で長身でもあるが何処か線が細く弱い感じがする。
 彼の隣には美女がいる。黄金の豊かな髪を持っておりその髪は腰まである。湖の澄んだ目をしており透き通る白い顔は人形の様に整い艶やかな紅のドレスからは見事な身体が覗いている。しかしその顔は何処か弱々しい。
 その二人、男の右手に黒い軍服とマントの長身の男が立っている。憮然とした顔をしており黒い髪を後ろになびかせている。そしてその右手に槍を持っている。身体は頑丈そのものでありその長身を余計に大きく見せている。その彼が立っているのであった。
 その彼にだ。スーツの男が声をかけてきた。
「ハーゲンよ」
「何だ、グンターよ」
 ハーゲンと呼ばれた彼も男に声を返してきた。二人はそれぞれ顔を相手に向けている。
「御前に聞きたいことがある」
「何をだ?」
「私がこのラインのほとりに幸福に無為に暮らしていてそれがギービヒの名を辱めてはいないだろうか」
「それはない」
 ハーゲンは重厚な声で彼に答えてきた。
「グンターよ」
「うむ」
「貴殿は正統な血を受け継いでいる」
「そのギービヒのだな」
「そうだ。私はそれを羨ましく思う」
 こう彼に語るのである。
「それが我等兄弟を生んだクリムヒルデの教えなのだ」
「いや、羨望するのは私だ」
 だがグンターはこう彼に返した。
「私はこの家の主にはなったが知恵を授かったのはそなただ」
「私だというのか」
「そうだ、義理の兄弟が争いが絶えず和解は難しいという」
 何も兄弟のことだけではないがだ。
「私は御前の助力にいつも感謝している。名を挙げるのにいつも御前の知恵を借りている」
「それは違う」
「違うというのか」
「貴殿の名声がまだ充分と言えないから」
 それは不足だというのだ。
「私の助力は称賛に値しない。何故ならだ」
「何故なら?」
「私はギービヒ家の手に入らぬ素晴らしい宝があることを知っている」
「その宝とは何だ?」
「ギービヒの家は夏の大樹の如く栄えているが」
 それでもだというのだ。
「だが貴殿は一人身でグートルーネにも夫はいない」
「そのことか」
「そうだ、そのことだ」
 話をさらに進めていく。
 
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