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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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After days
挿話集
  Caliber―器―




雷神トール。雷槌ミョルニルを携え、雷を操る巨人。
主神オーディンの子あるいは弟と言われ、アース神族第1の勇士。

これは、後にハンニャとリーファが皆に説明した話だ。

北欧神話にはちゃんと今回のこのクエストの元ネタがあるらしい。そこで、カーディナルシステムは今回のクエのサブルートにトール(フレイヤ)を配置したのだろう。

「卑劣な巨人めが、我が宝《ミョルニル》を盗んだ報い、今こそ購ってもらうぞ!」
「小汚い神め、よくもワシをたばかってくれたな!そのひげ面切り離して、アースガルズに送り返してくれようぞ!」

考えてみればスリュムも憐れな奴だ。フレイヤとの婚姻は本気で待ちわびていた訳だからな。

……とは言ってもフレイヤ自体も象徴するのは《愛欲》。そっち方面ではかなり自由奔放な○○だったらしいがな。本人だったとしてもどうだったかは分からない。


―閑話休題―


ショックで呆ける俺達だったが、常に冷静沈着なクール弓使い(スナイパー)シノンの一喝により、正気を取り戻した。

「よし、全力攻撃!一気に畳むぞ!」
「おう!!」

キリトの号令で全員が持ちうる大技を叩き込む。

「ぐ……ぬむゥ……!」

膝を着いたスリュムの王冠の周囲をきらきら黄色いライトエフェクトが回転している。

「今だ!!」

キリトの掛け声と共に全員が最大の連続攻撃を放った。色とりどりのライトエフェクトがスリュムを包み、HPバーを大幅に削る。

「ぬうゥン!地の底に還るがよい、巨人の王!」

トールの止めの一撃がスリュムのHPを削りきり、スリュムは地響きをたてて崩れ落ちた。

「ぬっ、ふっふっふっ……。今は勝ち誇るがよい、小虫どもよ。だがな……アース神族に気を許すと痛い目を見るぞ……彼奴らこそが真の、しん」

スリュムの言葉は最後まで続かなかった。トールが死に際のスリュムを踏み潰し、巨人の王は無数の氷片となって砕け散った。
やがて、雷神トールは遥かな高みから俺達を睥睨して言った。

「……やれやれ、礼を言うぞ、妖精の剣士達よ。これで余も、宝を奪われた恥辱をそそぐことができた。――どれ、褒美をやらねばな」

トールがハンマーから宝石を1つ外すと、それは光って小さな人間サイズのハンマーへと変化した。トールはそれをひょいっとクラインに投げ落とした。

「《雷槌ミョルニル》、正しき戦いのために使うがよい。……ハンニャ殿、アルセ殿」

トールは視線を俺の後方にいる2人に移すととてもNPCとは思えないほど気持ちのこもった声色で言った。

「また、借りを作ってしまったな。礼は次の機会にまたしよう。では――さらばだ」

トールが去り、幾つかの疑問が残ったものの、取りあえずは難関を突破したと言えよう。

「うーん……」
「どうしたよ、セイン」
「いや、いったいあの2人は何者なんだろう、って思ってね」
「……それは同感」

薄々感ずいてはいたが、ALOでは一般プレイヤーと古参プレイヤーの知識に深淵とも言える深い溝があった。一体、黎明期に何があったと言うのだろうか。

そんなことを考えていると、突如として世界が揺れ始めた。

「う……動いてる。いえ、浮いてる……!」
「キリト、早くエクスキャリバー抜かねえと、アルンがぶっ壊れるぞ!」
「そ、そうだった!」

まあ、あんだけの激闘すれば無理も無いんだが、危うくうっかりアルンを沈めそうになっちまった……。
部屋の奥に階段が生成されると、仲間達は次々と飛び込んでいった。

「……なるほど、そうゆう仕組みだったのか」

ハンニャがポツリと呟き、それに全員が耳を澄ます。

「そもそも神話でもスリュムヘイムの真の主はスリュムじゃない。《スィアチ》だ。んで、確かプレイヤー達にスローター・クエストを依頼してんのは……」
「……全く、憎たらしいわね」

ヴィレッタがムッスリとしながら答えるのに皆がそれぞれ同意した。やがて、広々とした空間に出た。

「あれか……」

かつて、一度だけ見た、究極の剣。荘厳な雰囲気をまとうその剣からは静かな迫力さえ感じた。
エクスキャリバーが突き出る氷の台座を全員で円を作って囲んだ。

キリトが一歩踏み込み、剣を抜こうとする。
が、

「ぬ……お……っ!!」

この中で筋力値が最も高いのは俺か、ハンニャだろう。しかし、彼は手伝う事はせずに静かにそれを見守っている。もちろん、俺もここで手出しをするつもりは毛頭無かった。
代わりに応援をする。

「ほら、気合い入れろ」

それを皮切りに皆が口々に声援を送る。やがて徐々に台座がひび割れ、一瞬の閃光の後、その流麗な長剣がキリトの手に収まった。

次の瞬間、氷の台座の中でエクスキャリバーが刺していた木の根――恐らく世界樹の――が急速に成長し始め部屋の中、いや、壁や床を突き破って伸び始める。

「……!スリュムヘイム全体が崩壊します!パパ、脱出を!」

キリトの頭上のユイが鋭く叫ぶが、降りてきた階段は真っ先に根に潰された。


―――分の悪い賭けだが……


ちゃき、と大太刀を引き抜き、逆手に持ち変える。

「脱出するぞ」
「え、どこに?」

壁のヒビが天井に達してパラパラと小さな瓦礫が降って来る。

「合図したらジャンプ。5秒前、3……2……1……今!!」

飛び上がった11人の足下を掠めるようにして大太刀で床を円環に撫でる。――着地。

そしてその衝撃で……。みしっ。綺麗な円にくり貫かれた床が底無しの穴、《グレート・ボイド》に向けて落ちて行く。勿論、俺達を乗せて。

「「のわあああああ!?」」
「「「きゃあああああ!?」」」
「な、何すんのよぉぉ!!」
「ははは。まあ、あそこで根っこにぷち、とやられるのはごめんだがな」

唯一余裕を保っているハンニャが俺の意図を解説してくれる。

ボイドに向けて確実に落ちていく中、俺は絶叫中のヴィレッタの方を向いた。

「おーい、ヴィレ……」

そこに居たのは普段の生意気そうな面をした彼女ではなく……

「うぅぅぅ……」

ケットシー特有の耳と尻尾をしゅんと萎えさせ、ガクガク震えながらアルセに抱きついている何ともまあ、可愛らしい姿だった。

ちなみに、抱きつかれているアルセは必死に笑いを堪えており、頬がピクピクしている。

(……こんなんじゃレックス呼んでくれなんて言えないな)

「うーん……」

ここでまさかのノープラン何て言ったら、間違いなく蘇生後にボコられるのは明白だ。

懸念と言えばもう1つある。キリトが現在必死に確保中のエクスキャリバーだ。あれは恐らく、生存した状態でウルズに再び会ってクエストの終了フラグをたてる必要がある。

リーファの持つタイムリミットまでの時間を表すメダリオンの光は幸い止まったようだが……。

「………ん?」

落下音の中に何か異質なサウンドを捉え、音源に向かって顔を向ける。リーファが立ち上がり、円盤の縁まで行って目を凝らしているようだ。


くおおぉぉーー……ん

グオオオオォォォォ………


遠く甲高い鳴き声と、雷鳴のような方向が南の空から聞こえてきた。

「………トンキーーーー!」
「………レックス!!」

2番目のは震えていたヴィレッタ。レックスの声が聞こえると、ピタリと震えるのをやめ、猛ダッシュで円盤の縁まで走ると、そのまま身を投げ出した。

「ちょ、ヴィレッタ!?」

恐怖の余り頭がおかしくなったのかと思ったが、次の瞬間、俺達はその意味を悟った。

「グオォォッ!!」

どん、という衝撃音と共に一瞬にして加速したレックスがその巨体を落下するヴィレッタの下に潜り込ませた。

「……乗るんなら早くしなさい。あまり長くは滞空出来ないんだから」
「りょーかい」

ハンニャ、アルセ、セイン、俺の順に飛び降り、無事に全員が乗り移った所でレックスは円盤の下方から脱出し、少し離れた上方で羽を調節して円盤と同じ速度になるようにした。

残るメンバーも次々とトンキーに乗り移り、キリトの番になったところで問題が発生した。

「……ちとマズイな」
「あれは、ねえ?」

ハンニャとアルセが微妙な表情をしながら見詰める先には、手に持つエクスキャリバーが重すぎてジャンプ出来ずにいるキリトが居た。

「ヴィレッタ……」

レックスを下に回せないか?と訊こうとした所で彼女も難しい顔をしているのを見て言葉を飲み込んだ。空気抵抗を考えると、レックスをこれ以上のスピードで下降させるのは難しい。

「キリト!」
「キリトくん!」

トンキー上のアスナ達が状況を理解し、切迫した声を上げる。

「先に俺が落ちて弾き返せ……ないか」
「2人で行けばどうかな?」
「やめとけ、キリ坊の後味が悪くなるだけだ」

やけくそ気味に代案を捻り出してみるが、ハンニャに押し止められる。

しかしキリトは1つ強く頷くと、エクスキャリバーを真横に投げ棄て、トンキーに飛び移った。
それを合図にトンキーが減速し、レックスまた速度を落とす。

「……また、いつか取りに行けるよ」
「わたしがバッチリ座標固定します!」
「取りに行くの、手伝うぜ」

アスナ、ユイ、俺が言うと、キリトは苦笑を浮かべて言った。

「……ああ、そうだな。ニブルヘイムのどこかで、きっと待っててくれるさ」
「ん、ニブルヘイム行くのか?死ぬぜ?」
「あれはマジやばだよ、キリト君♪」

おどけた調子で最古参2人に脅され、キリトが「げぇ……」と顔をしかめた所でシノンがすっ、と立ち上がった。

「――200メートルか」

呟き、続けて素早くスペルを詠唱。矢を白い光が包む。
弦を無造作に引き、エクスキャリバーの更に下方に向け、矢を射る。

弓使いの専用スペル《リトーブ・アロー》によって吸着力を付加された矢が漆黒の穴に吸い込まれ……

たぁん!と軽やかな音をたててエクスキャリバーに衝突した。

「よっ!」

シノンが右手から伸びる魔法の糸で一本釣りしたのは勿論、大間のマグロではなく、ALO最強の伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)《聖剣エクスキャリバー》だった。

「うわ、重……」

呟きながら両手でそれを保持し、くるりと振り向いたケットシー様に。

「「「シノンさん、マジかっけぇーーーーー!!」」」

全員の声が完全に同期して投げ掛けられた。








__________________________________







紆余曲折を経てエクスキャリバーは無事にキリトの元へ帰ってきた。
シノンがキリトにエクスキャリバーを渡す段階で色々あったのだが……空気が寒かったとだけ言っておこう。

イグドラシルの恩恵が戻ったヨツンヘイムは今までの凍てつく環境から暖かな風の吹く温暖なダンジョンに様変わりし、事情を知らないプレイヤー達はたいそう混乱したそうな。
それも《エクスキャリバー》入手とそれに伴う冒険譚が公開され、やがて鎮まった。

事後に起こった出来事として、その当事者たる俺達には各種族やギルドなどから勧誘が殺到。SAO時代のユニークスキル騒動にも勝るとも劣らないどんちゃん騒ぎが起こり、正直辟易した。

そんな俺達を驚かせたのはセイン、アルセ、ヴィレッタそしてハンニャの4人のあるギルドへの加入だった。新成アインクラッドのトップギルドにして大半が旧SAOプレイヤーを占める《オラトリオ・オーケストラ》。
何を血迷ったのか、迷宮区攻略から傭兵派遣、はたまたギルド間戦争の調停(鎮圧)まで請け負う、ちょっと薄オレンジなギルドと仲間内で言われている。
某副リーダー曰く「あのセルムブルクの城、いくらすると思ってんの!!」だ、そうだ。そんな理由で荒稼ぎするのもどうかとは思うが、俺達も21層ボスモンスターを倒すまでは《バーサークヒーラー》を中心にちょっと記憶に無いほど真面目に攻略をしたため、新規プレイヤー達の不評を買ってしまった事もある(今さら真面目にやるのも変だが)。

ここはまた後に語ろう。

ともかく、エクスキャリバーを手に入れ、ヨツンヘイムを元の姿に戻し、この突発的な冒険は終わりを告げた訳だ。


―数時間後―


エギルが経営する喫茶店兼バー《Dicey cafe》

エクスキャリバーとミョルニルゲット記念兼忘年会の場所は例のごとくそこを貸し切って行われる事になった。

「悪いな、いつもいつも」
「ったく、忘年会は想定しとけよ。急に言われたってろくなモンがねえぞ」
「まあまあ」

手提げに忍ばせてきた泡盛をゴトンとカウンターに乗っけてエギルを宥める。

「んで?結局、セイン達は来るのか?」
「来るのか、なあ?一応、場所は教えたが……」

何だかんだで初顔合わせになるため、セイン達は一様に難しい顔をしていた。
カウンターに座ってごそごそと作業をするキリトを眺める。店の四隅に設置された固定カメラとタイヤの付いた移動型カメラ。夏から研究していたプローブカメラの試作品だ。

「どうだ?」
「ん、一応いい感じだ。感度良好」
「後は見てくれか」
「それを言うなって……」

中身の(というとかなり語弊があるが)ユイは大して気にしていないようだが、流石に体がこんなゴツイものだと申し訳ない気持ちになる。

『だいじょーぶです、にぃ。こっちでも動くことが出来て嬉しいです!』
「さよか……」

その後、アスナ、クライン、リズ&シリカと集まってきて談笑が始まったとき。


―カラン……


「えっと、ダイジー・カフェってここですか?」

落ち着いた、春風を想起させる声と共に店に入ってきたのは、20歳ばかりの青年。近くにいる者の心を穏やかにしてくれるような、好印象の人物だった。

「いらっしゃい、セイン」
「……レイ?」
「おうよ。面は一緒だから分かるだろ?」
「……良かった。間違ってたらどうしようかと……」

順繰りに和人達も紹介していると……


―バタン!


勢いよく扉が開き、今度は長身の女性――とその脇に抱え込まれた珪子とそんなに変わらないであろう少女が現れた。

「ダイジー・カフェってここだよな?」
「……いらっしゃい、アルセと……ヴィレッタかな?」
「……あ、あたしは近く通っただけだし!それをこの不良女が拉致して……」
「あ゛ぁん!?」

ここで3人の外見を説明しておく。
セインは同上。服装が白を基調に薄めの色で飾ったごく普通の装いだ。
ヴィレッタはTHE今どきの女の子というようなカジュアルだが、下品な印象は受けない。

そしてアルセだが……。

「アルセ、もしかしてソレ、普段着?」
「んなわけねぇだろ。他所行き用だ」

だろうな、その昔ながらの特攻服。
白地の布の縁に赤のラインが施され、背にチーム名であろう漢字が書かれている。詳しくは知らないでおこう。

突っ込みどころは満載であったが、ハンニャは何時まで経っても来なさそうなので、始める事にした。

成人組のエギル、クライン、セインにシャンパン、未成年にノンアルコールドリンクが注がれ―――。

「祝、《聖剣エクスキャリバー》とついでに《雷槌ミョルニル》ゲット!お疲れ、2025年!――乾杯!」

「乾杯!」と唱和しながら俺は思う。俺は何をやっているのか、と。

普通の17歳の少年で、大切な仲間達と本心からこの雰囲気を楽しめれば、どんなに幸せだったか。

こんな気持ちにならずに済んだ筈だったのだ。

怒り、絶望、狂気の赴くままに日常を棄ててしまったあの日。

あの時、違う選択肢があったのでは、と思う。

同時に、あの選択をしなければ今の自分は存在しえないのも分かっている。




何処と無く、悟っていた。




自分の死期が近いことを。




寿命ではない。

狙われているのだ。何者かも分からない、正体の分からないヤツから。

隙を伺い、獰猛な猛禽の如く、俺を付け狙う、殺意。


1年前から時おり、最近は頻繁に視線を感じていた。

(……死にたく、ない)

心からの欲望。『生きたい』という原始的な欲求。


叶わなくとも、叶えたい。切なる願い。





「おーい、レイ!」
「……ん、悪い。何だ?」
「ダーツやろうぜ。……このままだとマジで全額奢る事に……」
「ん?おご……?」
「いいからいいから!真ん中当てろよ!」
「……何なんだ?」

受け取った矢を無造作に的へ投げ付け、思考へ戻ろうとして、止める。

和人がこっちを心配そうに見ていたからだ。

(……やれやれ)

お節介なのか、無意識なのか。

「敵わないよ、全く……」
「……何がよ。ど真ん中命中させといて」
「こんなんよゆーだ」

ぽかんとしながらも冷静な突っ込みをかます詩乃に軽口で切り返すと、さっきとは別の気持ちが芽生えた。




絶対に、諦めない。と
 
 

 
後書き
ULLR「長かった……。実に長かったよ」
レイ「お前がちんたら加筆しまくったり、他の作品読んでるからだろ」
ULLR「えー。だって他の作品の方が面白いんだもん」←オイ
レイ「死ねい……(グシャ)」

次回からは大本命マザロザ!
気合入れて頑張って行きますのでこれからも宜しくお願いします! 
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