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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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After days
挿話集
  Calibur―聖剣―

 
前書き
難産でしたorz 

 


顔面を狙って放たれる右ストレートを腕で払いのけ、肘を喉に突き立てようとする。
しかし、対戦者――アルセの右ストレートは囮だった。

「はぁっ!!」

左脇腹に決まった本命の拳が深くダメージを刻む。

「くぉ……!!」

やむなく、攻撃を中断してアルセの左腕を抱え込むと、力任せに下の水面に叩きつける。

(何処で『山突き』なんて荒技覚えたんだ……)

しかし、水はアルセを優しく包み込むと、彼女を再び空へ舞い上がらせた。
そう、現在レイが戦っている相手はアルセだけではなかった。先程の水を操る魔法はウンディーネのセインのもの。アルセが己に掛けている自己強化を更なる強化魔法でブーストしているのはヴィレッタだ。

「…………ッ!!」

天空から巨大な質量が降ってくるのを察知し、空中で鋭角にターンを決めると、それをかわす。

「グオオオオオォォォォッ!!」
「ちっ、そのまま潰れときゃいいのに」
「物騒だな……」

降ってきたのは何故か段々と巨大に成長しつつあるレックスとその背で器用にバランスをとるヴィレッタだ。
アルセの猛攻を再び凌ぎつつ、チラリと4対1の模擬戦の最後の相手であるハンニャの様子を伺い見る。
巨大湖の畔に立つレプラコーンは例のごとく濁酒を手に持ち、戦いの様子を傍観している。

(……やれやれ)

4人の中でもっとも実力の推し量れない仲間にため息を吐き、背中の大太刀に手を掛ける。


『蓮華刀・紅桜』


「『焔鎧・壱式、焔盾(ほむらだて)』」

ゴウッ、という音と共にアルセの拳と炎の壁が衝突する。


紅桜の強化上限を全て《エクストラ効果拡張》に費やした結果、『焔鎧』の強度向上は勿論、三種類の応用技も出現した。
元々チートぎみだったこの大太刀がさらにチート化したのは知り合いの2人の鍛冶屋のせいだ。
共にマスタースミスの称号を持つリズベットとハンニャが議論に議論を重ね、素材を厳選し、そこらの《魔剣》クラスのドロップ品では到底及ばない、プレイヤーメイドでは最強の剣を作り出したのだった(請求額は思い出したくない)。
現在、この剣とまともに切り結べるのは俺の知る限り、セラの持つ《ムラサメ》、サラマンダーの将軍ユージーンの《魔剣グラム》。
剣に『焔鎧』を纏わせることでこの2振りのエクストラ効果を無効化するというオマケ付きだ。

『焔鎧』の炎にはありとあらゆる事象を消し去るという能力がある。この解釈については後々語ろう。

アルセの拳を防いだ炎は益々盛んに燃え上がり、レックスのブレス、ヴィレッタの魔法を燃やし尽くす。

(……………っ!!)

後ろに気配を感じて感覚を頼りに大太刀で迎撃すると、その斬撃はクロスした二刀に防がれる。

「はぁっ!!」

それに構わず刀を振りきり、戦いを終わらすべく、『対集団用ソードスキル』を発動する。ソードスキルの実装に伴って新装されたOSS(オリジナルソードスキル)システム。

――4連撃、『デットエンド・バーン』

三次元全方位に剣閃が走った。





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「ふむ……。大太刀のOSSは4、5連が限界だな」

彼の場合、自分が作った剣技を付け足す作業のようなものだ。『無理な動きは出来ない』という前提があるため、動きが限定されてくるのがネックだ。逐次改良はしているが、感触的には4、5連のOSSがもっともしっくりくる。

だが、『改良』のためにいちいち吹っ飛ばされる4人(実害3人と1匹)は堪ったものではなかった。

「……つーか、あたし的にはそのOSSを作り出す根性が既に理解できんわ」
「同意ね。……メイジもオリジナル魔法とか作れないかしら」
「僕は《二刀流》スキルが消えちゃったのが残念だけどね」
「ははは。モノを作り出すってんのは中々いいもんだぜ?どうだいアルセ、短剣(ダガー)ぐらい見繕ってやろうか?」
「……考えとく」

話がひと段落した所で時刻は午前10時を回った。

「さて、そろそろ本日のメインイベントといきますか」
「待ってました!」

揃いも揃ったALO屈指の豪傑4人は何も的役ではない。
ヨツンヘイムの奥深くに眠る最強の剣、《エクスキャリバー》の獲得クエストに挑むのだ。








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時間は少々遡る。朝の鍛練を終え、部屋に戻ると携帯にキリトからメールが入っていた。

「ふむ……?」

何でも、エクスキャリバーを取りに行くから手伝ってくれ、という内容だった。

「まあ、良いか」

残念ながら沙良は昨日から何処かに出掛けていて、帰ってくるのは夕方になるはずで、参加は出来ない。
と、すれば……

「久々に連絡してみるか……」

螢はメーラーを立ち上げ、連絡先を挿入すると、少し楽しそうに文章を打ち始めた。






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ついでに先程の模擬戦をしたわけだが、全員(ハンニャは不明)が恐ろしく戦闘技術がパワーアップしている。もはや1人で相手するのは無理ゲーだった。

とにもかくにも、集合場所であるイグドラシル・シティ大通りに看板を出す《リズベット武具店》にやって来ると、キリト(の頭の上にユイ)、アスナ、リーファ、シリカ(とピナ)、リズベット、クラインそしてシノンが居た。

「おっす、来たぞ」
「ああ。悪いな、急に」
「大丈夫だよ。どうせ暇だったしね」
「同じく」
「別に……暇じゃないけど」
「素直じゃねぇなぁ……」

セイン、アルセ、ヴィレッタ、ハンニャが答え、初顔合わせだったシノン(ハンニャは除く)と自己紹介を終えた頃、キリト達の準備も終った。

道中キリトがふざけてシノンの尻尾を掴み、シノンの怒りのボルテージを意味もなく上げるという事態があったが、無事にヨツンヘイム直通の螺旋階段、その再深部にたどり着いた。

眼下に広がるのは凍てついた厳寒の世界。
目的地はその天井部に位置する氷の逆さピラミッドだった。

「ところで、レイ」
「ん?」

キリトが何やら心配そうな声色で声を掛けてきた。

「……俺達は『トンキー』に乗っていくが……アイツって7人までしか乗れないぞ?」
「ああ。大丈夫だ。ウチにはものすごいタクシーとその運転手がいる」
「誰が運転手よ!!」

自らの身長以上の魔法杖をレイの頭部に振り降ろそうとしてかわされ、逆に摘ままれて空中でホールド。

「持ち上げんなぁ!!」
「……………(ニヤ)」
「笑うなッ!!」
「……………(頬が痙攣)」
「うがああああっ!!」

女性陣の視線が痛くなってきたところでヴィレッタを開放(なお、アルセは腹を抱えて蹲ってぴくぴく動いていた)、俺をギロリと睨んだヴィレッタは体の向きを変えると、左手を掲げ朗々と呪文を詠唱し始めた。

呪文はそれほど長くはなかった。最後を『レックス』で締めたヴィレッタは掲げた左手を地面に叩きつけた。すると、手の位置から20数メートルの場所に黄色のライトエフェクトに彩られた魔方陣が現れた。

次の瞬間光が弾け、巨大な影がヨツンヘイムに現れた。

「グオオオオオォォォォッ!!」

力強い咆哮でヨツンヘイムを鳴動させるのは全長30メートルの巨躯を誇るヴィレッタの使い魔《レックス》だった。左右の羽を広げれば横の全長は計り知れない。

ほぼ同時に現れたトンキーもかなりデカイが、レックスと比べるとシェパードとチワワだ。
レックスを見たことのないシノンはクールな容貌に似合わず、目を丸くしていた。

「さ、タク……いや、脚は揃ったし、行こう」

氷った空気を砕くために、ヴィレッタに続き、自分もレックスに飛び乗る。
セイン、アルセ、ハンニャと続く間にキリト達もトンキーに乗り終え、一行は空中ダンジョンに向かっていった。




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空中を滑るようにして飛んでいくトンキー。一方、

―バキッ……

「おっと……」

力強く羽ばたく両翼に叩かれた水晶が粉々に砕かれ、あるものは地上に落下し、またあるものはこちらに飛んでくる。

「ほっ」
「たぁっ」
「うぃ、と」
「………………」

それらを次々と叩き落とす彼らに軽いデジャビュを感じていると、前方を飛んでいたトンキーが急下降し始めた。

「うわああああああ!?」
「きゃああああああ!」
「やっほ――――う!」
「いや、1人おかしいだろ………」

《スピード・ホリック》の異名を持つリーファに絶叫系のアトラクションにおいて女の子らしい反応を求めるのは無理な相談のようだった。

「……取り合えず、追うわよ」
「ああ。頼む」






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高度50メートル程で再び水平飛行に移行した。
レックスは巨大な大穴である《ボイド》の南縁付近を巡航し始めたトンキーの横に並んだ。

「おーい。どうした?」

何故か全員が唖然とし、固まっているので声を掛けてみると、キリトが地上を指しながら言った。

「ん、いや。下を見てくれ」

地上の風景はさして珍しいものでは無かった。種族混成パーティーによる《邪神》モンスター狩り。丁度、巷に知られている《エクスキャリバー獲得クエスト》は動物型邪神を狩りまくる、というスローター系クエストのだった。
しかし―――、

邪神狩りパーティーは30人規模の大規模レイド。それに巨大な人型邪神が随行している。
目下で象クラゲの邪神が消滅し、同時にハンニャとアルセが小声で呟く。

「ふぅん?なるほど。どうやら、人型邪神と協力して、てやつのようだな。……面倒だな」
「あいつら……。いや、知るわけないか」
「……ちょっと、何か知ってるの?」

ヴィレッタが目敏く聞きつけ、チラッと2人を見やる。そう言えばこの2人はALO最古参のプレイヤー達だ。何か知っているのだろうか?

「それは、あの人が説明してくれるんじゃないかな?」

セインの指差した先、トンキーの背にはいつの間にか巨大な影が有った。

「私は、《湖の女王》ウルズ」

巨大な金髪お姉さんは静謐な表情のまま、こう続けた。簡単にまとめるとこうだ。

《ニブルヘイム》の支配者の《スリュム》がエクスキャリバーを世界樹のの根っこにぶっ刺してくれたから、ヨツンヘイムはこんなんなのよ。
妖精さん、我が眷族(動物型邪神)が全部狩られる前にスリュムを倒してエクスキャリバーを要の台座から引き抜いてくれない?
さもなくばスリュムの城が地上まで浮上して《アルヴヘイム》がぶっ壊れますよ♪

……口調及び性格はウルズさんとかけ離れているが、内容はこんな感じだ。

壮大すぎる話に疑心暗鬼になる一行だったたが、俺には納得できる話だった。ALOはSAOと同じフルスペックカーディナルを登載している。
無論、シュリンク版《ザ・シード》には無い、《クエスト自動生成機能》、《マップ改変機能》が存在する。同じ説明をユイが全員に向かってしたことで、総意は決まった。

「はぁ……。全く、どえらい暇潰しになったねぇ、ハンニャ」
「同感だね。……これもまた運命か」
「だ・か・ら!!あんたらさっきから何なのよ!?」
「落ち着け、ヴィレッタ。……ハンニャ、何か知ってんのか?」

いきり立つヴィレッタを制し、ハンニャに問い掛ける。

「ん……いやなに。昔の因縁さ。……どうやら今回ばかりは怠けてばかりはいられない、って思ってね」

ハンニャの口調は穏やかだったが、いつも纏っているのんびりオーラが成りを潜め、代わりに刃のような鋭いオーラを纏っていた。
アルセも、普段が『動』だとすれば今は『静』。静かで深淵な闘気を感じた。

(『戦神(せんしん)』……マジもんだったようだな)

俺にその話をしてくれたセインも空気の変化を読み取ったのか、ブルリと体を震わせると、目付きを鋭くする。

「……ま、確かにアルンがぶっ壊れるのは困るわね」

ヴィレッタは自分なりに答えにたどり着いたらしく、話を自分から切ると、上昇し始めたトンキーにレックスを追随させた。






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氷の城《スリュムヘイム》にたどり着くと、早速難問が立ちはだかった。

「どうしよう、お兄ちゃん。入り口が無い……」
「前来た時はここが入り口……だったよな?」
「……間違いないよ。他の入り口もなさそう……」

門が空かない。付近に鍵開けイベントのフラグも見当たらない。
一体、どうすれば―――

不意に、ハンニャがキリトの頭の上のユイに話し掛けた。

「よぉ、ユイっち。この扉の奥には通路、あるか?」
「え?あ、はい。扉も、破壊不可能では無いようですが……。耐久値が異常に高く設定されています」
「ん、ならば良し。()()、やるぞ」
「了解」

ハンニャに応じたのは拳にメリケンサックを装着したアルセ。
ハンニャはウインドウを操作し、背に赤銅色の大剣を出現させ、柄に手を掛け―――、


―ズバァッ……


刹那、ハンニャの姿が掻き消えた。扉の前に赤銅色の()()を構えたハンニャが出現し、同時に氷の扉に無数の燃え盛る裂傷が浮かび上がる。

「ふぅ……」

そこにアルセがピタリと手を添え、グッと力を込める。


―ズドオオオオオン!!


(……いや、今のは……)


手を添えた後、目にも止まらぬ速さで掌底を数発打ち込んで扉全体に伝えていた。

割かし物理法則を遵守(モンスター等は例外)するタイトルであるALOはこの手のプレイヤーの技能を出来るだけ反映してくれるのだ。

「さ、開いたぞ。―――城攻めだ」

呆然としているキリト達に声を掛け、13人+1人+1匹はスリュムヘイムに突入した。







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《レーヴァテイン》と言えば、よく火焔界ムスペルヘイムの支配者スルトの振るう炎と同一視される剣だ。原典では形状が明記されておらず、剣の他に槍や弓矢、杖と言われている。
また、スルトの炎がレーヴァテインだという説は存在しない。レーヴァテインに関する記述としては『道化神ロキが鍛え、女巨人シンモラが保有する』とあり、シンモラの夫がスルトであるため、彼がレーヴァテインを扱うという話が出てきたのだろうと推測される。

「………とまあ、そんな剣なのさ」
「……分かったから、働いてくれ」

一層のボスであるサイクロプスは現在死に際のバーサークモード。序盤にアホみたいな火力で反撃の隙も与えずにゴリゴリHPを削った結果、ものの5分で既に残存ケージは1割だ。

ハンドアックスによる連続叩き潰しをきれいに回避すると、腰をひねって大太刀の水平切りを胴に叩き込む。衝撃波とノックバックで両者の距離が離れると、その間に飛び込んだキリト達残りの前衛の全力攻撃が降り注ぐ。
色とりどりのライトエフェクトがボスから迸り、数秒の硬直の後その巨体を消滅させた。

「タイム的には上出来じゃねぇか?」
「いや……。階層毎に強くなってくのを考えると、あまり余裕は無さそうだ」

クラインの楽観的な発言も分からなくないペースではあったが、未踏破ダンジョンは何が起こるか分からない。

「大丈夫。まだペースを上げる余裕はあるよ。私達ならきっと行けるよ」
「やってみなきゃ分からないわ。早く行きましょう」

アスナ、シノンがナーバスになった空気を払拭し、一行は次層への階段を降りていった。







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二層を突破し、現在は三層のボス部屋だ。ミノタウロス型のボスは2体一組のボスで、体色と応じて攻撃耐性が異なっていた。
金色は物理耐性が高く、黒色は魔法耐性が高い。当初は強力なな魔法攻撃力を持つヴィレッタを軸に金色を集中的に攻撃していたが、どうやら二匹の間には強固な絆が有って魔法耐性が高い黒がその盾になりに来て、その間に金色はHPを回復させてしまう。

逆もまた然りで、戦いはじり貧に成ってきていた。


灼熱の劫火と厳寒の疾風が部屋に吹き荒れる。金ミノのHPが一気に削られ、残り3割を切った。

すかさずアスナが攻撃魔法を放つが、支援系のメイジである彼女の攻撃はあまり通らなかった。

「まったく……」

立ちふさがる黒ミノのバトルアックスを上方に弾き返し、金ミノへの突破口を開くが、後方に大きく退避していた仲間達でその隙を突けるのはスピード型のシリカ、クラインのみ。

バランス型のリーファやセイン達はもう一歩の所でその隙を突くことが出来ない。


黒ミノが体勢を立て直し、後方の2人に向かって突進するが、このパターンはもう経験済みだったので危なげなく回避出来ていた。

「ヴィレッタ、金ミノだけ狙うのは出来ないのか?」
「やれない事はないけど、この距離から《氷炎地獄(インフェルノ)》レベルの致死ダメージを与えるとなると速射は出来ないし、直線型の魔法に限られるからその間に黒ミノが立ったら終わりよ」

さらに言えばヴィレッタを軸に何時までも戦っていると、ヘイトがヴィレッタ集まり過ぎてしまうというのもある。
前線ではHPを回復させた金ミノが黒ミノと入れ替わり、またもや状況が悪くなっている。

「残る手だては……」

苦肉の策として思い付いたのは決して良策とは言えないものだったが、時間が無いのもまた事実。

「シノン、合図したら属性付きの射撃スキルで金ミノを攻撃してくれ。硬直時間は気にしなくていい」
「了解」

シノンが頷くのを確認すると、一度キリトだけ呼んで作戦を伝える。レイドリーダーは一応コイツだしな。

「みんな!!こうなったら手は1つだ。ソードスキルで畳み込むぞ!!」
「おっしゃ~!!その言葉を待ってたぜキリの字!!」

前線でクラインがそう言うと、他の仲間達も大きく頷く。

「シリカ、カウントで《泡》頼む。――2、1、今!!」
「ピナ、バブルブレス!!」

丁度大技を繰り出そうとしていた金ミノはバブルブレスで数秒スタンして硬直する。

「ゴー!!」

号令と同時にキリトチームの面々が金ミノにソードスキルを炸裂させる。その隙を突き、俺、セイン、アルセ、ハンニャが金ミノを突破して奥の黒ミノに肉薄する。

金ミノの攻撃に参加しなかった理由は極単純。この4人はソードスキルを使わなくても十分な火力を擁するからである。
そもそも、セインの二刀、アルセの拳にソードスキルは使えない。

ハンニャも剣が《変幻自在》という特殊性ゆえ、ソードスキルを使えない剣なのだそうだ。
しかし物理攻撃力に関してこのメンバーに不足はない。

「レーヴァテイン《シェイプ・チェンジ》、《大剣(グランデ)》!!」

ハンニャが両手剣だったレーヴァテインを肩に担いで叫ぶ。すると、刀身がズン、と巨大化し視界にギリギリ収まるというレベルの巨剣と化した。

(……振れるのかよ?)

刃幅の3分の1は氷の床にめり込み、明らかに重量はとんでもない事になっている。
そんな心配に応えるように、アルセが自己強化のスペルを唱えながら巨剣の切っ先に移動する。
そして、一瞬力むと―――、

「たあっ!!」

―バキン!!

「「げぇ……」」

並んだセインとあまり上品ではないうめき声を上げてしまうが、仕方がないだろう。

アルセが刀身に向かって繰り出した90°真上への蹴り上げの威力で20メートルはあろうかという巨剣が持ち上がり、その大きさに相応しい円運動を伴って黒ミノに振り下ろされる。

途中、天井を少し削ったにも関わらず、頂点を過ぎた巨剣は重量+重力+筋力の破壊力を纏い、黒ミノの巨体を切り裂いた。

「グオォォォォォォッ!?」

回復しかけたHPがギュン、と消滅し残り1割りも切った。

(物理耐性が高くないにも関わらず、アレを耐えきったのは流石はボスってか?)

反撃しようとするボスの目に突如氷柱が突き刺さり、一瞬スタンする。

術者はセインだった。基本攻撃力では上回る俺に追撃をさせ、自分はその援護をする。
一瞬の合間にその場に最適な戦術を取れるプレイヤーはALO広しと言えど、そう何人も居まい。


自然と口元が緩み、その顔に不敵な笑みを浮かべる。右手だけで持った大太刀の先端を黒ミノに向け、肩の後ろに引き付ける。

カタナカテゴリ単発重攻撃《崩天突》

プレイヤーメイド最強を誇る剣の切っ先がボスの首を容易く貫通し、とどめを刺した。






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ほぼ同時に戦いを終えたキリト組でキリトが使用した、《左右の手でそれぞれ使う片手剣》における、システム外スキル《剣技連携(スキルコネクト)》がどうのこうので、クラインが騒ぎ、キリトが説明を渋るというどっかで見たような光景が繰り広げられていたが、時間も時間なので次の層へと攻略を進める。

お次のボスは巨大な百足巨人。幸い物理耐性はさほどでは無かったため、全員の大技でフルボッコにし、残すボスは《スリュム》本人という所で判断に迷う―――というより無視できない光景に出くわした。

氷の檻に囚われた美女。肌は色白で長く流れる髪は深いブラウン・ゴールド。体を申し訳程度に覆う不思議な形状の布から垣間見える胸部のボリュームは―――まあ、あえて語らないでおこう。

一言、みんなはまだ(多分)成長するから諦めないように。


「お願い……。私を……ここから、出して……」

(罠だ……)

と、全員が思ったに違いない。無視を決め込もうと歩き出した俺達だがしかし、自称武士道を貫く男――と、書いてまれにアホと読む――、クラインが居合い系ソードスキルで檻を叩き壊し、檻を開けてしまった。

「……ありがとう、妖精の剣士様」
「立てるかい?怪我ァねえか?」
「ええ……、大丈夫です」

よろける美女を紳士的な手つきで支え、クラインは更に尋ねた。

「出口まではちょっと遠いけど、1人で帰れるかい、姉さん?」

だが、その質問がこのルートの正解のキーワードらしく、金髪美女はこう言った。

曰く、一族の秘宝がスリュムに盗られたので取り返しに来たら捕まってしまった。どうか一緒に連れていってくれないか?
というような内容を女性的で上品な口調で言った。で、

紆余曲折の果て、俺達の新しいお仲間の美女、フレイヤがスリュム戦に同行することになった。

「ははん?そーゆーシナリオか……」
「ん?知ってるのか?」

解説のハンニャさんが訳知り顔でニヤリとするのを発見した俺は振り向いて訊ねる。最後方にいる俺達の話を聞いている連中は居ない。

「いや、ネタバレはやめとく。……1つ、罠じゃなくて当たりだったことぐらいだな」
「……それだけで十分安心さ」

ハンニャはレーヴァテインを背負い直すと少し足早になって歩を進める。

(……何を、焦っているんだ?)

このクエストが始まってからハンニャとアルセに対して幾度と無く感じた違和感。この時レイはその理由を知る由も無かった。






 
 

 
後書き
『キャリバー』はハンニャとアルセが無双する話。

いつかやるかもしれない外伝のフラグ的なスタンスでいきます。 
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