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銀河英雄伝説~その海賊は銀河を駆け抜ける

作者:azuraiiru
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第三十六話 主導権


帝国暦 490年  1月31日   ポレヴィト星系  エーリッヒ・ヴァレンシュタイン



帝国軍フェザーン方面侵攻軍がポレヴィト星系に集結した。戦闘用艦艇は十二万隻を超えるが補給、工作船、輸送、病院船などの支援用艦艇も五万隻を超える。参加将兵においては二千万を超えるという大軍だ。ラインハルト自身これだけの大軍を運用するのは初めての事だろう。帝国軍にとっても同様のはずだ。

これから総旗艦ブリュンヒルトで作戦会議が開かれる。全くなあ、こんなところでやるんならフェザーンでやれよ。パーティなんかで時間潰すんじゃない。どうもチグハグな感じがする、もっとも声に出したことは無い。ヒルダに言われているからな、注意しないと……。しかし声には出せないからその分鬱憤が溜まるわ。宮仕えなんてするもんじゃないな、疲れるだけだ。戦争が終わったらさっさと辺境に帰ろう。

ブリュンヒルトの会議室に集まったのはラインハルト、ヒルダ、シュトライト、リュッケ、ミッターマイヤー、ロイエンタール、ビッテンフェルト、ファーレンハイト、アイゼナッハ、ルッツ、ミュラー、そして俺とメルカッツ。他の艦隊は司令官だけだが俺の所は参謀長が一緒だ。まあ俺はお飾りだからな。

しかし良いのかね、この席順。コの字型にテーブルと席が並んでいるけど中央にはラインハルト、ヒルダ、シュトライト、リュッケが座っている。ラインハルトから見て左手には俺、メルカッツ、ファーレンハイト、アイゼナッハ、ミュラー。右手にはロイエンタール、ミッターマイヤー、ルッツ、ビッテンフェルト。

席順からすると俺は帝国軍の中でもかなり上位に居る事になる。ロイエンタール、ミッターマイヤーと同等ってところだ。階級でいうと上級大将クラスという事だろう。まあメルカッツが居るからな、俺を下位においてはメルカッツも下位に置くことになる。それでは皆が遣り辛いという事かな。

帝国軍はフェザーンを占領して以来、同盟軍の情報を収集している。その中で俺の気に入らない事が二つある。一つは同盟軍の戦力だ、連中は五個艦隊を用意したらしい、艦艇数は約六万隻。元々有った第一、第十三艦隊の他に新設の第十四、第十五、第十六の三個艦隊だ。原作より一個艦隊多い。イゼルローンを奪われてから同盟は軍備増強に力を入れてきたようだ。艦隊司令官は十四がモートン、十五がカールセン、十六がホーウッド。

ホーウッドは第七艦隊の司令官だったが帝国領侵攻作戦で捕虜になっている。捕虜交換で同盟に戻って艦隊司令官に返り咲いたということだろう。しかしどう見ても敗戦が待っているとしか思えないこの状況での艦隊司令官就任は余り嬉しくはないだろう。内心ホーウッドは涙目になっているかもしれん。可哀想な奴……。

会議が始まるとミッターマイヤーが立ち上がって発言を始めた。
「このポレヴィト星域からランテマリオ星域にかけては有人惑星が存在しません。民間人に累をおよばさぬためにも反乱軍はこの宙域を決戦場に選ぶ以外にないでしょう。小官は確信を以てそう予想いたします」

彼方此方で頷く姿が有る。だが俺は頷けない、どうにも嫌な予感がする。目の前にあるグラスを睨んだ。会議が始まる前に用意されたグラスには水が入っている……。イゼルローン要塞を落した事は予想以上に影響が大きいのかもしれない。同盟の兵力増強だけじゃない、迎撃計画にも影響を与えた可能性が有る。だとすれば原作とはかなり違った展開になるのかもしれん……。

ラインハルトが立ち上がった。
「卿の見る所は正しいと私も思う。反乱軍はここまで耐えてきたが人心の不安を抑えるためにも近日中に攻勢をかけてこざるを得まい。我が軍は彼らの挨拶に対し、相応の礼を以て報いることとしよう。双頭の蛇の陣形によって……」

どうしてこう帝国軍人てのはカッコつけた言い方をするかね。ラインハルトだけじゃないよな、他の奴も妙にカッコつけた言い方をする。簡単に迎撃するぞで良いだろうに。変に飾り立てるから皆が興奮する。戦争なんだからもっと冷静になれよ。煽られて興奮するなんて門閥貴族の馬鹿共と一緒だろう。頭に来たからもう一度目の前のグラスを睨んだ。そうじゃないと冷笑しそうだ。

「黒姫の頭領はどうお考えですか?」
「……」
質問してきたのはヒルダだった。俺の方を窺うような表情をしている。頼むよ、俺に自愛しろって言ったのはそっちだろう。何で面倒に引き摺り込もうとするんだ。まあ作戦会議だからな、懸念事項が有るなら言えって事だろうが、気が進まない……。

「何か有るのか、これは作戦会議だ、遠慮はいらない」
ラインハルトが俺に発言を促してきた。提督達の視線が俺に集中する。……しょうがないな。
「同盟軍が出撃してくるとは限らないと思います」
俺の言葉に会議室がざわめいた。

「しかしそれでは有人惑星を見捨てる事になるが……」
ロイエンタールが視線を厳しくして問いかけてきた。親友の意見を否定されて面白くないらしい、自信満々の見立てだったからな。しかしな、面白くないのはこっちも同じだ。
「無防備都市宣言をしていますよ、攻撃しますか?」
俺の指摘に皆が困惑した表情を見せた。

俺の気に入らない事の第二がこの無防備都市宣言だ。無防備都市宣言、戦争もしくは紛争において都市に軍事力が存在していない地域であると宣言することで敵による軍事作戦時の損害を避ける目的で行われる。つまり武力が無いから攻撃するのは反則だよという事だ。

原作ではランテマリオ星域の会戦前に同盟の諸都市が無防備都市宣言を出したという記憶は無い。だがこの世界ではフェザーン方面の有人惑星は殆ど出しているようだ。これが何を意味するのか……。各星系が独自の判断で出したのなら良い、しかし同盟政府の命令で出しているとしたら……。

「反乱軍は我々をもっと奥深く引き摺りこもうとしている、そういう事か」
ラインハルトの表情が渋い。いや、皆の表情が渋くなっている。先年の同盟軍による帝国領侵攻を思っただろう。あれはやられた方にとっては地獄だからな。想像するだけで悪夢だ。
「私には何とも言えません。ただ同盟軍が出てくるとは限らない、そう思っています」

原作では同盟は帝国軍が同盟領内に侵攻してくるとは考えていなかった。帝国がイゼルローン、フェザーンの二方向から攻めて来るとは考えていなかったのだ。これまで通りイゼルローン要塞での攻防戦に終始すると想定していた。その所為で帝国がフェザーンを占領した時にはパニックになってしまった。フェザーン方面の星域を同盟側に引き留めるためにはランテマリオで決戦せざるを得なかった。

だがこの世界ではどうだろう。内乱終了後の時点ではイゼルローン要塞は帝国側に奪還されていた。つまり帝国軍の同盟領侵攻は既定の事だったという事だ。当然だが同盟軍はそれを前提に迎撃計画を練ったはずだ。同盟の戦力が原作より一個艦隊多い事もそれを裏付けている……。

ラインハルトが可能性は有るなと呟いている。嫌な予感がする、俺は過小評価していたがこの世界ではトリューニヒトが失脚した。つまり軍内部におけるトリューニヒト派は原作ほど大きな勢力を持っていないのかもしれない。実際統合作戦本部長はクブルスリーのままだ。

そしてヤン・ウェンリーがハイネセンに居る。原作ではイゼルローン要塞に居たため一前線指揮官でしかなかったがクブルスリーもビュコックもヤンを高く評価している。この世界で同盟軍の迎撃計画の立案にヤン・ウェンリーが関わっていないと言えるだろうか。関わっているとすれば単純な正面決戦による防衛戦を挑んでくるとは思えない……。

結局会議はとりあえずランテマリオまで進んでみようという事になった。何ともあやふやな話だ。さっきまでの昂揚した雰囲気はきれいさっぱり消えていた。決戦を想定して布陣も決めたが原作と殆ど変りはない。俺の持ち場はビッテンフェルト、ファーレンハイトと一緒に予備だ。大いに結構、決戦なら俺の出る幕は無い、黙って見ているだけだ……。

帰り際にミュラーと一緒になった。ミュラーは不安そうな表情をしている。
「エーリッヒ、どうなるかな」
「さあ、どうなるかな。とりあえずランテマリオまで行ってみるしかないね」
馬鹿げているな、俺もあやふやな事しか言えない。ウンザリしたがウンザリしてばかりもいられない。

「ナイトハルト、頼みが有る」
「何だ?」
「これから先、私が卿に協力を求めた時は断らないで欲しい」
「……」
ミュラーが足を止めじっと俺を見ている。俺も歩くのを止めてミュラーを見た。
「頼むよ」
「……分かった」
「有難う」

ミュラーと二人、無言でブリュンヒルトの廊下を歩く。主導権を取れずにいる、取った様に見えるが取りきれずにいる、そう思った。だが同盟が主導権を取ったとも思えない。お互いに主導権を握るために駆け引きをしている、そんなところか……。俺の予想が正しければ作戦面で少し同盟が有利かな。しかし戦力の多寡で互角、いや未だ帝国が有利か……。どちらかが主導権を握った時点で戦局は動くだろう、油断は禁物だな……。



帝国暦 490年  2月20日   ガンダルヴァ星系  ウルヴァシー    エーリッヒ・ヴァレンシュタイン



「結局反乱軍は出てきませんでしたな」
「……そうですね、出てきませんでした」
俺が答えるとメルカッツは頷いた。旗艦マーナガルムの艦橋の空気は重い。同盟領に攻め込む時に有った浮き立つような空気は綺麗に消えている。ちょっとぐらい上手く行かなかったからって落ち込むなよ、全く。勝ち慣れて逆境に弱くなってるんじゃないのか。

ランテマリオで肩透かしを食らった後、帝国軍本隊はガンダルヴァ星系第二惑星ウルヴァシーに向かった。惑星ウルヴァシーは宇宙服などの装備が無くとも人間が生活できる居住可能惑星なのだが同盟による植民活動はされていない。惑星開発の企業が開発を失敗したため放置されていたらしい。もったいない話だよな。

帝国軍がここに来たのは気紛れではない。帝国はこの星に半永久的な軍事拠点を築くつもりだ。全同盟領が帝国の物になった時、惑星ウルヴァシーは武力反乱や海賊行為を働くならず者達を鎮圧するための拠点となる。もっとも原作ではラインハルト暗殺未遂事件が起きロイエンタール反逆という悲劇の起点になった。まあ場所は悪くないんだ、フェザーンとハイネセンの中間あたりにあるからな。この世界ではオーベルシュタインの影響力は小さいしラングも居ない。多分、惑星ウルヴァシーは役に立つだろう……。

一昨日、イゼルローン方面から出撃したキルヒアイス率いる別働隊もウルヴァシーに合流した。惑星ウルヴァシーに集結した帝国軍の兵力は艦艇二十万隻、将兵二千万を超える。同盟軍の三倍以上の兵力がここに集結している事になる。見渡す限り艦ばかりだ。

「反乱軍は何を考えているのでしょう」
ゾンバルトが問いかけてきた。こいつは大分俺に慣れてきた様だ。当初有った気まずさは余り感じられない。
「さて」
俺がメルカッツに視線を向けるとメルカッツも“フム”と言って考え込んだ。

「常識的に考えればハイネセン付近でこちらを待っているという事になりますが……」
今度はエンメルマンがこっちを窺いながら話しかけてきた。反乱軍がランテマリオに出ないと予想したのは俺だけだからな。どうやら皆、俺がどう考えているか知りたいらしい。あるいはこの艦隊の出番が有るかどうか知りたがっているのか……。

同盟軍は出てこなかった。帝国軍の目論見は外れたわけだが問題はこれからだな。同盟軍の迎撃作戦、その全容はまだ把握できずにいる。大体の人間はエンメルマン同様、首都ハイネセン付近での艦隊決戦を想定しているようだ。こちらを出来るだけ引き摺りこんでから叩く。おそらくは補給を断った後に叩くのだろうと考えている。

「一筋縄ではいきませんからね」
俺が答えると皆が頷いた。少しの間沈黙が有った。皆が俺を見ている。しょうがないな、もう一言か……。
「場合によってはかなり無茶をする事になるかもしれません、覚悟だけはしておきましょう。何時でも出撃できるだけの用意はしておいてください」

皆が顔を見合わせている。そしてメルカッツだけは俺を見ていた。

「前に出るのですか」
作戦参謀のクリンスマン少佐が問いかけてきた、皆の表情が緊張している。
「……まあ、念のためです」
何とも遣り辛い、そう思った時副官のリンザー大尉が躊躇いがちに
「頭領、そろそろブリュンヒルトに行く時間ですが」
と声をかけてきた。ナイスアシスト! いや、ホント助かったわ、どうも遣り辛くていかん……。



帝国暦 490年  2月20日   ガンダルヴァ星系  ウルヴァシー    コルネリアス・ルッツ



「ここは一気にハイネセンを突くべきだ。そして反乱軍を撃破する。それが最善の策だ。周辺星域を制圧してからハイネセンへ向かう等迂遠以外の何物でもない!」
声を上げているのはビッテンフェルト提督だ。

「ここまで来た以上、焦るべきではない。反乱軍の狙いはこちらを引き摺りこんで疲労のピークを狙うという事だ。周辺星域を制圧して安全を確保しつつ進むべきだろう。前に進んで後ろで騒がれては堪らぬ」
こちらはワーレン提督だ。この二人、士官学校では同期の筈だがここまでタイプが正反対というのも珍しいだろう。

先程から総旗艦ブリュンヒルトの会議室では今後の方針を巡って会議が開かれている。会議室の空気は決して良くない、本来ならランテマリオで決戦の筈だった。そこで勝てば後は怖れるものなど無かった筈だった。だが反乱軍は出てこなかった。その事が皆を苛立たせている。

「それでは先年の反乱軍と同じになるではないか!」
「あれは帝国軍が焦土作戦を採ったからだ、同一に考えるべきではない」
今度はケンプ、シュタインメッツの二人だ。誰かが溜息を吐いた。先程から同じ主張を繰り返している。何の進展も無い事にウンザリしているのかもしれない。

ローエングラム公は会議が始まってから無言を通している。何時もの公に似合わぬ態度だ。普通なら積極的に会議をリードして結論を出すのだが……、公も迷っているのかもしれない。その事が会議を常にも増して混乱させている……。

キルヒアイス、ロイエンタール、ミッターマイヤーの三人も無言だ。本来ならローエングラム公が会議をリードしない以上この三人と総参謀長が会議をリードしなければならない筈だ。しかしリードしようとはしない、時折黒姫の頭領に視線を向けるだけだ。彼らだけでは無い、皆がチラチラと頭領を見ている。先程発言した四人も発言しながら頭領に視線を向けていた。皆が頭領を気にかけている。

しかし黒姫の頭領は討議に参加する様子を見せない。時折小首を傾げたり天を仰いだりする。またはローエングラム公に視線を向けるときも有る。我々の討議を聞いているのかどうか……。前回の作戦会議の時と同じだ。まるで会議に関心を示さず、最後に総参謀長に促されて意見を述べた。誰もが想定しなかった意見だが現実は頭領の想定通りになっている。一体何を考えているのか……、多分俺だけではあるまい、皆が同じ疑問を持っているはずだ。

「黒姫の頭領、頭領はどうお考えですか?」
総参謀長の言葉に皆が頭領に視線を向けたが頭領はそれを気にする様子を見せなかった。そしてローエングラム公に視線を向けながら
「公、御気分が優れないのではありませんか?」
と問いかけた。

皆が愕然としてローエングラム公を見た。公は表情に困惑を浮かべている。
「先程から拝見するにどうも熱でもあるのではないかと思うのですが……」
「ラインハルト様」
頭領とキルヒアイス提督の言葉に公が自らの手を額に当てた。思い当たるフシが有るのか、皆が顔を見合わせた。

「いや、そのようなことは無いと思うが……」
「しかし、頭にカスミが掛かったような感じがするのではありませんか? どうも考えがまとまらない、いや考えるのが億劫かもしれませんが……」
ローエングラム公が困惑している。我々に視線を向けるが戸惑っているような視線だ。

「済まない、黒姫の頭領の言う通りだ。どうもおかしい、考えることが出来ない。卿らに迷惑をかけてしまったようだ」
ローエングラム公が謝罪の言葉を言うと今度は皆が困惑と恐縮を表情に浮かべた。確かにいつもとは違う、常に有る覇気が無い。頭領が先程から気にしていたのはこれだったのか……。

「これだけの大軍を率いるのです、何処かで疲れが溜まったのかもしれません。今日はゆっくりと御休みになる事です」
「頭領の言う通りです、ラインハルト様」
「しかし、今後の方針を決めねばなるまい」
ローエングラム公は何処となく不本意そうだ。或いは病人扱いされる事が嫌なのかもしれない。

「その状態では無理です。それに今すぐ決める必要性も有りません。一旦作戦会議は打ち切りたいと思いますが如何ですか」
前半はローエングラム公に対しての発言だが後半は我々に対する問いかけだった。皆が声に出して、或いは頷く事で賛成した。ローエングラム公もやむを得ないと思ったのだろう、“分かった”と頷いた。

「球型コンテナがフェザーンから来るはずです。その護衛をどうするかだけ決めておきたいと思います」
頭領の言葉に皆が頷いた。二千万人の一年分の食糧の他、植物工場、兵器工場のプラント、資材等が二百四十の球型コンテナに収められている。重要極まりない補給物資だ。

「六個艦隊を護衛に使うべきかと思いますが如何でしょう」
皆が頭領の言葉に驚いた。ローエングラム公も”六個艦隊か“と口に出している。俺も驚いている、一個艦隊も送れば十分かと思ったが……。
「同盟軍は五個艦隊、六万隻の兵力を所持しています。劣勢にある軍が補給を断とうとするのは戦争の常道です。彼らが全兵力を投入しても守れるだけの戦力を用意するべきかと思います」

なるほど、確かにそうだ。
「なにより補給を断たれれば帝国軍は短期決戦を強いられることになります。それは避けるべきでしょう」
「黒姫の頭領は短期決戦には反対かな」
ビッテンフェルト提督が問いかけた。声が硬い、頭領が短期決戦に反対だと思ったのだろう。だが頭領はそうではないというように首を横に振った。

「同盟軍にそれを強いられるべきではないと言っています。一気に敵の首都を突くか、ゆっくりと攻めるかは我々が決断する事です、敵に決めさせられる事では無い」
「なるほど、主導権か……」
ローエングラム公の言う通りだ。頭領は主導権は我々が握るべきだと言っている。ビッテンフェルト提督も頷いている、納得したのだろう。

「同盟軍の姿が見えない事、目に見える戦果が無い事で不安かもしれませんが焦る事は有りません。不安なのは同盟軍も同じです。何と言っても三倍以上の敵を相手にするのです。容易な事では無い」
「……」
何人かが頷いた。

「我々に今出来る事は同盟軍に隙を見せない事です。まず補給を万全にし長期自給を可能にする。逆にここで補給を失えば帝国軍に隙有りと同盟軍を勢いづかせる事になります。それを防ぐために六個艦隊を動かす……。同盟軍がそれを知れば帝国軍に隙無しと不安を一層募らせるでしょう。作戦会議は補給を万全にしてからで良い」

殆どの人間が頷いている。皆納得したらしい。確かに反乱軍の姿が見えない事で少し焦っていたようだ。地に足を付けて戦えという事か……。思わず苦笑が漏れた。手強いな、黒姫の頭領は相変わらず冷静で強かだ。反乱軍も頭領の強かさには手を焼くだろう……。



 
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