| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epic12とうとうアイツがやって来た~Wheel of FortunE~

 
前書き
Wheel of Fortune/運命の輪の正位置case2/急展開! 望み通りの展開?思いもよらない展開? どちらにしても、その運命的な流れは止まらない。 

 
†††Sideルシリオン†††

習慣となっているはやてへの授業を終えて一緒に昼食を摂っている最中、昨夜のことを思い返す。なのは達と共に戦った鬼。これが結構な強敵だった。ユーノとすずかのバインドという協力の下、私やなのは、フェイトの全力砲撃を10発以上着弾させてボコボコにした後、カートリッジっぽいのを4発とロードしたアリサのフレイムウィップという炎の鞭(もはやシグナムの火龍一閃だったな)で、ジュエルシードを強制停止させた。そしてジュエルシードに一番近かったアリサがなんとそのまま封印した。

(少なくともアリサでもジュエルシードを封印出来るだけの魔力を持っている、ということだな)

最低でもAA+ランク。すずかもそれくらい有ると見ていいだろう。問題はそれだけじゃない。先日、ゲームセンターで起こったジュエルシードの暴走。あれを発端として、管理局がこの事件に介入してくることになったんだ。おそらく近日中にアースラが来る。となれば、ジュエルシードを集めるのが苦しくなるのは私とフェイト組だ。

(そんなフェイトは今朝、1つ封印し、そしてなのは達も1つ封印したな)

フェイトの封印した物こそが、都市部において暴走するはずだったジュエルシードだ。なのは達が封印したのは、サッカー少年のジュエルシードだ。大樹暴走には至らなかったようだな。これでなのは組が6つ。フェイト組が4つ。私が10。残り11個。場所は知れている。
だが、少々場所がイレギュラーなところもあり、隠れて封印しに行くのはかなり難しい。一応、魔力探査で鉢合わせしないようにも出来るが、いちいち気を張って魔力を使うのも面倒だ。とまぁそんな厄介な状況だが、それをひっくり返す解決法が1つある。だがそれをやると、完全に彼女たちに恨まれるな。

(ま、それが一番いいんだろうけどな・・・)

正体を知られず、ただひたすらに戦場へ向かい、戦い、勝ち、救い、消える。

「はぁ・・・(だと言うのに、フェイトと会うとどうしても気に掛けてしまう)はぁ・・・」

最低でも9つのジュエルシードをフェイト達に回収してもらいたい。前回の契約時では、足りないと言っていたその数でプレシアは事を強行した。だからここ何度かのジュエルシードの封印を彼女たちに任せたんだが、結果は芳しくない。今さら先の次元世界の歴史通りに進めようとするのもおかしな話だが。

「なんやルシル君。2回も溜息なんて吐いて。食事時にそーゆうんは良うないと思うよ?」

「あ、すまない。少し考え事していた」

悩んでも仕方ない。とりあえずは彼女たちの状況だけは確認しておくか。サーチャーの魔術、イシュリエルにステルス効果を持たせて彼女たちに付けておけばいい。イシュリエルから得られる情報を基にジュエルシードの回収を行おう。

†††Sideルシリオン⇒????†††

(くそっ。なんなんだよっ! ジュエルシードってさ! フェイトは良くやっているじゃないかよ! なのに、なんで!)

目の前に在る大きな扉の中から聞こえてくる「きゃあ!」フェイトの悲鳴に、気が狂いそうになる。その元凶はフェイトの母親、プレシア・テスタロッサ。そしてここ、“時の庭園”っていう移動庭園の主。
グランフェリアの情報からジュエルシードを知って、フェイトに回収を頼んだ・・・ううん、命令した張本人。だからアイツに言われたとおりにフェイトはジュエルシードを回収して来たじゃないか。そりゃ全部じゃないけどさ。だからってあんな・・・鞭で打つことないじゃないか!

(もう、やめておくれよ・・・!)

“時の庭園”の中央部、玉座の間からはフェイトの悲鳴と鞭でフェイトを打つ音が止まらない。フェイトへの酷い仕打ちは今に始まったことじゃないけど、でも今回のはあんまりだ。それらから逃げるようにあたしは自分の耳を塞いで、ギリギリ歯を食いしばる。
そんな中、ドクンと心臓が跳ねた。この感じ、奴が来た。バッと顔を上げて、廊下の先へ目をやる。やっぱり居た。「グランフェリア・・!」こっちに向かって歩いて来る、あたしから見りゃ化け物のような女が。

「・・・酷いわね。この悲鳴、フェイトのものよね」

「なんであんたが。もう来ないって話じゃ・・・いや、そんなことはどうでもいい。なあ! あんたなら止められるんじゃないのかい!? プレシアをさ!」

グランフェリアに駆け寄って胸倉を掴み上げて、期待はしないけど言ってみた。どうせ断るんだろうって思ったけど、グランフェリアは「いいわよ」そう言って、プレシアの部屋へ入って行った。あまりにあっさりと開く扉。あたしはグランフェリアの背中に隠れるようについて行く。玉座の間の中央には、「フェイト!!」が魔力のロープで吊り下げられていて、そんなフェイトを鞭で叩く直前の体勢のままでいるプレシアが居た。

「グランフェリア・・・!?」

「・・・グラン・・フェ・・リア・・・?」

「久しぶりね、プレシア、フェイト。・・・プレシア。ジュエルシードの回収を行うその子を痛めつけても意味はなく、かえって滞るだけよ。もう止しなさい」

グランフェリアは何も無いところからアノ黄金の槍を取り出すと、フェイトを捕えている魔力ロープを断ち切って、力なく倒れ込もうとしてたフェイトを片腕で抱き止めた。

「家庭の事情にまで口を出すなんて。情報屋として逸脱しているのではなくて?」

「承知の上よ、プレシア。アルフ。フェイトを連れて行きなさい」

「えっ、あ、ああ!」

グランフェリアからフェイトを受け取って、あたしはグランフェリアとプレシアに背を向けてその部屋を後にした。そこからフェイトの部屋に向かって、傷の治療を行う。リニスが居なくなる前から用意してもらっていた塗り薬。打たれた個所を薬で塗ると、「いっ・・!」フェイトが小さな悲鳴を上げる。

「フェイト。ちょっと痛いかも知れないけど、我慢しておくれよ」

「うん・・・ごめんね」

「あたしの方こそごめんよ。もっと早く助けてあげれば・・・」

玉座の間の扉。アレが開けられないって思ったのは、あたしの心の問題だったんだ。グランフェリアのように押せばちゃんと開くのにさ。馬鹿だね、あたしは。腫れあがった個所に薬を塗り終えて、包帯を巻く。

「よし。終わったよ、フェイト」

「ありがとう」

「ほら、少し休んだ方が良いよ」

フェイトをベッドの上に寝かせて布団を被せるけど、フェイトは「休んでられない。母さんが待ってる」って起きようとする。でもここ最近、あたし達は結構大変な目に遭ってて、疲労が蓄積してる。少しは休まないといつか壊れる。そうならないために、1時間でもいいから寝てほしい。だから寝かせようとフェイトの肩に手を置いて、起き上がらないようにする。

「邪魔するわ」

「「グランフェリア・・・!」」

そんな時に聞こえてきたアイツの声。入口を見れば、グランフェリアが扉の側の壁にもたれかかっていた。まったく。気配を感じる時は怖いくらいに感じるのに、感じない時はホントに感じないなんてね。

「プレシアから依頼を受けたわ。ジュエルシード探索に、この私も参加するように、と」

「「え・・・?」」

グランフェリアの口から、あたし達にとって願ってもない話が飛び出した。

†††Sideアルフ⇒なのは†††

「それじゃあ、なのは。今日は悪いわね」

「ごめんね、なのはちゃん。ジュエルシード探し、手伝えなくて」

「ううん。バイオリンのお稽古、頑張ってね」

放課後、バイオリンのお稽古があるアリサちゃんとすずかちゃんと学校で別れて、私はひとりジュエルシード探索に向かう。今朝早く、運よく登校途中に1つ見つけることが出来て、みんなで一緒に封印することが出来た。これで6つ。それでもテスタメントちゃんの10個には届かない。フェイトちゃんはどれくらい集めたんだろう・・・?

「フェイトちゃん。テスタメントちゃん・・・」

ジュエルシードを巡って今は敵対しているけど、もっとお話しして、友達になりたい子たち。けどまずはこの争いをどうにかしないと始まらないと思う。だからジュエルシード探索をする。途中でユーノ君と合流して、気になる所を回って意識を集中させて魔力を探る。
3か所くらいを探した後、「たぶんここだよ、ユーノ君」辿り着いたのは海鳴臨海公園。まだ覚醒してないジュエルシードの気配がする。ある程度見て回って、一際強くジュエルシードの気配を感じる、夕日に照らされた海沿いの道を歩く。

「近い・・・。ユーノ君、お願い」

首から提げてる“レイジングハート”を手に取る。

「うんっ。封時結界!!」

ユーノ君が結界を張ってくれたのを確認。“レイジングハート”を起動して、バリアジャケットに変身する。それとほぼ同時、目の前に現れるジュエルシードを取り込んだ大樹が姿を現した。うん、大丈夫。あのお猿さん達や昨日の鬼に比べれば、どうってことない。

「いくよ、レイジングハート。ユーノ君は離れてて!」

「大丈夫。サポートするよ!」

そうだったね。私とユーノ君、一緒に戦うって決めていたんだもんね。樹が枝や根を伸ばして来たから、飛行の魔法フライヤーフィンで空に上がる。ユーノ君はすばやく移動して避ける。樹は一番近いユーノ君じゃなくて、私に標的に絞ったみたい。空に居る私に向かって枝を伸ばしてきた。それを避けながら、“レイジングハート”を向けて・・・

「ショート・・・バスタァァァーーーーッッ!!」

≪Short Buster≫

練習して発射速度を上げたディバインバスターのバリエーションで、迫って来ていた枝を壊す。そのまま樹へと向かうけど、地面から生えてきた根の壁に防がれちゃった。

(あの根が厄介だ。砲撃を撃っても防がれちゃったら意味がない・・・!)

だったら「レイジングハート!」ディバインシューターを6基、周りに展開する。砲撃は大威力でジュエルシードを休眠状態に戻すことが出来るけど、その分、魔力の消費が大きいから連発は出来ない。だから消費も少なくて色んなことに応用できるシューターで、「シューット!」樹の本体を護る根や枝を引き離さないと。シューターは順調に壊していって、樹本体への道が開いたところでもう一度・・・。

「いっっっけぇぇぇーーーーーッッ!!!」

――ディバインバスター――

決まった。そう思ったけど、樹がガサガサ降らした無数の葉っぱがカーテンみたいになって、砲撃を拡散させちゃった。

「なのは!」

「え・・・あっ!」

今までに何度も見たのに、確信を持った一撃を防がれて所為で呆けちゃった。だから樹が伸ばしてきた束になってる枝に反応するのが遅れちゃった。でも“レイジングハート”が魔力のバリア、プロテクションを張ってくれたおかげで大事は免れた。

(ディバインシューターを操作して・・・!)

プロテクションを破ろうと押し続けてくる枝の束をシューターで打ち破った。一度距離を取って、樹の動きをよく観察する。根で盾を作って、枝を伸ばして、葉っぱでも盾を作る。

「っとと・・・」

鞭のようにしならさせて来た枝を上昇することで避ける。もう一度シューターを6基と展開、「シューット!」樹に向かって撃ち放つ。枝で弾き返そうとしてきたけど、操作してそれらをかわして樹の本体へ向かわせるけど、やっぱり根の盾で防がれた。

『なのは。結構厄介だ。応援を呼んだ方がいいかも知れない』

『応援って。アリサちゃんとすずかちゃんはお稽古だし・・・!』

『あー、そうか。こういう時に限って出てこないな、テスタメントって子は』

『それに、フェイトちゃ――っ!?』

ドクンと心臓が跳ねる。とてつもなく嫌な感じがして、空を見上げる。雷雲が空に渦巻き始めて、ゴロゴロ鳴り始めた。なんだろう、すごく嫌な雲。そしてピカッて光ったと思えば、「きゃぁぁぁああああああ!」雷雲から雷が落ちた。

「いったぁぁ・・・」

雷が近くを通って行ったから、耳鳴りが酷い。あと目もチカチカしてるし。目をこしこし擦って、ようやく視界が戻ったら「フェイトちゃん、アルフさん・・・!」の姿を捉えた。地面を深く抉っているクレーターの中心に、フェイトちゃんとアルフさんが佇んでる。
さっきの雷。フェイトちゃん達が降りて来たことで起こったものなんだって知る。でも「フェイトちゃん・・・?」に近寄れない。なんていうか近寄れる雰囲気じゃない。そんなフェイトちゃんに向かって、樹が枝や根を伸ばして攻撃し始めようとした。

「ジュエルシード・・・回収する。バルディッシュ」

≪Scythe form≫

――サイズスラッシュ――

“バルディッシュ”を振るったフェイトちゃんがそれらを一瞬でバラバラに斬り裂いた。そのままその場で一回転して、「アークセイバー!」その魔力の刃を飛ばして樹の枝数本を斬り飛ばす。それでも樹は無事な枝を杭のようにフェイトちゃんに向けて伸ばして来たんだけど、

「フェイトちゃん!?」

「っ、この・・・!」

――プロテクション――

フェイトちゃんは避けも防ぎもしないで佇んだまま。代わりにアルフさんがバリアを張って防いだ。けど枝はアルフさんのバリアを打ち破って、「うぁあああああ!?」アルフさんを弾き飛ばした。それなのに、フェイトちゃんは何も言わずに飛び上がって、フォトンランサーって射撃魔法で樹を集中砲火。

「なんで・・・? なんで何も言わないのフェイトちゃん!!」

倒れたままのアルフさんの元へ降り立つ私。アルフさんはボロボロだ。ユーノ君も来て「酷い怪我だ。すぐに治療を!」って魔法を使おうとするけど、アルフさんは拒むように立ち上った。

「アルフさん!」

「もうあたし達に構わないでおくれ」

「そんな怪我でどうするつもりだ!?」

「ぅく・・・決まってる。ご主人様を守るのが、使い魔の・・・あたしの存在意義だ。くそ。グランフェリアの奴、何てことをしてくれたんだい・・・!」

そう言って、止める間もなくアルフさんはフェイトちゃんの元へ走って行く。判らない。どうしてフェイトちゃんがあんな心が無いみたいなことになってるのか。どうしてアルフさんの声が泣きそうなのか、どうして悔しそうなのか。最後に何か呟いていたようだけど、距離とフェイトちゃんの魔法の音の所為で聞き取れなかった。

(とにかく今はフェイトちゃんを止めないと・・!)

無心で攻撃を続けるフェイトちゃんと防御に専念してるアルフさんの元へ飛ぶ。まずは樹をどうにかしないといけないんだけど。もうフェイトちゃんがトドメを刺しちゃいそう。

「雷槍・・・連穿衝」

フェイトちゃんの前方に展開された雷の槍5本。それを“バルディッシュ”で打って発射させた。だけど樹の根、それだけじゃなくて枝や葉っぱのカーテンっていう複数の盾で防がれた。

(あ、でも・・・今がチャンスだ)

前方に集中している樹の防御。私はフェイトちゃん達の反対側に回る。“レイジングハート”を向けて「ディバイン・・・バスタァァーーーッ!!」砲撃を撃つ。未だにフェイトちゃんの雷の槍の防御に力を注いでる樹は、私の砲撃に対処しきれず直撃を受けた。それが原因なのかフェイトちゃんの雷の槍を防いでいた根や枝、葉が散ってしまって、樹はフェイトちゃんの攻撃も受けた。

「うぁ・・・!」「きゃ・・・!」

私の砲撃と勢いが止まらなかった雷の槍が樹を貫通して衝突したことで光の爆発が起きた。それに衝撃波もすごくて大きく弾き飛ばされちゃうけど、すぐに体勢を整える。光が途切れて、私とフェイトちゃんの間で浮いているジュエルシードを見詰める。

「フェイトちゃん・・・」

「・・・・」

虚ろな瞳を向けてくるフェイトちゃん。やっぱり何かあったんだ、昨晩から今までの間に。どうにかして元に戻してあげたい。そう思って「フェイトちゃん!」名前を呼ぶ。そこに「フェイト!」アルフさんが飛び上がって来たけど、その前にユーノ君のチェーンバインドで拘束された。

「この・・・!」

「アルフさん! フェイトちゃんはどうしてこんな・・・!?」

「っ! それは・・・」

アルフさんが何かを言おうとした時、フェイトちゃんが動いた。ジュエルシードに伸ばされる“バルディッシュ”。私も咄嗟にジュエルシードに手を伸ばす。“レイジングハート”じゃないのは、この前みたいに暴走させたくないから。距離と速度はほとんど同じ。でも今の、おかしなフェイトちゃんには渡せない。その思いで、掴んでみせる。あともうちょっとで届くというところで・・・


「はい。ちょっと待ってね~♪」


「え・・・!?」「っ・・・!?」

いきなり現れた女の子の持つ長い刀に、私たちは拒まれた。

†††Sideなのは⇒イリス†††

ジュエルシードを回収するために赴いた第97管理外世界、惑星名は地球。何て言うんだろう。こう、懐かしい響き。今まで全然知らなかったのに。それに、リンディ艦長からジュエルシードって名前を聞いた時にも胸の奥が熱くなった。

「でもさぁ、クロノ君とイリスちゃんって相性良いから、結構お似合いだよね~」

「エイミィ、あまりに突然すぎてわたしはどう反応すればいいのか判らないんだけど?」

「なんとなく」

歳は離れてるけど友達みたいな同僚、エイミィと到着まで暇ってことで恋愛話をしていたんだけど、いきなりクロノが相手とか、苦笑いしか出ない。それにブリッジを見回して本人が居ないのを確認して、クロノのことを思う。

「う~ん、それはないよ、エイミィ。それにクロノってわたしのタイプじゃないし」

っていうわけで、わたしはクロノとそういった関係にはなりません、ということを伝える。するとエイミィは「あらら。可哀想なクロノ君」って苦笑するけど、どこか嬉しそう。

「タイプとかそういうの初めて聞いた。それじゃあどういう人がタイプなの?」

結構踏み込んで来るね、エイミィ。なにを企んでるのか判らないけど、別に隠す必要もないから答えることにしよう。

「そうだなぁ、クロノと違って年相応に背が高くて、銀髪で、虹彩異色で、からかいがいのある真面目な人」

「うっわぁ、理想が高いと言うか8歳でタイプが具体的すぎて引くと言うか・・・。そんな人が居れば是非に会ってみたいね。でも、どうしてそんな具体的なの?」

「さぁ? 気付けばそんな風になってたって感じかな。こうね、心がそういう人を望んでるというかなんというか、だね。だから、クロノはエイミィにあげるよ。2人の方がお似合いだし」

タイプに関しては、ホントに本能みたいな感じ。物心つく前から脳裏に過ぎってる人。正確な顔立ちはぼやけてるけど、その身体的特徴だけはハッキリと心に刻まれてる。その人のことを想うと、ドキドキして、ポカポカしてくるから、嫌なことがあった時は思い浮かべてるんだよね。

「あはは。未来の選択肢が一気に限定されちゃった」

(ふふん♪ 満更でもなさそうじゃん♪)

「でもフライハイト家のご令嬢(・・・)の男性のタイプが聞けるなんてニュースだよね」

ハイ来た。その呼び方。

「あー、そのご令嬢っていうのが嫌いだから管理局に入ったんだよ。知ってるくせに。古代ベルカから続く家柄なのに、わたしに女らしくしなさいって。わたしは令嬢云々の前に騎士だって言うの。あんな家に居たんじゃ息が詰まるよ」

令嬢扱いがなくなればいいんだけどさ。やっぱり騎士として見てほしいんだよね。偉大なるご先祖様、シャルロッテ様やリサ様のように、女でありながら最高位の騎士となった御方たちのようになりたい。わたしが黙るとエイミィが「大変だねぇ、ホント」って座席ごと振り返って、わたしの頭を撫でてきた。

「もう。子ども扱いして~」

とは言うけど、撫でられるのが気持ち良くて振り払うことはしない。

「でもリンディ艦長やグラシア家やカローラ家のおかげで、こうしてわたしは世界の為に戦える」

わたしの管理局入りっていう我が儘を聴いてくれた恩人の1人、リンディ艦長の座る艦長席に振り向く。わたしの視線に気付いたみたいで、リンディ艦長はニコッて小さく手を振ってくれたから、わたしはちょっと照れながら降り返した。

(母様の友達がリンディ艦長で良かった)

エイミィとの会話から少し。ようやく今回の現場、地球へと転移が出来る宙域に着いた。早速ブリッジのメインモニターに、「あ~、アレがジュエルシードの暴走体って奴かぁ」現場の状況が映し出される。まずは樹、そして白と黒の魔導師の少女2人と、どちらかの使い魔らしき獣耳と尻尾を有する少女。

「っ!?(また来た。この感じ・・・!)」

その3人を見ていると鼻の奥がツンとして、声を出して泣きそうになる。リンディ艦長やクロノ、エイミィと初めて出会った時もわけも解らず泣いてしまった。あの時はホントどうかしてた。というか、リンディ艦長たちだけじゃないし、初めて会った時に泣いたのって。

(こんな時に限って。気持ちを切り替えないと)

必死に気を落ち着かせて、なんとか泣くことを堪えることが出来た。小さく深呼吸を繰り返してモニターを眺めていると、「イリス」リンディ艦長に呼ばれた。どうして呼ばれたのか聴くまでもないから「はい、任せてください」首肯する。現場に向かうために、艦長席の後ろに在る転送装置トランスポーターに向かおうとした時、「あれ? イリスちゃんが行くの? クロノ君は?」って訊いてきた。

「クロノのようなお堅い融通の利かないのが行ったら話がこじれるかもしれないじゃない。見たところわたしと同年代みたいだし、同じ女の子が行った方が良いと思うんだよね。というか、クロノは動けないじゃない。リンディ艦長有するお茶型決戦兵器を間違って飲んで」

それはついさっきの事。わたしが眠気覚まし用に作ったわたしとクロノ2人分のお茶と、エイミィが作ったリンディ艦長用の味覚破壊茶が入れ替わって、コップが同じだったこともあって気付かず、運悪くクロノが引き当てた。そんなクロノは今、医務室で寝込んでる。なんていうか、ごめんなさい。

「あ~、そうだったね・・・」

小声でそんなやり取りをしてからトランスポーターの前にまで移動。そして改めて、「これより現地での戦闘行動の停止、ロストロギアの回収、両名からの事情聴取を」リンディ艦長から指示が出される。

「任務拝命。了解しました」

応じると共に次元航行部隊の青制服から騎士甲冑へと変身する。手にするのは、桜色の刀身を持つ長刀型のアームドデバイス、“キルシュブリューテ”。歴史ある由緒正しきデバイスだ。カートリッジを確認してるところに「転送可能領域に到着しました」アレックスからようやくな報告。

「それじゃあ、イリス、お願いね♪」

「はい、リンディ艦長。よし、行こうか、キルシュブリューテ」

≪りょ~か~い、()って()ってやりましょう♪≫

右手に持つ“キルシュブリューテ”に語りかける。インテリジェントデバイスの専売特許、人工知能を搭載させているから、ちゃんと返事も出来る。ちょっとばかり馬鹿だけど。溜息ひとつ洩らしたわたしは“キルシュブリューテ”の刀身をコンコンとノック。

「違うバカ剣。止・め・る・の。まったく、誰に似たのか・・・」

≪貴女です、マイスター≫

「うっさい。もう・・・コホン。気を取り直して。イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト・・・いってきます!!」

トランスポーターが起動。足元から照らしだされる光に視界が途絶える。転移の浮遊感を得て、次に視界が戻るときにはそこは現場の空。ジュエルシードのど真ん前。左右からはあの2人の魔導師が接近中。最高の地点とタイミングでの転移だった。空を飛べないわたしは足元に足場としてベルカ魔法陣シュヴァーベン・マギークライスを展開。

「はい。ちょっと待ってね~♪」

“キルシュブリューテ”で黒い子のデバイスを受け止め、左手で白い子の手首を掴み取る。白い子は目を大きく見開いて驚いているけど、黒い子は虚ろな瞳を向けて来るだけ。

「これ以上の戦闘はストーップ! 時空管理局本局・次元航行部隊所属の執務官(補だけど)、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトです。今すぐ武装解除して、大人しく言うことを聴いてね♪ でないと最悪、実力行使です♪」

「え、あの・・・はい、すいません・・?」

まず最初に白い子が引いてくれた。けど黒い子は一度間合いを開けて、「フォトンランサー」周辺に放電している魔力スフィアを5基展開。管理局員のわたしが戦闘行動を止めるように言ってるのに、戦闘続行なんて。

(虚ろな瞳。表情の変化無し。なのにこの馬鹿みたいな戦意)

考えられるのは、精神操作に近い何か。こんな子供を無理やり戦わせるなんて。でも可哀想だけど、今はジュエルシードの確保を最優先にさせてもらうから。白い子に「離れてて!」言い放ち、黒い子が放ってきた電気変換された魔力弾を“キルシュブリューテ”で斬り払う。

「ジュエルシードを渡せ・・・!」

――ブリッツアクション――

「おっと・・・っ!」

黒い子の姿を一瞬見失う。けど、残念ながら背後に回っているのが丸分かり。ううん、それ以前になんとなくだけど読めてた、この展開が。だから焦りはない。振り向きざまに「カートリッジロード」一時的に魔力を増大させる、アームドデバイスの専用機構を使用。刀身に魔力を付加させて、「光牙・・月閃刃・・・!」縦一閃。すぐに伝わる手応え。

「っ・・・!?」

「フェイト!?」「フェイトちゃん!」

黒い子、フェイトという名前らしい子のデバイスの柄を一刀の下に寸断する。返す刃で撃墜を狙うけど、フェイトはまた高速移動の魔法らしきもので後退。わたしは放置されたままのジュエルシードをゲットし、シュヴァーベン・マギークライス数枚による空中回廊を作り、

――閃駆――

リサ様の代で完璧に復元された、シャルロッテ様の特別な歩法・閃駆(魔力で身体強化しないと今のわたしじゃ扱えない)っていう移動法を使って空中回廊を駆ける。わたしがジュエルシードを取ったことに対して「ジュエルシード!!」フェイトの様子ががらりと変わる。

――雷槍連穿衝――

扇状に展開された雷の槍5本の柄頭を折れたデバイスで打って、射出してきた。さっきの魔力弾より圧倒的に速い。けど、まだ足りない。“キルシュブリューテ”で叩き伏せながらフェイトへ最接近。

「せいっ!」

「っ・・・!」

≪Defenser≫

おそらくオートで発動されたバリアで防がれたけど、「やあああッ!」気合い一発、バリアを粉砕。

「っきゃぁぁああああああああああッ!?」

「フェイトぉぉーーーーーッ!!」

手応え十分。確実に墜とした。防御魔法の破壊に定評のあるベルカの斬撃だ。あの程度なら容易く破れる。使い魔の子があの子の名前を叫んで、自身を捕縛していたバインドを力づくで砕いた。そして傍に居たフェレット君(事前にクロノから聴いていたスクライアの内の1人かな)に魔力弾を牽制発射して、落下するフェイトの元へ。けどそんな彼女より早く、地面に叩き付けられそうになったフェイトを抱き止めて助けたのは、突然現れた別の黒い子。

「新手!? いつの間にこんな近くにまで・・・!?」

「あんたは・・・!」

「テスタメントちゃん!?」

神父服にフード付きのマント、そして顔を覆い隠す仮面っていう異様な魔導師。その子を見、名前を聞いた瞬間、「痛っ?・・・テスタ、メント・・・?」頭痛に襲われた。懐かしいような忌々しいような、わけの解らない感情が、胸の奥で渦巻く。かぶりを振って、あの子たちの近くへ降り立って改めてテスタメントという子を見る。白い子やスクライアの子を警戒している使い魔の少女にフェイトを預けたテスタメントは真っ直ぐわたしを見てくる。

「悪いけどこの子たちに用が出来たから、捕縛させるわけにはいかなくなったんだ。アルフ。フェイトを連れて下がっていて。すぐに終わらせるから」

「む。甘く見てくれるじゃない。残念だけどあなたごと捕縛させてもらうよ。白い子とスクライア君はそこで待っててね。やるよ、キルシュブリューテ」

≪あい。カートリッジ、何発ロードしますか~?≫

「1発! 練習時はともかく非常時はいちいち訊かないで!」

“キルシュブリューテ”のカートリッジを1発ロードして、刀身に電気を纏わせる。わたしと“キルシュブリューテ”のやり取りに、「ぷくく」テスタメントは肩を震わせて笑うのを我慢している。恥ずかしさで耳が熱くなるのを自覚。それを振り払うように「行きます!」閃駆で突進。

「せぃやぁぁぁーーーーッ!」

――雷牙月閃刃――

テスタメントの真横に移動、間髪入れずに“キルシュブリューテ”で袈裟切り。完璧に入った、って思った。だけど半歩ズレるだけで避けられた。閃駆からの奇襲斬撃にはクロノからも高評価を貰ってたのに。

「(うそ、見切られた・・!?)うぐっ・・・!?」

少なからずショックを受けたことで動きを止めてしまい、顎にアッパーを貰っちゃった。揺れる視界に、気持ち悪くなる。“キルシュブリューテ”を支えに倒れないようにして、余裕そうなテスタメントを見詰める。

「これでラスト!!」

――瓦解せる喰飲の龍咆(アルティフォドス)――

今まで夕陽で明るかったわたし達の周囲が一気に暗くなった。なんとか振り向いて見れば、海から海水の龍が1頭と突き出ていた。

(この光景、前にどこかで・・・?)

デジャヴ。けど気の所為だって振り払って、どうにかしないとって思うのに、脳震盪の所為で未だに上手く動けない。

「待ってテスタメントちゃん!」

そんな時、白い子がわたしを庇うように海水の龍の前に立ちはだかって、デバイスを向けた。なんだろ、すごい安心感がある。でも向こうは魔法を使えるだけの一般人。ここは管理局員のわたしが守らなきゃダメなのに。そう、わたしが、この子を守らないとダメなんだ。

「(守る!・・・この)わたしがぁぁーーーーッッ!」

「・・・やっぱり君はそうか・・・」

テスタメントが何か呟くと同時、海水の龍が支えを失ったようにこちらに倒れて来た。こっちに振り返った白い子がわたしの脇の下に腕を回して、「レイジングハート!」デバイスの名前らしきものを呼んだ。

≪Flier Fin≫

飛行魔法の浮遊感がわたしを襲う。ゾワッと全身が総毛立つ。やっぱダメだ、空。だけど、そのおかげでわたしは海水に呑まれずに済んだし、スクライアの子も樹に上って避難しているのを確認できた。

「ありがとう、助かったよ」

「どういたしまして。あ、でも、フェイトちゃん達には逃げられちゃった」

倒れ込んだ海水が荒れ狂った騒ぎに乗じて逃げられた。白い子に地面に降ろしてもらって、「ふぅ」しっかりと足がついたことで安堵の息を吐く。じゃなかった。一息吐いてないですぐにアースラへ連絡を入れないと。

「・・・・あの、すみません。逃げられました」

『まぁ、しょうがないわねぇ。とりあえず戻って来て、イリス。そして、彼女たちも一緒にね。事情を聴いておきたいし。ね? 今からこちらに転送させるから、もうしばらくその場で待機しておいて』

「はい・・・了解しました」

プツンと通信が切れる。うぅ。気の所為なのは確実だけど、なんか拒絶されたようで心に痛いです、リンディ艦長。こうして黙ってても居られないし、わたしの側でオロオロしてるこの子と、とりあえず自己紹介と行こうか。コホンと咳払いを1つと「それじゃ改めて」と前置き。

「わたしはイリス・ド・シャルロッテ・フライハイト。個人的にはイリスよりミドルネームのシャルロッテの方がお気に入り♪っと、そうじゃなかった。え~と、あなたの名前は?」

「あ、えっと・・・なのは。高町なのは、です」

「ん。よろしく、にゃにょは♪」

なんて言うか、からかいたくなった。人の名前でそういうことは絶対にしないんだけどね、普段は。するとなのはは首をブンブンと横に振って、声をちょっと大きくして訂正してきた。

「違っ・・・! な・の・は、です!」

「うん、にゃのは♪」

「な・の・は! もしかしてわざと!?」

「いやいやぁ、よろしく、高町♪」

「名字!? そんなに発音しにくいの!?(泣)」

「泣かない泣かない。冗談よ。高町、なのは・・・。なのは。うん、良い名前ね、なのは♪」

初めて会ったはずなのに。その名前には懐かしい響きがあって。口にするたびに胸が高鳴って、また鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなっていく。ああもう。いきなり泣いちゃったりしたら、変な子だって思われちゃうよ。でももう今度は抑えきれなかった。視界が涙で滲み始めて、頬を伝って行くのが判る。

「うえ!? イリスちゃん!?でいいのかな? えっと、私、変なこと言っちゃったかな!?」

「ううん、違うの!・・・時々あるんだ、急に涙が出るってことが。ごめん、驚かせたよね」

「そっか。良かったぁ。てっきり私が泣かしちゃったのかと」

「あはは。さっきまではわたしが泣かしそうだったのにね♪」

なのはの笑顔は・・・なんか良いなぁ。わたし、この子の笑顔が一発で好きになった。


 
 

 
後書き
ブーナ・ディミニャーツァ。ブナ・ズィウア。ブーナ・セアラ(byヘンゼル&グレーテル)。
とまぁ、そういうわけで、前作の主人公だったシャルロッテの転生体、イリスが本格的に参戦?です。
現状、魔法少女たちの中ではイリスが最強です。が、シャルの剣技をそのまま受け継いでいるイリスは、シャルの剣技を知りすぎているルシルとはあまり相性は良くないです。
とりあえず、現状の戦力の序列は・・・

問答無用ルシル>クロノ>精神的制限有ルシル≒イリス>フェイト>なのは>アリサ>すずか

と考えています。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧