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悪役だけれど

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第二章

 その神父にだ、彼は穏やかな笑顔で言った。
「今日も祈りを捧げさせてもらいます」
「はい、お願いします」
「では今から」
「いつもこの教会に来て頂けますね」
「神への祈りは忘れはならないので」
 だからだというのだ。
「そうさせてもらいます」
「そうですか、ただ」
「ただとは?」
「貴方はいつも子供達を歌劇場に招待されていますね」
「それが何か」
「その子供達は人種や宗教、経歴に関係なくですが」
 神父は言うのはこのことだった、マルツィターノが招待する子供達のことだ。
「それは」
「何かありますか、そのことについて」
「いえ、人種主義や宗教差別もなのですね」
「私は好きではありません」
 こう神父に答える。
「どうしても抵抗があります」
「そうなのですね」
「人として間違っていると思います」
 こうも言うのだった。
「私はそう考えています」
「人は誰もが同じですか」
「今ではバチカンも他の宗教を認めていますね」
「はい」
 これはその通りだ、バチカンも変わったのだ。
「その通りです」
「そうです、もっとも私はバチカンの教えでなくとも」
 信仰心は深い、だがそれでもだというのだ。
「私は他の宗教もあるべきだと考えています。信仰はしませんが」
「そういうお考えなのですね」
「ですから子供達もです」 
 人種や宗教、信条に関わらずだというのだ。
「呼んでいるのです」
「そうでしたか」
「はい」
 笑顔で答える。
「そうなのです」
「わかりました、では」
「今より」
 彼は祈りを捧げた、極めて信仰深く。
 そして劇場に行ってもだった、彼は誰に対しても優しかった。
 劇場のスタッフ達もだ、マルツィターノをこう言うのだった。
「いや、今日もマルツィターノさんと一緒に仕事が出来るか」
「よかったよ、本当に」
「あんないい人いないよな」
「うん、親切で温厚で」
「公平だしね」
「今回も一緒に仕事が出来てよかったよ」
「絶対に怒らないから」
 我儘も言わず温厚だ、その彼が嫌われない筈がなかった。
 その彼を皆が愛する、それでだった。
 彼は劇場でも誰からも好かれていた、悪く言う者はいない。
 取材に来たジャーナリストもこう言うのだ。
「あの人への取材が一番いいよな」
「うん、紳士だしね」
「女の人を尊重してくれるし」
「礼儀正しいよ」
「気さくでね」
「まるで聖者みたいな方ね」
 彼等もこう言う、だが。
 ここで一人の若いジャーナリストが歌劇場の控え室でマルツィターノについてこんなことを言ったのである。
「ただ、不思議なのは」
「不思議?」
「不思議っていうと?」
「はい、あんないい人が悪役なんですね」
 こう言ったのである。
「まるで聖者みたいな人が」
「ああ、悪役ねえ」
「あの人悪役で定評があるからね」
「もう凄い様になってて」
「外見もそのままだから」
 大柄で濃い髭の顔だ、目の光も鋭い。まさに悪役そのものの外見だ。 
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