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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第23話 魔の森に在るモノ

 こんにちは。ギルバートです。何故か王都に居る時間が、やたらと長く感じました。今更ながら色々あったなと思います。

 潰れかけた魅惑の妖精亭が、私達が与えた試験をパスして“炭焼きを前面に押し出した店”として新たな一歩を踏み出す事になりました。この事は私の存在が“改善の方向だけでなく改悪の方向にも働く事”を、自覚させてくれました。今後原作介入は、より慎重に行う必要があると自覚しました。

 それは良いとして、アンリエッタの今後が危ぶまれます。私の油断で大きな影響を与えてしまいました。魅惑の妖精亭での反省点が、全く生かされていなかった事に今更ながら反省です。しかし、王族としての自覚が出るのは悪い事では無いので、良しとしておこうと思います。

 領地に帰って来て一番最初にする事は、資料を探す事です。ドリュアス領を治めていたのがドリアード侯爵家の分家だったのなら、何らかの資料が残っているかもしれません。領民から、古い資料の情報を公募する事にしました。領民達にやる気を出してもらうために、情報には懸賞金を付ける事にします。(領民の識字率か高いと、こう言う時に凄く便利です。大々的に懸賞金をかけても、守備隊や屯田兵が全ての村落にまで常駐しているので問題無いでしょう)

 帰路の休憩中にこの話をすると、父上の方から任せろと言って来ました。反対する理由はないので、お任せする事にしました。

 魔の森に関しては取りあえず手が空いたので、この間に出来る事をしようと思います。と言う訳で、鍛剣製造の方の話を手早く進めようと思います。屋敷に到着すると、母上達に帰還の挨拶をし鍛冶職人を待機させている家へ向かいました。

 家に到着しノックすると、13歳位の女の子に出迎えられました。まだ幼さがある物の整った顔立ちで、十人いたら十人が美人だと声を揃るだろう程の美人です。細い割に出る所が出た身体と、銀髪碧眼が目を引きます。透き通るような白い肌に、銀髪の髪は凄く綺麗で腰にはギリギリ届かない位の長さです。(この子がアニーでしょうか? 馬鹿貴族が奪い取ろうとしたのも分からなくも無いですね)

 女の子に案内されて家の中に入ると、中年の男性と若い青年がいました。2人とも銀髪碧眼で、アニーと比べると若干肌が焼て黒くなっています。流石にアニーと違って男性なので、線が細いと言う事はありません。どちらかと言うと、がっしりしていて無骨な印象を受けます。

「父さん。兄さん。お客さんです」

「……おう。客人か? いらっしゃい」

 女の子に言われて、サムソンさんらしき人が覇気のない返事をしました。これだけ見ると、とても腕の良い鍛冶職人には見えません。隣でパスカルさんらしき青年が、中年の男性を見ながら苦笑していました。(私が帰って来るまで、鍛冶場に入れない様に指示したのが不味かったでしょうか?)

「私は、ドリュアス家嫡子ギルバートです」

 私が名乗ると中年の男性は驚き、次いで一瞬だけ笑顔を浮かべました。そして、立ち上がり姿勢を正すと口を開きました。

「サムソンだ。よろしく頼む」

 そこには、先程の不抜けた印象はありませんでした。続いて青年が口を開きました。

「サムソンの甥のパスカルです。これからよろしくお願いします」

「サムソンの娘のアニーです。よろしくお願いします」

 パスカルさんに続き、アニーも名乗りました。私は頷くと、これからの事を説明する為に口を開きます。

「先ず最初に言っておきたいのは、ここで見聞きした事は外に漏らして欲しく無いのです。理由は東方の極秘技術があるからです。その為あなた方に途中で出て行かれると、非常に困ります。職場環境は良い状態を維持します。当然ながら『娘を差し出せ』と言う、馬鹿貴族の様な事が無いのは約束します。私たちドリュアス家がこの約束を守る限り、出て行かないと誓っていただけますか?」

 私の言葉に、サムソンさんとパスカルさんは真剣な表情で頷き、その場で誓ってくれました。

「基本的にやってもらうのは、従来の技術で出来る刀剣の鍛造です。そして、ここからが本題になりますが、東方の鍛冶技術を取り込み日本刀という刀を作ってほしいのです。更に、日本刀製造で手に入れた鍛冶技術を応用して、従来より高性能の刀剣を鍛造して欲しいのです」

 サムソンさんが、挑戦的な笑みを浮かべ頷きました。

「では、職場に案内します。アニーは職場の見学をしますか?」

 アニーは私の言葉に黙って頷くと、近くにあった棚から紐を取り出して髪を後ろで纏め縛りました。そして縛った髪を前に回すと、服の胸元を開いて纏めた髪を中に突っ込みます。次に棚から三角巾を取り出すと、頭にかぶりました。

(髪が燃えない様にする配慮ですね。手慣れていると言う事は、昔から父親の職場に出入りしていたと言う訳ですか)

 私がそんな事を考えながら周りを見ると、サムソンさんとパスカルさんは特に準備する事が無い様で、立ったままアニーの準備が終わるのを待っていました。しかし、サムソンさんは待ちきれないという様子で、アニーの準備が終わる前に口を開きました。

「さあ、若旦那。職場に案内してくれ」

 サムソンさんの様子に、パスカルさんは笑いを押し殺しているのが分かりました。アニーも準備は殆ど終わっている様で、厚手のエプロンを着けながらこちらに歩いて来ます。口には、厚手の手袋が銜えられていました。

「では、行きましょうか」

 私の言葉に、その場の全員が頷きました。

 最初に連れて来たのは、ガストンさんの所です。私はガストンさんと手伝いをしているジャックに、帰還の挨拶を交わしました。家が隣なので、お互いの顔は既に知っていたのでしょう。ガストンさんとサムソンさんは、互いに軽く頭を下げただけでした。

 ガストンさんが《錬金》で鋼を作っている所を、サムソンさんに見てもらいました。当然のことながら、サムソンさんは渋い顔になりましたが、完成品の鋼を見て大いに驚き考えを改めたようです。何時の間にかニコニコ顔になっていました。

 次に炭焼き小屋に連れて行きました。こちらも私は作業中のポールさんとピーターに、帰還の挨拶をしました。鍛冶一家は先程と同じように、軽く頭を下げただけでした。

 完成品の木炭をサムソンさんに見せ、コークスの代わりにすると伝えると難しい顔をされました。仕方が無いのかもしれませんが、時代遅れの燃料を今更使う事に余り好い気はしていない様です。……と、その前に。

「ポールさん。炭についてですが、完成品の品質に差が出る様です。主に臭いについてですが、木の種類や焼き上げ時間それと事前の木の乾燥等、いろいろと試してもらえませんか?」

 ポールさんは「やってみるよ」と、答えてくれました。

 さて、こちらの要件は済みました。問題は不満を抱えているサムソンさんとパスカルさんに、木炭がコークスに劣っていない事をどうやって納得してもらうかです。と言っても、実際目の前で鍛造するしかないのですが……。

 最初に「知識はあっても、経験と技術が無いから鍛冶職人を呼んだ」と言ってから、鍛冶場に向かいました。

 実際に炉に炭を入れ火を点けます。ほどよく火が付いたら、鞴で炉に風を送り込みます。それだけで、炭が真っ赤に燃えました。この状態で、鋼を短刀一本分だけガストンさんに分けてもらい、炉の中に突っ込みます。

 そして私は、最初に大まかな説明をしました。

 水減し→小割→てこ棒、てこ台の作成→積み重ね→積み沸かし→鍛錬→作り込み→素延べ→切先の打ち出し→火作り→焼刃土を塗る→焼き入れ→鍛冶研ぎ→茎仕立て→銘切り

 この作業を数日かけて、詳しく説明しながら目の前で実践する予定でした。

 最初は乗り気でなかった2人も、私の最初の説明で目の色が変わりました。(この時点で、アニーが逃走しました。別に怖い事ないのに何故なのでしょうか?)

 早速実演を始めましたが、2人は知識だけの素人作業をする私をもどかしく思ったのか、私から道具を取り上げ2人で作業を始めてしまいました。(なんか仲間はずれにされた気分です)

 行程は順調に進み暗くなってきたので、私は今日の作業を終わりにしようと言いました。しかし2人から帰ってきた返事は……。

「今更止められるか!」「中途半端は良く無いよ」

 明確な拒否でした。

(まあ……良いか。しかし何か似た様な人間ばかり、ここに集まっている様な気がします。類は友を呼ぶと言う奴でしょうか?)

 結局短刀が完成するまで、ぶっ続けで作業する事になりました。私も見て口出しするだけとは言え、かなり疲れました。途中で父上が様子を見に来ましたが、私は事情を話すだけにとどめました。今回父上は、母上に厳重注意されたばかりなので大人しく帰りました。余程後ろ髪引かれるのか、帰り際にチラチラとこちらを見ていました。それと、アニーが夕食を持ってきてくれたのが嬉しかったです

 最後に私はガストンさんの協力があれば、水減し~積み沸かし工程を短縮出来ると説明しました。私の言葉にサムソンさんとパスカルさんは、面白くなさそうな顔をしていました。(恐らくメイジの力を借りるのに、抵抗があるのでしょうね。今回の鍛造で一番嬉しかったのは、メイジの力添え無しに極上の短刀を鍛造出来ると証明した事でしょうし)

 そんな事を思っていると、サムソンさんが口を開きました。

「まあ、ここに居るメイジは変にでかい顔しないしな……。俺達だけ肩肘張るのは、どう考えても馬鹿馬鹿しい」

 サムソンさんの言葉に、パスカルさんも頷きました。私はそれを確認すると、一度大きく頷いてから言葉をかけました。

「ガストンさんに協力してもらって、心金は粘り強く柔軟な鋼を使い、刃金・側金・棟金は硬い鋼を使うようにしてください。それから、この技術を応用した刀剣を楽しみにしています」

 私の言葉に、サムソンさんとパスカルさんは大きく頷きました。

「それからその短刀は、ある意味でこの鍛冶場の処女作品です。《固定化》をかけておきますので、記念に2人で持っていてください」

「ある意味?」

 私の言葉にパスカルさんが反応しました。どうやら、若干廃テンション入っていた所為で、口が軽くなっていた様です。流石にこれ以上言う訳には行かないので、あの日の事は黙っておきす。代わりに、あの時のロングソードを差し出しました。

「鍛造が可能か、素人が実験した物です」

 2人はロングソードを、細部まで見て行きます。そして出てきた感想は、ある意味当然の言葉でした。

「ひでえ作品だな。素人じゃしょうがねえのか?」

「実験品とは言え、この出来は酷いね。鞘に収まっているのが奇跡だ」

 私はこの評価に、苦笑いしか出ませんでした。(《錬金》で形を微修正して鞘に収まる様にした。とは、とても言えませんね)

「まあ、そう言う訳です。慣れて来た所で、私用の日本刀を打ってもらおうと思います。刃渡り100サントの大太刀一振り、刃渡り50サントの小太刀二振り、刃渡り30サントの匕首一振りです。ちなみに、大太刀・小太刀・匕首と言うのは日本刀の種類です」

 日本刀の種類に、2人が食いついて来ました。仕方が無いので、長さの違いによる呼び方の違いから始まり、直刀と曲り刀の違いや小烏丸造り(鋒両刃造)等の代表的な物から話して行きました。口だけでは分かりずらいので、《錬金》でレプリカを作って説明をしました。何故か仕込み刀(特に仕込杖)の所が、一番食いつきが良かったです。(なんでさ?)

 全て語り終った時、外を見るとオレンジ色の光が見えました。

(また徹夜してしまいました。母上に怒られますね。あれ? でも、さっきまで外が明るかったような気が……)

 私がそんな事を考えていると、父上が館から歩いて来ました。

「ギルバート!! 夢中になるのは分かるが、少しぐらい帰って来い。シルフィアに殺されても知らんぞ!!」

 開口一番父上の言葉で、私のぼけた頭に活が入りました。そして周りを見て、現状を冷静に分析しました。帰宅準備をしている、ガストンさん・ジャック・ポールさん・ピーターの4人を確認すると太陽の方角を確認しました。(間違いなく夕方だ)

 鍛冶場の机を見ると、朝食と昼食らしき食べ物が置いてありました。と言う事は、24時間近く飲まず食わずで鍛冶場に籠りっ放しだったと言う事です。私の後ろで、困ったように声が上がりました。

「あー、やっちまったな」

「またやっちゃたね」

(またって事は、常習犯かい!! って言うか、人の事言えない。……それより母上に、なんて言い訳しよう)

「ギルバート。諦めろ。骨は拾ってやる」

「父上!! 見捨てるんですか!?」

「当然だ!! とばっちりはごめんだ!! 何のために昨日我慢したと思っている!!」

「うがぁ~~~!! 母上に殺される~~~!!」

 私は思いっきり頭を掻き毟ってしまいました。身体は恐怖のあまり、ガタガタを震えています。しかし次の瞬間、私の思考と動きが振えごと凍りつきました。

「やあね。ギルバートちゃん。私が愛しい息子を殺す訳ないじゃない♪」

(母上!! 何時の間に!?)

 私の背後に母上が居ました。とてもいい笑顔をしているのに、目が全く笑っていません。

「朝帰りはダメって言っておいたのに……。朝じゃなければ良いと思ったのかしら? 全く困った子ね。注意しようと思って待ってた私が馬鹿みたい」

 この時私は、母上の機嫌を少しでも改善する材料を探すのに必死でした。父上は、目が合った瞬間に目を逸らされました。次いでサムソンさんとパスカルさんの2人と目が合いましたが、この2人では母上の暴虐を目の当たりにした事が無いので、物の役に立たないでしょう。しかし2人が持っている短刀は、役に立つかもしれません。

「母上。1日かけて短刀を打ったんですよ」

「そうなの?」

 パスカルさんが空気を読んで、短刀を母上に渡しました。母上は短刀で、軽く素振りすると何処からかリンゴを取り出しました。そして何故か、私の頭の上にリンゴをのせます。次の瞬間、母上は短刀を振っていました。

 ……縦に。

 リンゴは左右にわれ、地面に落下します。その間私は固まって、ピクリとも動く事が出来ませんでした。

「……あら、本当に切れ味が良いのね」

(ああ 頭 ……ま まな板代わりにされた)

 あまりの事態に、誰一人として動く事が出来ませんでした。私も自分の頭が無傷なのが、とても信じられません。思わずリンゴが乗っていた所に手を当ててみましたが、髪の毛も無事の様です。切れ味が鋭すぎ所為か、果汁のべとつきさえありませんでした。

「はい。返すわ」

 パスカルさんは、条件反射で短刀を受け取りました。母上はそのまま私の襟首をつかむと、館に向かって歩き始めます。母上に引きずられる私は、この状況が現実であることを実感出来ず(頭が理解するのを拒否した)他人事のように感じていました。その時思ったのは、ドナドナの子牛ってこんな気持ちなのかな? でした。

 その後、何があったかは……忘れました。……忘れる。……忘れさせてください。……お願いだから。



 母上の折檻から何とか回復しました。未だに父上からの情報が無い為、待機状態です。今月(ニューイの月)中に発見が無ければ、別の手段を探す必要も出て来ます。

 今日は仕事で父上と母上が留守なので、ディーネとアナスタシアの3人で訓練をしています。最初は剣の訓練で、私は飛燕剣中心に型練習をしています。前半は何もない所で行い、後半は林や森の中で行います。特に重要なのは後半で、状況に応じて太刀筋を自由に変える為の訓練です。実戦になれば、障害物がある所での戦闘も当然あるでしょう。乱戦時に味方を傷つけないのは当然ですが、剣が障害物に当たると剣のダメージになったり振り遅れにつながります。実戦では当然それが、死に直結します。(セリカ様の受け売りなのが悲しい所です)

 個人練習が終わると、3人で一度手合わせをします。少し前までは、ディーネが一番強く次いで私でアナスタシアが最後と言う順番でした。この順番が変動しつつあるのです。私が飛燕剣を使い始めた事と、マルウェンの首輪の成長促進の加護が原因です。流石にまだ一度も勝っていませんが、ディーネの動きに余裕が無くなって来ました。

 ディーネに飛燕剣を教えろと言われましたが、バスタードソードでは重過ぎて飛燕剣を使うのは無理でした。代わりに狙撃戦術と錬撃術を教えようとしたら、ディーネには飛燕剣以上に相性が悪かった様です。全く物になる兆候がありませんでした。狙撃戦術と錬撃術は役に立たないと思ったら、アナスタシアが予想外に相性が良かったです。アナスタシアは剣術の成長に不満があったようで、とても喜んでいました。(レイピアが向いてないのかな?)

 これで分かった事は、ディーネは直感で戦うタイプで逆にアナスタシアは理詰めで戦うタイプだと言う事です。これはそのまま、成長の仕方にも現れます。ディーネは訓練で積み重ねた経験が、実戦や模擬戦で一気に開花するタイプです。アナスタシアは訓練で手に入れた経験を、一つ一つ積み重ね堅実に強くなるタイプです。私は2人の中間と言ったところです。

 剣と戦い方はこの様になっていますが、面白いのはここからで、魔法の勉強に関してはある意味反対になるのです。ディーネはコツコツ勉強し、アナスタシアは要点だけを的確に把握し覚えます。如何してこうなったか、不思議で仕方がありません。

 剣の次は魔法の訓練ですが、母上の教えが「習うより慣れよ」なので、ひたすら魔法を使い続ける事になります。魔法を使いすぎて倒れると、母上のキツイお仕置きが待っています。なので精神力の残量は、常に意識するようにしています。

 訓練が終わると、大概そのまま休むか魔法の座学をしています。最近では、鍛冶場に行って鍛冶を習うかジャック・ピーター・ポーラの3人に魔法の座学を教えていたりします。

 ジャックは黙々と黙ってやるタイプで、ピーターは真面目な努力家タイプでした。ポーラは魔法の勉強自体嫌がって、逃げ出そうとする始末です。今の所どうやって、ポーラに座学を覚えさせるかがネックになっています。まあ、様子からして魔法に興味が無い訳では無い様なので、根気強くやればなんとかなると思います。

 ふと気付くと、何気に充実した毎日を送っていたりします。しかしこの状況に、不安を覚えてしまう私は貧乏性なのでしょうか?



 いつも通り訓練を終え休んでいると、父上がやって来ました。話を聞くと古い資料を、まとめて保管している倉庫が見つかったそうです。灯台下暗しとは良く言ったもので、倉庫はドリュアス家の館に一番近い町にありました。

 実際に父上のグリフォンに乗って、現場を見に行ってみました。

 待っていたのは、初老の男性でした。彼は倉庫の主で、彼の先代が代官の命令で保管していたそうです。命令書には代官印が押してあった為、勝手に処分できず放置してあったそうです。

 早速、倉庫の中を見せてもらいました。

 そこに広がっていたのは、とても既視感がある光景でした。そう目の前には、何一つ法則が無くただ積んであるだけの資料の山がありました。王宮資料庫で見た光景を、嫌でも思い出させます。しかも総量で言えば、王宮資料庫の魔の森に関する資料より倍くらい多いです。その殆どが、私達の目的と関係無い物ばかりです。ためしに一束手を取ってみると、タイトルには「5987年度 ドリュアス領収支報告書」と書かれていました。

「……父上」

「ギルバート。……如何しよう?」

「如何しよう? って、やるしかないじゃないですか」

 そこで初老の男性が、私達の話に割り込んで来ました。

「領主様には感謝してもしきれません。ここにある資料を全部引き取ってくれる上に、お金まで頂けるなんて……。本当にありがとうございます」

「ち 父上!?」

 懸賞金は既に用意してあるので、この後に渡せば終了です。目的の資料があれば、後ほど追加分を渡せば良いでしょう。しかし問題は……。

「そうだな。問題はこの資料の山を、何処に引き取るかだ」

 父上からは、焦燥感が伝わって来ました。この資料をドリュアス家の館に収納するには、部屋を2~3潰さなければ入りません。母上がそれを了承するはずが無いのです。父上もこれ程の量の資料が見つかるとは、考えていなかったのでしょう。頭を抱えてしまいました。こうなると、取れる手段は限られて来ます。

「父上。開き直りましょう」

「開き直る?」

「私と父上で、ドリュアス家専用の図書館兼資料館を作ってしまいましょう。我々は土メイジです。その気になれば、城だって建てられます」

「うむ。それしかないな。(あるじ)よ」

「はい」

「資料の引き取りは、早くとも1~2週間後になるが問題無いか?」

「はい。問題ありません」

 私と父上はすぐに館に戻ると、母上の了承を得て建築を開始しました。鍛冶場を建設した時の経験が役に立ち、守備隊とマギ商会への打診と図面作成をその日の内に済ませました。次は材料集めですが、守備隊の余剰戦力とマギ商会を投入しました。

 材料が届き始めた3日目に、私と父上で基礎工事を開始しました。《浮遊》と《錬金》を使って、ドンドン骨組みを作って行きます。5日目には骨組みが完成し、床と天井の建造に移ります。7日目には床と天井の建設が終わり、壁・窓・扉の作成に移ります。この時既に材料は揃って来ていたので、守備隊のメイジを投入しました。そして8日目にして、図書館兼資料館の完成です。(本当に魔法って反則です)

 一部のメイジを書棚作りに回し、マギ商会の面々には資料を運び込ませました。残り全員で、資料の分別を行います。何度がそれっぽい資料を見かけましたが、今は片づけ優先です。

 全ての資料を片付け終わるのに、建造含めて2週間と言う短時間で終わらせました。人海戦術って本当に素晴らしいです。

 このまま終了では味気ないので、バーベキューパーティーを開く事にしました。本音はバーベキューがハルケギニアに、どれだけ受け入れられるかの実験ですが……。結果は大変好評でした。今度貴族にも試してみようと思います。今回関わった全員に、父上が特別手当と特別休暇を与え解散しました。



 資料についてですが、目的の物を発見する事が出来ました。それは、紙束に書かれた手記でした。手記の内容に、私達は驚きを隠せませんでした。

 手記を残したのは、ドリアード家のもう一つの分家であるドライアド家の人間でした。

 ドリアード侯爵は、“木の精霊”との交渉役を担っていた家系でした。精霊の祝福により、作物も驚くほど良質な物が収穫出来ていた様です。約1500年前にドリアード侯爵は、木の精霊と交渉し森の一部を開拓したようです。これによりドリアード侯爵領は、トリステイン王国に大きな富をもたらしました。

 しかし、それを面白くないと考える者達がいました。それは他のトリステイン貴族と、ロマリアの神官でした。当時精霊との交渉役は、ブリミル教に反する公に出来ない役職とされていた様です。これを利用しドリアード侯爵縁者を、異端審問で皆殺しにしたのです。馬鹿貴族達は残った領地の争奪戦を開始し、ドリアード領は荒れに荒れたそうです。

 領地の争奪戦が一区切りした時、次に手を出したのが精霊の住む森でした。木の精霊はそんな人間達に対抗する為に、幻獣・魔獣を呼び集めます。これに対して馬鹿貴族がとった行動は、木の精霊の討伐でした。終に木の精霊は怒りをあらわにし、討伐隊を壊滅させ森が広がり始めました。そして精霊の森が住み良いと判断した亜人達は、続々と精霊の森に集まって来ました。

 ……これが魔の森誕生の秘密でした。

 精霊の怒りにふれたロマリアの神官達は、これ以降精霊に手を出さない方向で教徒達を指導する様になりました。国も精霊との交渉役を、名誉職として大切にする様になったのです。

 手記を書いたのはグンナーと言う男でした。彼はドライアド家の私生児で、そのおかげで異端審問の難から逃れる事が出来た様です。各地を転々として、最終的にドリュアス家の元使用人に匿われたそうです。そして彼が生涯を終えた後、この手記をもみ消される事を恐れた使用人の孫が、ドリュアス家の資料庫に隠したと記されていました。

 手記を読み終えた私達は、溜息しか出ませんでした。おそらく当時の国のトップが、関わっていたのでしょう。でなければ王宮資料庫に出入りし、資料を処分する事など出来ないでしょう。また、噂も残っていなかった事から、余程強力で巧みな緘口令が敷かれていたと思われます。






 いつの時代も、権力におぼれた馬鹿は本当に救い様が無いです。

 そして今更、精霊と交渉など出来るのでしょうか? 新たに出て来た問題に、私達は頭を抱えてしまいました。 
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