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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第16話 理解不能です

レイナが、入浴に対し大層感激しているとは、露とも知らないリュウキはと言うと。

「よしっ……さて……と……」

 アイテムストレージから一冊の本を取り出し、本を読み出していた。その本とは、アルゴの攻略本である。その本の内容、そして 自分が現時点で持ちえている情報と照らし合わせると、情報の精度は相当なものになるのだ。如何に 自分自身でそれなりに調査を行ったとは言え、情報屋としての情報は 幅広く、ハンパじゃない。生業にしているのだから、と言えば当たり前かもしれないが、心底感服する、と言うものなのだ。
 細部にまで、細かく知る、《視る》事が出来るリュウキ、そして、要所要所を纏め、万人に判りやすく情報を提供する点において、アルゴは最も優れていると言えるだろう。

 が、やはり 先程でも書いた様に、流石に細部に至っては、様々な場所を視て(・・)回ったリュウキの方が優れてはいると思えるが、それでも心底感服だ。

 《斧使いのエギル》

 あの巨体のスキンヘッドの男が言うように、攻略本には相応の金額は張るが、等価交換としては申し分ないどころではなかった。そもそも、リュウキは 金額面はまるで問題視しないのだ。
 だが、今最も問題視しているのは アルゴとの関係。今の状況である。……本当に惜しむべき所はそこなのだ。


――……あんな事が無ければ、これからも良い関係を続けていただろうか。


 リュウキは、それも 本を読みながら考えていた。

 アルゴとの有益な関係を保てていれば、《ウィンドルの村》で出会った時に情報を発信してもらった様に、これからも良い関係を築いていけて、そして 滞りなく情報も、各プレイヤー達に拡散する事ができただろう。 商売をするつもりはないが、アルゴにとって見れば、情報の精度を考えたら、相応の金銭での取引が出来る。懐が潤えば、もっともっと情報の量が、そして精度が増していくだろう。 

 リュウキは、キバオウと言う男が言っていた様な、元βテスター、情報を独占している様なプレイヤーは確かにいるとは思えるが、そう言う類は嫌いだし、現行の状態、この世界がデス・ゲームになった今、そんな事はしたくない。故に、アルゴとの共存はメリットが非常にあるのだ。この世界全体を考えても。

 だが、そんな 客観的な 想いをも、軽~く一蹴する出来事があった。関わりたくない、と強く思ってしまう様な出来事、――そう、《銀髪の勇者(あの妙な情報)》の蔓延だった。
 
「………絶対にゴメン、だな。これ以上騒がれるのは。……攻略するよりも疲れる」

 リュウキは、思い出すだけでも、疲れてしまっていた。

 幾らリュウキであっても、出来る範囲以上にまで、身を削ってまで、……自身が出来うる容量をオーバーしてまでの事は出来ない。そこまでの自己犠牲精神を発揮する聖人君子の様な真似は出来ないし、しない、しているつもりもない。

 あの妙な情報が蔓延してからというもの、まるで珍獣? と思われている様に近づいてくるプレイヤー達が非常に多かった。今後も、アルゴとの関係を作っていけば、もっともっと広がる可能性が極大だ。

 そもそも、リュウキは、これまで様々なプレイヤーから好奇な眼で見られたりしていた事は多数あった。

 だが、《見られる》、それだけならば、まだ良い方だろう。

 情報を聞きつけた様々なプレイヤーが、まるで自分自身をまるでオモチャの様に見て、接してくる事が、はっきり言って、現段階で一番面倒なのだ。

 何よりも対処に困り、更にそれを乗り越える為のモノ。……その攻略法が全く思いつかない。と言う事が大きいだろう。

 普通のゲームであるのなら、そんな近づいてくる連中は さっさと蹴散らしてしまいたいところだが、この場所ではそんなわけには行かない。注目を集めただけでなく、更に悪名の様なものまで轟いてしまえば、最悪極まりないだろう。そして、最も不可能なのが異性プレイヤーだった。更に言うと女性のプレイヤーからのアプローチも問題だった。

 同性以上に扱い方も判りにくいし、教えてくれていた爺やの言う《紳士の嗜み》というのも、よく判っていない。対人接客を生業としている訳でもないから、尚更だ。何より、女性プレイヤーを傷つける事は出来ないから。(勿論 物理的に)


 そして今、同じ宿にいる女性。入浴中であろうプレイヤー、レイナ。


『異性が苦手』『判らない』
 と言うのなら、確かにレイナも同じだとは思う。彼女もどう見ても女の子だから。……だが、リュウキにとって、今までのプレイヤーに比べて考えたら、レイナは全く問題なかった。奇異な目で見てくる事も、過剰気味なアプローチもなかった。

 大丈夫だと判断したからこそ、リュウキは はっきりと自分の素顔を見せたのだ。
 
 そして、その判断は間違ってはいなかった。
 レイナが、妙に驚いてはいた事は理解出来なかったが、別に何かを言ってきたりしていなかったから、今までの様なプレイヤー達とは違った。それを見てリュウキは、とりあえず安心していたのだ。

 所謂、レイナに対する信頼値が上昇した。

 攻略より、BOSS戦よりも疲れる内容だから、そう言うのが 無くてよかった良い点が大きい。
 レイナとパーティを組んだ以上は、さしあたり協力し合っていくのがベストであり、その為にもあまり、これまでの様に拒絶する姿勢は良くないだろうとも思う。

「……まあ、まだ 序盤も序盤。今回の第1層のBOSS戦だけの暫定だからな……。そこまでは問題ないか。3層からのギルドだったりしたら……厳しいモノがあったと思うけど」

 確かにレイナとパーティを組んでいる。だけど、それは このBOSS戦のみの短い付き合いだろうと、リュウキは一笑していた。

 ……だが、笑ってばかりいられない。確かに厄介な問題、と言えばそうなのかもしれないが、今は、それよりも考察しなければならない事があるのだから。文字通り、生死に関する件。

「第1層のBOSS……絶対に一筋縄ではいかないだろうな……。……慢心も油断もしない」

 βテストの時、あの《コボルトの王》に関しては、初見にて、《眼》で視て解析していた。それは、はっきりと覚えている。どういう武器を使い、どう行動をするのか。スキルの種類などだ。

 アルゴに発信してなかったのが、好ましくない事態だとは思ったが、新たにアルゴが発信した攻略本の中の情報も優秀故に、情報不足に関しては、心配はしてなかった。

 
 かつての、コボルトの王との戦い。
 それはβの時。初見だったが、十分過ぎるほどの対応は出来きたし、相手が使用してくるソードスキルに関しては、知らないままだったが、全て見切る事が出来た。初期動作(モーション)から、全てを視る事が出来たから。

 敢えて、自身のこの力、スキルに 名をつけるとすれば、システム外スキル《エネミー・スキャン》と言うのが相応しいだろう。

 眼で視た敵の情報。
 それは、相手のどの部位を攻撃するのが的確なのか、そして、耐久値が存在している武器の場合も、応用が効く。……武器のどの部分を攻撃したら効果的なのか? 武器や部位の破壊を狙うのなら、これ以上効果的なスキルは無い。

 そして、これの最も良い所は、この世界のシステムに全く頼っていないと言う点だ。
 既存のスキルで防いだりする事が出来ないから、極論すれば100層の最後のBOSSにも有効だ。……あの男(・・・)がこの世界にいるのであれば、自分にとっての 最大最強の手段になるから。

 そんな、超強力なスキル。多分、ずるい、チート。と言われるだろう力。本来は使うつもりの無かった禁じ手とも言える力。
 だが、それでも、そんなのを持っていたとしても。

「………力の過信は、危険だな。……今は オレ1人じゃないんだ。………仲間もいる。……あの時とは違う。()を背負っているとも思わないとな。……仲間達の」

 今は一時的、とは言っても レイナとパーティを組んだ。……そして、極論すれば、レイドを組んだ皆もそうだ。今はここが、自分にとって現実とも思えていた世界。だが、この世界は皆にとっても現実のものとなった。


――……その世界で、誰かが死ぬなんて思いたく無い。見たくない。


「恐らくは、大丈夫だとは思うが。……あのイベントBOSSよりも強いと言う可能性もあるかもしれない」

 リュウキが考えるのは、あの隠しイベントのBOSSとの戦い。

 巧妙に配置され、普通にプレイしていればたどり着かないであろうクエストとそのBOSS。
 クエストの情報が、解禁されるのはまだ先の事であるが、フラグを立てなければ発生しない、等と言う事はないから、挑戦することが出来た。本来であれば、推奨レベルは第1層のレベルではない。初見殺し、と言ってもいいクエストなのだ。

 相手のステータスは一線を遥かに凌駕してはいたが、その攻撃パターンが殆ど変わらない、短調的な攻撃をし続けるBOSSだった。
 
 解析する事が出来る《眼》を持っているリュウキにしてみれば、全てが予め決められた部位に攻撃してくるから、テレフォンパンチの様なものだ。相手のHPも多く、こちらの攻撃力も見合ってない為、与えるダメージが非常に少ない、だからこそ、時間は掛かってしまうだろうが、討伐にそこまで問題じゃなかった。

 が、恐らく一般プレイヤーなら、そうは簡単にはいかないだろう。一撃の攻撃力が高すぎるから、一度でもミスをしてしまえば、終わり()だから。何時間でも集中する事が出来る精神力がいるから。

 かなり魅力的な報酬を貰えるが、β時代にこの情報を配布してなくて良かったとリュウキは思っていた。

「……ある程度は覚悟しておいた方が良い……か。後は、ディアベルの指揮にも期待をしよう。……オレには出来ない事だ」

 リュウキは呟くのを最後にし、再び視線を本に移した。第1層BOSSの情報が間違いない事の再確認をしているのだ。


 そして、更に数10秒後。


“コン……コンコン……コン……コンコン。”

 この部屋の扉のノック音がしたのだ。

「……ん? 誰、だ……………?」

 リュウキは、扉の方へと視線をやった。扉を見て、リュウキは嫌な予感を感じていた。……と言うか、間違いない。あの時キリトだ、間違いない。と思った時の様に。……この相手が誰なのかも判ったし間違いない。

 部屋の扉を叩いたノック音。あの変則的なリズムを奏でるのは1人しか知らないし、こうやって接触をしてくるプレイヤーも1人しか知らない。

「…………」

 それは、この世界で最も会いたくないプレイヤーの1人、ブラックリストに登録した第1号である。

「………いったい何しに来たんだ? アルゴ」

 今自分の顔が引きつっているのが本当によく判る。嫌悪をしてい。不快感が全く拭えていないのがよく判る。それは ノックをした人物も重々解っていたんだろう。ドア一枚隔てているのに、声色だけで判断する事が出来たんだろう。

 リュウキの言うとおり、この場所に訪れたのは《鼠のアルゴ》だった。

『マ、マァ! そう言わないでくれヨ! オレっち、リューに会いたかったんダ。とーーってモ、会いたかったんダ!』

 アルゴはそう言いながら、ドアを開け、中へ入ってきた。
 アルゴに関しては何度か情報売買の関係で接触をしていたから、既存設定(デフォルト)ではなく、開錠出来る(パーティー)設定にしていた。設定を変えるのを忘れてしまっていたのは、リュウキの不覚だろう。

「(……入ってくるな)」

 リュウキは、とりあえず我が物顔で入ってくる(リュウキの眼にはそう視える)アルゴに、ストレートにそう言おうとしたが、止めた。入ってきてしまったのだから、言っても無理だろうと判断した様だ。

「そうか。だが、アルゴは会いたくても、オレはお前に会いたくない。……さっさと帰れ」

 ……結局は、リュウキはアルゴに『帰れと会いたくない』と言う事を ストレートに言っていた。全く言葉を濁したりせずに堂々と。

 それはまるで害虫を見るかの表情だった。……或いは、全プレイヤーの敵である、この世界のモンスターだろうか?

「……ハハ。りゅ、リュー……。ま、まだ本気で怒ってるのカ……?」

 アルゴは、リュウキの眼を見て……恐る恐るそう聞いていた。アルゴ自身としては、正直『そこまで怒る??』としか思えない様だった。

 あの1件から、リュウキからのメッセージ返信がピタリと無くなった。……アルゴは、必死にリュウキの所に向かった。……避けられてしまった。
 そして更に隠蔽(ハイディング)スキルを使用して リュウキに接近を試みるも、……あっさりと躱されてしまった、と どう頑張っても、極端に接触がなくなったのだ。 

 そんなアルゴの言葉に対するリュウキの返答は1つだ。

「そうか、……お前にはオレが怒ってないように見えるのか。随分と目が節穴の様だな。情報屋の名が泣くぞ」

 アルゴの目は見ていない。……視線は本のままだ。
 なのに、アルゴには、リュウキが今身体全体に纏っている不穏なオーラが見える。ここゲーム内だから、そう言う仕様であれば有り得ない事ではないが、そんな設定やスキルは存在しない。

 まるで、魔法世界で闇魔法を詠唱している時の様などす黒い禍々しいオーラをリュウキは放っていた。……具現化させていたのだ。アルゴは、それを見て両肩をこれでもか、と言う程落としてしまった。

「アアぁぁ……、お、お願イダヨ。もう、そろそろ許してクレヨ、リュー……。本当に、オレっちの出来心だったんダ。……アノ時、君に断られたのガ、ホントに辛くて……サ」

 アルゴは肩を落とし、悲しそうにそう言っていた。今まで訊いた事の無い声色で、謝罪を受けた事も無かったから、本当に反省している様だとリュウキは思った。

「コレからも、リューとは 良イ関係をしていきたいンダ……。 オレっちだけじゃ 今後も、このクオリティーで、完全な情報周リさせるのモ、難シイし……。全プレイヤーにとっても、頼むヨ。この通りダ……」

 アルゴは、リュウキに頭を下げた。ゲームとは思えない程、そして 普段のアルゴからは考えられなかった。確かにリュウキにとって、アルゴとの接点に対する利点に関して、その点は同意だった。アルゴの情報は勿論、その発信力・そしてその名を通しての信頼性はそれほどまでに優れているからだ。この世界の生命線のひとつと言っていい金銭を惜しまない程に。エギルの1件で、今後もそう言うプレイヤーは増えるだろう。


――……これ以上……死者を出さない為にも必要な事だ。


 その後は、もうこれでもか! と言う程 アルゴから謝罪の言葉やら、リュウキに対する褒め言葉やらが続いていた。

 リュウキは、これが延々と続くか?っと思った為流石に折れてしまい、許してやる事にした様だ。決定的なのは、アルゴの名前の信頼性と、その情報力と発信力は役に立つからと言う理由だろう。

「…………ふぅ。わかった。もう この話は終わりだ」

 リュウキは、一先ず殺気を鎮めて普段の様子に戻っていた。纏っていたオーラも消失した様だ。それをアルゴが確認すると、にやっ と口元を歪めた。

「ハハハ。可愛い顔が、台無しダヨ?」

 ニコニコとリュウキに接近し、肩を叩くアルゴ。……勿論、そこまでの接近をも許した筈はない。これまでも、そしてこれからもそうだ。

「…………話、終わらせない方が、良いか」

 だから、再びオーラ? を発生させようとした時だ。

「ジョ、冗談冗談、ダヨ……」

 流石にいきなりは不味かったか、と思ったアルゴが速攻で折れていた。それがアルゴにとって功を成したと言っていいだろう。直ぐに折れた為 何とか鎮める事が出来たから。







「サテ、お詫びと言っては何だが……。今後の情報本を無料で提供しようと思ウ。後、リューが知りタイ情報が有るナラ 本以外デも可ダ」

 アルゴは、そう 持ちかけた。どの情報かは、自分で決めれるようだ。確かに細かい事を考えれば知りたい事はまだまだ沢山あるだろう。

「……裏があるような気がするのだが?」

 流石にそこまでリュウキはアルゴの事を、信頼しきれなかった。情報は別として、所謂人間性をだ。

「ハハハ。嘘は言わないヨ?本当サ」

 逆にアルゴはあっけらかんとしているようだ。
 さっきまでが嘘の様に。さっきまでの謝罪が嘘の様に。

「裏……とまではいかナイ。オネガイなんだ。第2層以降も君の情報を優先的に買いタイ。その願いが強イヨ。オイラは、各層の最初の町に滞在シテイルから。……ソレと」

 アルゴはそう言いながら、先を動かして メニューウインドウを出した。タッチをして操作をして行くとリュウキの前に可視化されたウインドウが現れた。

「………なるほどな。今回来た本当の目的がそれか?」

 リュウキは、自分の目の前に現れたウインドウを見てそう言う。



 □        □         □          □        □


         フレンド登録を申し込まれています。申請しますか?

                YES      NO



 □        □         □          □        □



 目の前にこの短い文が、出てきたのだった。

「アア! その通りだよ。リューとフレンドにはナっておきたいんだ。……色んな意味でネ。だって、しておいて損は無いダロ? メッセージのやり取りヨリ、直接合って話した方ガ、情報交換し易イシ!」

 アルゴは妙にニコニコしている。それを見たリュウキは軽くため息をした。どんな情報でも売買し利益を得ようとする情報屋だ。自分のステータスですら、売る事に躊躇などしない。

 鼠の渾名は伊達じゃないのだ。

「……成る程。そして オレの位置情報も金になるな?」

 だからリュウキは、アルゴの目を見据えてそう言った。自分の位置情報。……全然嬉しくない事だが、知りたいと思っているプレイヤーは多い。これまでの経緯を考えれば簡単に想像がつくのだ。そして、それは何としてでも回避しなければならないだろう。安住の地が少なくなってしまうのは、ゴメンだから。

 それを察したアルゴは、慌てて言う。

「それは大丈夫ダヨ! リューの情報、妄りに売ったりシナイ。アア、勿論リュー、キミにに連絡を取ッテ、それでリューがOKシタラ…… 多少値は張ルけど教えるガ?」

 アルゴにとってはっきり言って、リュウキとの情報交換はかなりの魅力だ。
 お金には変えられない程にだ。
 リュウキの情報を元に出した攻略本。1000コルもする故か確かに、売り上げは少なかったが、その魅力はわかるものだと確信は出来るから値段を下げるつもりも無い。何よりあの攻略会議の場でも格好の宣伝になったから、多分コレから売上が登っていく筈だ。 
 今後の攻略本も。
 
 以前共にクエストをする為にパーティを組んでくれ、と頼んだ時 断られたと言う1件があったと言う理由もあったが、半分以上は冗談だったあのリュウキの情報。

 そう《銀髪の勇者》の話。

 正直に言えば、アルゴはリュウキがあそこまで怒るなんて思ってなかったのだ。
 元々β時代には注目されていたし(容姿は今と全く違うが) 英雄っぽい感じに見せたら人気プレイヤーになる。
 
 それに、リュウキはシャイそうだったから克服させよう! とか余計なお世話だ。と思われる様な事をも考えていた様だ。
 女性達が触発され、更にリュウキの腕であれば ハーレムを味わえるだろう。……それに良い気だってするって思った。

 女性プレイヤーに頼られたら男なら誰でもそうだろうとも思える。

 だが、アルゴはリュウキの性格を見たらちょっと無理かな?とも思ったが、それでも、ここまでとは思ってもいなかったようだ。

 それに、これでリュウキとの関係が悪くなれば赤字・赤字・大赤字だ。
 簡単に言えば、超人気タレントを事務所が失うも同然の事だから。

「オレっちとしても、これ以上リューを怒らせないサ。……頼ムヨ」
「……まぁとりあえずは信じておこう。オレに関する情報はさっきの手筈で良い。何かあったらブラックリストに載せれば良い事だ。この世界でも着拒も出来る」
「ぅぅ……大丈夫ダから、ソレはカンベンしてクレ……」

 最終的にリュウキはとりあえず、アルゴの目を見て判断した。
 アルゴと交換しても大丈夫だろうと。


 そして、リュウキはカップを取り出した。

「アルゴ、何か飲むか?」

 アルゴに種類を見せそう聞いた。情報の本を貰えた礼を一応しようと思ったようだ。

「おおっ。くれるのカ? アリガトな!」

 アルゴはそう礼を言うと、一覧の中でミルクを選び、受け取った。

「ふ~む、コレも外へ出ると最悪な液体になるのカナ?」

 アルゴは、ミルクを見ながらそう聞いた。

「……ああ、そうだな。ここを出て、2,3歩目くらいで最悪な飲み物になる。なんだ? ここの飲料を商売に使おうと考えたか?」

 アルゴの言い方からして既に知っているようだったが。

「イヤ……、ココに来る前に、キー坊の所に行っテテ、ソコでも頂いてネ。無理だって判ってたケド、一応聞いてみたんダヨ。これは、リューのとこのはキー坊のとこより上等な味設定だったからナ」
「まぁ、簡単に出来る上手い話はそうはないと言う事だ。気をつけることだ」

 リュウキはそう言っていた。上手い話には裏があるとはよく言ったものだ。

「確かにナ」

 アルゴも笑みを出していた。商売柄だが、信頼を失うのも怖い。それを第一に考えなければならないからだ。だからこし、内心は本当に安心していた。

 こう、自然にリュウキと話せるまでに回復した事を。

「サテ……リューとも仲直リできた事ダ。ソロソロお暇するヨ」

 ミルクも堪能し……リュウキとの関係も直り? フレンド登録も出来た。間違いなく本日一番、最高の収穫だった。アルゴは立ち上がるとそう言っていた。

「ああ……。仲直りと言えば、微妙だがな……」
「あぅ、勘弁してクレないか……」

 リュウキの言葉を訊いて、がくっ……と腰が折れそうになるアルゴ。
 項垂れているアルゴを見るのも一興……かと思いリュウキはうっすらと笑っていた。

「オイラとしたら、普通にリューの笑っていル顔を見れるのハ良いんだガ……仲直りシタといって欲しイモノだヨ」

 アルゴも、苦笑い。変にお互いに笑い合って、どこか滑稽にも感じていたそんな時だった。

 部屋の扉の1つがガチャリ、と開いた。


「ふぁぁぁ………。どうも、ありがとう……、リュウキ、くん。とっても 気持ち良かった……」


 それは浴室に通じる扉だ。
 レイナが普通に出てきてそう言っていたのだ。流石に素っ裸と言うわけではないが、部屋着……なのだろうか?それでも薄着だった。バスタオルで髪を拭きながらゆっくりとこちらを向くレイナ。勿論レイナは、この場に他の誰かがいる事など夢にも思っていない。それもそうだ。このゲームの世界では、扉越しには音は大体はシャットされるから。

 この世界で、ドアを透過する音は3つのみ。

1.叫び声
2.ノック
3.戦闘の効果音

 その3つだ。
 リュウキとアルゴはそれら3点において、何もしていない。言うならば、アルゴは入ってくる時にノックをしたが、それは リュウキがいた部屋のみであり、浴室まで届かないのだ。
 ……ただでさえ、彼女は風呂に感激し、悶えていたのだ。仮にその音が聞こえたとしても、その状態の彼女には伝わらないだろう。

「えっ…………」
「オ…………?」

 レイナは勿論、なぜかアルゴも固まっていた。

「……ん?」

 リュウキは、2人がどうして固まっているのか、それが判らない様だ。


――……ただ、レイナが浴室から出てきただけだろう?


 確かにアルゴにはパーティを組んだと言う事を説明した訳じゃないが、別にどうでも良い情報だろう
、とリュウキはそう言わんばかりに2人を見ていたのだ。
 だから、妙な空気が流れる前には普通に返事をしようとしたんだが。


「ハァ…… リューと言いキー坊と言い……。2人は変な所で似た者同士ダナ……。 リューもよろしくヤッテタという所カ?」

 アルゴは既視感(デジャビュ)を感じてしまった為、固まっていたようだ。だが、その言葉を訊いたリュウキは、ますます意味が判らなかった。

「……よろしく? ヤってる? それは いったい何の事だ? レイナとはパーティを組んだだけだが」

 リュウキは首を傾げて、アルゴに聞いた。

「アッハハ~。ソレはね〜」

 初心(ウブ)なリュウキを見てアルゴは、薄ら笑うと、その全てを包み隠さずに、説明をしようとしたその時だ。



「きゃっ……きゃああああああ!!」



 だが、説明は出来なかった。レイナの叫び声が辺りに響き渡ったからだ。その声は勿論外に響く。
その声量は、夜も深い現在の時刻。とても近所迷惑だ。

「うるさいぞ……?」

 リュウキはレイナにそう注意するが聞く耳を持たない。リュウキの方は一切見ずにアルゴに詰め寄った。

「ち……違うのっ! あ……あなたは! アルゴさんっ! 違うからねっ! わ……わたしはただ……」

 レイナは慌てながら必死に必死で説明をしようとしたが、アルゴは手を振った。

「マァ マァ、落ち着けって。大体の展開はワカルヨ。なんて言ったって さっきもこんなのあっタしナ……。それにリューの性格も大体把握シテルから」

 同じような事に2回も同じ日にあるなんて、はっきり言って、ありえなくないかな? とアルゴは思っていた。それもこんな状況をだ。

「………おい」

 話を遮られたリュウキだったが、再び2人に声をかけた。何度考えても判らないからだ。

「だから、さっき言ってた言葉。一体どういう意味だ?」

 リュウキは、判らない事はなんでも聞く。そう言う性分だからだ。だが、答えは返ってくることは無かった。

 返ってきたのは。


「ちょっ!な……なんでもないからっ!!! なんでもない〜〜〜ッッ////」

 頬を真っ赤に赤面させたレイナの叫び声だけだった。その後、何度か聞いたが彼女は答えてくれなかった。



「ハハハ……可愛いナァ。ドッチも」


 アルゴはアルゴでただただ笑っているだけだった。


 この世界に来て 最も今日がにぎやかで、……そして騒がしい夜となっていた。
 
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