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 Fate/Last 第6次聖杯戦争

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開戦

 河口の拠点近くでアルトリアはバイクを止めた。何かを感じ取ったようだ。実は士朗も少しは感じ取っていた。どす黒い殺気を、だ。
 「この感じ・・・ってシロウ?」
 アルトリアが右を向くと士朗は必死に吐しゃ物を喉の奥に押し込んでいた。騎乗スキルを持つアルトリアの運転技術はレーサーどころではない。地球上の物理法則を無視しているとしか思えない動きをする。とはいえ、士朗の肉体は通常の人間にちょっと毛が生えた程度の強さなので、目が回る程度では済まなかった。
 「わ、悪い、アル」
 「い、いえ。大丈夫ですか?」
 「ああ。それよりも河、か?」
 「はい」
 短いアルトリアの返事には緊張が込められている。
 未遠川はこの町を流れる一本の河だ。かなりの大きさになり、橋も何か所かでかかっている。凛はこの街のゆがみをうまく扱うために新たに川に拠点を作ったのだ。凛の父親の時代は川にまで拠点は作らずに柳洞寺と自分の家、それにもう一か所、高校近くの雑木林に作って三か所での魔力の統治をしていたのだ。しかし、それでも魔力の安定は前回の聖杯戦争の後崩れてしまった(その時はこの街が吹っ飛ぶところだった)。そのため凛はもう一か所を足すことで凛は魔力の分配を丁度良くしたのだ。
 「シロウ、取りあえず河口に。状況もつかめない状況で拠点を破壊されて戦力がさがるのは、こちらの手足が知らない間にもがれていくのと同じことです」
 「ああ、わかってる」
 拠点を破壊されれば、この土地の遠坂家のアドバンテージである地脈からの魔力提供は減る。そのため、拠点にはかなりの防御が施されているが、サーヴァント相手では全く意味をなさないだろう。
 「凛からの連絡はないからまだ無事なんだろうけど、向かった方がいいな」
 「では行きます。シロウ、しっかりつかまってください」
 「ちょっ・・・」
 アルトリアが言うのと、バイクが唸りを上げて急加速するのは同時だった。バイクの咆哮は士郎の悲鳴を掻き消し、士郎の三半規管の機能は停止寸前まで追い込まれる。
 通常でもものの数分と掛からない距離でも、アルトリアにかかれば、ほんの十数秒になる。河口の拠点となるのは小さな宝石だった。そのため目立たないように普段は土の中に埋めてあるのである。士朗はあまりよく知らないが凛曰く、それを見つけられるのは魔術師の中でもかなりレベルの高いものだそうだ。
 
 バイクが、河口近くの雑木林に止まる。
 「シロウ、恐らくこの先にいるものはサーヴァントかと」
 「ああ、たぶんな」
 バイクを降り、そのまま拠点へ向かう。それほど距離がないため二人とも走りである。
 「でも、やるしかないよな」
 「ええ」
 土手を駆けおり、さらに走る。
 開けた先にはいくつものコンテナが闇をたたえた岬へとこれからの航海を待ちかねている、河口だった。ここは冬木で唯一の海外との貿易までしている場所だ。しかし、夜も更けてきたため人がいない。
 「誰もいないんじゃ、前哨戦には最適ってわけか」
 士朗がつい、こぼす。各地で戦場を巡っているとこんな風に感が働くようになった。
 そして、そのコンテナたちの姿もなくなった、河口のはずれに『それ』はいた。

 「ん?」
 黒い塊は二つの紅い点をこうこうと輝かせながら士朗たちを見る。そして士朗はその姿にかつて自分が殺し合ったサーヴァント、そして隣に居るアルトリアを確かに見た。間違いなく、こいつはサーヴァントだと心が、身体が告げる。さらにその手元には真っ二つになった遠坂家の拠点の発信地となる宝石があった。
 士郎は一瞬で自分にはかなわない相手だと悟った。
 「逃げてください、シロウ」
 静かにアルトリアが言った。その顔はまさしくかつて聖杯戦争を戦っていた当時のものだった。
「久しぶりだな・・・アーサー王よ」
 黒ずくめの騎士はアルトリアのことを一瞥してそうつぶやいた。その手にはまがまがしい魔力を放つ、一本の槍が握られている。しかもランサーはアルトリアの名前を知っている。そのことがアルトリアの戦闘に臨むにあたっての一振りの剣のような澄んだ闘気にわずかな曇りを与えていた。
 「私の名前を知っているのか・・・?」
 「とりあえずはランサーとだけ言っておこうか」
 「ッ。シロウ、逃げて!」
 突然、黒づくめの騎士は槍を構え、近づいてくる。アルトリアはそれに対して八相の構えで、迎え撃つ。
 剣と槍がぶつかる。はじける魔力は火花のように飛び散る。体格差は歴然としているが、アルトリアは魔力を刃に乗せることにより、威力と運動能力を強化しているのだ。このことはサーヴァントの戦闘能力は肉体の大きさによってきまるものでは無いということを示している。
 士郎はその衝撃にのけぞる。
 「いいから逃げてくださいっ。そして、リンに拠点の陥落を」
 「で、でも」
 士朗は剣を投影し戦おうとさえしている。
 徐々に押される。
 「早く!」
 アルトリアの必死の叫びに士郎は弾かれたように駆け去っていく。
 「くっ」
 ようやくシロウが逃げたのを確認したアルトリアは少しずつ、勢いを盛り返していく。
剣は普段通り風王結界によって不可視の状態である。その不可視の刃は、敵の判断力を鈍らせる・・・が。
 二合三合と打ち合っていくうちにアルトリアは違和感を感じ取った。
 四合目、いったん間合いを取る。
 やはりそうだ。この騎士には自分の剣の間合いがわかっている
 「私の名、そして剣の間合いまで知っている。あなたは・・・まさかブリテンの者ですか?」
 「何度も言わせるな、俺は円卓なんぞ知らんな。ブリテンの破滅なら知っているが?」
 兜で未だ見ぬ顔であろうと容易に想像のつく邪悪な笑み。
 その時、アルトリアの中で何かが切れた。
 一瞬で踏み込む。その速さはまさしく神速。
 次々と打ち込んでいく。ランサーの槍はそのすべてを迎え撃ち、アルトリアの切っ先は全く届かなかった。
 しかし、それでもなお攻撃の手を緩めなかった。
 「はああああああああああああ」
 ひときわ強い一撃をアルトリアが放つ。
 「ぐっ」
 それを受けたランサーは体勢を崩すことなく、体を流して威力を殺す。さらに、そのまま木を使い、アルトリアへ逆襲を仕掛ける。
 アルトリアはその逆襲を受けるのではなく逆に切りつけようとして前に出る。
 両者の影が交差する。きらめく剣戟と魔力は夜影を照らす。
 アルトリアの右の視界が、嗅覚が、濃密な赤によって塗りつぶされる。しかも、アルトリアの貯蔵している魔力だけでは一切回復が始まらなかった。二十年前、二槍の使い手による傷のような感じがする。
 「ぐっ」
 「まだだ」
 槍を力任せに薙ぐことでランサーは懐の中のもとを芝刈り機のように刈り取ろうとする。アルトリアは一撃目を躱し、二撃目を剣で受ける。槍の大きさはアルトリアよりも大きい。それ故に扱いきれるかは持ち手に大きく左右されるが、この槍兵は完全に使いこなしている。
 ならば、と風王結界の一部から風を巻き起こす。その風は得物を打合せ、零距離にいたランサーを吹き飛ばす。アルトリアの宝具【風王結界】の応用版である。本来【風王結界】は高濃度の風を圧縮させたものを剣にまとわせ、光の角度を屈折させることにより刀身を不可視にしているのだが、今回はその一部を開放し、ランサーにぶつけたのだ。当然、威力は岩を軽々と砕くものだが・・・
 吹き飛ばされたランサーはさほどのダメージも負わずに五メートルほど離れた地点に着地する。
 「ぬははは。愉快、愉快。こうしてかのアーサー王を殺すために戦をできるとは」
 ランサーの笑い声低い鐘のようなが響く。間違いなくランサーの技量はアルトリアのそれに比肩、いやそれを超えていた。これほどの腕前でそれでいてアルトリアのことをよく知っている。彼女の頭の中に嫌な予感がした。二十年前の繰り返しではないかと。彼がまた自分と刃を交えに来たのではないかと。そのランサーの顔を隠す鎧兜をにらみつける。
 「まさか・・・お前は・・・ランスロット?」
 アルトリアの心に生じた疑問はアルトリアの剣筋を鈍らせる。
 そのつぶやきがよほど気に入ったのかはたまた、頭に来たのか、突然笑い出した。
 「俺が、ランスロットだと?片腹痛い。あまりなめるなよ。あんな平和になったブリテンの地を守護していたくらいで最強を気取りやがったやつと比べるな。我々がブリテンを統一するために払った代償に比べれば、お前たちがカムランでの戦いで払った代償なぞなんでもないであろう」
 ひとしきり笑ったランサーは今度は一方的にアルトリアをまくしたてる。そのさまは、かんしゃくを起こした子供のような激しささへあった。
 「あなたは・・・」
 「黙れいっ」
 一瞬で距離を詰めたランサーの刺突がアルトリアを襲う。その刺突は雨のようにアルトリアの体を血で濡らさんとする。それをアルトリアは迎撃するのではなく、力をいなすという形で無傷でやり過ごす。
 「くっ」
 打ち合ううちに、徐々に相手の動きが見えてくるものが普通だが、変則的なランサーな動きは一切動きをつかめさせない。
 剣で攻撃を流すにも、細かい攻撃は命中するのは避けようがない。
 徐々に浅手が増えていき、それは回復しない。
 しかし、アルトリアにはあまりそんな浅手は関係なかった。狙うはだだ、一点。
 決めにかかろうとランサーがひときわ大きく槍で突きを繰り出した。
 アルトリアの勝機はここにあった。いかなる槍使いでも、刺突を放つ一瞬の間は懐は空く。そこに飛び込むことこそ槍使いとの戦いでは勝機の一つとなるのだ。特にアルトリアは背も低く、当たる確率という点ではあまり高くはない。
 ―――もらった。
 とアルトリアが勝利を確信した時、白刃の一閃がきらめいた。

 士郎は道を急いでいた。バイクは士郎では扱いきれないため、走りである。士郎の脚力は魔術の強化もあってかなり速く、赤い弓兵のそれとあまりそん色はないまでになっていた。
 駆け続ける。
 ここから衛宮邸まで十キロ程度だが、今の士郎の脚力ならすぐなはずだ。しかし、延々と続くコンテナの森は士郎の頭の中をゆする。
 「なんだ。この感じ」
 思わずつぶやいていた。
 立ち止まる。
 ゆっくりと目を閉じた。そして、一回深呼吸。心を平静に保ち、魔術回路に魔力を通す。魔術の行使というのはいわば、ある神秘を体で表す。ある意味では臨死体験。ある意味では光栄なる行為。どちらにしても未熟な魔術は身を滅ぼす。ゆえに士郎の髪はすでに白に染まっている。
 今、士郎の行使している魔術は共感覚。すべての感覚をつなげて本人のいる空間の異常を洗い出す。
 すべての感覚が一体になるというのは非常に気持ち悪い。いうなれば自然と一体になるといったことだ。
「これは・・・」
 異常なんてものじゃないと士郎は思った。この空間そのものが異常なのだ、おそらくは巨大な結界。魔術における結界というものは二種類ある。境界線としてのモノ、もう一つは異界としてのモノ。前者は比較的良心的だ、何せ後者のように世界を壊したりはしない。まさしく地球にやさしいのだ。しかし、後者は士郎にとってもなじみ深いものであり、それでいて厄介だ。何せ相手の体内にいるようなものなのだ。凛のそれはどちらかというと前者だ。アルトリアはあまりその辺をわかっていないが。
 「はてさて、まずいな。急いでるって時に」
 コンテナの森はその赤い姿のまま士郎の目の前で形を変えていく。まるで出来の悪いSFだなと士郎はつぶやく。コンテナたちは最終的にいくつかが合体し、数十体のできの悪いロボットのおもちゃのような姿になった。
 「はあ、仕方ない」
 気の抜けた溜息は力を程よく抜いていく。
 まぁ、凛のことだし、もう今の緊急事態には気づいているだろう、と士郎は一人自分の戦闘に納得をして、
 「投影開始」
 とゆっくりとつぶやく。するとどこからともなく、士郎の手に突然二本の夫婦剣が現れた。
 これこそ士郎の唯一にして最高の切り札、投影魔術。通常の魔術師なら一瞬で血液が沸騰し死ぬほどの難易度たる魔術。それはこの男は悠々とこなす。
 「行くか」
士郎は疾走を始めた。少し厳しい散歩のような、そんな感じで魔術師は駆け抜ける。
次々と現れるコンテナの化け物たち。それをまるで芝刈りのように切り裂いていく。それは少し難易度の高い庭仕事。士郎はコンテナたちを悠々と切り裂いてなお、余りある威力と切れ味でコンテナたちに悲鳴とも取れない金属音を上げさせていく。
 振るう剣は干将莫邪。魔のものを相手にする際には本来の力よりも少しばかり上の力を発揮する剣だ。このコンテナのロボットたちにはちょうど良い。
 ロボットたちは奇妙な形の腕を振り上げ、振り下ろして必死に庭師のことをつぶそうとする。必死かどうかすら表情からはわからないがロボットたちの抵抗を士郎はかわし、干将莫邪で刈り取っていく。
 「ん?」
 その士郎の簡単なお仕事も終わりを迎える。
 コンテナたちの森が終わりを告げたのだ、気づけば、そこは拠点に最も近い国道の近くだった。
しかし、士郎は安堵など全くする暇もなくコンテナたちとは比べることもできないような強烈な気配を漂わせている一つの黒い影に気付いた。
 「・・・」
 その正体を探す。
 士郎はすぐにそれが初老の、英国にいたような外套を纏った男だと分かった。
 森の時が止まったような静けさは両者の間の空気を凍らせる。
 「ふむ」
 一瞬で今度は士郎の表情が凍りついた。
 ここ数年、士郎はここ数年ニュースなどでは紛争地帯と呼ばれる、現地の人間にとっては地獄にでしかない場所で多くの修羅場をくぐってきた。そんななか、彼の心眼ともいえる動物的な直観は育ってきた。それ故にわかってしまった。ほんのわずかな相手の吐息で、その実力、自分との差が。
 魔術回路に魔力をゆっくりと流そうとする。
 「え」
 士郎の表情に驚きが加わる。魔術回路が動かない。それこそ、冬に凍ってしまった川のような感じに。
 しかもゆっくりと、男は近づいてくる。
 士郎はゆっくりと目を閉じ、自分の終わりを感じ取った。
 
 

 
後書き
どうも、頬杖です。
「開戦」というわけでバトルパートに入りました。非常に拙い描写ですが、これからもがんばっていきたいと思います。
感想等ありましたら感想板のほうにお願いします。 
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