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ランメルモールのルチア

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第二幕その五


第二幕その五

「以後も宜しくお願いします」
「是非」
「そしてルチア殿は」
 彼は大広間の中を見回しながらエンリーコに問うた。
「まだでしょうか」
「もうすぐです。ただ」
「ただ?」
「あれは気の優しい娘でして」
 ここでこのことも話した。
「母の死をまだ悲しんでいるのです」
「そうらしいですね。そして」
 アルトゥーロの顔が微かに曇った。
「彼女に言い寄る男がいるとは」
「その男については貴方も御存知の筈です」
「エドガルドですか」
「そうです」
 二人の顔が話しているうちに曇った。
「あの男がいるのです」
「そうですか」
 それを聞いてアルトゥーロの顔がさらに暗いものになった。
「あの男が。やはり」
「そのうちこの手で決着をつけます」
 エンリーコの目に剣呑な光が宿った。
「ですから御安心下さい」
「はい、それでは」
「エンリーコ様、来られました」
「ルチア様がです」
 ここでノルマンノと兵士が一人来て彼に告げてきた。
「うむ、わかった」
「いよいよですね」
 エンリーコはまだ険しい顔だったがアルトゥーロは喜んでいた。二人の表情にはそこまで見事に違いが出てしまっていた。だが周りはそれに気付かない。
「花嫁が来たぞ!」
「ようこそルチア!」
「何と美しい!」
 遂にルチアが来た。左右にそれぞれライモンドとアリーサがいる。二人はルチアを支える様にして彼女の左右にいるのであった。
 エンリーコは彼女が自分の前に来ると。すぐにアルトゥーロを右手で指し示して話すのだった。
「こちらがだ」
「私の」
「そうだ。夫となる人だ」
 アルトゥーロは無言で微笑みルチアに会釈した。
「よいな」
「・・・・・・はい」
 ルチアは蒼ざめた顔で兄の言葉に対して頷いた。
「わかりました」
「何という美しさだ」
 アルトゥーロはただルチアの顔と容姿だけを見て述べた。
「これ程までとは」
「それではです」
 エンリーコは話を強引に進めにかかった。結婚の契約書があるテーブルを持って来させそのうえでさらに二人に対して言うのであった。
「それでは誓いを」
「はい」
 アルトゥーロはにこやかに進む。ルチアは絶望した顔で何とか進んでいた。
 アルトゥーロのサインはすぐに終わった。しかしルチアは。
 羽根のペンを手にしても中々進まない。手が震え動かないのだ。
「ルチア様、勇気を」
「けれど」
 ライモンドに促されても手が動かないのだった。顔はさらに蒼くなっていく。
「手が」
「早くするのだ」
 横から兄が睨みながら言ってきた。
「いいな」
「・・・・・・はい」
 何とかサインをした。そして一人呟くのだった。
「私の幸せはこれで」
「全ては終わった」
 エンリーコはその横で安堵した顔になっていた。
「まずは何よりだ」
「何という災厄・・・・・・」
 ルチアがまた力なく呟いたその時だった。不意に外から物々しい音が聞こえてきた。
 
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