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利口な女狐の話

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第一幕その四


第一幕その四

「ただ殴られただけじゃない」
「子供が相手なんだし」
「気にしなかったらいいのに」
「気にしたらね」
 それを聞いて一旦顔をあげるビストロウシカだった。表情はそのままだ。
「どうだっていうのよ」
「どうだもこうだもないでしょ」
「だからそんなことやったらよ」
「何にもならないだろ」
 こう言ってきた。しかしビストロウシカはまだ言うのだった。
「あのね、動物は言う時に言わないと駄目でしょ」
「駄目っていうのね」
「それでも」
「そうよ、だから私はね」
「無駄でしょ、でも」
「ねえ」
 鶏達は彼女の言葉を聞いても言うことは同じだった。
「人間に逆らってもね」
「飼われているんだし」
「だったら飼われていることが問題なのね」
 その言葉に反応した彼女だった。
「よし、わかったわ」
「わかったって?」
「一体何がわかったっていうのよ」
「それで」
「私は森に帰るわ」
 そうするというのである。言うとすぐに立ち上がったのだった。
 そして縄を噛む。それで切ろうというのだ。
「えっ、本当に逃げるのかい」
「そうよ」
 驚きの声をあげるラパークに対しても応える。
「その通りよ」
「何でそんなことをするんだ?」
「だから飼われるのが嫌なのよ」
 それに尽きた。
「わかったわね。それじゃあね」
「それで森に帰るのかい」
「機会があったらまた会いましょう」
 ラパークに対する言葉だった。
「それじゃあね」
「またそんなことを言って」
「ここにいたら食べ物はあるのに」
「食べ放題だよね」
「ねえ」
 鶏達もそれぞれ言う。
「それで何でまた森になんて」
「何でそんなことを」
「飢え死にしても知らないよ」
「だからね。私は飢え死にする程馬鹿じゃないのよ」
 そうだというのである。
「わかったわね。それじゃあね」
「行くの」
「本当に」
「そうよ。あんた達とも付き合いは短かったけれど」
 鶏達に対しても言う。
「またね」
「まあこっちは食べられないだけよかったよ」
「狐だからね」
「正直何されるかわからないし」
「あんた達みたいなのは食べないわよ」
 口で縄を切りながら述べる。
「間違ってもね」
「あれっ、何で?」
「何でなの?」
「狐は鶏を食べるものじゃない」
 今のビストロウシカの言葉を聞いて逆にいぶかしむ狐達だった。
「それで何でよ」
「そんなこと言って」
「実際に僕達に何もしそうにないし」
「鶏肉は選ぶのよ」
 だからだというのである。
「それだからよ。わかったわね」
「つまり僕達がまずいってことか」
「それだからなの」
「私達ってまずいの」
「飼われてる鳥は動かないからまずいのよ」
 だからだというのである。
「あんた達なんてどう見てもまずいし」
「こんなに美味しそうなのに」
「ねえ」
「それで何もしないなんてね」
「それじゃあね」
 彼等をいささか憮然とさせたところで縄が切れたのであった。これでいよいよビストロウシカの念願が適うのであった。
「これでよしよ」
「さよならね」
「それじゃあね」
 これでビストロウシカは家を後にした。そうしてそのまま森に向かう。そして向かう先は。
 
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