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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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第一章 『交差』 ‐暴風の竜騎兵と紅の姫君‐
  第1話 『目覚めし暴風』

――『世界はこんなにも暖かく、優しい。 だが…同時に理不尽で、どうしようもなく残酷だ』

そんな言葉を言っていた偉人が居た気がする。
そうだ、世界はいつだって――とても優しくて、楽しくて…そして残酷だ。
よく『争いをやめろ』と叫ぶ人間が居る。
だけど、その叫ぶ本人もそう叫びながら『争いをしている』という矛盾に気がつくだろうか?
人は誰もが自分の都合のいいように主張を叫ぶ。そして、それが通らなければ争う。

例えば『人生』という面で見てみよう。
世界というのは、存在するなら神様という物は人に対して与えた『人生』という物を最終的に返せと言ってくるのだ。

そう、『死』という形や色んな形で、与えたものを返せといってくる。
それはどれだけ残酷で理不尽なことだろうか。

そんなどうしようもない世界で、俺は――あの時彼女と出会った


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



俺が話をされた『ISの護送任務』。色々考えるものはあったが……俺はそれを引き受けた。
この力を凍結しなければ、きっとまた犠牲が出る。そして、直感的に正しく使えないこの力は存在すると未来でまた犠牲を呼ぶ。
だから、封印しなくちゃならない。そう考えたから、俺はこの任務を引き受けたのだ。

俺は今回運ぶISであるその日の朝、アタッシュケースに厳重に保管された"Tempest_Dragoon"をエディさんから受け取った。
どこから持ってきたのか、と聞いても答えてはくれなかったが。

「それを、さっき教えた場所に運んで――そこで落ち合う予定になっている ハリソン・ラーロング という人物に引き渡してくれ。」
「誰なんですか?そのハリソンって人は――」
「フランス軍の"IS研究機関"の人間だ――今回、この機体の処分を担当する予定になっている人物だが――」

すると、エディさんは真剣な表情で俺の肩を叩くと

「もし、もしもだ――ハリソンに何かあって、何かしらのトラブルでそのが奪われそうになった場合――相手を殺しても構わない、とにかく逃げて私の所に戻って来い」
「それは、どういう――」
「…信じたくはないが、前にも話したがこのISはあらゆる面で『規格外』だ。だからもし、ハリソンに限ってそんなことはないかとは思うが…何かあった場合はそれを持ってその場を離脱しろ」

そんな話が、受け取った直後にあった。
最悪の事態を予測するのは、軍人としては当たり前だ。
自分でも考えたが、確かにこのISの規格外を考えれば裏切りや何かしらの理由でISを奪おうとする可能性はゼロではない。
むしろ――このISの話を聞いて、それでも『この力は強すぎる』と思ってしまう自分がおかしいのだろうか?

そうして俺は、自分の愛車である単車に乗り、『ハリソン・ラーロング』と会う予定のフランス郊外の森に向かった。

バイクを走らせて暫く、運転しながら尾行や襲撃などを警戒していたが――そんな事態は発生しなかった。
むしろ…何もなさ過ぎて逆に警戒してしまうほどに。

そうして約束している郊外の森深く、近くの道にバイクを停車するとアタッシュケースを持って森に入っていく、暫く歩くと約束しているポイントに数人の人影があった

――あのうちの誰かが、ハリソン・ラーロング なのだろうか? 念には念を押すと言うが…エディさんから聞いていた確認方法っていうのを試してみるか

俺は、ケースを持って黒服たちに歩み寄ると

「こんにちわ」

すると、黒服の一人がこちらに気がつき、言葉を返してくる

「お前がエディ大佐の話にあった護送役か? 随分と若いな――で、ブツは持ってきたのか?」

言葉を返してきたのは黒服の『男』だった。

「ええ、勿論――その前に聞いてもいいですかね?」
「何だ?」

ここで俺は、相手が本物かどうかを確認するために――ある質問をした

「エディ大佐の誕生日、いつか分かります?」

すると黒服は なんだ、そんな事か と呟くと

「1月25日だろう?これでいいか?ならブツを渡してくれ――」

なるほど、よーく理解した――だとしたら、俺が取る行動は1つだ

「…確認しますけど、貴方は『ハリソン・ラーロング』さんですよね?」
「あぁ、私がハリソンだが――それがどうかしたのか?」

俺は 『そうですか…』 と言うと、腰のホルスターから銃を引き抜き相手に向ける。

すると他の黒服達も身構えて銃をこちらに向けてくる

「全員動くな!」

仲間の額に銃口を突きつけられているからなのか、他の黒服たちはその言葉に従って身構えたまま静止した。

「な、何のつもりだ!」

黒服がこちらを見ながら叫んでくる―― 何のつもりだ というのはこちらの台詞だ

「『何のつもり』はこちらの台詞だ―よ。あんた、ハリソン・ラーロングは女性のはずだ。なのにあんたはどう見ても男――それに、『ISは女性じゃないと動かせない』筈なんだよ」

すると、銃を突きつけていた男が チッ と舌打ちすると

「クソッ――お前ら、コイツを殺せ!アレだけはなんとしても奪え!」

俺は躊躇いなく引き金を引くと、目の前の男の頭を打ち抜く――すぐさま走り出すと、近くの木の陰に隠れる。
隠れた直後、木の横を銃弾が掠めていった。間一髪、だったようだ。

「さて、エディさんの言ってた最悪の事態になった訳だけど、これはどうしたもんかな――」

確認できただけで、残りの黒服の数は5人、それと恐らくだが――あの黒服たちの車の辺りにスナイパーも居るだろう。
だとしたら、このまま逃げて走り抜けようとすれば俺はスナイパーに狙撃されて死ぬ。

かといって、このままここで留まれる訳もないし、このまま戦闘をすれば間違いなく俺は殺される。
しかし、この状況を打開しなければ俺がお陀仏だ。こんな状況でそんな事を考えるはおかしいかもしれないが、まだこの年で死にたくは無い。
だけど――このアタッシュケースの中身だけは渡す訳にはいかないんだ。
これを渡して、それが広まれば……きっと最悪の惨劇も生む。それだけは避けないといけない


「ああ、クソッタレ!」


木の陰からハンドガンで応戦しながら悪態をつく。
正直、こんな事態になったと言うことは相手はこっちを殺すための用意は入念にしているのだろう――対してこちらは、ハンドガンが1丁にマガジンが3つ。逃げようにも簡単には逃げられない。
状況は絶望的、こちらの援軍は期待できないしそんなものもない。元々エディさんが俺に依頼してきた依頼であって、外部には殆ど話してないのだ。
どうやって奴らがこのケースの中身についての情報と、護送についての情報を仕入れたのかは不明だが、それよりも今の状況だ。さて――


どうしたものかなぁ… と考えていると


「ギャァァアアアア!」
「な、何だ!?」
「何があった!」

黒服たちの後方――恐らく、スナイパーが張っていた位置から、悲鳴が上がりそれまでこちらに発砲していた黒服達が慌て始める

「…援軍、って訳じゃなさそうだよな」

銃弾が止まったのを確認して、俺は木陰から様子を伺う――そこには


「ぁ…た…すけ…て…」
スナイパーライフルを片手にぶらんと下げたまま 『空中に宙吊りになっている』黒服が一人居て、男の心臓からは黒い刃のようなものが貫いていた
そして俺は……その光景を現実物として見せている『少女』に対してゾクリ、と……恐怖を覚えた。

「あ、なんだ――まだ生きてたんだ?」

男を貫いている刃――死神のような鎌を持つ『赤黒いISを纏った彼女』はどうでもいいように呟いた

ISだと――しかし、あれは一体?どう見てもこちらの援軍という訳ではないだろうが――
状況が混沌としすぎていて、自分の中でも整理が付かない。一体どうなってんだよ・・・!

「な、なんだお前は!まさかルヴェル・エディの差し金か!?」
そう叫ぶ黒服たちをまるで興味のなさそうな眼で彼女は見ると、男達の足元に突き刺していた男を叩きつけると、その男は今度こそ息絶えた。

「ルヴェル・エディ?――あぁ、あのフランス空軍の<疾風の戦鬼>ね。噂程度は知っていて、個人的には興味のある人だけど、少なくとも私はその人の差し金じゃないよ――それより、ねえそこの黒い服の人達」
「な、何だ?」

すると、彼女は笑顔で

「こないだ私を『殺そう』とした男の人たちが持ってたデータに第3.5世代、軍用IS――"Tempest_Dragoon"の凍結と護送に関するデータがあったの。それで――"Tempest_Dragoon"はどこ?」
すると、黒服達の顔が一気に青ざめて
「こ、こいつまさかあれを狙って――う、撃て!お前ら撃て!あのガキを殺せェ!」

黒服達が銃口をISを纏った彼女に向けて撃つ だが――そんなものは、無意味だ。
ISに対してアサルトライフルや銃弾なんて、傷ひとつつくわけがない。

撃たれた弾丸はすべて彼女のISに当たっても弾かれてしまい、それを見て彼女は心底詰まらなさそうに

「もう、おしまい――?」
「ひ、ひぃっ…」

彼女は、笑顔で男達に血濡れの大鎌を向ける。
男達は弾切れになっているのもお構いなしで彼女に対して銃口を向け、狂ったようにトリガーを引き続ける。
だが、銃弾を撃った所で意味はないし、撃つ弾もない――まさにその状況は、狩られる者と狩る者だった。

「で、"Tempest_Dragoon"はどこ? 私――あんまり気は長くないんだけど」
「あ、アレならあそこのガキが持ってる!」

そう言って黒服の一人は、俺が隠れている木陰を指差す
クソッ――余計なことしやがって、なんとかしてこの場を離脱して戻らないと――俺も殺される

「ふぅん…ありがとう黒服の人、じゃあ――さよなら」
「ぇ――」

その言葉が、黒服の最後の言葉となった。
次の瞬間、彼女は大鎌を一閃して黒服二人を真っ二つにした。同時に、『黒服だったモノ』から真っ赤な液体が噴出して、一体を真紅に染めると同時に、贓物を周囲にぶちまけた。

「う、うわぁぁああ!!」
「た、助けてくれぇぇええ!!」
「あ…ぁぁぁ…」

残った3人の黒服も、その場から逃げようとするが――彼女は再び鎌を振り上げると無慈悲に

「煩いな――『私を殺して(満たして)』くれないなら、邪魔だよ。死ね――」
という言葉と同時に、残り3人も真っ二つにして、ヒトだったモノが赤い液体と贓物を更に周囲にぶちまける

すると、またその彼女は楽しそうに今度はこちらを向くと

「本当に、つまらない――また誰も私を殺して(満たして)くれない。貴方もそう思うでしょ、そこの人」

そう言い放った。
彼女は間違いなく木陰に隠れている俺に対してその言葉を放ったのだろう――クソッ、逃げようにも逃げられないか
俺は緊急用の発信ボタンを一度だけ押す。これは――もし何かあった場合、エディさんに緊急信号が送られるようになっている。
そして俺は木陰から出て

「いや――俺には理解できないな、そういうの」

木陰から出てきたのが男である俺だったからなのか、その彼女は少し驚くと

「――男?」
「…男で悪かったな」

「うーん…まあいいや、ねぇお兄さん――お兄さんは私を満たしてくれる? 殺してくれる?」
「悪いんだが、折角可愛い女性のお誘いだが――急ぐんでできればそれはご免被りたい」
「そんな事いわないで――私を満たしてよ」

瞬間、彼女が動く――次の瞬間には彼女は俺の真上で、持っていた鎌を振り上げていた
だけど――

「…ッ! 真上からの切り下ろし、動きが大振りすぎる――当たらない!」

俺はその行動を『予測』していた。そしてその予測から行動を判断し、来ると思った瞬間に左に飛んだ

「えっ…?」
「殺せなかったのが、そんなに不思議か?」

俺は無意味だと知りつつもハンドガンを彼女に向けて、問いを放つ

「お兄さん、面白い――今の確実に殺したと思ったんだけど、どうして避けれたの?しかも生身で」

そう、先程この彼女が放ってきた上段からの切り下ろし――普通なら見えてから反応すれば間違いなく間に合わずに即死だ。
だけど、俺はその行動が来ることを『予測』したからこそ、彼女の攻撃が来る前に反応できた。
だが、相手はISこちらは生身だ――そんな事が出来ても、長くは持たないのは目に見えていた。

「とりあえず、運が良かったからって事にしといてくんないかなッ!」

悪態をつくと、俺はハンドガンを連射する――勿論、無意味だ。ISに対してそんなものが効くわけがない

「ははっ、お兄さん面白いね!でも――そんなモノじゃ、私に傷をつけることは出来ないよ!」

知ってるさ――だから俺は、全速力でバイクまで走る。

けど、心のどこかでわかっていた――確実に追いつかれてしまうなんてことは

「逃がさないッ!」

逃げても、直ぐに追いつかれて彼女の大鎌が俺を襲う――それをなんとか転がることで回避する。
しかし――転がった所で、彼女からの追い討ちが来る――また避けるが、今度ばかりは避けきれない。俺は脇腹を切り裂かれた。

「あ…がァ…!」

バッサリとやられた。切られた傷口からは結構な血が出ている――今はまだいいが、これはほっとくとヤバイ。
そして今受けた傷のせいで――これ以上、彼女の攻撃を避けることは出来ない。


クソッ――ここまでか


次の瞬間、再び彼女が大鎌を振り上げて、俺を真っ二つにしようとしてくる
間に合わない――回避は不可能――ここまでか、そう思って覚悟を決めた


死を覚悟した瞬間、それは起こった。

俺が右手に持っていアタッシュケース――突然それが光り輝いたかと思ったら、俺を殺すはずだった攻撃を弾き飛ばしたのだ


「な、何!?」

予想外の事態に困惑し、彼女は距離を取り身構える

「まさか――」

本当ならば、預かった代物の中身を開けるなんてしてはいけないのだろうが――緊急事態だ

俺はケースを開けるとそこには――



――『翼と剣を象った、灰銀色のネックレス』、それが……丁寧に収められていた

――そして、根拠も理由もないが『何故か懐かしさを覚えてしまった』のだ


こうなったら、ダメ元だ――どうせこのまま死ぬのが目に見えているのなら、やるしかないッ――それに、まだ俺は死ねないッ!

俺はケースの中からそのネックレスを右手で掴むと

「俺は…俺は、こんな所で死ぬわけには行かない。『空を護る』って夢も、何も果たしちゃいないんだから――俺は、死ねないんだ! お前にもし意思があるなら、心があるんなら――もう一度空を飛ぶための力を俺に貸せ!テンペスト!」

その瞬間、ネックレスが眩い光を放ち、輝きだした

「一体何が――」

彼女は身構えつつもその眩しさに目を塞いだ。


そして俺には、その瞬間――声が聞こえた




――『 やっと みつけた 』




嬉しそうな彼女の声、それが――確かに聞こえたのだ


そして、その一帯は光に包まれて――光が晴れたそこには

「そんな、馬鹿な――男がISを起動させるなんて、どうしてッ――あり得ない!」

彼女は困惑しながら叫んでいた。だが――彼女は気がついただろうか?その時自分が『笑っていた』という事に

俺は、ISを纏っているのを確認すると同時に――身体中に力が沸いてくるのを感じた。そしてそれは、どこか――どこか懐かしいものであった。

「…ありがとう、応えてくれてありがとう――だから今度は俺の番だ。俺が――お前を使いこなしてみせる、だから行こう。俺と飛んでくれ、テンペスト!」

呼応するように、"Tempest_Dragoon"は6枚非の固定浮遊部位に存在する羽、エネルギーウイングを背中に広げた。



――その日、少年は再び空を飛ぶための力と出会う。その力は、あまりにも大きすぎて―― 一歩間違えば、災厄になりかねない力。

――だが少年は誓う。もしISに心があるのなら、『俺はコイツを災厄ではなく、空を飛ぶための翼とする そして、この世界はどうしようもなく醜いけど、人の心はまだ光と可能性に満ちている』という事を教えてやりたかった。


――『翼をもがれた少年』は再び空を駆ける為の翼を得る。

――そしてまた、少年は自分にとっての運命を左右し、大きく関わっていく事になる『血濡れの姫君』と出会う。


物語の歯車は、今――動き出した。

 
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