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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第百十九話 ホント強くなりやがった

 闘悟は開始の声と同時に消える。
 いや、目にも止まらない速さで動いている。
 ミラニの背後に回ると、彼女の首を掴もうとする。
 これで闘悟が先手を取ったと思われた。
 しかしその瞬間、鞘(さや)が闘悟の腹に命中するように伸びてきた。


「おっと!」


 素早く後ろへ跳んで避ける。
 ミラニはゆっくりと闘悟に振り向く。


「ちぇ、せっかく前と同じように掴もうと思ったのにな」


 以前は闘悟に後ろ首を掴まれてしまい、動けなくさせられ降参することになったのだ。
 だが今回は、背後にいる闘悟に気づき、後ろ向きに鞘を伸ばしてそれを防いだのだ。


「もしかして……見えてたのか?」
「その程度の速さならな」


 おいおい、前回と同じ速さだったんだぞ?
 あの時は身動きすらできなかったくせに……。
 だが彼女の言葉に嘘は無いと感じる。
 どうやらあの時は目で追うこともできなかったのに、今では「その程度」のスピードになっているらしい。


「……強くなったなミラニ」
「っ!?」


 微笑みながら言うと、何故かミラニは頬を染めて目を逸らした。
 あれ? 何でだ? もしかして照れてる……?
 本当のことを言っただけなのに、あのミラニが照れるとはかなりの予想外だった。


「き、き、貴様は本当にどうしようもない奴だ!」
「えっと……へ?」


 彼女の言っている意味が全く分からない。
 ミラニが顔を赤らめた理由は、闘悟に褒められたからだ。
 それも嬉しそうな表情を向けてだ。
 その表情が、幼い頃、よくそんなふうに褒めてくれた師と重なったのだ。
 もちろん闘悟はそんなミラニの思いは分かるはずも無かった。
 ブンブンと頭を振って、気を引き締め直し剣に手を掛ける。


「こ、今度はこちらから行くぞ!」
「おう、来い!」


 今度はミラニが一瞬で闘悟との間を詰める。


「『縮地(しゅくち)』か!」


 素早く移動する技である『縮地』で、ミラニは闘悟の懐へ潜る。
 剣を抜きそのまま斬りつける。
 だが闘悟は素早く身を屈(かが)め避わす。
 だが追い打ちをかけるように今度は突きを繰り返す。


「くっ!」


 闘悟は堪らずその場から脱出する。
 速えな……前とは全然違え。
 それがミラニの攻撃を受けて得た感想だった。


「今度は指で止めなかったのだな?」


 そう、前は指二本で剣を挟み、力任せに折ったのだ。


「いやいや、そんな余裕無かったぞ?」


 そう、あまりにも速い剣捌(さば)きに、避けるので精一杯だった。
 その言葉を受けて、ミラニの顔が少しだけ緩んだ気がしたのは気のせいではないだろう。
 やはり褒められて悪い気はしないのだ。


 闘悟は魔力を少しずつ解放していく。
 それを感じてミラニは顔をしかめる。


「相変わらずの底無し魔力だな」
「まあな、行くぞ」
「来い!」


 闘悟は足に魔力を集中させて、地面を踏む。
 すると闘武場全体が地震に見舞われたように揺れる。


「こ、これは『魔震脚(ましんきゃく)』という技ですね!」


 モアは揺れる体を支えながら闘悟の技名を言う。
 この技は闘悟が一次予選で見せたものだ。
 これにより、一瞬で三十八人もの対戦者を倒した。


「どうだ、ミラニ!」
「こんなもので!」


 ミラニは一度自分の目で『魔震脚』を見ていたので、この技の特性を把握している。
 これは揺れにより相手の動きを奪い、その上で地面に流した魔力で相手を攻撃する。
 だからミラニはそれを防ぐためにも上空高く跳び上がった。


「ちぇ、やっぱ見られてたのはまずかったかな」


 闘悟は悔しそうに舌打ちをする。


「けどよ、そこじゃ身動きできねえだろ?」


 空にいると踏ん張りがきかず、普通は身動きができない。
 闘悟は体当たりをしようと、ミラニに向けて跳び上がる。
 だが衝突の瞬間、ミラニの姿がその場から消える。


「えっ!?」


 鳩が豆鉄砲をくらったような表情になってしまう。
 気づくと、ミラニはさらに上空にいた。
 そこでハッとなり思い出す。


「あっちゃ~、そういや『天動(てんどう)縮地』があったっけか?」


 そう、ミラニは魔力を足元で小爆発を起こして、空中で移動する『天動縮地』という技を身に着けている。
 今ミラニはその技を使用して、闘悟の追求から逃れて見せたのだ。


「くぅ~やっぱその技カッコいいよなぁ」


 まるで空を飛んでいるかのような彼女の技術に、素直に羨望(せんぼう)の思いを抱く。


「でもそうか……『天動縮地』か……」


 闘悟は何かを思いついたような笑みを浮かべる。
 ミラニはそれには気づかず、舞台に身を降ろす。


「今のは少し焦ったぞ」
「はは、しっかり避けておいてよく言うよ」


 お互いにフッと微笑し合う。
 未だに両者ともに有効打どころか、互いの体に一片の負傷も無い。
 極めて高度な攻防に、観客も言葉を失って、彼らの行動を見失わないようにジッと見つめている。
 先に攻撃を当てて、流れを掴むのはどちらか、息を飲んで見守っている。


「それでは次だ!」


 ミラニは叫ぶと、今度は魔法を使ってきた。
 『火の矢(ファイアアロー)』を何発も放ってくるので、闘悟は以前と同じように魔力を宿した拳で弾いていく。
 だがその合間を縫って、ミラニは素早く間を詰める。
 剣を抜き斬りつけるが、闘悟はそれを予想していたのか後ろへ大きく跳ぶ。
 だがそこでミラニは笑った。


「これならどうだ! 『風の弾丸(ウィンドブレッド)』!」


 ミラニの手から発射された風の塊が、闘悟の向かって行く。
 普段なら軽く避けられるのだが、今は無理だった。
 何故なら後ろへ跳んだせいで、まだ彼は宙に浮いているのだ。


 そ、そうか! ミラニの奴、これを狙って!?
 闘悟の思った通り、ミラニは闘悟が自分の接近に気づいて後ろへ跳ぶことを予想していた。
 だから、その跳んでいる間、何とかして攻撃を加えられないかと考えた。
 後ろへ跳ばせておいて、着地する間に攻撃する。
 そうすれば逃げることができず、確実に攻撃がヒットする。


「くっ! さっきの仕返しかよ!」


 闘悟は咄嗟(とっさ)に両腕を交差させてガードの構えをする。
 彼女の思惑通り、『風の弾丸(ウィンドブレッド)』は闘悟に命中し、彼は大きく吹き飛ばされる。
 舞台の上を盛大に転がっていく。


「す、す、すっごぉ~い! 何とぉ! ファーストヒットはミラニ選手だぁ!」


 モアの実況が挟むと、観客達も増々盛り上がりを見せる。
 先程は静まり返っていたのに、今は間違いなく気温を上昇させるほどの熱気を生んでいる。


「今のはミラニさんが上手かったですね」


 フレンシアも彼女を褒める。
 モアも何度も頷き肯定する。
 先程闘悟が失敗した攻撃を逆に返して成功させてしまった。
 虚を突かれた闘悟はまんまとミラニの攻撃を受けてしまった。


「はい! 試合が始まって、素晴らしい攻防が続いていましたが、どうやら流れはミラニ選手が掴んだみたいです!」
「ですが、トーゴくんは宙に浮かんでいる状態で攻撃を受けたので、あまりダメージは期待できませんね」


 それにしっかりと防御もしていたみたいですと続けて言うと、モアもそれに同調する。


「とにかく、これからの展開が面白くなりそうです!」


 ミラニは未だ転がって起き上がらない闘悟を見て言葉を出す。


「おい、とっとと起きろ! それくらい貴様なら、風に撫でられた程度だろう!」


 すると、闘悟はそのままの状態で返答する。


「いやいや、かなりビックリしたっての」


 闘悟は体のバネを使って跳ね起きる。


「ふぅ、まさかそんな連携で来るとはな」


 魔法→剣→魔法。
 しかもその切り替えのタイミングが抜群だった。
 威力はいまいちだったが、間違いなく流れを掴むための方法では良策(りょうさく)だった。


「ずいぶん修練したんじゃねえのか?」


 動きに無駄が無かったので、実践はもちろんのこと、頭の中でも何度もシミュレーションしたのは一目瞭然(りょうぜん)だ。


「貴様相手だ。手緩(てぬる)い修練などできるか」
「はは、それは嬉しいね」


 すると、ミラニはキッと、目を細めて見つめてくる。
 そんな彼女の雰囲気に、違いを感じた闘悟も目を細める。


 これは……何か面白そうなことやってきそうだな。
 闘悟は彼女が、次にどんな攻撃をしてくるのかワクワクしていた。
 ミラニは流れを掴み、このままその流れに乗って自分の全力を出そうと考えていたのだ。
 雰囲気が変わったのは、そんな彼女の覚悟を感じ取ったからだった。


(次だ……次で私が奴にどこまで近づけたかが分かる!)


 ミラニは力を込めて拳を作る。


「では行くぞトーゴ!」


 今度はそのまま突っ込んでくる。
 闘悟は身構え、魔力を解放し、いつでも対応できるようにする。
 すると、目前まで来ていたミラニが、突然真横に跳ぶ。
 それを目で追うが、今度は反対方向へ移動する。
 その動きは『縮地』を使っているので、観客の中には見えていない者もいる。
 闘悟はその動きを見据え、見失わないようにする。


 
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