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鋼殻のレギオス 勝手に24巻 +α

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五話

 周囲に出現した都市の上には沈黙が覆っていた。先程まではグレンダンの力について声高く疑問と不満を叫んでいた者の全てが口を噤んでいた。いや、噤まざるを得なかった。
 自分達が逆立ちしても出せないような剄技を繰り出す武芸者達。剄力、技量など実力がある武芸者であればあるほどその隔絶を感じ取ってしまう。そしてそれを受けて尚殆ど無傷といえるほどの再生能力を持つ汚染獣。
 そこに入って同じように出来るかといえば確実に『否』であるからだ。
 呆然としている間に狼面衆、周囲に現れた汚染獣がそれぞれの都市へ向けて動き出す。
『それぞれの都市は来る汚染獣を撃退してください。基本的に都市毎に戦ってもらいますがこちらから指示する事もあると思いますがよろしいですか』
 エルスマウの声が流れ止まっていた時間が流れ始める。
『こちらは学園都市ツェルニです。了解しました、キュアンティス卿』
 それでも揉める雰囲気が生まれそうになった時、最初に明確な意思を伝えてきたのはツェルニだった。
 一つの都市が賛意を表明したことで他の都市にも広がっていく。何より個人的なプライドではどうしようもない程の差がそこにはあったのだから。
 ましてやヴェルゼンハイムを包む炎からは触れずとも高温であることが伝わり、周囲の地面を焼け焦がし地獄絵図の様相を呈してきている。



『陛下、他の都市から粗方同意は得られましたが老性体クラスともなると彼らだけでは厳しいものがあるかと。如何しますか』
「そうねえ、だからといってこっちも放り出すわけにはいかないし、どうしようかしら」
 しばし考えるといい事を思いついたように手を打つ。
「そうだわ、ハイアあんた傭兵団の団長してたわよね。グレンダンの武芸者纏めて狩って来なさいよ」
「仕方ないさー、俺っちの本領は集団戦だからさ。それじゃ、取り敢えずの編成はエルスマウさん、あんたに任せるさー、それと糸の旦那を回してくれれば早くケリがつくと思うさ」
「そうね、リンが一番撒き散らしたんだし。責任とってもらおうかしら」
 露骨に嫌そうな顔をするリンテンスに遠慮なく言いつける。
『わかりました、集結地点は……』
 エルスマウと会話と共に離れていくハイアから戦場に目を戻す。
 ヴェルゼンハイムを囲むようにニーナと天剣、そしてアイレインとニルフィリアがいる。

 アイレインは寄ってくる狼面衆を両手に持つ銃で貫き、その眼は汚染獣やヴェルゼンハイムへ向ける。
「お前の墓標を打ち立ててやろう」
 ヴェルゼンハイムの体が一部崩れたように見えるが実際は茨輪の十字を刻んだ眼球となって零れ落ちていっているのだ。再生速度より侵食する方が速く身をよじって逃れようとする。

 ニルフィリアは自らの手足とも呼べる闇を展開しヴェルゼンハイムに襲い掛からせる。
 ヴェルゼンハイムも炎で闇を打ち消し対抗しようとする。
 穴が塞がりオーロラ粒子の無尽蔵な補給が出来なくなったとはいえ一対一ならまだヴェルゼンハイムが有利だろう。だが今、オーロラフィールドで嘗てと同じ、いやそれ以上の力を取り戻したニルフィリアのみに集中できないのでは局地的な戦闘ではニルフィリアに分があった。
 炎の守りを掻い潜った闇がヴェルゼンハイムの本体を侵食する、じわじわとその領土を広げる闇にその部分を放棄するがその瞬間侵食速度が急速に速まり瞬く間に喰らい尽くし量を増した闇が再び喰らいつく。
 周囲に群れる汚染獣も同じ様にニルフィリアの闇の餌となり、その勢いを増すのに一役買っている。炎も闇を削るが闇の勢いに押され気味である。

「行きます」
「折角グレンダンの外に出たんだから少しは成長したのか」
「えっと、先生が少し時間を稼いでくれれば……」
「師匠に頼むことじゃないだろ、そりゃ」
「可愛い弟子のため、先生にお願いしてるんじゃないですか」
「仕方ねえな、思いっきりやってこいよ」
 そんなどうしても真剣味に欠けてしまうトロイアットと話をしながら剄技を放つ。
 外力系衝剄の化練変化、紅蓮波濤。
 辺り一面を埋め尽くす炎の波が狼面衆、汚染獣、ヴェルゼンハイムを一斉に飲み込もうとする。
 狼面衆や未だ若いと思われる汚染獣は飲み込まれたまま出てくることは無いが老性体クラスともなれば傷を負いながらも炎の壁を突破しクララに迫る。ヴェルゼンハイムは炎を纏っているためか殆ど効果が無い。
 紅蓮波濤を制御しているクララにそれを迎え撃つ手段はないが避ける素振りも見せない。
「はい、いらっしゃい」
 外力系衝剄の化練変化、七つ牙。
 トロイアットの杖状の天剣の先から剄によって形造られた七つの顎を持つ大蛇、その牙が老性体クラスに噛み付き、喰らっていく。
 その首の幾つかはヴェルゼンハイムにも牙を立てると噛み付いた首が分離して表面に張り付く剄の球になる。七つ牙の本体には新たな首が生まれヴェルゼンハイムに噛み付いては首の部分だけが離れるのを繰り返し、剄の球が十を超える。
「ブレイク」
 トロイアットが指を鳴らすのと同時にそれら全ての球が弾ける。
 外力系衝剄の化練変化、聖戦謳歌。
 球の内部が一気に消失し同時に弾けることで、内部を抉り取り外部を爆発による衝撃で弾き飛ばす。先の戦いの際は伏剄を利用していたが今回は七つ牙からの応用のため剄量も少なく全体を覆うことは出来ない為各個に爆破している。
 その隙に剄を練っていたクララが動く。
 活剄衝剄混合変化、雷光(らいこう)
 文字通り雷を身に纏い一閃の光の如き速さで動く剄技。化錬剄で活剄を電気に変え通常の限界を超えた速度での行動を一時的にだが可能にする。
 そんな一瞬の後、クララの姿はヴェルゼンハイムの上、空中にあった。
「少しは活躍しておかないと色々面倒ですからね」
 自分を見ているであろうグレンダンにいるロンスマイア家の親族達、実力はたいしたことが無いが家に戻る時に余計な口出しをされないよう天剣に見合う実力を見せ付けておくに越したことはない。
 外力系衝剄の化練変化、翠乱舞(すいらんぶ)
 天剣に注ぎ込まれた膨大な剄、それが天剣という触媒を通して変化し発散される。発散されたクララの剄は周囲の大気に溶け込みヴェルゼンハイムを取り巻き、光を受けて翠色の煌めきが走る。
 胡蝶炎翅剣を一閃すると共に動きが生じる。
 剄の混じった大気が急速に動き、空気の刃となってヴェルゼンハイムに襲いかかる。
 風の刃だけでなく急速に空気が動いたことによる断絶、真空の刃をも取り混ぜて全方位から余すことなく斬り刻む剄技。炎を風で吹き散らし、無慈悲なまでに切り裂いていく。
 継続時間は短くクララはヴェルゼンハイムに向けて落下する。消し飛んだ炎が戻っていない部分に一瞬だけ触れると後方へ全力で退避する。次の攻撃が迫っているのに長居しては巻き込まれる。
「なかなか面白いの作ったじゃないか、だがあんな接近したって事はまだ制御が甘いんだろ」
 未だ完成には至っていないという事をしっかりと見抜かれグッと反論に詰まる。

 ヴェルゼンハイムの強力な再生力もオーロラ粒子の補給が十分に発揮できず、強力な攻撃にその身を削られる一方となっている。
 バーメリンやアルシェイラによる砲撃、ニーナの打撃、クララとトロイアットから放たれる強力な化練剄になす術無く翻弄されるヴェルゼンハイム。
 一時止んだ隙に包囲から脱しようとするが何かにぶつかったかのように動きを止められる。先程まで周囲の汚染獣を巨人、雄性体、老性体の区別無く凄まじい速度で切り裂いていた男が戻ってきたのだ。
 外力系衝剄の変化、繰弦曲・崩落。
 リンテンスの技の中でも最上位に位置する剄技、相手を鋼糸の陣の中に取り込み全方位からの衝剄で圧殺する。
 鋼糸から内部に放たれる衝剄と新たに流し込まれる剄、そして放たれた剄で焼滅するヴェルゼンハイムが相まって光を放つ。
 だが外に漏れるのは光のみ、それに伴う熱も音も衝撃も一切を内部に封じ込め威力を増すのに一役買っている。
 鋼糸の陣が弾けてリンテンスの元へ戻る時、ヴェルゼンハイムの体は再生が全く間に合わないほどの傷を受けていた。
「グレンダン」
 叫びと共にアルシェイラの隣に蒼銀色の毛並みを持つ犬のような姿をした廃貴族グレンダンが現れる。
「おうっ」
 グレンダンの目の前に光が集まると槍のような形状になり、その槍を掴むとアルシェイラはヴェルゼンハイムに向けて走る。
 膨大な剄を注がれ天剣授受者の剄でも余裕で受け止められる槍が僅かだが崩壊を始めているのが見て取れる。
 そしてヴェルゼンハイムを挟んだ反対側にはニーナがいる。
 電子精霊の力を最大限に発揮し黄金の塊と化して地を駆ける。
 活剄衝剄混合変化、雷迅。
 そしてニーナと同時にアルシェイラも槍を構えたままヴェルゼンハイムに突き刺さる。
 片やこの世界の守護者たる電子精霊がその力を集めて選び出した守護者の剣、片や先祖返りという手段でもって純粋な武芸者を成そうとし『眼』こそ受け継がれ無かったものの紛れも無く最強の武芸者として世界に訪れる危機を滅ぼすための剣。
 世界が、運命という形で持って選び出した二振りの剣がその力の全てを持って振り下ろされる。

 既に大幅に体積を減らしていたヴェルゼンハイムに最早それを耐え切るだけの力は残っていなかった。
 荒れ狂う力の奔流に翻弄され終わりの時へと流されていく。
 二人の攻撃による暴力的な光が収まった時、その姿は元の大きさからすれば欠片ほどしかなかった。
 そんなヴェルゼンハイムの隣に影が一つ。
「終わりだ」
 その右目から逃げ切ることも出来ず遂には茨輪の十字が刻まれた眼の山と化す。
 遂に今、此処に人類と世界を滅ぼそうとする敵との戦いが終わったのだ。




活剄衝剄混合変化、雷光(らいこう)
正確には内力系活剄の変化と外力系衝剄の化練変化の合わせ技。基本は旋剄だが化練変化で電気に変換した剄を自身に流し、能力を急激に引き上げる。
ぶっちゃけキ○アを想像すればオッケー。 
 

 
後書き
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