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とあるIFの過去話

作者:七織
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五話

「やはり数多が言っていた通り、潰したくてしょうがねぇなおい」

ここは管理室。画面のうちの一つで、一方通行が映し出されている画面を見ながら、一方通行を案内した男は先ほどまでの、一方通行を相手していた時とはまるで違う、荒々しい言葉を放つ

「下らな過ぎるぜ。なあおい、そうは思わねえか?」

声をかけられた白衣を着た女性は、男に怯えながら返答を返す。彼女が怯えているのはその言葉遣いが豹変したから、等ではない。これがその男の普段であるのは知っている。彼女が怯えているのは男の本質、ここの研究者なら知らない人はいない一族である、その男そのものである

「それは、その。どういうことでしょうか? ―――木原主任」

その男―――木原一族の一員、木原蛟は答える

「だから全部だよ、全部。クローン殺すことに躊躇ってんのも、殺して泣き叫んでんのも、嘘言われて信じてんのもよぉ」
「嘘、ですか?」
「そ。あいつが人殺したことがあるってのも、あいつがクローンと偶然会ったってのも嘘。ついでに言えば、あのクローンだけ異常、みたいに言ってたが、それもこっちの仕業」

その言葉に唖然とする。違法な研究に携わっている彼女とて、僅かながらに良心はある。過去の事故の際に死人を出したという情報は、明らかに被験者である一方通行を追い詰め、参加させるための後押しの一つとなっていた
0と1は違うのだ。そのことは明確な線を作る

「一人として死んじゃいねぇ、全員ピンピンしてらぁ。ああも簡単に騙される所を間近で見させられてよ、嗤いを堪えンのが大変だったぜ。だが、これで晴れて人殺し<ロクデナシ>の仲間入りだ。歓迎するぜぇ、一方通行」

彼女が唖然として見る中、表情を崩し、ギャハハと木原は嗤い続ける

「いいもん見れて俺は気分がいい。そんな顔しなくても特別に教えてやるよ。あのクローンの思考だってな、こっちがそうなるように仕向けた。学習装置を使う際、感情面での情報を強化して一方通行に興味を持つようにした。会うように状況をセッティングし、互いに友好関係を築かせた」
「それは、なぜ、ですか?」
「ああ? 簡単だろうが。あの餓鬼が最初っから参加を断るなんざ分かってたんだよ。だから断れない状況を作った。見ず知らずのクローンがどうなろうと知らねぇだろうが、長い間独りでい続けたお優しい一方通行は、親しくなった相手からの決死の頼みを断れねぇ」

それがあの結果だ、と木原は嗤う

「一方通行は望み通りに殺した。クローンは、こっちの狙い通りに一方通行に好意を抱き、他のクローンどもを大切に思い、自分を殺すように一方通行に頼む。筋書き通りってな。これで一方通行はクローンどもを殺し続けるしかねぇ。二万体か、流石にそれを殺しつくすなんざ、想像もできねぇぜ」

ああそうだ、と木原は別の研究者に対して声をかける

「ちゃんとネットワークとの接続は切ってあんだろうな。ミスってたら殺すぞ」
 「も、問題はありません。言われた通り、ネットワークとの接続は全て遮断してあり、戦闘データは別に保存してあります」
「ならいい、さっさと破棄しろ。実験の役にたたねぇ有害情報なんざさっさと消せ」

そう、感情の片鱗を見せるなどという、異質なミサカの情報など、本来感情を有さない他のミサカにとって有害でしかない
だから彼女はネットワークとの接続を断たれていた。その理由も、まだ一人しか稼働していないからと、嘘の情報を伝えられ、そのことを疑いもしなかった
彼女は守りたいと思った妹達と会うこともできず、会話することもできないまま死んでいき、その情報は消される
ミサカが楽しいと思った記憶が、一方通行との時間が消される。彼女が守りたいと思った妹達の記憶になど、彼女の何一つ残らないよう、念を入れ、彼女が存在していたという全てが、彼女たちを殺す一方通行の記憶を除き、消されていく
 
「今日はあのまま返せ、だが、明日からはどんどん殺させろ。休ませる暇を作るなよ。時間をおいたら、変に狂う可能性があるからな。一方通行がなんの問題もなくクローンを殺せるようになるまで一日も休ませるな。ノルマは最低一日二十。ああ、どんな風にあの顔が歪むか、楽しみで仕方ねぇ」

そういい、もうすることは無いと木原は背を向け去っていく
命令された研究者達は彼の命令に逆らわぬよう、迅速に自分の仕事に取り掛かった。だから気づかなかった
隅にいた一人の女性の研究者、芳川桔梗が、消されるはずのミサカの情報を密かにコピーしていたことに
優しくはないが甘い彼女が、自分を慰めるためにしていた行動に。だがそれはまた、別の話

 
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