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とあるIFの過去話

作者:七織
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二話

「あなたはここに何をしに来たのですか? とミサカは今になってあなたに聞きます」
「ああ? 単に服見に来たンだよ。いくつかブランド物のが今日出ンだ。つーか離せ」

ここは第十五学区。いくつもの店が立ち並ぶ通りの中、よく来る、服を専門的に扱っている店が入っている大型店に入る前にミサカに聞かれて答え、そして今まで無理やりとは言え腕を組まれていたことに気づき、再度振りほどこうとする
今度はミサカも抵抗はせずに腕を離し、ショーウィンドーに飾られている服を熱心に見つめている
そんなミサカを無視し、店の中に入るとミサカが後に付いて入ってくる。何を言っても無駄だろうと諦めて見ると、ミサカが食い入るように周囲の服を見つめていることに気づいた

「何そんなに見てンだ。そんなに珍しくねェだろ」
「いえ、ミサカは店に来たことが初めてなのですよ。とミサカは答えます」
「は? この店がそんなに変ってことか」
「いえ、どうやらミサカの言い方に間違いがあったようですね。ミサカは、このような“店”というものに来るのが初めてなのです。とミサカは誤りを訂正します」
「………あほか、じゃあ普段はどうしてンだよ」
「予め用意されたものを使っています。何か必要なものがあれば頼めば届けられるので、店で自分で買うというのは初めてなのです。とミサカはあなたの疑問に逸る気持ちを隠しきれないながらも答えます」
(そういや、普通の学生は基本、学生服を着るだとか聞いたな。常盤台はお嬢様学校だ、他の物は通販でも使ってるってかァ?)

ま、どうでもいいか。と疑問を振り払い、そもそもの目的である新作服のコーナーへと向かう
新作の服をいくつかみつくろい、レジに向かおうとするとミサカが服を二つ持って立っていた
右手に明るい色でポップな感じのカエルのキャラクターが印刷された物を、左手には少し落ち着いた感じの色で僅かばかりに英語が入った物を持っている

(面白いように展開が読めるぞ、クソ野郎)

心中でそう吐き捨てると、やはり予想道理、ミサカが声をかけてきた

「どちらがいいと思いますか?とミサカはあなたに尋ねます」
「知るか。好きな方選べばいいだろうが」
「やれやれ、そんなことでは女性にもてませんよ。とミサカは年齢=であろうあなたに忠告してあげます」
「テメェに言われる筋合いはねェ。つうかテメェだって同じだろうが」
「ふふん。ミサカをあなたと同じだと思わないでください。ミサカは『けいけんほうふなれでぃー』なのですこの童貞野郎。とミサカはあなたを憐みの目で見ながら言います」
「テメェやっぱ喧嘩売ってやがるンですよねェ!!」
「ところで、童貞ってどういう意味ですか? とミサカは自分の知的探究心に押されるままあなたに尋ねます」
「知らねェのかよ!」
「はあ、さっきから何を騒いでいるんですか。ここは店の中なのですよ。もう少し静かにしたらどうなのですか。とミサカはあなたの常識を疑います」

やれやれ、と服を両手に持ったまま首を左右に振る姿を見、一層怒りが湧いてきたが、先ほどから店員がこちらを見ているので何とかこらえて声を出す

「………テメェが色々と聞いてきたンだろうが」
「はあ、言い訳ですか。だったら早く答えればいいんです。それだから年齢=なんですよ。さあ、答えてください。とミサカはあなたに再度尋ねます」

そう言われ、反射的に口から出そうになった言葉を飲み込む。このまま言った所でたいして意味がないことは明白だ。故に軽く息を吐き、質問に答えた

「………左で持っている方だ」
「先ほどの質問を軽くスルーしましたね。とミサカは指摘します」
「うるせェ。つーか右のは無いだろ、ガキくせェ」
「ガーン。とミサカは自分の趣味がガキくせえと言われショックです」
「いや、流石にねェだろ。何だよそのゲコ太ってのは」

小学生ならまだしも、中学生が選ぶには流石にないだろうと一方通行は思う。というよりも、髭を生やしたカエルなど小学生にも人気があるのかが疑問だ

「うう。ならば仕方ありません。あなたが選んでくれたのですからこっちを選びましょう。とミサカは涙を堪えてゲコ太を戻します」
「いや、だったらそもそも俺に聞くンじゃねェよ」
「? あなたが買うのですからその意思は尊重しなければいけないでしょう。とミサカは何を言ってるんだと呆れて言葉をこぼします」
「は?」

あまりにも当然のように出たミサカの言葉が理解できず、一瞬、一方通行の思考は停止した

「何でオレが買わなけりゃいけねェンだよ!」
「ミサカは金銭を所持していないので、買うことが出来ないのです。とミサカは自身の金銭状況を赤裸々に明かします」
「いやいやいやいや、ねェよ。オレがオマエに買ってやる理由がどこにもねェ」
「………あなたに傷付けられました」
「………は? 何言ってやがるンですかお前さんはよォ!!」
「今までで二度、あなたの心無い言葉でミサカの心は傷つきました。なのでその責任を取るのは当然のことです。とミサカは乙女心を傷付けたことへの賠償を求めます」
「………くだらね。知ったことか」
「責任とって下さい。とミサカは訴えます」
「知らねェっつうの」
「責任とって下さい。でないと大声で叫んでしまうかもしれません。とミサカはあなたに警告します」
「は?オマエ何言って―――」
「あなたに、傷付けられたので、責任を、とってくだ―――!!!」
「!? テメェ!!」

大声で誤解されそうなことを叫ぼうとしたミサカの口を、一方通行は必死の思いで手で覆い隠した。そんなことを叫ばれたら二度とこの店にこれなくなる。それに今はなかなかに賑わっている時間帯だ。変な噂でもたったら世間体的にも死ねる
そんな思いで口を塞いでいるというのに、未だ声を出そうとすることを諦めず、もごもご言っているので抑える力を強めると、手に生ぬるい感触を感じた

「!? いい加減黙れ、つーか舐めるな!!」
「むー!むー!」レロレロ
「―――!! 分かった買ってやる!」

根負けし、一方通行がその言葉を言うと同時に静かになるミサカ。無表情のはずのその顔が少し、にやけている様に見えるのは気のせいだと信じたかった

「さあ、早く行きましょう。次は三階にあるグッズ用品店に行きたいです。とミサカはあなたを急かします」
「って、これで終わりじゃねェのかよ!?」



「ありがとうございましたー」

あれから暫く。ようやく買い物を終え、一方通行達は店を出た

「糞が。よけいなもン買っちまった……」
「そう言いながら、あなたも途中から結構楽しそうだったじゃありませんか。なんだかんだ言いながら、これを買ってくれたことを思い、ミサカは感謝の念を禁じ得ません」

帰り道、買ったものを入れた袋を持ちながら悪態をつく一方通行の横で、同じく買ってもらった服を入れた袋を持ち、買って貰ったのだろう、カエルを模した小さな髪飾りをつけたミサカが返答する

「楽しくなンかありませんでしたー。テメェが売り場の前から動かなかったからだろうが。うざってェ」
「そんなこといいながら『ちっ、しょうがねえなぁ。買ってやるよ。このままじゃ周りから変に見られちまう。けっしてお前の為じゃねェからな』だなんて、リアルツンデレを見れるとは思ってもいませんでした。とミサカはつい先ほどの事を思い返して頬が緩んでしまいます」
「喧嘩売ってンのか。つーか無表情のままじゃねェか」

もはや疲れたのか、最初のように言い返すこともなく、普通に言葉を口にする
その言葉を聞き、ミサカが言葉を返す

「本当につまらなかったのですか?あなたにとってミサカは邪魔でしかなかったのでしょうか。とミサカはずっと抱いていた疑問をあなたにぶつけます」

無表情なまま、それでも悲しそうに聞こえたその言葉に、一方通行はすぐには返事を返せずに考えてしまう

(何考えてンだ俺は。いつもだったらすぐにでも『ああ邪魔だった。まったく煩くて仕方ねェ。さっさと消えてくれ』とでも言うっつうのによ)

そのまま、ここ数時間の事を思い返す

(確かに、研究者どもを除けばこんだけ話したのも本当に久しぶりだ。それに研究者どもも一部を除けば怖がって遠巻きに話しかけてくるだけ。こんなに近くで、俺に恐怖を抱かない奴と馬鹿みたいに話したのはいつ以来だったか)

確かに、振り回され、余計な物を買わされ、変な風評を立てられそうになったとはいえ、こんなにも“普通”に過ごしたのは自分にとってつまらないものだったのだろうか?
誰かを傷つけないようにと過ごしてきた自分が、他人に触れられ、誰かと共に過ごした時間がくだらないものだったのだろうか?
――――――――認めたくないが、そんなこと、考えるまでもないのかもしれない

「確かにお前には振り回されてうぜェとも思ったが、それでも―――
「そんなことよりものどが渇きませんか?ああ、あんなところに自動販売機が。とミサカはなぜかしんみりとした顔のあなたに告げます」

自分から振っておきながら返事を聞かず、先ほどまでの悲しげな雰囲気など微塵も感じさせないミサカの言葉が一方通行の言葉を遮った

「テメ、人がせっかくテメェの質問に柄にもなく答えてやろうと―――
「そんなことより、ミサカはリンゴ果汁を所望します」
「……ああそうか。ちょっと待ってろ」

そう言い、一方通行は自販機に向かって歩く
人に質問しておきながら無視してくれた相手に対する嫌がらせに、赤く自己主張するリンゴ果汁の物を無視し、完全無糖のブラックコーヒーを一つと自分用に微糖コーヒーを買い戻る

「ほらよ、俺のおごりだ。飲め」
「ありがとうございま……なんですかこれは」
「おいおい、人におごらせといてまさか飲めねえなんて言わねえよなァ」

にやにやと口元を歪めながら言い、自分用の缶をあけて口をつける
じーとこちらを見ていたが観念したのか、ミサカも缶を開けて口に含み―――初めて表情を崩した
表情を崩したと言ってもわずかなもので、眉根を寄せ微かに額にしわが寄った程度だ。それでも初めて見る表情に一方通行はわずかに驚いて見つめる中、固まっていたミサカが動き始め、何とか飲み込み表情が元に戻った

「苦すぎます。何ですかこれは。とミサカはあまりの苦さに驚愕の念を抱きます」
「おいおい、缶のブラックごときで苦いとか。趣味もそうだったが味覚までガキですか―?」
「そういうあなたは微糖のものを飲んでいるじゃありませんか。とミサカは自分の事を棚に上げるあなたに言い返します」
「オレは微糖の方が多いだけで、偶にだけどちゃんとブラックも飲めます―。あなたとは違うンですー」

そういいながら一方通行は自分の缶の中身を飲み干し、自販機の横に合ったごみ箱に向かって投げ捨てる
それを見ていたミサカの方は、これ以上飲めないのか缶を持った手を下ろし、何かを言おうと口を開き


―――――瞬間、夕刻を告げる放送が辺りに響いた

一方通行はもうこんな時間に成ったのかとわずかに驚き、ミサカの顔を見―――息がとまった
そこには微かに口を開いたまま無表情に、茫然とした、何かを悔やむように、悲しむように感じられるミサカの顔があり、それはすぐに伏せられ表情を見ることはできなくなった

「そろそろ時間なので、ミサカは帰らなければなりません。あなたも用があるのでしょう」

先ほどの事に驚き、何の返答も出来ないまま聞く

「今日はありがとうございました。きっとこれが<楽しい>ということだったのでしょう。……妹達にも、知らせてあげたかったです」
「……オマエ、妹がいたのかよ?」
「ええ。明確には違いますが、妹のような、大切だと思える存在がいます」

思わず返した言葉に、ミサカは、僅かにだが、確かに優しさを感じられる声で返す
顔を伏せたまま一歩近づいたミサカは飲みかけの缶コーヒーを一方通行に差し出した

「ミサカでは飲むことができませんのでお願いします。あなたには迷惑をかけてばかりですね。とミサカはあなたに謝ります」

そのまま一歩下がり、では、と言い背を向け去って行こうとする背中に、一方通行が声をかけ、あの時の答えを返す

「確かに、テメェには迷惑をかけられてばかりだったぞおィ。……だがな」

軽く息を吸い込み、言い放つ

「それでも、つまらなくはなかったぜ。今度はもっと常識を知ってから、そいつらも連れて来いや」

そう言い切り、微かに笑みを浮かべた一方通行は、その時振り返ったミサカの顔を一生忘れないだろう
無表情の顔をわずかに崩し、先ほどよりもなお一層悲しみをたたえ、泣き出しそうな、まるで、けっしてしてはいけなかったことをしてしまった事を嘆くようなミサカの顔を

ええ、では、また今度――
そう言い残し、ミサカは走り去って行った

 
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