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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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第2話 ログアウトしました


 そこは高性能のPCが並び、別の部屋では大型の量子コンピュータの数々が昼夜問わずに起動している。まるで、夜空に浮かぶ星々の輝きの様に 様々な色のLEDの光が瞬き、それが機械達を動かしている証しとなっていた。

 この場所にいて そして、全てを行える場所である。

 故に一般的である会社等に言って仕事をしている訳ではなく、全て自分の家で済ませているのだ。

「……ふぅ」

 男、……いや、その容姿から言えば、どちらかと言えば、《男の子》と言うべきだろう。
 その、まだ幼さが残る男の子はメインPCの前で一息をついていた。そして、ゆっくりと肩をまわし、姿勢を正し、深く椅子に腰掛けて、楽な姿勢をとっていた。その仕草から、どうやら、少年は随分PCの前に座っていたようだ。疲れが溜まっているのも、時刻が深夜だと言う事も加味している事だろう。

「……よろしかったのですかな? 坊ちゃん」

 少年のその直ぐ後ろに、姿勢を一切崩さず乱さず、直立不動で立つ老紳士がいた。
 いや、服装から見れば、執事といった方がいいだろうか。姿勢を一切崩さずに立つそう人物は、少年の後ろに、まるで初めからそこにいたかのように控えていた。

「……もぅ、人のチャットを覗くのはいい趣味とは思えないよ? 爺や」

 その声に反応して、少年が振り向くと、ただ呆れた様にそう言っていた。

 でも、本当に突然、後ろに現れたと感じたのなら、普通は驚くだろうと思える。……だが、実はこれは日常茶飯事なのである。この程度で驚いていたら、何度驚けば良いのか判らない程にだった。

 その《爺や》と呼ばれている執事はニコリと笑みを見せると続けた。

「私は、あなた様の保護者を自負しておりますので……。如何に、あなた様が稀代の天才だ、と言われようと、世間でどんな評価をされていようと、……今はまだ成人にすらなっていない年齢でございます。……ですから、お仕事以外については、口を出させていただきたいですよ。後世の頼みです」

 爺やは、す……っと頭を下げつつそう言っていた。
 それを聞いて、そしてその姿を見た少年も同じようにニコりと笑い返した。別に煩わしいと思った訳でも、嫌がった訳でもないのだから。ずっと、傍に居て欲しい人だから。

「……あははは。うん。爺やには全く頭が上がらないや。……そうだよね。たった1人の家族だしねっ! うん。でもさ、僕は爺やの話なら、僕から聞きたい位、なんだよ? 後生の頼み~なんて、言いすぎだよ」

 執事は家族だと少年から呼ばれているが彼とこの少年は血は繋がってはいない。その事に関しての説明はまた後の展開で明らかになるだろう。

「それより爺や、さっき言ってた『よろしかったのですかな?』って、一体何の事?」

 少年は、腰掛けた椅子をくるりと回転させ、再び爺やの方を向いてそう聞いた。先ほどの会話の中で、爺やが心配をしてくれていると言う事は本当によく判ったし、嬉しかった。でも、その言葉の意味がよく判らなかったのだ。

「はい、それはですね。……先ほどの茅場様とのチャット内容についてでございます。もう、坊ちゃんは、既にあのゲーム、SAOゲームのβテスターとしての資格……、その抽選も通り、そのハード自体もソフトさえも、事前に手に入れておいででございます。……後はサービス開始を待つのみ。なのに、茅場様には、ああおっしゃられていたので 気になりまして」

 爺やは、気になった。と言っているが、別段表情は殆ど変わらず、そう聞いていた。
 ちょっとした疑問だっただけだ。さっきのチャットの内容を見てみると、彼は持っていない。別にやるつもりは無いと言ってるも同然だったから。

 でも、知っているのだ。
 あのゲームが販売されるのを、βテストの事を何よりも楽しみにしていたのを今まで見てきた彼だからこそ、だった。

「あー……成程ね。んと、えっとね。彼、茅場さんはあのゲームの開発者だし。それに、僕に会いたがってるんだよ?……僕が参加するとなればさ、どうにかして、僕の素性を暴こうとしたりする可能性も捨てられないって思ったから。それにGM権限でも使われたら……、防御するのには流石に骨が折れるから。やるなら、こっそり……ってね? バレない様にしないと」

 少年は、コンピュータのとなりに置いているヘッドギアを手に取った。軽く全体を回しながら見渡し……、そして目を輝かせて答えた。

「あのね! このナーヴギアってハード。……本当に良くできているんだ。……僕、これまでみたいに、どんなに凄くたって、所詮はデジタル信号の集合体なんだってって、正直舐めていた、甘く見ていたよ。でも、この世界は、本当に異世界に感じたんだ。その世界の中での法則を以前みたいに、大規模に変える事は本当に難しそうなんだ。だから、余計に心配になっちゃって」

 少年は、あはは と苦笑いをしながらそう言った。それを見て、つられて爺やも笑みを見せる。

「ほほほ……。そもそも、変える必要があるのですかな? 坊ちゃん。それに難しそうだ……、と言う事は裏を返せば、出来ないことは無い、とも聞こえますぞ? それにそのような事をせずとも、あなた様の腕前は世界から見てもNo.1だと思われますよ。ゲームの腕もコンピュータの腕も」
「あは……それはいくらなんでも言い過ぎだよ? 爺や。……だってさ、この世界はとっても広いから。無限に広がってる、広がって言ってるんだ。きっと、まだ見ぬ凄腕のプレイヤーはいるって思うから。僕よりも凄い人だって、きっと……」

 楽しそうに笑う少年を見て爺やも笑みを浮かべていた。……安心できる、とても優しい笑みだったから。

「いや……それに。爺や。僕は不正(チート)を使う……っとか、そんな目的じゃないよ? あくまでゲームを楽しむのが最優先なんだからさ。そんなの使うのは本当にズルだしね。 ……変えたりするのは、他のプレイヤー対策にだよ。中にはハックしてきたり、ウイルスを送ってきたりするヤツもいたり、アカウントを盗もうとする人もいた。はっきり言って オンラインの世界、それに今度の仮想空間は僕にとっての現実って言っても良い所なんだ。……僕はそのオンラインと言う世界は大好き。そんな世界で不正をする輩は、大嫌いなんだ。大好きな世界を汚すのなら、その世界を歪めてでも……って思ってね? 勿論、終えたら元に戻すよ」
「それはそれは……、坊ちゃんに手を出す輩が可哀想に思えてきます。とても刺激的な報復ですな」

 突然、コンピュータがダウンしてしまうなど、プレイヤー側からしたら最悪の現象だ。データデリートとかになったら……尚更だろう。ゲームにつぎ込んだ情熱、時間の全てが瞬く間に消されてしまうのだから。

「ははは……。それにこの新たなジャンル。『VRMMO』それも凄く楽しみにしてるもう1つの世界なんだから」

 そう言うと、少年は天井を眺めた。 今なら判る。

――……茅場の考えが自分と似ているかもしれないと。

 でも、あそこまで……情熱的になれるか?鬼気迫る……何に変えてもとまで思うか?と言われればYESとは直ぐに答える事なんか出きない。自分には こっちの現実世界には爺やとプログラマーとしての少しの仕事だけ。それらがあるから、あの世界だけの為に、こっちの世界の全てを変えてでも……とはどうしても思う事は出来ない。この世界には爺やがいてくれるから。
 本当は、……それだけで良いんだ。今いるこの場所、現実(・・)なんて、爺やがいてくれるだけで。

 それ以外ではあっちの現実世界で楽しむ。見たとおり娯楽を身体全体で感じながら……。そして、それはどんなジャンルのゲームでも良い。楽しくて仕様がないんだ。

「私は、坊ちゃんがその楽しみな世界で……心を開いてくださる相手が出来る事を願います。私に話しかけるように……自然に出来る仲間を。現実では厳しくとも……相手も同じ人間。仮想の世界で仲間を……それを願います。勿論、親として……も、です。そう望みます」

 優しく笑っていた爺やは、今度は心配する親の様な表情をしていた。

「…………っ」

 少年はこの時何も答えなかった。かつて、様々なオンラインの世界で無類の強さを誇っていた。そう……強さが呼ぶのは賞賛の言葉だけで無い。

《妬み》《嫉妬》《憎悪》

 それらの様々な負の感情も渦巻く。その渦中にいるのが彼だった。だからこそ、ゲーム内で仲間を作らない。作ったところで、どうせ……出来ないんだから。
 最後まで……。一緒にいてくれるなんて。

 それに、拍車をかけたのが、あの出来事(・・・)だった。

 彼の全てを決めてしまった事件、と言って良い出来事。
 きっと、あの出来事があったからこそ、今の彼がある。信じられない事が前提で、ゲームやネットをしているからこそ、仲間と言うものを作らないのだ。否、作らないのではなく、作れない。
 心が、無意識に拒んでしまう。一線を引いてしまっている。
 
 これまでは、画面の中にいる者の姿が、素顔が見れないのだから。

「坊ちゃん……」

 爺やは表情を落とした。言うべきではなかったと一瞬後悔もした。この子は現実では、恵まれているようで……そうではない。確かに富は十分すぎるほどに持っている。その天才的な技術。今の時代、それを見せれば幾らでも富は増える。

 だが、いかな人間でも孤独に勝てるものなんているものじゃない。

 孤独で精神を……崩しかねない人間だっている。頭が良すぎる事で……疎まれる。


――……そして、ある事件(・・)が起きて、……それを経て仲間なんてものは幻想だと解釈している。


 すでにこの年齢で悟っている。14年と言う短い時間で悟ってしまっているんだ。

 だけど、気を許す爺やには、彼は歳相応の笑顔を見せる。これでもかと言うくらいの笑顔。
そして、甘える。そう、それはまるで子が親に甘えるそのもの。一般人なら中学生の彼だが、年齢なんか関係無いと言った様に。

 だが、彼は同時に思う事があった。
 
 必ずいずれは自分自身もいなくなってしまうのは間違いないのだと。自分の歳も……若くは無い。だからこそ、残されたこの子が心配で……仕方が無い。でも……今度のMMOはこれまでとは全く違う。

――VR。即ち……Virtual Reality。

 仮想ではあるが限りなく現実に近い世界だ。これまでのものとは違い、相手を見て話が出来、そしてプレイをする事が出来る。これまでの様に、殆ど相手の姿が見えないそれとはまるで違う。

 そこで……出会いがあればと切に願っているんだ。

 信頼出来る人が、本当の仲間と言う者が。

「……良いよ。本当にありがとう爺や。僕、嬉しいよ」
「それは、私にとってこれ以上無い誉です。お坊ちゃん……。心行くまで、お楽しみください」
「……うん」

 そして、それ以上は何も言わなかった。だが、笑顔を向けたまま言い、そして続ける。

「ですが、今はもう深夜。流石にお休みください。お身体に障ります」
「う、うんっ! ごめんね、爺や」

 そのまま、椅子からぴょんと飛び降りるように降りるとそのまま、部屋から出ていった。まだ、あの世界には行けない。時間と言う壁が残っている。その壁が存在している間に、すべき事を全て終わらせよう。

 彼はそう考えながら、就寝につくのだった。

 
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