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ジークフリート

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第三幕その二


第三幕その二

「御前の知恵が必要なのだ」
「男達のすることは私の知恵をぼやけさせる」
「どういうことだ?」
「私はかつて貴方に奪われた」
 ワルキューレ達をもうけたその時のことである。
「あの娘達がいるのにまだ私に用があるというのか」
「ワルキューレ達か」
 ここで彼はある女のことを思い出さずにはいられなかった。
「そしてブリュンヒルテか」
「あの娘は」
「嵐を支配する私がだ」
 ここで突如一陣の突風が起こった。
「自己を制するのに苦しんでいる時に私に逆らった」
「しかしそれは」
「言うな」
 そこから先は言わせようとしなかった。
「己の心に従えなかったその時は」
「そう。その時に」
「あの娘は小賢しくそれをした」
「しかしそれこそは」
「だが私はしなければならなかったのだ」
 厳かな中にも苦渋の見られる言葉であった。
「戦いの神はその娘を罰し」
「戒律の為に」
「そして瞼を眠りで覆い」
 かつてのことであった。
「岩の上で眠らせたのだ」
「それが前のこと」
「その聖なる乙女は」
 それがブリュンヒルテに他ならない。
「女として男の愛を勝ち得た時に」
「その時にこそ」
「眠りから覚めるのだ」
「そう。その娘は」
「彼女に問うことが何の役に立つのか」
「ローゲももういない」
 エルダの方からその名前を出した。
「彼ももう」
「ブリュンヒルテを護っている」
 さすらい人は彼についても答えた。
「それによりだ」
「そう。彼は人についた」
「神であることを放棄してしまった」
 それがローゲなのである。
「私の前から去ってだ」
「彼は炎に戻ってしまった」
「だからあの者も私に教えてはくれないのだ」
 語るその言葉がさらに苦々しいものになった。
「もう何もだ」
「しかし貴方はまだ」
「そうだ。やらなければならない」
 苦々しい、しかし強い言葉であった。
「それが私の今なのだ」
「正義と誓いを護る者が」
 エルダはさすらい人を指し示して告げた。
「それを破るのですね」
「そうしてもだ」
「もう私の役目は終わった」
 遂にはこんなことを言うエルダだった。
「それはもう」
「終わったというのか」
「そう」
 彼にも答える。
「もうこれで」
「行かせはしない」
 だが彼はそのエルダを止めようとした。
「その魔力を私は使うことができる」
「私をまだ止めると」
「まだ何も聞いてはいない」
 だからだというのである。
「御前は全てを知っている」
「またそのことを言うのね」
「それによりかつて」
 またしても過去の話である。
 
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