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ジークフリート

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第二幕その五


第二幕その五

「さあ、ここじゃ」
「ここなのか」
「ここには来たことがあったか?」
「そういえばなかったな」
 言われてそのことに気付くジークフリートだった。
「他の辺りは行ったことがあったのに」
「ここは遠いからじゃ」
 だからだというミーメだった。
「来ていないのも無理はない」
「そうか」
「それでじゃが」
「ミーメ」
 ジークフリートから言ってきた。
「ここで若しもだ」
「若しも?」
「恐れだったな」
 このことを話に出してきた。
「それを学べなかったらだ」
「どうだというのじゃ?」
「それでも森を出るぞ」
 そうするといのである。
「それでいいな」
「ここで若しも」
 ミーメも彼の言葉を受けて返してきた。
「御前が学べなければじゃ」
「恐れをだな」
「そうじゃ。もう他のところや他の時には学べないじゃろう」
 ジークフリートをわかったうえでの言葉であった。
「決してな」
「そうなんだな」
「あの暗い洞穴じゃが」
 今彼はその洞穴を見ていた。ジークフリートもそこを見ている。
「見えるな」
「はっきりとな」
「あそこには残忍で荒々しい竜がおるのじゃ」
「ずっと言っているそいつがだな」
「そうじゃ。凶暴でしかも大きい」
 ミーメは竜についてさらに言う。
「そうそう勝てる奴ではない」
「そんなに強いのか」
「御前なら一呑みじゃな」
「それならだ」
 そう言われても臆することのないジークフリートだった。
「その口を塞ぐだけだ」
「随分と簡単に言うのう」
「そうすれば食べられることはない」
 恐れを知らないだけはある言葉だった。
「それだけじゃないか」
「口からは毒の涎が流れ出ておるのじゃぞ」
 しかしミーメはさらに言うのだった。
「その涎を受けるとじゃ」
「どうなるっていうんだい?今度は」
「肉も骨も溶けてしまうのじゃ」
 そうなるというのである。
「それで終わりじゃ」
「それならだ」
 そう言われてもジークフリートは臆しない。
「涎がかからないようにかわせばいい」
「長い尾で打ちのめされるぞ」
 ミーメも負けずという調子で返す。
「尻尾を巻きつけて締め上げられるとどんなものでも砕け散るのじゃぞ」
「じゃあそれに用心しよう」
 ジークフリートはそれを言われても平気であった。
「そしてだ」
「そして?」
「倒すだけだ」
 一言だった。
「そいつには心臓があるんだな」
「残忍で堅い心臓がある」
「そうか。それで」
 さらに聞く彼だった。
「場所は何処なんだ?」
「場所か」
「そうだ。心臓の場所は何処なんだ?」
 それを問うのだった。
「人間や動物なら誰でも鼓動しているそこにあるのか?」
「そうじゃ」
 そうだと答える。
「そこにあるのじゃよ」
「そうか、わかった」
 それを聞いてまた言うのだった。
 
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