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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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ALO編
  episode5 旅路、火妖精領


 旅を初めて、およそ十日。ここいらでその順調さについて語ろうと思う。
 簡単に言えば、順風満帆、万事快調。

 なんの偶然か奇跡か、悔しいことに三人の連携の相性は抜群と言わざるを得なかった。スピード特化の魔法一切なし回避盾前衛型の俺は、ALOではあの世界と違うシステム的な恩恵を以て壁役だけでなく打撃攻撃でのダメージソースをも担当。そんな前衛バカの俺に対してモモカは楽器による魔法効果を持つ支援を専門に、簡単な回復、支援の呪文をこなす純後衛支援型プレイヤー。そして残るブロッサムが魔法によるダメージソースと場合によってはモモカの護衛をもこなす器用な中衛。

 モモカはともかく、ブロッサムに関しては魔法の誤射(フレンドファイア)の危険もある以上そうそう簡単にこなせる役割ではないはずなのだが、鍛冶妖精にも関わらず彼女の戦闘センスはそれを可能にしている。流石に俺のスピードと「背を併せて闘う」などという離れ業こそまだできないが、それでも俺を避けての魔法射撃だけでも相当の練習を必要とするはずなのだが。

 (連携、ね……)

 まあ、「背を併せて戦う」なんてのは向こうの世界でも指折り数えるほどできたプレイヤーはいなかったから、そこまで期待するのは酷だ。そういう意味で、今の連携は間違いなく最高、最善のものだった。道中の雑魚や散発の対人戦プレイヤー程度なら楽に圧勝できるくらいには。

 そして戦闘以外にも、それぞれのポジションというものは確立されていた。

 まあ基本的にモモカがわがままを言い、ブロッサムが丸投げして俺が最終判断を下させられる、という甚だ不本意な分担なのだが。大昔に一度言ったかもしれないが、俺は基本的に「人のことを考えて物事を判断する」というのが絶望的に苦手だ。そんな俺へと駄々を捏ねるモモカも大概だが、丸投げするブロッサムも相当だと思う……のだが、どうやらこの二人から俺は「ちょっと無理言っちゃってもいい感じの人」認定をされてしまったらしい。若干笑っていたブロッサムの目を俺は知っている。

 まあそんなこんなで、無理矢理の三人旅を続けて、寝る間を削っての隠れての一人旅を合間に挟む、というスタイルの探索をおこなう俺だったが。時には二人も納得で、一人旅に興じることだってあるのだった。





 「え、えっとですね、……」
 「だーからいいって言ってんだろ。心配ねえって」

 心配そうに眉をひそめるモモカを、ヒラヒラと手を振って制する。

 既に闇妖精(インプ)領の高山地帯を抜け、周辺は徐々に砂地へと変わりつつあった。見渡す限りに広がる荒涼とした砂漠地帯は俺にとっては遮蔽物も無く足場も悪い、要するに俺にとって天敵としか言えない地形。サボテンの生えた場所やオアシスまで行ければなんとか戦えなくはないが、それでもMob相手が精一杯、対人戦は到底不可能だ。

 『行きたければ、ご自由に。ただし死なれた時はご連絡ください。貴方は各街でセーブをしていませんから、音楽妖精(プーカ)領まで戻ることになりますから』
 「ああ、それなんだが、二人は大丈夫なのか? 俺死んだらここで残されることになるんじゃ、」
 『私は一旦|鍛冶妖精(レプラコーン)領に戻って、再度プーカ領まで行きます』
 「あ、私も大丈夫だよ! セーブも領内の家でしかしてないし、死に戻りするにしてもどうせ音楽魔法瓶とか演奏用の楽器とかしかもってないから!」

 ……いや、二人の持ってるアイテムも、決して安物では無いとは思うのだが。まあ、ここまで来て死に戻りなんて問題大ありにきまっているのだが、本人たちがこう言う以上、あまり強く出るわけにもいかないし、ほかに手があるわけでもない。そして、いやなことにこの議論は続ければ行き着く先は「俺が死ななければいい」だ。余計なプレッシャーは受けないに越したことは無い。

 まあ、気づいている時点でプレッシャーにはなっているのだが。

 ――都市への行商。
 言葉にすれば、それだけのこと。

 それだけのことに、ここまで二人(ブロッサムはしてるのか微妙だが)が心配する理由は一つ。

 この砂漠地帯を縄張りとする妖精、火妖精(サラマンダー)
 ここまでプレイした中で聞いたところによれば泣く子も黙る、飛ぶ鳥を落とす現在の最強勢力。
 そして、敵対種族を、躊躇なく切り捨てる、非情にして冷血の、コアゲーマー集団。

 俺が今から向かう行商の行き先が、そのサラマンダーの領地の首都であるガタン……噂によれば行商なんぞに行く迂闊者は皆斬られて身ぐるみ剥がされるとさえ言われる都市に、俺が赴くと宣言したからだった。






 そして、噂が真実であることは、身を以て即座に知ることになった。

 「うおっと!!!」

 普通に入ろうとして、横合いから前触れなく斬りかかられ、慌てて跳び退る。プレイヤーでは無い、NPCガーディアンだ。種族の領主によって設定できる、「領内の種族の立ち入り制限」で配置されるこの剣士は、街中に入ろうとする不許可種族に容赦なく斬りかかる。

 その剣戟に、緊張感が一気に高まる。

 「やべーな……。プーカってどこでも入れるんじゃなかったのかよ……」

 ガーディアン。NPCに対する対応は、対人とは異なる一長一短がある。
 まずこのALOにおいて、「立入不可」がガーディアンというシステムであるのは有難い相違だ。

 確かにこいつらは無敵、一発でHPの大半を持っていかれるし、こちらのダメージは通らないが、俺のスピードがあれば、数回分の攻撃は回避できるし数秒であれば逃げ切れる。SAO世界でのシステム的な立ち入り禁止よりは、こちらに自由度があるということだ。案外キリトとかなら、ガーディアンと切り結びながら街中探検とかできるんじゃないか?

 つまりは、街に侵入することは、決して不可能ではない。それが『長』。
 そして、『短』。

 「NPCじゃ、交渉してもうなずいてはくれねーな……」

 俺の十八番たる、「アイテム類を含む交渉」の余地が、一切ない。

 「くっそ、逃げるしかねえか!」

 続けざまに斬りかかるガーディアンからの連撃を辛うじて回避して、街中をあきらめていったん街の外……システム的保護圏外へと転がる様に逃げる。

 しかし、その先を心配することは無かった。

 「なんだ!」
 「なにがあった!?」
 「ケンカか!?」
 「いや、他種族だ!」

 途端に騒ぎを聞き付けた野次馬が続々と集まってきやがったからだ。その数十人、二十人……ってやべえ、中には杖やら槍やらの武器を構えている奴らもいるじゃねえか。殺す気マンマンだぞこいつら。一人ではとても対応できんぞ。

 こうなるのが予想済みだったから、モモカとブロッサムは近くの中立村においてきた。

 モモカは最後までついてきたがった(というか、俺を引き留めたがった)が、そこはブロッサムに押さえつけて貰った(彼女は喋らないが、指示すれば受け入れてくれる)。いつもはポッキーもかくやという折れやすさの俺の主張も、今回ばかりは意地を通させてもらった。まあ、これは立派に大義名分も立つし、許されるだろう。


 ちなみに大義名分以外のコトを言えば、一人で街に入れば一日中クエストと街中探索ができるし。

 と、そんなこと言ってる場合じゃないな!

 「待った待った! 俺は戦う気はない!」
 「だったら何の用だ!」
 「行商だ! 単にアルヴヘイム中を回って、観光がてらにクエストアイテムを売ってる、ホラ!」

 杖を構える赤髪(サラマンダーの特徴だ)のメイジの声に応えて幾つかのアイテムをオブジェクト化して広げる。広げるのは各種特産品、そして珍しいクエストアイテムを幾つか。あまりに珍しい……情報サイトに載っていないようなアイテムを晒すとPKされる危険があるので、細心の注意は払ってはいる。

 (ちょっとの油断が、命取りだしな……)

 なにせこの街は、積極的に風妖精(シルフ)や闇妖精を狩り、その戦利品をかき集めて戦力を強化、近いうちにこのゲームのグランドクエストたる『世界樹攻略』へと乗り出すと噂のサラマンダーの首都なのだから。

 だが、そこにこそ、入り込む隙はある。

 「世界樹挑戦の噂がホントなら、ぼちぼちいいアイテムが欲しくなるんじゃないかな、と思ってな。例えばアンタの防具、見たところ《クリンゾンローブ》のようだが、上級ダンジョンや邪神級Mobを倒すにはちょっと魔力補正に不安があるんじゃないか? こっちのマント、《オーロラ・フレイム》なら火属性魔法に倍近い効果があるぜ?」
 「っ、こ、これは、」
 「杖だって、構えてるそれよりはいいモノ扱ってるぜ? 見ていかないか?」
 「……っ、」

 自分の装備をバカにされたメイジが、顔を髪と同様に赤く染める。世界樹攻略に向けて動いているなら、各個人のノルマで徴収される金額もバカにならないはずだ。必然、金銭でないアイテム獲得のためにクエストを受ける暇は削られ、いい装備を探すのは難しくなる。動きから見てプレイヤースキルはそこそこの様だし、そろそろいい装備がほしいと思っていたのか、男が言葉に詰まる。

 その横から、メイジよりもがっしりした、長槍を携えた男が一歩進み出た。

 「へえ、ジータクスのよりいい装備があるのかい。一介の行商人にしては随分品揃えがいいな? 俺は魔法戦士なんだが、いい装備はあるかい?」
 「勿論。魔法は、火属性だろ? 武器? 防具?」
 「んん、武器がいいか。重装槍で、魔法補正とかあるか? NPCショップじゃあんまいいの見当たらなくてな。いいのないか?」
 「これがあるが、かなり重いな。重量級プレイヤーでも使えるかどうか……」
 「ほお、どこで手に入れたんだ? 見せてくれよ」

 こいつは思ったよりフレンドリーなようだ。すらすらと話し掛け、俺にカマかけてくるのも忘れない。体は完全に近接タイプのパワータイプだが、魔法も使うだけあって頭の回転もはやいようだ。おそらく「今は話を聞き出し、アイテムのレベルを見るべき」と判断したのだろう。

 と、アイテムを広げる俺の周囲が、突然静寂に包まれた。

 訝しむ俺の前で、周りの人垣が真っ二つに割れる。
 おお、これが噂のモーゼingというヤツか。

 その先を、ゆっくりと見やる。

 「なんの騒ぎだ?」

 そこにあったのは、槍の男よりさらに屈強そうな戦士が、こちらを睥睨している姿だった。


 
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