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魔法科高校の神童生

作者:星屑
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Episode13:戦闘、無頭竜

 
前書き
おくれてしまって申し訳ありません、星屑です。うーん、やはり新生活が始まると時間がなかなかないですねー……まあ、それはさておき、今回の話しは大半がオリジナルなので! 

 
「うぅぅおぉぇぇっ!!」


「うわ、きったない声出さないでよ!」


少し前から始まった、第一高校恒例の部活勧誘週間第一日目。先日、見事同じ教職員推薦枠で選ばれた森崎くんを模擬戦で下した俺は晴れて風紀委員会入り、及び部活勧誘週間中の見回りに任ぜられたのだが、


「うぷっ、無理無理。無理だって鋼!お願いだから美術部に行こう!?」


絶賛嘔吐寸前です。


「えー、僕まだ目当ての部活見てないんだけど?」


現在、合流した俺と鋼は一緒に各地を見て回っていた。だが、如何せん人の数が多すぎる。それに、全員が全員、テンション高いからその分周りのサイオンが活性化されて……ダメだ、吐きそう。


「じゃあ、俺だけでもここから出る!じゃあね鋼!」


「あっ、ちょっ隼人!」


止めようとする親友(?)を置いて、俺は加速魔法ばりに全力疾走してその場を離れた。












「う…おえっ…これは、想像以上だな」


一先ずあの活性化されたサイオンの渦巻く場所から離れたかった俺は、犇く人と人の隙間を縫って取り敢えず人気のない角へ来た。


「はぁ…ある程度制御できるようになったとはいえ、まだあの人数はキツいなぁ」


そう愚痴って、壁に背中を預ける。
自分がこの力、即ち世界の事象を司る情報体であるサイオンを見る能力を手に入れたのは、今から10年も前のことだ。まあ、親からの遺伝ってことで生まれつき能力は持っていたらしいから、10前に覚醒したということになるかな。目覚めた瞬間は大変だったなー……交戦真っ只中だったし、暴走させちゃうし。でも多分、この力がなければ今の俺はなかっただろう。あいつを守れたのだって、この力のお陰だし。
サイオンは、事象を司ると同時にエイドスを構成している。そして魔法はエイドスを改変して発動させる。つまり、魔法はサイオンを改変するのと同意になる。サイオンを視れ、また魔法を発動させることも消去することもできる俺は、魔法に最も近く、また、魔法に最も遠い存在になる。
片や、魔法を生み出すことのできる能力。片や、同じ力で魔法を消し去る能力。それはすべての魔法師よりも才能があり、また、それを否定する存在へと俺をさせた。



「凄い力なんだけど…その分見返りが大きいよねー」


また、制御の修行をやらなきゃな。


「さて、今度はあまりうるさくない所にーーっ!?」


伸びをしてその場から立ち去ろうとした時、不意に背後に気配を感じて振り返った。


「……なんだ、アンタ……?」


そこにいたのは、奇妙な出で立ちの男だった。
背丈は姉さんと同じくらいだから170前半。着ている服はすべてが黒色で、黒のフーデッドローブも羽織っている。それに、一番奇妙なのは、顔下半分を覆う漆黒のマスク。
ここの生徒の仮装…そう思うほど、俺は腑抜けてはいない。こいつから感じるのは、確かな敵意と、殺意だ。


「アンタ、何処のモンだ?学校関係者でもなさそうだし……」


そう問い掛けてみても、男はなにも言葉を発さない。
代わりに、男が徐に腕を掲げたその時。微かに吹いていた風が、刃となって襲いかかってきた。


「っと!」


無色の魔法だが、サイオンそのものを視れる俺にはなんの意味もない。今のは、情報強化の魔法。恐らく、『弱い風』という情報を強化してカマイタチ並に強力な風を作り出したのだろう。
情報強化魔法はかなりのレベルの魔法師じゃないとそうそう使いこなせない。ましてや、風力を強化するとなると。


「お前が、九十九隼人だな?」


聞こえてきたのは、マスクの中から。だが、その声は不自然にくぐもっている。
多分、声を変えてるんだろうな。…そこまで己の存在を知られたくないのか?


「それがどうかした?」


とにかく、敵の情報が少なすぎるから下手に動くわけにはいかないな。最悪戦闘になってしまったら、瞬殺しなければならないし、なるべくなら、戦いはしたくない。


「オレの名前は五十嵐修哉。『無頭竜』の幹部の一人だ」


「無頭竜…!?」


無頭竜(No Head Dragon)
その名を持つ組織の動きが活発化してきているというのを、俺は昨日の父さんとの会話で聞いていた。
俺の父さんと母さんは今、九十九家の家督を姉さんに任せて世界各国を旅している。この時代、血を守るために外国へ行くのはほとんどご法度されているのだが、どうやら父さんと母さんはうまく政府を言いくるめたようだ。大方、自分らのBS魔法の研究とでも言ったのだろう。
ま、理由はともあれ、俺の両親は今、様々な国を回っている。だからこそ、入ってくる情報も多い。俺はよく週一くらいにテレビ電話して、土産話としてよく聞くのだが、『無頭竜』もその内の一つだった。
俺が知っていたかつての無頭竜は、ブランシュと双璧を為す犯罪シンジケートだった。だが、父さんの話しによれば、戦力面で無頭竜が突如飛躍。今や、九十九家の第一級警戒組織にまで上がった。
急激な戦力増加。その第一の理由は、世界各国の有名な魔法犯罪者が一気に加入したことらしい。
『五十嵐修哉』。確か、三年前くらいにあった魔法協議会侵攻事件の主犯格だった男だ。そのせいで、五十嵐家は百家から除名、所謂『エクストラ』になったらしい。今まだ逃亡していると聞いていたが、まさか無頭竜にいたとはね。


「その幹部殿が…一介の高校生である俺になんの用だい?」


「フン……オレ達の主は今、世界を己が手にすることを考えてる。だから、駒として強え奴が必要でな」


フーデッドローブのフードに隠された顔から覗く、鋭い眼光が俺を睨んだ。


「お前が必要なんだとよ、九十九隼人」














「お前が必要なんだとよ、九十九隼人」


修哉の放った一言に、隼人は目を細め怪訝な顔をした。


「俺の、なにを知っている?」


九十九隼人の異能は、秘匿されているものである。だが、他の家のように厳重に隠されているわけではない。他の家のように特別厳重に隠すとなれば、魔法演算領域のほぼ全てを異能に奪われている隼人にとっては、魔法が使えないことと同じになってしまう。だからこそ、隼人は最低限の備えとしてシルバー・フィストという特別なCADを使う。
だがそれだけでは、とてもじゃないが全ては隠しきれない。今回のように、バレる可能性は十分にあり、また、過去にもあった。



「全て、と言ったら?」



さて、そのような場合、これまでの隼人ならばどうしていたのか。
それは、単純明快であった。


「倒すだけだ」


開戦は一瞬。自己加速魔法を瞬時展開した隼人は一息に修哉の懐に入り込んだ。右足で踏み込み、左手で腹部への掌底。
鈍い音を立てて隼人の掌が着弾。突然の攻めに反応しきれていないのを好機と見て、隼人は更に左脚のローキックを放った。
だが、いくら反応が遅れたとはいえ修哉は凶悪犯罪者集団の中でもトップクラスの実力を持つ。たかが高校生に、不意打ち如きで遅れはとらない。
鞭のようにしなる蹴りを、修哉は負の加重魔法を使って跳び上がり回避。着地するや否や、地面を蹴って隼人に特攻を仕掛けた。右腕を横に振ってローブの袖から仕込みナイフを取り出す。
だがその特攻に、隼人は反応した。容赦無く突き込まれるナイフを右手でいなし、気勢を削ぐと開いた左手を空気に叩きつけた。


「ガッ……!?」


突然腹部にハンマーで殴られたかのような衝撃を感じ、修哉は吹き飛んだ。
狭い校舎裏で、背中をコンクリートの壁に打ち付け、止まった。


「ぐっ…レンジ・オーバーの名は伊達じゃねえってことか…」


そう呻きながら立ち上がると、修哉らナイフを握らない手で一枚のカードを取り出した。
自分が経験したことのない事態が起こると読んで、隼人の緊張感が高まった。


「いくぜ…!」


身構える隼人に、修哉は手にもったカードを投げつけた。その動作に怪訝な表情を浮かべつつ隼人が首を捻って躱そうとした瞬間、カードの軌道が反転した。


「なっ…ぐっ!」


突如軌道を変えたカードを、隼人はなんとか躱すことができたが、完全には無理で頬に一筋の切り傷が走った。
予想外の攻撃に隼人の注意が割かれた。その隙を修哉が逃すはずもなく、背後に接近し、振り上げたナイフを右肩口めがけて振り下ろした。


「っ!」


だが隼人はそれに感づいて、肩へ降りてくるナイフを見て目を細めた。変化は一瞬。修哉の視界に亀裂が走ったと思った瞬間には、彼の手にナイフはなかった。


「…っ、セアッ!」


今まで自分が握っていたナイフが突然消えたことに驚愕していた修哉に、右目を手で押さえた隼人の蹴りが着弾して吹き飛ばした。


「ハァ…ハァ……くっ、やっぱり消耗が凄いな…!」


そうぼやいて、隼人は地面に膝をついた。
先ほど隼人がナイフを消した魔法は、先日ブランシュの工作部隊を消し去った魔法『消失(デリート)』によるもの。だが、前回のは大規模で力加減する必要はなかったのだが、今回の目的はナイフのみを消すこと。故に、前回よりも繊細な出力制御が要求された。
消失(デリート)を隼人がなんの制御も考えずに使用していれば、恐らく修哉ごと背後の建物の存在が無かったことにされていただろう。だが、それはやってはならないことだ。また、ある程度の制御では、建物の消滅は防げても、修哉の消滅は免れなかっただろう。しかしそれも、今やるわけにはいかなくなった。だから必然的に、隼人は最大制御出力で魔法を行使しなければならなかった。そしてそれには、多大な精神力と体力を必要とした。


「ハァ…にしても、俺を狙って来るなんてね」


そう気怠気に呟いて、立ち上がったフーデッドローブの敵を睨む隼人には、明らかな疲労が浮かんでいた。
今回は最初から体調が優れていないのもあいまって、コンディションは最悪の状態だ。


「フン…流石だな。その力があれば、混迷した世界を動かすことなど簡単なのだが」


ダメージを負っているにも関わらず、それをおくびにも出さない修哉にため息をつく。


「いつからアンタらはそんな宗教思想になったんだい?それに、俺が世界を動かそうとこの力を使えば、待っているのは破滅だけさ」


だからこそ、アンタらに協力などするわけにはいかない。そう言外に呟いて、隼人は再び拳を構えた。


「そうか。ならば、全力で奪うのみだ」


「……負けられない!」


再び激突し合う拳と小型のナイフ。だが、隼人に先程までのキレはなく、徐々に押されてきていた。


「ふっ!」


短い呼気で踏み込んで、そしてインパクトの瞬間に全身の筋肉を連動させ、打ち込む。型通りの完璧な正拳突き。
だが疲労で筋力の落ちた状態で繰り出されたそれは、格闘術を一通り齧っている修哉にとっては、素人同然のように見えた。


「ガッ…!」


一瞬の隙を突いた修哉の回し蹴りが隼人の鳩尾に着弾した。
たたらを踏んでなんとか後退する勢いを殺す隼人。だが痛みと疲労に耐えきれず、片膝を地面についてしまう。


「ハァ…ハァ……くっ」


「終わりか?」




荒い息を繰り返す隼人に、修哉はダガーを突きつけた。鈍い光を放つそれに、隼人は苦笑いを漏らす。


(まいったね……ここで本気出すわけにはいかないしなぁ……せめて結界があれば…よっしー来ないかなぁ…)


同じ第一高校に入学を果たしたことは分かっているのに未だ会えない旧友を思い出しながら、隼人は頭をフル回転させた。


(不意打ち…?いや無理か。いっそ消失(デリート)で消す…は、やめたほうがいいかな。目をつけられちゃうし……となると、特攻しかないかなぁ)


どうやら隼人の頭は単純思考のようで、撤退という選択肢など存在しなかった。


(さて、と。そろそろやるかな)


そろそろ猶予時間がないのを感じ、隼人は覚悟を決めた。戦うことへの、ではなく他の人への状況説明の面倒くささに。


「一ついいかな?」


顔を地面に向けて呟いた隼人に、修哉は僅かに眉を寄せた。


「なんだ?」


隼人の表情は垂れた前髪に隠されて窺うことはできない。なにをしてくるか分からない状態のため、修哉は慎重に言葉を紡いだ。


「アンタらは…俺の力を使ってなにをするつもりだい?」


声音でも、隼人の様子を判断できない。それほどまでに、今の隼人の纏う雰囲気は読みづらいものになっていた。だから、修哉は言うのを戸惑った。返答次第ではどうなるか分からないという恐れがあったからだ。
だが、今回自分に課せられた任務は、九十九隼人の拘束。ただでさえ最近の任務が不調続きなのだ。これをしくじれば、自分はどうなってしまうのか分からない。



「俺には分からねえ。ただ、お前の力が必要何だとよ」


「…………」


返ってきたのは短い沈黙。依然として顔を俯けたままの隼人に、修哉は本格的な危機感を覚えた。そして反射的に彼から距離を離そうとして……


「…まあ、興味はないんだけどな」


激しい雷光が、修哉を包んだ。










「……チッ、逃がしたか」


巻き起こる砂埃を煩わしげに払いながら、隼人は舌打ちを漏らした。
先ほどの隼人の放った魔法は、『雷』系統と収束魔法の複合だ。標的の周囲に雷を発生させ、それを標的を中心として収束させ焼き尽くす殺傷用魔法。発動までのタイムラグは限りなくゼロに近かったはずだが、恐らく修哉は、隼人が行動を起こす前から危険を察知して魔法が発動する瞬間に撤退したのだろう。


「…はぁ。やれやれ、やっとこれでゆっくりできるね」


溜息をついて思いっきり腕を突き上げて伸びをする隼人。だが、緩ませていた頬が、瞬間的に怪訝なものへと変化する。


「……なんか、騒がしいな」


隼人が視たのは、突如サイオンが活性化された第二小体育館、通称「闘技場」と呼ばれている場所だった。


「確か、あそこでは剣道部と剣術部デモンストレーションがある場所だよね……今の時間帯だと、ちょうど休憩時間か……」


面倒だけど、無視するわけにはいかないよねー。そう呟いて、隼人は闘技場へ向けて歩き出した。















ーーto be continuedーー 
 

 
後書き
どうでしたでしょうか?この作品では、今回のようにアレンジなどの修正が入ります。これからは、そこも考慮して読んで頂ければ幸いです。 
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