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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第八十二話 さて、やるか!

「さあ! いよいよ迎えた予選二日目最終戦! これで通過者四十人目が決まります!」


 モアの熱気もさることながら、闘武場の燃え上がりも絶好調である。


「続々と最後の参加者達が現れてきます!」


 その中にはもちろん闘悟もいる。
 だが闘悟はふと思ったことがあった。
 明らかに三十人より多い。
 数えてみたら四十人いた。


 何でだ?
 そこで闘悟はこの大会の参加者数の数を思い出した。
 確か千二百十人のはず。
 予選は全部で四十回。
 だがそれぞれ三十人に振り分けても、十人が余る。
 あ、なるほど! 残りの十人を最後に回したのか……ってか何で最後に全員を振り込むんだよ!
 一人ずつ他の対戦に振り込んだら良かったんじゃね?
 闘悟の思った通り、そうすれば十回戦分の人数が三十一人で事足りたのだ。
 わざわざ最後の組に十人全員を振り込む必要などなかった。


「皆様! この最後のバトルロイヤルは、少し趣(おもむき)が違っています! 何故なら参加者が四十人います! 理由はというと……王曰くその方が締めくくりとして盛り上がるからだそうです!」


 あの面白国王め、とんでもないことをしてくれたな。
 はぁ、ホントにクジ運が無かったみてえだな。
 闘悟は今頃愉快に笑っているだろうギルバニアに苦々しい思いを抱きながら溜め息を漏らす。
 何となく実況席を見てみると、うっかりとフレンシアと目が合った。


「きゃ~トーゴく~ん!」


 聞こえない聞こえない。
 決してフレンシア様の声なんて聞こえないからな!
 明らかにこちらに向けて手を振っているフレンシアに視線を合わせず背中を向ける。


「おい、アイツがトーゴ?」
「変や髪の色しやがって」
「う、羨ましくはないが、奴は殺そう」
「ていうかあんな格好で闘うつもりか?」
「完全に舐めてやがるな」


 そんな声があちらこちらから聞こえてくる。
 てか、殺すって言った奴、明らかに嫉妬だろうが!
 あ、そういや、オレってまだジャージ姿だった。
 闘悟は自分の姿を見て忘れていたと頭を抱えた。
 せっかく夜に考えたのに……。


「待っていたぞトーゴ・アカジ」


 闘悟はその声にピクリとする。
 そこにはフービがいた。
 フービは闘悟と同じく『ヴェルーナ魔法学園』の生徒である。
 彼はその中で最も実力者であるらしい『五色の統一者(カラーズモナーク)』と呼ばれる者の一人だ。
 確か自身を『黄鬼(おうき)』とも呼んでいた。


「ん? それは外さねえのか?」


 闘悟はフービの右腕に嵌(は)められてある腕輪を指差す。
 それは『魔封輪(まふうりん)』と呼ばれ、彼が身に着けているのは魔力を封じる効果を持つらしい。
 前回の大会では、それを着けたまま闘い、あのリューイを破った。
 今回はそれを外すつもりらしいのだが、まだそれを着けていることが気になった。


「ふっ、本当にお前がその資格があると感じたら外してやる」
「……へぇ」


 闘悟は不敵そうに微笑する。
 その時、モアの声が闘武場に響く。


「さあ! それでは準備はよろしいでしょうか!」


 その言葉で参加者達は互いにある一定の距離を取る。
 場に緊張が張りつめる。
 だが、皆の視線は何故か闘悟に注がれる。
 恐らく青いジャージ姿に黒髪黒目が異様に目立っているのだろう。
 その上、三賢人であるフレンシアにも声を送られている。
 注目を浴びるのには十分過ぎるほどの理由だ。


「第二十回戦! それでは……」


 ちょっと待ってほしかった。
 このままの服装で始めてもいいのかと少し焦る。


「始めぇぇぇっ!!!」


 始まってしまった。
 その時、一斉に闘悟に向かう参加者達。


「まずはあの変な格好の奴を!」
「そうだ! 大会を舐めやがって!」
「俺のフレンシア様をよくも!」


 ああもう! だから格好は何とかするから時間くれよ!
 つうか最後の奴、ヒナのパパが怒ってくるぞ!
 普通は強敵に集中攻撃をするのだが、闘悟の場合は何故か嫉妬が多かった。


「トーゴく~ん! 負けないでぇ~!」


 そこで火に油を注ぐ発言をするフレンシア。
 参加者達のみならず、観客の嫉妬が殺意へと変わる。
 とんでもなく視線が痛い。
 特にあとからクィルとミラニには詰め寄られる可能性が高い。
 また説教かと落ち込んでしまう。
 くそっ! オレが何したって言うんだ!
 ああもう! こうなったらてめえらで鬱憤晴らせてもらうぜ!


 闘悟は魔力で体を覆う。
 すると、眩(まばゆ)い光が闘悟を中心にして広がる。
 闘悟に向かっていた者達は不可思議な現象に足を止める。
 だが、それよりも皆を驚かせたのはその魔力量だった。


 闘悟の魔力は異常である。
 一パーセントほどの魔力でも、達人級の魔法士が束になっても届かないほどなのだ。
 そのため皆は愕然としながら光の中心を眺めていた。


 次第に光が収まっていく。
 そこに現れたのは、赤いハチマキに赤い指無しグローブを装備し、袖(そで)の無い青のカンフージャケットに似たものを着込んでいる闘悟だった。
 両腕には手首から肘(ひじ)にかけて黒いサポーターを身に着けている。


「はあっ!」


 闘悟は自分を見て放心している者達をよそに、地面を大きく踏み込む。
 すると、地震が起きたかのように闘武場自体が大きく揺れる。
 立っている者は悲鳴を上げながら転倒する。
 観客からはそんな声が轟(とどろ)いている。
 だが、一番被害を被(こうむ)ったのは参加者達だ。
 どうしてか、体を痙攣(けいれん)させて叫びを上げながら地面に臥(ふ)せる。
 その後はピクリとも動かない。


 そして、地震が収まって、その場に立っている者は闘悟とフービだけだった。
 フービも何が起こったのか分からないのか、呆然と闘悟を見つめている。


「さてと、邪魔者は消えたぞ? これでもまだそれを外さねえのか?」


 オレにはまだその資格がねえのかと、闘悟は聞いている。
 フービはようやく思考が追いついてきたのか、現況を把握して、微かに頬を緩ませる。


「……化け物か貴様……?」


 その言葉とは裏腹に恐怖では無く武者震(むしゃぶる)いを感じる。
 無意識に頬を緩ませたのもそのためだ。
 最高の闘いができる。
 そんなふうに感じたからだ。
 ようやくまともな闘いができると思い、喜びに打ち震えていたのかもしれない。
 だが、フービ自身思っていなかっただろう。
 まさかこれからあまりの恐怖に顔を歪めてしまうことを。


「…………こ、これは一体何が起こったのでしょうか……?」


 モアは声を張り上げるのも忘れて思わず呟いていた。
 隣にいたフレンシアでさえ目の前の出来事に目を見開き硬直している。
 先程まで顔を緩ませて闘悟を応援していた彼女からは信じられない表情だ。


「フ、フレンシア様……?」


 だが、フレンシアは電池が切れたように動かない。
 観客もほとんどがフレンシアと同じような感覚だ。


「あの、フレンシア様!」


 何度か話しかけると、ようやくフレンシアに目の輝きが戻って来た。
 だが、その第一声はモアでさえ耳を塞(ふさ)ぐような大声だった。


「キャ~~~~~~ッ!!! トーゴく~~~ん! カッコい~~~~っ!!!」


 まさに絶叫並みだった。
 もちろんその声は闘武場に響き渡る。
 あまりの大声に顔をしかめる者もいる。
 それに反して闘悟は、その声を聞いて力が抜けるのを感じる。
 フレンシア様……ホントにやめてほしい……。
 切実にそう願うが、当の本人は未だに叫び続けている。





 ギルバニアがいるVIPルームでは、観客と同じようにほとんどの者が言葉を失っていた。


「うむ! さすがはトーゴだ! わはは!」


 ギルバニアは自慢するように笑う。


「い、一体彼は……いや、あの魔力量は……」


 そう呟いているのはアーダストリンク王国の国王ブラスである。


「確か彼がスティが気にしていた者では……?」


 その息子であるギレンが答える。


「う、うむ。確かにギルバニア王はトーゴと言っていた。あの時、ステリアがその名前を聞いて驚いていたのを覚えている」


 そう、それは王族同士の会食の時、ついつい口を滑らせたニアのせいで、闘悟のことを教えることになった。
 その時、名前を聞いたステリアは、是非会いたいとクィルに頼み込み案内してもらったわけだ。


「ギルバニア王、彼は何者ですかな?」


 シュレイエ王国の大臣であるツートンが問う。


「我々にも是非教えてもらいたいです」


 それに乗ってきたのはランブリタル王国の宰相(さいしょう)ディグナスだ。
 その隣の席に座っているザド王国の代表キュッラも興味深そうにこちらを見つめている。
 ギルバニアはその問いに対し、フッと意味深に笑いながらこう答える。


「まずはこの試合を見てからにしましょうや。話はそれからで」


 そう言われれば追求しにくい。
 彼らは釈然としない気持ちで、闘悟に視線を戻す。


(トーゴよ、盛大にデビューしやがれ)


 ギルバニアは嬉しそうに口角を上げる。ま
 るで自分の息子の晴れ舞台を見守るような気持ちが胸に上がってくる。

 
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