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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第八話

 
前書き
 俺に彼が扱いきれるか。 

 
 ここは海鳴市にあるとある大型ゲームセンター。海と山に囲まれたのどかな片田舎とはいえ、都市部に出ればこういった施設が一つや二つはある。この日は日曜日、しかも昼間ということもあり、ものすごい混みようであった。

「死ねこんボケェ!」
「まだまだァ!ほいほいほいっと!」
「オラオラオラァ!」

 そんな中とあるロボットゲームのエリアから叫び声が聞こえる。そのゲームの筐体はなんと10機もあり、この地域のゲームセンターとしては大規模と言えるだろう。そこには……

「ほれほれぇ、コアがら空きやでぇ!」
「何ッ!?」
「このまま叩き割って……アギャァ!おのれ自動砲台ィ……」
「ちくしょォ、コアかなりもってかれたァ……!」

 竜二と直人が隣り合わせで座っていた。どうやら対戦中らしい。また彼らの向かい側には、足が床に届いていない女の子が二人。

「フェイトちゃん、竜二さんそっち行ったよ!」
「任せてなのは!抜刀、はぁぁぁぁぁぁあああああ!」

 どうやら竜二が一人で直人、なのは、フェイトの三人を相手取っているらしい。

「ちょ、こっちになんか軽量機突っ込んできたし!あーもう面倒くさい!」
「逃がさない……落とす!」
「はいはーい、小銭砕いてきましたよ」
「サンキュアスカ、5クレずつ配っといて!あー死ぬ死ぬもうこれ以上くるんじゃねぇぇぇぇぇぇえええええ!」

 なぜこうなったのかというと……



 ほんの数時間前、家を飛び出した竜二が向かったのは翠屋だった。

「いらっしゃいませ。おや、竜二君じゃないか」
「どうも。直人来てます?」

 出迎えたのは士郎。カウンター席に案内し、水を入れたグラスを竜二に差し出すと、彼はそれを一気に飲み干した。

「いや、今日は来てないな。呼ぼうか?」
「いえ、呼び出してるんで。席とっときますわ」

 この日の竜二は、黒い薄手のシャツジャケットに暗めの青のジーンズ、黒のブーツ。尻ポケットから半分飛び出しているのは財布で、反対側の腰までチェーンが伸びている。長袖を着ているのはバイクに乗っていたからのようで、店内に入るとすぐに脱いだ。インナーは褐色の半袖Tシャツで、銀色のポリエステルらしきものによるスカルのプリント。胸元には重厚感のあるシルバープレートがネックレスとして提げられている。

「そうか、なら君の隣は空けておこう。何がいい?」
「ありがとうございます。なら今日は海鮮ピラフとアイスティーストレートで」
「はい、かしこまりました」

 伝票にすばやく書き込んで竜二の席に置くと、キッチンへと向かう士郎。そしてズボンのポケットから携帯を取り出してどこかへ電話をかける。しばらくすると、来客を示す鐘の音が鳴った。

「いらっしゃいませー」
「どうも。先輩……いや、八神さん来てます?」
「竜二さんならさきほど……」

 士郎がキッチンから動けないため、なのはの母である桃子が接客に向かう。彼女はやってきた直人を竜二の隣の席へと案内した。

「お待たせしました、先輩」
「おう。メシは?」
「これからです。桃子さん、俺モーニングセットをブラックで」
「かしこまりました」

 桃子も伝票を直人の席に置くと、ホールに回る。今日の直人は、赤い半袖パーカーに黒のロングパンツ、白いスニーカー。重そうな青いショルダーバッグを足元に置いた。

「で、先輩。話ってなんです?」
「ああ。お前にも協力してほしいことができてな」
「……闇の書、ですか?」
「ああ」

 最初から感付いていたらしい直人の対応にうなずいた竜二。

「ってことは、そろそろ決めるんですか?」
「ああ。できるだけ早くしたい。なのはちゃんたちにも、できれば協力を頼みたい」
「それはもう、管理局に全てバラすのも覚悟の上、ということですか?」
「ああ。はやての決断や」
「……そうですか。わかりました」

 ため息一つつくと、ズボンのポケットから携帯を取り出して操作する。

「なのはちゃん達と一旦相談して、予定確認してからまた連絡します」
「助かる」
「いえ。あの子達も、はやてちゃんの心配はしてましたから」
「……そうか……あ、そういやここは禁煙だったっけ?」

 たばこを取り出そうとして灰皿を探していたようだが、見つからなかったらしい。

「全席ですよ。吸うなら外で」
「はいはい。まぁええけどな。切れてたし」
「じゃあ何で今取り出したんですか?」
「あると思ってたんや……」

 そこに桃子が注文の品を届けにきたため受け取った。空席もいくつか見受けられるほどカウンターに並んだ二人が黙り込んで食べているのは、ある意味シュールな絵面かも知れない。



 そんなことがあって、起きてきたなのはに話を通してフェイトも誘い、アスカを形態で呼び出し、話もそこそこにまずはゲーセンへとやってきた。とりあえず面倒ごとの前に頭をスッキリさせたかったのかも知れない。

「防衛ライン薄いぞ!味方何やってんの!」
「ヒャッハァぶち抜きィ!」
「あーもう全員ベース戻れ!」
「行ける、勝てる!竜二さんに勝てる!」
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ……」
「このまま押し切る!」
「ちょ、これ以上コア攻撃通すな!とりあえず近いプラント盗られてるからって落とされる落とされるアッー!」
「もらったァァァァァアアアアアアアアアアアアア!」
「クッソォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!」

 とりあえずこの場において竜二の味方はいなかったらしい。



 しばらくして彼らは筐体を離れ、ボロ負けして少し憔悴した表情の竜二とホクホク顔の三人。

「やっぱあのアセンであのマップはきつかったなぁ……」
「先輩、途中から凸あきらめてましたよね」
「無理やてお前らにあんだけ押し込まれたら。おかげで貢献と戦闘ポイトンウマウマできたけどな」
「お疲れ様でした、皆さん。私はやらないんでまったくわかりませんけど」
「アスカさんや、主の戦闘スタイルの元になってんねんからやっといたほうがサポートしやすいんちゃうの?思考の先行入力とかさ」
「ていうか、なんでなのはちゃんとフェイトちゃんがこのゲーム強いの?小学生の女の子がやるようなゲームやないはずなんやけど……金もかかるし」
「あはは……私のお金はお店のお手伝いですから」
「翠屋の売り上げ恐るべしやな……まぁ俺らも貢献してるけど」

 ちなみに、今回の竜二のスコアは負けはしたものの総合でトップだったらしい。二位は直人で、かなり僅差だとか。

「にゃはは……直人さんの影響で」
「とかいいつつ、竜二さんに模擬戦で勝ちたいからやないの?あの人の魔法戦闘の基礎はこれやねんし」
「はうう……ばれちゃいました」
「あはは……」
「それにしても、バージョンあがってからマジでエラいことになってるよなぁ……」

 苦笑して答えるなのは。明言はしてないが、フェイトも乾いた笑いを漏らしたということは同じなのだろう。

「それに、もうすぐA1戦に参加できるし」
「そういや君らA3でしたね……」
「竜二さん確かS5ですよね?ヤバいっすよがんばらないと。追いつかれますよ」
「アホ。Sランの裁定がどんだけ厳しいかお前が知らんはずないやろ」
「だからこそですよ。俺ももうすぐSに上がるし」
「こんガキャ……」

 などと話しつつ、各種ゲームを回っていく彼らだった。以外にもなのはたちはシューティングゲーム
に精通しているらしく、プレイを見ていた竜二と直人を震撼させたとか。


 その後、近場の喫茶店に入る。時間帯を考えると、空いていたのは奇跡とも言える。

「さて、色々余韻に浸りたいところではあるんやが、さっさと今日呼び出した本題に入りたい」
「「はい」」

 竜二の態度が真剣みを帯びたからか、自然と彼女達も真面目な表情となる。

「本題というのは他でもない。君たちの力を貸してほしい」
「やっぱり……おそらくそういう話だろうと思ってました」
「ほう?」

 フェイトの一言に驚いたのか、竜二は相槌を打って先を促した。

「そもそも、話があるって時点でうすうす感づいてましたし、ここに来て『本題だ』なんていわれて気付かない方が間抜けですよね?」
「……まぁ確かに」

 突っ込まれて苦笑を漏らす竜二だが、フェイトが先を促す。

「それで、何をしたらいいんですか?」
「さて、その前に聞くが、君たちは『闇の書』というものを知っとるか?」

 それを聞いたフェイトとなのははお互いを見るが、首をかしげて竜二に向き合う。

「闇の書……?」
「聞いたこともないです。なんですかそれ?」
「説明しよう。少々長くなるが大丈夫か?」
「大丈夫です、お願いします」

 そういって竜二は、闇の書について、さらに自分がやろうとしていることについて語る。その間、二人は驚きっぱなしであった。

「……と、いうわけや」
「そんな……大丈夫なんですか?私たちだけで勝手にやるなんて」
「やらなあかんねん。この件は、あの闇の書の力は、阿呆な連中にくれてやるわけにはいかんねや」
「それはそうですけど、せめてクロノくんには話を通しておいたほうがいいんじゃ……」
「あいつ個人には信用が置けるが、『時空管理局』という組織はどうにも信用できん。組織に所属する人間には、個人の思考より組織の命令が優先されることがままあるのは君らにもわかるやろ?刑事ドラマなんかでよく見るやろうし」
「それは、まぁ……」

 組織を信用しない、できないといった竜二の真意はここにある。こういったことは本来自分たちではなく専門家に任せるべきことであることくらい彼も理解している。もしこれが自分やはやてにかかわることでなければ、すぐにでも闇の書と契約者を捕まえて、そろえて管理局に突き出して終わりにしたいのが彼の本音である。しかし今回契約者がはやてである以上勝手に引っ掻き回されたくない以上、やろうとしていることを組織に潰されるなど竜二からすれば納得できないことなのだ。

「それがある。俺はアースラの人間と言ったって君らとせいぜいクロノぐらいしか知らんからな。君らならまだ信用できるし、魔導士としての能力も高いことは知ってる」
「でも、それじゃなんで話を通してもいいって言うんですか?」

 確かに、組織に信用は置けないのにこんな話を通しても構わないというのは矛盾している。

「もちろん闇の書そのもののケリは俺らでつけるつもりや。せやけどどうも最近、闇の書についてか俺らについてかは知らんけど、妙に嗅ぎまわってる連中がこの海鳴におるらしい」
「な!?」
「つい昨日のことでな……」

 驚く彼らに対し、竜二はつい昨夜、謎の組織らしき人間に襲撃された話をした。

「そんなことが……?」
「ああ。せやから、彼らにはそいつらへの対応を頼みたいんや。それと後は、闇の書の完成までラスト一押しやから、魔力供給をお願いしたいってところかな」
「……なるほど。いきなり民間人である竜二さんを襲った時点で次元犯罪者集団の可能性アリ、ですね」
「ああ。まぁそれを言うと俺も割りとグレーな位置におるんやけどな」
「まぁ、先輩の場合は誰かに迷惑かけてるわけでもなければ執務官殿もスルーしてるし、大丈夫なんじゃないですかね」
「目はつけられてそうやけどな」
「そりゃそうでしょうな」

 魔法を使えるという時点で目をつけられてもおかしくない上、魔力値もずば抜けて高い。また地上戦闘に限るがその戦闘能力も低いわけではないときたら、万年人材不足である管理局からスカウトされてもおかしくない。そのはずがそういった話が来ないのは、竜二の気持ちや人となりを知ったクロノなりの思いがあるのだろうか。

「でもその後、もしはやてが何かの槍玉に挙げられたとしたら……?それだけのことをやらかした闇の書ですよ?被害者の団体とかもあるかもしれないし……」
「それはない。これまでのヴォルケンリッターの行動は知らんけど、はやての元で覚醒した後を見る限り、あいつらが何か悪いことをしたようには見えん。はやてが何かの罪に問われるなんてことは流石にないはずや」
「なら、いいんですが……」
「まぁあいつのことやから、これまでやらかしてきた人間の罪を全部自分がかぶるとか生ぬるいこと言いそうやけどな」
「それはそれでどうなんでしょう……」
「さぁな。そんなん言い出したら止めるけど」
「ですよね」
「当たり前じゃい」

 自分に関わりのない人間の責任まで見れる余裕なんて人間にはない。そもそも、そんなことなどおこがましいことであり、誰も望んでいない。ただの自己満足でしかないと竜二は思っている。まだ誰にも言ってないが。

「さて、話はまとまったな。とりあえず管理局には、闇の書は俺らが握っている以上俺らでケリをつけること、それとさっき言った妙な連中がいることを伝えておいてくれ。もし連中のデータがいるんならアスカにサルベージさせるから」
「あるんですか?」
「あいつあれでもデバイスやで?戦闘データのバックアップくらいとらしてるわ。いつどこでなんの役に立つかわからんからな。そんじゃ、注文するか」
「えーと……」

 竜二の一声で空気が緩み、メニューを覗き込む一同。むしろここまで注文していなかったことを店員の誰も突っ込んでこなかったことに驚くべきだろうか。



 それから竜二はなのは達を直人に任せてアスカとともに離脱して帰ってきた。まぁ彼女達を送ることがなければ、アスカもいない以上彼は一人で帰ることになるわけだが。

「ただいまー」
「おかえりなさい、竜二さん」
「おう」

 時刻は夜7時。八神家がちょうど夕食の準備をしようか、といったタイミングである。

「ご飯どうします?」
「食う。先シャワー浴びてからやけど」
「わかりました」

 出迎えたシャマルに一言告げて、竜二が風呂へと入っていった。それを見てすぐさまアスカが突貫するが、見事にたたき出されたらしくしょげている。

「うぅ、お背中お流ししますって言っただけなのに」
「あはは……」

 これにははやても笑うしかなかった。ただそれでも竜二の下着をとってくる辺り、まさに嫁さん状態と言えるだろうか。




 夕食を済ませた後、さぁてと話を切り出したのは竜二。

「例の計画の件やけど、とりあえずなのはちゃんとフェイトちゃんをこちらに引き込む事には成功した。問題は管理局の連中がどう出てくるかやわ」
「なるほど。まぁ奴らには、最悪例の組織の相手をしてもらえればいいからな」
「というかそうしてくれるのがありがたい。撃退、もしくは逮捕してくれれば文句はないわ」
「文句ないて、ずいぶん上から目線やなぁ兄ちゃん……」

 力を借りる側の人間の言い方ではないだろうとはやてがたしなめるが、竜二に火をつけただけだった。

「俺もできればあんな得体の知れん組織の力なんぞ借りたないわ。でもまぁ派手に事起こした後でバレてゴタゴタ言われるよりは、言ってから起こした方がマシやろ」
「それはそうやけど、私が言ってるのはそういうことやなくて……」
「今はンなことどうでもええねん。とりあえず決戦はサマフェス後、どこにするかは具体的には決めてないが、あの子らの予定がゴタゴタしてくる二学期までにはカタをつける」
「違う意味でゴタゴタしそうな気がするんやけど……」
「黙らっしゃい!」
「はーい」

 些細な突っ込みを試みるも黙らされるはやて。さすがに口を尖らせるが、あきらめて引っ込んだ。一番被害をこうむっているはずなのにひどい扱いだとか言ってはいけない。

「さて、そんなわけで、彼女達が管理局にうまく言ってくれることをとりあえず期待しつつ、こっちはこっちで準備を進めていこうと思う」
「とはいっても、闇の書の侵食も収まっているし、魔力蒐集の件もほぼ問題はない。準備と言っても、空間転移くらいじゃないか?」
「もちろんそうや。でもどこでやるのか?転移先の座標は?」
「なるほど。しかしそれも問題ない。既に決定している」
「ならいいが……」

 どこか釈然としないものを感じつつ、竜二はだったら今日はここまで、と締めくくった。

「あくまで今日のは業務連絡。いまさら何か変更しなければならなくなったことがあるわけでなし、当日はこれまで話し合ってきた手はずどおりに頼む」
『了解した』
「よし、今日は終わり。終わらせる時期が近づいてきてるから、各自気を緩めすぎないように」

 そして竜二とアスカは食器をまとめていく。これに関しては誰がやるなどとは決まっていないので、必然的にその場で動いた者がすることになる。テレビの前でくつろいでいたり、自室に向かったりと、普段どおりの夜であった。そんな日常を過ごしつつ、決戦の日は近づいていく。



 海鳴ロックフェスティバル、通称は海鳴フェス。どの事務所とも契約していないアマチュアバンドのみ参加可能なロックフェスの中では、日本において最大規模を誇るといわれる中の一つ。特徴は、演奏するのはカバー曲のみという縛りでありながら、物販で自身のオリジナルCDを販売できることだろう。普段はゆっくりとした時間が流れるこの街も、この時期だけは慌ただしく、かつ騒がしくなる。あちこちに屋台が立ち並び、海の家もパラソルとテーブルを臨時で出したりと規模を広げていく。町おこしで始めたイベントで、これを目当てに他県から観光客がたくさんやってくるという、一年の中でも数少ない稼ぎ時だからだ。

 そんな夜の街を、やけに機嫌よさそうに歩く一人の青年がいる。以前竜二と顔を合わせた彼だ。

「ふーん。そんだけの祭りがあるんならそりゃ人が集まるわな。ってことは、いい女も集まるんだろうなぁ」
「旦那、えらくニヤけてるが、あまり騒ぎを大きくすると局の連中が来るぜ」
「せっかくの休暇だぜ?派手な騒ぎにさえならなきゃ問題ねぇさ」
「休暇ってのとは違う気がするけどな……痛い痛い!旦那の握力シャレにならねぇんだって!」

 なら黙ってろと右手で銀のブレスレットを握り込みながら自らの相棒に釘を指すのは、以前竜二と鉢合わせた赤髪の青年。暑いからか流石にレザージャケットは着ておらず、赤地に文字が様々な色でプリントされた半袖Tシャツにシルバーネックレスを通し、黒いスリムタイプのダメージジーンズに白いスニーカーという出で立ち。

「ていうかお前、サボってねぇだろうな?」
「ああ、まだ見つからねぇ。いつまでかかるかも不明だ」
「ったく、これだからアンティークは……」
「いくら俺様でも時間を食うときは食うの」
「泣き言はいいから探せチートの塊」
「旦那に言われたらおしまいだぜラスボス」
「砕かれたいか?」
「だからやめてやめて痛い痛い!」

 昼間はそれなりに賑やかではあるが、嵐の前の静けさというものなのか夜はすっかり静かになる。しかしそれでも街に流れる静かな熱気のような期待感に溢れるこの空気が、彼は嫌いではなかった。左手にウイスキーの瓶を持っているところを見ると、歩きながら酒を飲んでいるのだろう。酒で火照った体を夜風で冷まそうというところか。

「流石にこっちで泊めてくれそうな知り合いはいねぇからな」
「だからホテル一ヶ月分まとめてとっちまったんだろ?」
「まぁな。ビジネスホテルだから問題なかろう……ん?何の音だ?」
「何か聞こえるな。言ってみるか、旦那?」
「ああ」

 そして青年が音に誘われた先には、5人ほどの男女グループが公園にいた。楽器を抱えているところを見ると、サマフェス参戦予定バンドだろうか。

「ほう、よく知らないがなかなかいい曲を演るじゃないか」
「わかるのかい旦那?」
「お前と何年の付き合いだと思ってやがるんだ。別に音楽に興味がないってわけじゃねぇぞ俺は」

 趣味は酒金女と豪語する彼だが、他の娯楽に興味が全くないわけではない。音楽もそれなりにたしなんではいる。彼の行きつけのバーなどでも音楽は流れるし、部下や友人からオススメされればCDショップにすっ飛んでいって試聴することもある。ジャンルもジャズ・フュージョン・ポップス・ロック・ヒップホップ・トランス・クラシックと本当に雑多。

「まぁ俺はこの世界の音楽についてはまだよく知らないからな……ロックフェスがあるくらいなら、少しくらい調べておいてもいいかも知れん」
「そうだな……ん?おい旦那、あそこでギター弾いてる兄ちゃん、こないだの彼じゃないか?」
「ん?……ああ、それっぽいな。ちょっと顔出してやるか?」



 そんな青年が近づいてきているとはいざ知らず、竜二はこの街で自らかき集めたメンバーと共に練習に打ち込んでいた。家族会議から数日後のことである。

「うーん、うまいことソロが合わんのう」
「これ選んだの八神だろうが」
「まぁせやねんけども。やっぱ高崎さんすげぇわ」
「いまさらかよ」

 ギターに竜二、ベースに矢吹、ボーカルは竜二のスクールに参加している女性、ドラムにアスカという組み合わせ。フェス参戦のための即興バンドである。あくまで練習だからか、全員ラフな服装だった。

「でも八神先生と矢吹先生に弾いてもらえるなんて感激です……」
「そうだよな。なんてったってSTORMBRINGERのブレインでありエンジンだからな、この人は」
「でもだからって無茶しましたね……LOUDNESSのS.D.I.を選ぶとは。それにこの人、女性で大丈夫かなぁと思ったのにすごく重たい音出しますよね」
「それを言うなら、神坂だって歌うの辛くないか?多分こういう曲、スクールじゃ歌ったことなかろうに」
「私は平気ですよ?もともとこっちが好きで八神先生に弟子入りしたんですから。スクールでなくてもカラオケとかイベントなんかはこっちですし」
「おっと、そりゃそうか」

 どうやら女性は神坂と言うらしい。170センチという女性にしては高い身長、砲弾のように張り出しつつも全く崩れない胸、ほどよくくびれた腰にふっくらとしつつ垂れていない尻、腰位置が高いため長く細い脚部はその手のフェチでなくとも目が行きかねない。その上童顔で、背中までまっすぐおろした髪は艶やかな天然物の茶髪。バンドのフロントを務めるに申し分ない容姿といえる。

「いやー、いいものを聞かせてもらったよ。見物料はいくら?」

 するとそこに、拍手をしながら先ほどの青年が現れた。

「ああ?……お、誰やと思えばあの時の兄ちゃんやないか」
「おお、奇遇だねぇ。隣の嬢ちゃんもしばらくぶり」
「ええ、お久しぶりです」

 知ってたくせに白々しいとグロウルは呆れたがものともせずに続ける青年。

「いやー、しかしお前さんも隅におけねぇなぁ。こんなイイ女二人も捕まえとくなんて羨ましい。コツかなんかあるなら俺にも教えてくれや」
「いや、こっちはともかくこの人は俺の生徒さんなんよ」
「生徒?なんだ、お前さん教師か?」
「まぁな。ボーカルスクールとギタースクールの講師やってるんよ」

 それを聞いた青年は意外そうな顔をする。

「ほう、そりゃまた結構なことで。生徒さんどんだけいるの?」
「まぁ、なかなかの人数やと思うよ」
「へぇ、いいじゃない。頑張ればそれで食っていけるんじゃないの?」
「かも知れんなぁ。あ、なんなら体験レッスン来る?」
「いやー、こっちにいつまでいれるかわからんからやめとくぜ」
「そうかい」

 社交辞令だったのだろう。竜二はあっさり引いたが、ここで神坂が畳み掛ける。

「この人は教え方丁寧ですよー?それに感覚をつかむまでの練習方法なんかもすごい具体的で」
「ほーう、そりゃすごい。ならギターだけ行こうかねぇ」

 などと笑い合う5人。

「ほな、そろそろ切り上げるか。矢吹朝から仕事やろ明日」
「そうだな、そろそろ寝ておきたい」
「私も明日仕事が……」

 一気に漂う帰宅ムード。青年が訪れてからどことなくあったのだろうが。

「よし、片付けして帰ろかー」
「んじゃま、俺も帰るかね。あ、神坂ちゃん、一発いくら?」
「は?何の話ですか?」
「いやそのままの意味だぜ?」
「ちょっと兄ちゃん、うちの生徒コナかけんのはええけど、ほどほどにしといてや」

 平然と夜のお誘いをする青年に竜二が釘を刺す。

「ちょ、先生も止めてくださいよ!なんで見ず知らずの男の人と……」
「いや別に俺の女ってわけでもあらへんし、日常に支障がなければ俺が止める理由にはならへんわ」
「お、話がわかるじゃん兄ちゃん。ってわけで、俺と一晩、どう?」
「せやけど今日はやめたってくれへんか?話聞いてたやろ、明日彼女仕事や普通に」
「おお、そいつはいけねぇな」

 そこで懲りずにもう一度。しかし今度は竜二もしっかり止めた。仕事に響くとなると青年もさすがに申し訳なく思ったか引き下がる。結局、神坂は竜二が送ることで話がついたらしい。



「しかしまぁ、残念だったな旦那」
「ウチの女なら仕事くらい俺に任せろつって無理やりにでもいただくんだが、さすがにこっちでそれはできそうにねえからな」
「さすが旦那クズっぷりがパネェ」
「うるせぇアンティーク」
「だから痛い痛い!今日何回目よこれ!」
「お前が余計な口を滑らせるからだ」

 海鳴の夜は、更けていく。人が望むのは変わらない日常か、それとも刺激ある変化か。明日がどこへ向かうのか、それは神でさえ知りえない。 
 

 
後書き
 彼の名前はまだ出ません。 
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