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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第65話

星の守護者。
目の前の男は確かにそう言った。
服装は黒いアウターの下は白いシャツ、ズボンは茶色のジーンズで髪は金髪で耳には十字架のピアスをしていた。
完全に見た目はどこかの不良に見える。
見えるのだがその男の雰囲気はあの科学結社の中にいたあの男と同じ雰囲気を感じた。
男は麻生の姿を見つけると笑みを浮かべながら言う。

「どうやらこっちが探す前にそっちから来てくれたみたいだな。
 探す手間が省けて助かるぜ。」

「お前は何者だ。」

麻生が問いかけると男は少し驚いた顔をする。

「あれ、旦那から話は聞いていないのか。
 旦那の奴、他の幹部に怒られてたし俺達の事は言っていないのか。」

男は一人で呟くと納得したような顔をした。

「ああ~説明しようとしたけどよ、面倒くさいから止めるわ。
 教皇様も出来るだけこちらの情報を洩らさないようにって言われているしな。」

「そうか、なら話したくなる様にするだけだ。」

返答を聞いた瞬間の麻生の行動は素早かった。
空間移動で男の後ろに移動して左手で拳を作ると背後から一撃を入れようとした。
だが、バン!!、という音が響き渡る。
麻生の拳は男に当たる直前で止まってしまった。
正確には男と麻生の拳の間に何かが邪魔をしているのだ。
男は右手で麻生の顔面を掴み取る。

「まだ自己紹介も終わっていないのにせっかちだ、な!!!」

そのまま麻生の後頭部を地面に叩きつけ、美琴達がいる方向に投げ飛ばす。

「あんた、大丈夫!?」

美琴や他の生徒達が麻生に駆け寄ってくる。
しかし、麻生に傷一つなくゆっくりと立ち上がる。

「他の先生に連絡をしてください!!
 あと、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)に連絡を!!」

生徒の一人が周りの生徒達に指示をする。
その言葉を聞いた男は笑みを浮かべながら言った。

「外に連絡をしようとしてるのなら意味ないぜ。
 此処に来る前に、この「学舎の園」っていう敷地全体に人払い、電波障害のジャミングをかけている。
 さらにこの常盤台中学にも同じ魔術、さらには視覚誤認や脱出が出来ないように空間遮断をしている。
 空間移動能力者でも此処から出る事は出来ない。」

生徒達はこの男が何を言っているのか全く分からなかった。
ただの妄言と切り捨て、連絡を取りに行った。
しかし、麻生だけは妄言と断定できなかった。
なぜなら男の持っている魔道書を見た途端、あの時と同じように軽い頭痛が起こっているからだ。

「そういえば、自己紹介がまだだったな。
 俺の名前はラファル=アルケイだ。」

「名前なんてどうでも良い。
 お前はあの男の仲間か?」

「あの男?・・・・ああ~旦那の事か。
 まぁ、仲間って言葉の方がまだ合っているな。」

「そうか、なら聞きたい事が山ほどある。
 学園を取り囲んでいる魔術を解いてもらうついでに聞かせてもらうぞ。」

麻生は自分が解除するよりもラファルという男を倒した方が早いと考えた。
今度は空間移動ではなく足を強化して一瞬で距離を詰めていく。
ラファルは本を片手に一向に行動を示さない。
もう一度、左手で拳を作りラファルの顔面に向かって拳を繰り出そうとした瞬間だった。
クスクス、という笑い声が麻生の耳元で聞こえた。
麻生の本能が防御しろと訴えかけてくる。
それに従うように麻生は自分の顔面を守るように手で防御する。
次の瞬間、防御した所に凄まじい衝撃が襲い掛かり、横に吹き飛ぶ。
すぐに星の力で傷を再生して立ち上がろうとするが、何かに押えられていて動く事が出来ない。
麻生は目を魔眼に変換させるとそこには触手のような吸入口を多数持ち、大きな鳥のような鉤爪で麻生の身体を押えつけ球体のような姿をしたモノが麻生の目の前を浮いていた。
その姿を見た瞬間、さらに酷い頭痛が麻生を襲った。

(何だ、こいつ!?)

凄まじい力で押えつけられ身動きが一切取れない。
麻生は空気を高圧縮した物質をその球体の化け物の前に作り、撃ち出す。
しかし、効いていないのかピクリとも動かない。
その間にも麻生の身体を押し潰していく。
麻生は身体に大きく負担がかかるが、身の危険を感じて、神代兵器を創ろうとした時だった。

「おいおい、お前が殺すなよ。
 戻ってこい。」

その言葉に反応してラファルの所に戻る。
傷を治しながらも麻生はその球体を警戒しながら言う。

「その化け物はなんだ。」

「こいつが見えるとはな、さすがは星の守護者とでも言おうか。
 コイツの名前はスターヴァンパイア。
 星の精と呼ばれる吸血鬼だ。」

「吸血鬼だと・・・・」

その言葉を聞いて麻生は絶句する。
吸血鬼は基本的な姿は人間と変わらない。
だが、ラファルの側にいる吸血鬼は人の姿とはかけ離れている。
それに雰囲気や存在感が他の生物と全く違う。
いや、生物という概念に当てはまるのかさえ分からない。
あんなものを普通の人間が見れば、最悪発狂してしまうだろう。
より一層警戒を強めた時、ラファルに電撃の槍が飛んできた。
ラファルは鬱陶しそうな視線をその電撃の槍の主に向ける。
そこに美琴を筆頭とした能力者達が何人も立っていた。

「なに勝手に話を進めてんのよ!!
 あんたの相手はそいつだけじゃないんだから!!」

美琴はバチバチ、と電気を散らしながら言う。
ラファルの言っている通り、外と連絡が全く取れなかったのだ。
原因は分からないが、ラファルの仕業だというのは分かっている。
それならラファルを捕まえてそれらを解く方法を聞き出せばいい。
しかし、ラファルは依然と鬱陶しいそうな表情のまま言った。

「たかが人間の雌が調子に乗るなよ。」

ラファルは本を開けて唱える。

妖虫(ウォルミウス)(ヴェルミ)妖蛆(ワーム)(ワマス)!」

ラファの言葉に反応して本が妖しく光り出す。
すると、目の前に二メートル魔方陣が出現する。
そこから大量の蟲が現れた。
蛆のような蟲で蟲でありながら牙を持っている。
その中で一匹だけ巨大な蟲がいた。
大きさはおよそ七メートルは超えるほどの巨大な蟲だ。
七メートルのミミズを想像してもらうと分かりやすいだろう。
口には牙が何本も生えておりそこからさらに触手も生えていた。
美琴達は気持ち悪い蟲を見て吐き気を催し、腰の抜かした者、あまりの醜さに気絶する者もいた。

「お前ら食い殺すなよ。
 あくまで手足だけにしろ。」

その醜い蟲達を歪んだ笑みを浮かべながら、ラファルは言う。
麻生はその言葉が聞こえた。
一瞬で距離を詰め、手には絶世の名剣(デュランダル)が握られていた。
だが、ラファルは右手で何かを掴むと麻生の絶世の名剣(デュランダル)の剣を受け止める。
それは風を圧縮した剣だ。

「そんな幼稚な剣や戦い方で俺を殺せるかよ!!」

その瞬間、絶世の名剣(デュランダル)が真っ二つに切り裂かれた。
麻生の表情が驚愕の色に染まる。
絶世の名剣(デュランダル)は絶対に折れないという概念が込められた武器だ。
その剣が簡単に切り裂かれたのだ。

(こいつ、並の魔術師じゃない!)

只者ではないとは分かっていた。
しかし、絶世の名剣(デュランダル)が折れた事は全く予想外だった。
驚いている麻生にラファルはそのまま右手を麻生の胸に押し付けて唱えた。

いあ! いあ! はすたあ!

(しまっ・・・)

気がついた時には遅かった。
風が吹き荒れ麻生の身体を切り刻み、後ろに吹き飛ぶ。

「捕えろ。」

ラファルがそう言うと何十匹の蟲が麻生の身体を覆い尽くす。

「今のお前を殺しても意味がないんだよ。
 だから、星の力を発動するまで雌達と遊ぶ事にした。
 早くしないと、この学園の雌達は蟲共の苗床になるぞ。」

麻生は蟲共を能力で吹き飛ばそうとしたが出来なかった。
全身に力は入らず、身動きが出来なくなっている。
星の力は麻生の意思で発動する。
麻生の意識が朦朧としたり、と精神が落ち着かないと発動する事が出来ない。

(おれ・・じしんにかん・・・しょうするのはむりょ・・・くかするは・・ずなのになぜ・・だ・・・・)

朦朧とする意識の中で考えるが答えが出てこない。
しかし、耳はしっかりと機能していた。
誰かの悲鳴が聞こえた。
必死に抵抗する声も聞こえた。
この抵抗する声は美琴なのだと麻生は思った。
見える訳ではないがそう感じた。
そして麻生恭介の意識が完全に落ちる。
その時、声が聞こえた。
美琴達の声ではない。
一度も聞いた事のない声なのに、麻生はその声に懐かしさを感じた。


この星に生きる生命を守らないといけない。


あそこにいるモノは星の敵。


星の敵ならば抹殺しなければならない。


それが星の守護者の使命なのだから。




カチン、と音がした。
まるで噛み合っていない歯車が正しく噛み合ったような。
何も見えない闇の中で、麻生は小さな蒼い光が見えた。
その蒼い光は大きなっていき、麻生の視界を光で埋め尽くした。








ラファルが蟲達を見た時、美琴は吐き気を感じた。
蟲なのに口があり鋭い牙が見え、とてつもなく気持ち悪いからだ。
他の生徒もそうなのか青ざめた顔をしている。

「お前ら食い殺すなよ。
 あくまで手足だけにしろ。」

その声が聞こえた瞬間に蟲達は一斉に美琴達に飛び掛かってきた。
美琴は電撃の槍を蟲達に放つが、それを受けても蟲達は死ぬ事はなかった。

(どうなってるのよ!?)

驚きながらも何度も電撃の槍を撃ちながら後退していく。
二、三発受ければ蟲達は動きを止めるが、普通の蟲なら考えられない耐久力だ。
美琴は蟲達を電撃で応戦しつつ他の生徒達を助けていた。
超能力者(レベル5)である美琴ですら一撃で倒せない蟲だ。
美琴よりレベルの低い彼女らでは苦戦する事は目に見えていた。
それに蟲の数が圧倒的に多い。
美琴を電撃の槍を基本として、高レベル能力者と一緒に連携しながら戦って防戦一方だった。
その光景をじっ、と見つめていたラファルだが、大きく欠伸をして言った。

「さて、そろそろ飽きてきたな。
 捕食を開始しろ。」

ラファルがそう言うと蟲達の勢いが一気に増した。
さらに、今までラファルの傍にいた妖蛆(ワーム)の蟲が美琴達に向かって突撃してくる。

(まずい、このままじゃあ押し切られる!?)

超電磁砲(レールガン)を撃とうにもそれをする隙が全くない。
何より美琴は麻生の事が心配だった。
あの蟲達に呑まれてしまって無事なのか全く分からない。
この蟲達を見る限り覆い被されば助からないかもしれない。
それでも美琴は諦めれなかった。
麻生が死ぬ事を考えるとなぜか悲しく、とても胸が痛くなるからだ。

(私が助けるから、絶対に死なないでよ。)

美琴はポケットからコインを取り出す。
現状を打破するにはこれしかない。
美琴は周りに指示を出そうとした時だった。
麻生に覆い被さっていた蟲の塊が内側から蒼く輝きだすと、蟲が蒼い光と共に消滅したのだ。
そこに蒼い光を纏った麻生恭介が立っていた。
麻生の姿を見た美琴はゾクッ、と悪寒を感じた。
麻生の眼は黒色なのだが、その眼は蒼い色に変わっていて、何だかいつもの麻生に見えなかった。
ラファルはその麻生を見るとニヤリ、とこれまでに見せた事のない嬉しそうな歪んだ笑みを浮かべる。
右手を上げると蟲達は美琴達に襲い掛かるのを止め、ラファルを中心にするように戻って行く。

「ようやく、ようやく、その力を使ったか!!
 星の守護者!!」

上げた右手を麻生に向かって突き出す。
それに合わせて何百モノ蟲が一斉に麻生に襲いかかる。
美琴や他の生徒達は息を呑んだ。
だが、麻生は右手を軽く前に振り払う。
その瞬間、蒼い光が現れ一瞬で蟲達を呑み込み、消滅させた。
最後に残ったの妖蛆(ワーム)の蟲が麻生に向かって襲いかかり、その口が麻生を飲みこむ。
だが、妖蛆(ワーム)の体内から巨大な蒼い剣が身体を突き破り、そのまま蒼い光と共に消えていった。
それを見たラファルは乾いた笑い声をあげる。

「へ、へへ・・・そうでなくちゃ面白くないよな!!」

ラファルが星の精に命令をしようと右手に魔道書を手にした瞬間、麻生の身体が消えた。
そして、ラファルの背後に立っていた。
次の瞬間、ラファルのすぐ傍で何かが落ちた音がした。
その方にゆっくりと視線を向ける。
そこには、さっきまで自分の身体に付いていたはずの右腕が地面に転がっていた。
落ちているのが自分の腕だと気がついた瞬間、遅れて切断された痛みがラファルに襲い掛かる。

「あ、あ、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
 よくも、よくも、俺の腕を!?」

麻生の手にはさっきの大きな剣ではなく日本刀のような形をした刀になっていた。
竜巻を思わせるような烈風を麻生に向かって放つが、それを刀で一刀両断する。
それを見たラファルは言葉が出ない。
足に力を込めて、ラファルに近づいて刀の剣先でラファルの頭を貫こうとした時だった。

(だから恭介とウチと約束じゃん、絶対に人を殺したらだめ。
 例えそいつがどんな悪人でも。)

その言葉が麻生の頭に響き、剣先がラファルの頭に当たる直前で止まった。
ラファルは一瞬、麻生の行動に驚いたがすぐに笑みを浮かべる。

「最後の最後で甘いんだよ!!」

風の魔術を発動しようとした時、ラファルの首が何かに噛まれた。
そして、ゆっくりと身体が浮いていく。

「な!?・・・・まさか・・・スターヴァンパイア!?
 何で召喚者である俺を!?」

ラファルは気づいた。
自分の手元にスターヴァンパイアを召喚に必要な魔道書を手に持っていない事に。
魔道書で制御していたのに、その制御装置でもある魔道書を手放してしまえば召喚したモノは暴走するに決まっている。
たまたま、スターヴァンパイアの近くにラファルがいるから捕まったただそれだけだった。

「やめろ・・・俺の命を・・・吸うなああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ラファルの叫び声をあげるがそれを否定するかのように、スターヴァンパイアはラファルの血液から何から何まで吸い尽くしていく。
麻生は美琴達がいる所まで下がると、ようやく麻生恭介の意識が戻る。
蟲に呑まれてから今に至るまでの記憶が全くない麻生は今の状況が把握しきれていない。
ラファルの血を吸った影響なのか、不可視だった身体が見えてきた。
美琴達はその不気味な姿に思わず目を逸らした。
中には悲鳴をあげる者もいる。
首筋に何本もの触手が刺さり、体内に侵入している。
既にラファルに意識はなく、手足から徐々に腐敗していた。
麻生はいつの間にか自分が星の力を使っている事に少しだけ驚くが、今はそんな事を気にしている暇はないと切り替える。

(あいつを吸い殺したら今度はこっちに来るはずだ。
 おそらく、地面に魔道書が落ちている所を見て制御できなくなったんだろうな。
 尚の事、今の間にやるしかない。)

麻生は手に持っている星の力で作った刀を両手で持ち、頭上にあげる。
星の力を刀に送り、そのまま一気に振り下ろす。
巨大な蒼い光が刀の剣先から現れ、ラファルの死体ごとスターヴァンパイアを呑み込んでいった。 
 

 
後書き
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