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剣客

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第三章

「陛下への侮辱は何があろうと見逃さぬ」
「だからだ。決闘だ」
「拒むことは許さん」
 こう言ってなのだった。彼等は王を侮辱した者達と始終刃傷沙汰、決闘沙汰を起こしてだ。
 次々と命を落としていった。その彼等に対してだ。
 王は常にだ。その一人一人に対してだ。棺の傍に来てだ。
 そのうえでだ。涙を落とすのだった。その王を見てだ。
 廷臣達はここでもだ。眉を顰めさせ王に言うのだった。
「その様なならず者の死なぞ嘆かれる必要はないのでは」
「特にです。そうしたことはです」
「陛下が為されるまでもありません」
「ただ哀悼されるだけでよいのでは?」
「そう思うのですが」
「だからだ。卿等にはわからぬことだ」
 王はその彼等に深い目で返すのが常だった。
「真はな」
「真はですか」
「それがですか」
「この者には真がある」
 棺の中から王にその死に顔を見せている彼を見ての言葉だった。
「そしてこれまで死んだ者達にもだ」
「真がある」
「そうなのですか」
「だからだ。私は私に真を見せた者の為に涙を流すのだ」
 そうしているというのだ。
「それが悪いのなら私はあえてその悪になろう」
「ですから何故」
「そこまで」
「顔を見るのだ」
 今棺の中にいるその若者の顔を見ろというのだ。
「この者の顔をだ」
「顔をですか」
「そうだ、見るのだ」
 その顔を見るとだ。その顔はだ。
 落ち着きだ。澄み切っていた。何の迷いも後悔もない顔だった。
 彼は決闘の中で死んだ。しかしだった。
「この様に静かな顔とは」
「斬られ死んだというのに」
「それでもなのですか」
「この顔は」
「この者は私に永遠の忠誠を誓っていた」
 そうだったというのだ。この騎士はだ。 
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