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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第二十五話

 
前書き
てなわけで救出。 

 





「はい、王の名ではなく天皇という位に就いて国の元首、統治権の総攬者としております」

「成る程、我が帝国と同じようなのであるか。考えてみれば『門』の向こうは異世界でありその世界にはその世界における君臨の有様があってもしかるべきか。対等の相手などこれまでに無かっただけにどのように遇するべきか分からぬ。無礼などがあってもご容赦いただきたい」

「父上、父上ッ!! 御無事かッ!!」

 その時、廊下から大音声が響いてきた。ゾルザルが謁見の間に乱入してきたのだ。

 ゾルザルの取り巻きもいたが慌てて出てきたようである。ゾルザルは手にチェーンを引きずっており、首輪を付けたゾルザルの奴隷達が引きずられていた。

 その光景に絶句する伊丹達であるが外交官たる菅原は顔色を変えなかったがそれでも心の中で舌打ちをしていた。

「早く逃げましょう父上ッ!!」

「何処へ行くというのか?」

「兎も角、此処から離れるのです」

 ピニャはゾルザルに対して取り成そうとした。

「何を悠長な事を言っているかッ!! ノリコの言によればもう一度か二度は地揺れがあると言うておるのだ。直ぐにでも逃げるのだ」

「兄上、それにしても再度地揺れがあると御存知ですな。妾も先程知人より聞いて知ったばかりだと言うのに」

「今言ったろう。ノリコがそう言っておったのだ」

「ノリコとは?」

 ピニャの問いにゾルザルは手にした鎖の一本を引っ張る。その時、ゾルザルの奴隷の中で小さな悲鳴が起きて他の奴隷達が呻く。

「黒髪の女だ。『門』の向こうから拐ってきた内の生き残りだ」

 その瞬間、伊丹と樹が前に出た。

「貴殿に御尋ねしたい。拐ってきたという女性はニホンの人か、ニホンの人であれば即時返還を求める」

 伊丹がいつになく真剣な表情でゾルザルに問い質す。

「イツキ……さん?」

 ハミルトンが樹の横顔を見た。樹の表情は明らかに憤怒していたからだ。

「何だ貴様ら? 俺は第一皇子だぞ。控えろッ!!」

「尋ねているのは此方だ。質問を罵倒で返すな」

 伊丹がゾルザルを睨み付ける。樹は黒髪の女性に近づいた。

「日本人ですか?」

「ッ!?」

 樹の言葉に黒髪の女性は咄嗟に顔を上げた。明らかに東洋人であった。

「日本人ですね」

「は、はいッ!!」

 女性は思わず泣き出した。樹はコルトM1903を取り出して鎖に向けて引き金を引いた。

「な、何だッ!?」

「雷かッ!!」

「隊長ッ!! 邦人女性確保しましたッ!!」

 樹は喋りながら水野にノリコを引き渡す。

「き、貴様らッ!! 俺の奴隷に何をしたッ!!」

「何をしたじゃないこの野郎ッ!!」

 ゾルザルの言葉に遂に伊丹もキレてゾルザルの顎を抉った。ゾルザルはかわす事も出来ずに吹き飛ばされて床に転がる。

「な、殴ったな貴様ッ!! 皇子たるこの俺を殴ったなッ!!」

「この無礼者めッ!! 皇子殿下に手を挙げるとは一族郎党皆殺しの大罪だぞッ!!」

 ゾルザルの取り巻きが剣を抜いて身構えた。

「構えろ富田ッ!! 栗山受け取れッ!!」

 伊丹が叫び、栗山に向かって九五式軍刀を渡す。

 一方、菅原は笑みを浮かべながら皇帝に尋ねた。

「只今皇子殿下が『門』の向こう側から拐って来たと仰られましたがこれは一体どういう事でしょうか陛下。そしてピニャ殿下はこの件を御存知でらっしゃいましたか?」

「ス、スガワラ殿?」

 菅原の笑みにピニャは思わず後退りをした。それほどまでにピニャは恐怖を感じたのである。

 日本は捕虜の取り扱いにしても人命を大切にしていたのを感じていた。だから此処まで苦労して準備してきた講和交渉をぶち壊しにするほどの事とはどうしても思えなかった。

 富田がゾルザルの取り巻きに向けている銃を見て即座に前に出た。

「止めて下されイタミ殿ッ!! 皆も武器を収めよ。何かの間違いじゃ、ここは妾に免じて武器を収めよッ!!」

 だが、ゾルザルの取り巻きはそれを無視して剣を構えて少しずつ包囲の輪を広げていく。

 ゾルザルは床に倒れたままほくそ笑んだ。

「いずこの国の者かは知らぬがこれで貴様らの国の運命は決したな。国王から民に至ることごとくを殺し尽くし、全てを焼き払ってくれるッ!! 全てはお前の責任だッ!! 我が身の罪深さを思い苦しんで死ぬがいいッ!!」

「ならば戦争だ。苦しんで死ぬのは貴様の方だ。富田、栗山は奴等を敵兵を殲滅しろ。あの馬鹿にはまだ聞きたい事がある」

「了解です隊長殿ッ!!」

 富田はニヤリと笑ってベ式機関短銃の引き金を引いた。

 銃撃音が聞こえた瞬間、ピニャはこの世の終わりを迎えたような表情をしていた。

 ベ式機関短銃の9mmパラベラム弾が次々と取り巻きの鎧を突き破って取り巻きの命を刈り取っていく。

 そして栗山は九五式軍刀を持って踊っているかのように取り巻きを斬り捨てている。

 生き残りの取り巻きが栗山に斬りかかろうとするが栗山は斬撃をギリギリで避けて摺り足で移動して反撃する。

 取り巻きの返り血が栗山に降り注がれるが、栗山は気にせず刈り取っていく。後に聞けば栗山の家は剣道場を持つ家庭であったらしい。

 樹も自分に迫る取り巻きにコルトM1903で撃っていた。水野はノリコを守りつつベ式機関短銃を構えている。

 数分後には取り巻きは一人も立っている者はおらず、全て床に倒れていた。

「……さて、皇子殿下。貴方は先程、この女性を『門』の向こうから拐って来た生き残りと仰られましたがそれはつまり他にも拐って来た者がいるという事ですね?」

 伊丹はニコニコしながらそう聞いた。それは「正直に答えないと殺す」というような暗示であった。






 
 

 
後書き
原作みたいにいきなりゾルザルを殴る事はありませんでしたが、やはり間をおいて殴りました(笑)拉致された邦人を救出するという一応の大義名分ですかね。
ピニャはそのうち心労で倒れそうです。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 
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