| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第4話 第二次ガイエスブルク要塞攻防戦


「そんな、あのロアキアが負けるなんて……」

辺境13国の1国であるウェスタディア王国宰相アルベルト・アルファーニは、送られてきた報告に目を丸くしていた。

銀河帝国という未知の国家にロアキアがレンスプルト星域において敗れる。

これだけでも重大事件であるのに、再度のロアキアの敗北(オリアス皇子自らが報復に赴いた第二次レンスプルト星域会戦は戦術上引き分けであり、実質的にはロアキアの戦略的敗北であった)。

この一連の出来事は辺境星域に対するロアキアの圧力を減らすことになるだろう。
だが、アルファーニは単純にロアキアの影響力が弱まったと喜べなかった。

これは、ロアキアより強力な勢力が現れたということである。
その勢力がこちらに友好的とは限らない。
また、ロアキアが銀河帝国とやり合っている内にルフェールが触手を動かす可能性も考えられた。

ティオジア連星共同体の発足により、銀河を統べる二大国(ロアキア、ルフェール)に一定の発言権を獲得するに至ったばかりである。

余計な火種はウェスタディアとしても望むところでは無いのだ。

「これ以上の敗北をロアキアが放置できるはずがない。あのオリアス皇子なら必ず先日以上の大兵力で以ってリベンジを挑むだろうけど……」

それに失敗すればロアキアは内部分裂する。

四人の兄を殺し、皇帝を幽閉して実権を握ったオリアスに反感を持つ者は多く、そういった者たちがオリアスを失脚させようと動き出すのは十分に考えられる。
統制帝の皇子で残っているのはオリアス1人だが、皇女は何人も健在であるため神輿に困ることは無い。
あるいは、銀河帝国に下るか手を結ぶ者たちも出てくるかもしれない。

いずれにせよ、次の一戦がロアキアの命運を決めるだろう。

それと、銀河帝国についての情報が不足しすぎている。
どのぐらいの規模の国家なのか、どれほどの戦力を有しているのか、何も分からない。
もし、ロアキアが勝利していれば捕虜から情報を得ることも出来たであろうが……。

少なくとも、現時点で判明しているのは万単位の艦隊を有していることと、オリアス皇子を上回る優秀な将がいるということだけである。

前途多難であった。


* * *


宇宙暦805年/帝国暦496年 8月15日。
レンスプルト星域において、新天地派遣軍にファーレンハイト艦隊とガイエスブルク要塞に駐留するミュラー艦隊が合流した。

先日の戦闘での損失艦艇は、ロイエンタール艦隊約1900隻、ミッターマイヤー艦隊約1800隻、スプレイン艦隊約400隻であり、その結果合計で4200隻程の艦艇を減らしている。
ファーレンハイト、ミュラー両艦隊合わせて30000隻の加勢はありがたかった。

更に、パエッタ艦隊15000隻とグエン・バン・ヒュー艦隊8000も既にフェザーンを出立しており、合流すれば新天地派遣軍の戦力は80000隻を超える。

ここまで艦艇数が増えるとガイエスブルク要塞だけでの補給は厳しくなるが、移動要塞に改造されたレンテンベルク要塞がレンスプルト星域に配置されることが決定しており、それまでの辛抱である。
また、先日ガイエスブルク級の要塞であるオオサカ要塞が竣工し、これも遠からず新天地に配備されるだろう。


ガイエスブルク要塞にて補給や損傷艦艇の修理を行うロイエンタール、ミッターマイヤー、スプレイン艦隊に代わり、ファーレンハイト艦隊がレンスプルト星域の先にあるウルガンテ星域の制圧に向かった。

ウルガンテ星域の領主であるコッツペラー男爵は抵抗したものの、圧倒的戦力差の前には屈せざるを得なかった。

・・・・・

第二次レンスプルト星域会戦の後、首都星ロアキアに戻ったオリアスは統星艦隊の集結を命じ、各地から艦隊を集めた。

その数、約75000隻。
ロアキア史上最大の動員である。

「これより、我がロアキアの総力で以って侵略者どもの軍勢を叩きつぶす。全艦出撃!」


* * *


宇宙暦805年/帝国暦496年 11月25日。
ウルガンテ星域にロアキア軍が侵入し、第二次ガイエスブルク要塞攻防戦は開始された。

帝国軍約55000隻、ロアキア軍約75000隻。
艦艇数ではロアキア軍が上回っていたが、帝国軍にはガイエスブルク要塞がある。

「ウルガンテから送られてきた情報によりますと、どうやら敵軍の一部がロッソルン星域とハルトン星域の制圧に出向いているようです。その内の片方は、先日合流した増援部隊かと思われますが」

「それは好都合だな、各個撃破の好機だ」

オリアスがほくそ笑んでいると、オペレーターから報告が入る。

「前方に敵2個艦隊を捕捉、数25000」

「先日の艦隊か、マルゼアスとオルメに相手をさせろ。我らはその隙に要塞を攻撃し敵戦力の分断を図る」

帝国軍の戦力はロアキア軍の3分の1でしかなく、要塞攻略に割ける戦力は十分にある。

「(あの要塞を落とせば敵の作戦行動範囲を狭めることが出来る上、補給線が長大になり分断しやすくなる。今いる敵も撤退を選択せざる得まい)」

ロイエンタール、ミッターマイヤー艦隊とマルゼアス、オルメ艦隊が交戦状態に入った。

「よし、ライニッツ艦隊を要塞へ突入させろ」

オリアスの命を受け、ライニッツ中将率いる9000隻の艦艇がガイエスブルク要塞へと突入を開始する。

「敵はこのガイエスブルクを動く要塞程度にしか考えていないようだな。ガイエスハーケン発射用意……撃てぇ!」

ガイエスハーケンがライニッツ艦隊に撃ち込まれる。

「ライニッツ艦隊……半減」

「第二射来ます!」

ライニッツ艦隊がガイエスハーケンの射程外に退避し終えたとき、残存艦艇数は2500隻。
8割以上の艦艇を失っていた。

「あれほど強力な砲があるとは……」

「直上より敵艦隊強襲!」

それは、ファーレンハイト上級大将率いる帝国軍15000隻であった。

「オリアス皇子をお守りしろ!」

ロズボーン提督率いる12000隻の艦隊がファーレンハイト艦隊の前に立ち塞がる。
しかし、数の上でも勢いの上でも勝るファーレンハイト艦隊を押し止めるのは不可能であった。

「ロズボーン艦隊、突破されます!」

「ほう、敵もやるではないか」

ロズボーン艦隊を突破したファーレンハイト艦隊は、そのままオリアス艦隊へと突撃する。

「殿下、このままでは!」

「心配いらん。窮地に陥ったのは敵の方だ」

オリアスは帝国軍に伏兵があるのを予測していたのである。

ファーレンハイト艦隊の側面にメルボド艦隊8000、ブルーナ艦隊5000が展開し、先のガイエスハーケンでボロボロになったライニッツ艦隊が名誉挽回とばかりに要塞への退路を断つ。
ファーレンハイト艦隊は完全に包囲された。

オリアス艦隊を突破できれば問題は無いのだが、ロイエンタールに匹敵する腕を持つオリアス相手にそれは難しい。

「逆にこちらが包囲されたか……よろしい、本壊である。砲撃を一点に集中して敵陣を強行突破する!」

アースグリムの艦首より大口径のビームが放たれ、包囲陣の中で最も薄いライニッツ艦隊を薙ぎ払う。
この一撃でライニッツ艦隊旗艦カイオリントが消滅し、ライニッツ中将は戦死した。

「逃がしたか……まあいい、あの艦隊が再編を終えるまでに決めればいいだけのこと。前線にメルボド、ブルーナ両艦隊を投入せよ」

包囲網を突破したファーレンハイト艦隊が後退し、前線にメルボド、ブルーナ両艦隊が出てきたことで戦力比はロアキア側に大きく傾いていた。

ロアキア軍の圧力に押された帝国軍はじりじりと後退する。

「味方が居ればあの巨砲は使えまい。突入の好機だ、全艦で押し込め!」

ロアキア軍がロイエンタール、ミッターマイヤー両艦隊に殺到する。
頼みのガイエスハーケンもこの状態では使えない。

「敵増援が要塞内より出撃してきます!」

それは、これまで要塞内で待機していた『鉄壁』ミュラーの艦隊であった。

「なんだと! 数は?」

「およそ、15000」

「く、まだ余力を残していたか」

それでも、オリアスは攻撃を続行した。
ここで手を引けば、強力な要塞砲を持つガイエスブルク要塞に再び肉薄するのは困難であることを分かっているためである。
ファーレンハイト艦隊が戦列に復帰しても数ではロアキアが上回る。
ここは攻め続けるしかなかった。

「数はこちらが上だ、戦闘艇を出して近接戦闘に持ち込め!」

ロアキア軍の艦艇より戦闘艇が次々と出撃していく。

「敵の戦闘艇が発進してきます!」

「こちらもワルキューレを出せ。総力戦になる、要塞からもワルキューレを出撃させろ」

しばらくの間、両軍の戦闘艇による激闘が繰り広げられる。

それが終わった後も、ロアキア軍は未だ『鉄壁』ミュラーの艦隊を抜けずにいた。
迂回しようにも、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ファーレンハイト艦隊の適切な動きによって防がれる。

戦いは、消耗戦の様相を呈してきた。

「ロイエンタール提督、このまま消耗戦になれば数に劣る我々が不利です」

「そうだな、次はこちらから動いてみるとするか。ミッターマイヤー艦隊旗艦ベイオウルフに連絡、『敵側面を突け』とな」

「はっ」

「ミッターマイヤー艦隊を援護する。主砲、斉射三連!」

ロイエンタール艦隊による砲撃でロアキア軍を牽制している間に、ミッターマイヤーは戦線より抜け出していく。
その後、艦隊を右へ回しロアキア軍の左側面を突こうとする。

「敵1個艦隊、側面に回りつつあります」

「ちっ、ロズボーンに防がせろ。正面はまだ抜けんのか!」

「敵、未だ崩れません」

「!! 前方に艦影、これは……敵の増援です!」

「く、ロッソルン星域かハルトン星域の艦隊が戻ってきたか」

オリアスの予想とは違い、現れたのはグエン・バン・ヒュー大将率いる艦隊であった。

ウルガンテ星域への到着予定は翌17日であったが、ロアキア軍襲来の報を聞いて急ぎ駆けつけて来たのである。

「おお、間に合ったようだな。行くぞ、全艦突撃だー!」

グエン・バン・ヒュー艦隊の参戦は、押されぎみであった帝国軍を活気づかせた。
これまで受け身だった帝国軍は少しずつ攻勢に転じるようになる。

それでも尚、兵力ではロアキア軍が勝っていた。

両軍の兵力差が逆転するのは11月27日、2時55分のことであった。

ロアキア艦隊襲来の報を聞いたパエッタ艦隊の半数とスプレイン艦隊が急ぎ戻ってきたのである。

『数において勝る敵軍と無傷の要塞。ここに至ってはもはや勝利は望めますまい、小官は撤退を具申致します』

「そんなことは分かっている! だが……」

ここでオリアスが敗北すれば、ロアキアの内部分裂は必至。
それ故に、オリアスは撤退を決断できずにいた。

『それでも、ここで殿下を失うわけにはいかんのです。どうか、ここは一度退いて捲土重来を』

「……分かった。全軍、退却」


11月27日 5時40分。
第二次ガイエスブルク攻防戦はロアキア軍の全面退却を以って収束した。

帝国軍の損失艦艇16025隻。
ロアキア軍の損失艦艇27402隻。

ロアキア軍の損害は帝国軍を大きく上回り、全軍の3割を超えていた。

そして、これがロアキア統星帝国没落の第一歩であった。




――後日談――

後日、この戦いの報告書を見たアドルフが、

「うわっ、ライニッツとか言う提督の艦隊あまりにもフルボッコ過ぎてワロタw これマジ涙目じゃね? エロ本でも葬式に送っとくか?」

と言って同情していたとか。

本当にどうでもいい話であった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧