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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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ファントム・バレット編
Crimson Ammo.
  急転直下

Sideシノン


広大な砂漠をスコープと肉眼の両方で見据えながら、シノンは大きく息を吐いた。
キリトやレイのおかげで迷いや恐れは今や不思議なほど小さいものとなっている。
これから決行する作戦に破綻は1つも許されない。シノンがしくじればキリトが倒される。キリトがしくじればシノンが殺される。レイがしくじれば2人のやるべき事に支障をきたす。
考えれば考えるほど胃の痛くなる話だが、これしか無いのだ。本当の強さへの憧れは《シノン》として戦う内に少し違えてしまっていたのかもしれない。《シノン》も《朝田詩乃》は別人ではない。どちらも、同じ《自分》。

あの不思議な少年達はきっと現実世界でもあのままなのだろう。自分の弱さに抗い、強くあらんと日々戦っているのだろう。
ならば、詩乃の中にも、最初からシノンの強さは存在していたのだ。ならば今一度、正面からあの記憶と、五年前の事件と向き合う時だ。もう逃げない。

多分、今この瞬間が、私が待続けていた時だから……。


スコープの彼方に、高速で移動する影を捉えた。《闇風》だ。
心は何時になく静かで、穏やかだ。

凍え、痺れようとする右手の指先を仄かに温める、この熱……数多の戦場を共に駆け抜けてきた、無二の分身。冥府の女神の名を冠する凶銃《ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》その存在はシノンだけでなく、見えずとも詩乃をいつも励ましてくれていた。


―――大丈夫。貴女ならやれるよ。さあ……


一瞬も止まらずに砂漠を疾駆し、着々とキリトに迫る闇風。
迷いは一瞬、シノンはトリガーに込める力を抜いた。
確実に当たる場面で確実に相手を仕留める。それが狙撃だ。

防弾ガラスを撃ち抜けないと分かっていて撃つスナイパーは居ない。
それと同じで一か八かで撃つのは冷静さを欠いている時だ。闇風に集中する。ヘカートを握り、自分の全存在と一体化させる。
知覚されるのは、疾駆するターゲットと、その心臓を追い掛ける十字のレティクル。

そして、その瞬間が訪れた。一条の白い光が飛来し、キリトがそれを弾き飛ばす。己に気付いていないと思っていたキリトの向こうから突如攻撃を受けたと錯覚した闇風は身を屈めて制動をかけ、近くの岩陰に方向転換しようとした。

指がトリガーを引き始める。視界に薄緑色の《着弾予想円》が表示され、闇風の胸の一点で収縮した。

―ズドォン!!

超音速の50BMG弾がヘカートの咆哮と共に闇を駆け、闇風を打ち倒した。

【DEAD】表示を見る間も惜しく、瞬時に体を反転させ、キリトの方を向く。黒衣の剣士が次々と飛んでくるオレンジの光弾をフォトンソードで叩き落とす。

初弾を回避したキリトにはもう狙撃銃の弾道は見えている。ボルトアクションのライフルでは彼の超反応を貫く事はできない。
シノンはスコープを覗き、銃弾の発射位置を捉えた。

―――いた。

大きなサボテンの下。人影は2つ。匍匐している狙撃手と双眼鏡を覗いている観測手だ。双眼鏡を持った男がそれから顔を離すと、シノンの方を向き、ニヤリと笑った。

「…………ッ!!」

途端に湧き上がる恐怖にシノンは抗った。
……あいつらは亡霊なんかじゃない。人を殺し、それを楽しむ精神の持ち主でも、やつらは実体を持った人間だ。
ならば、戦うことはできる。私とヘカートの力が、お前達を上回ると、信じることはできる。

次弾を装填し、先ずは狙撃手、《死銃》を狙う。トリガーに触れ、僅かに絞る。
瞬間、予測線を察知した死銃の銃口がこちらを向く。

勝負!!

トリガーを引いたのはほぼ同時、銃弾は僅かに互いを逸らし合い、50BMG弾はL115のレシーバーを、388ラプア弾はヘカートのスコープを破壊する。

銃の心臓である機関部を破壊された銃は死んだも同然。今この瞬間、《サイレント・アサシン》は死んだのだ。
心の中でその貴重な銃に謝り、砂漠の果てにそっと呟いた。

「後は任せたわよ、キリト」





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Sideキリト



シノンの援護により、《死銃》のメインアームである狙撃銃は潰された。
だが、

(流石だな……!!)

別れ際にレイはキリトとシノン、それぞれに1つずつ警告をしていた。

『やつらの本当の武器は《銃》じゃない。気を付けろ』

そう、あの世界から来たならば、当然《剣》を持っていておかしくない。それを証拠に、100mを切ったところで《死銃》と協力者のプレイヤーは銀色に光るものをそれぞれ取り出した。

死銃の持つ細い金属棒は先端が細くなり、見るからに鋭そうだ。片やもう1人は指の間に鉤爪のように折れ曲がった棒を挟んでいる。

「おおおおぉっ!!」

シノンの援護が途切れたという事は何らかの理由でそれが出来なくなってしまったのだ。遠目に生きていることは確認できるが、彼女の本来の目的は達した。
ここからは俺の役目だ。

飛び掛かってきた鉤爪使いをかわし、死銃に肉薄する。
金属剣とエネルギーブレードが交錯し、通り抜ける。

「……ッな!?」
「チィ……!!」

金属剣は俺の肩に突き刺さり、赤いライトエフェクトを撒き散らす。エネルギーブレードは死銃の脇腹を貫き、こちらも少なくないダメージを負う。

鉤爪使いが居ないのを確認し、バックで距離を取って相対する。

「……珍しい武器だな。というより……GGOの中に金属剣があるなんて、聞いてないぞ」

すると、死銃はフードの奥で掠れた笑い声を漏らした。

「お前と、したことが、不勉強だったな、《黒の剣士》。《ナイフ作製》スキルの、上位派生、《銃剣作製》スキルで、作れる。長さや、重さは、この辺が、限界だが」
「……なら、残念だけどおれ好みの剣は作れそうにないな」
「相変わらず、STR要求の、高い剣が、好みなのか。なら、そんなオモチャは、さぞかし、不本意、だろう」
「そう腐したもんじゃないさ。それに剣は剣だ。お前のHPを吹き飛ばせれば充分さ」
「やってみるがいい……!!」

それが合図だった。エネルギーブレードではやつの鋼鉄の剣と打ち合えない。一瞬の隙を突いて確実に()る。

「はぁ!!」
「シッ……!!」

エストックのような武器の刺突を掻い潜り、胸にエネルギーブレードを突き立てようとするが、死銃はそれをスルリとかわす。
剣を強打してブレイクポイントを作れないため、大技は繰り出せない。
さらに、

「くぉ……っ!!」

殺気を感じてしゃがむと、鉤爪が首のあった場所を切り裂いた。

「ありゃ、外したか」
「邪魔だ、ボッシュ。とっとと、殺りに、行け」
「へーい。んじゃ、キリ公。また今度死合おうな~」
「……くそっ!!」
「何処を、見ているッ!」

死銃に邪魔され、立ち去るボッシュを追い掛ける事が出来ない。

狙いは、シノンだ。

エストックが無数の残像となり、俺に襲いかかる。

「待て!!」

それらを全てかわし、死銃の足を勢い良く払うと、一瞬にしてファイブセブンを抜いて、撃つ。
しかし、

「ん、何かな?」

ガチッ、と音をさせてボッシュは鉤爪で銃弾を鋏んだ。

「あ、そうだ。言い忘れてたけど、2人ともなるべく動き回らない方がいいよ?」
「……なんだと?」

答えたのは死銃。声色には微かに戸惑いの色が混じっている。

「クク、死銃ク~ン。貴方も何だかんだで現実世界の腐った空気を吸いすぎたよねぇ。……ここら一帯は地雷だらけ。一歩踏み込めば……ドカーン♪」

心底可笑しそうにボッシュは高笑いする。

「本日の最終演目、『死亡遊戯(チキンバトル)』……さて、生き残れるカナ?」

そう言い残し、ボッシュは去っていく。

「……あいつ!!」
「……クソが。後で、殺してやる。だが、まずは、お前からだ、《黒の剣士》!!」

そう言い放ち、死銃はノーモーションの突きを放ってくる。

(……シノン、済まない。少しだけ、耐えてくれ!!)







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Sideレイ



《レギオン》の飛行型が空中から襲いかかる。足の鉤爪で獲物を捉えようという魂胆だろう。

《レギオン》は個々の強さはそれほどでもない。グロックの9mmルガー3発で事足りる程度だ。

しかし、《レギオン》というだけあって1000体全員の連携は寸分の隙もない。今も10体以上の兵士型に取り囲まれ、二次元移動の道は残されていない。

故にレイは僅かな迷いも見せずに地上から飛び立った。着地するのは、襲いかかろうとした飛行型の背中。

―ドォン!!

すぐさまレイジングブルの引き金を引き絞り、頭部に大穴を空ける。消滅の証であるポリゴン片が空中に溶ける頃には、地上でも同じ破片が舞っていた。

手に持つ武器は銃ではなく、薄刃のコンバットナイフと通常のものの2振り。
左手の通常のナイフを逆手に、薄刃のナイフを正眼に構える。《二刀流》の亜種である《双剣》。

諸々の事情によりSAOでは実装されなかった幻のスキルだ。考えたのは当然、彼。そしてSAOの剣技である以上、それは例外無くシンプルかつ実戦的だ。

薄い刃が兵士型の防御を易々と突き破り、もう片方の刃は急所を的確に切り刻む。

「…………っ!!」

上空に再び気配を感じ、大きく後退してそれをかわす。かわした後の硬直を狙って4体のエイリアンが四方から飛び掛かってきた。
左右のエイリアンにコンバットナイフを投げつけ、脛側面のホルスターからショットガンを抜く。

―ガゥン!!

雷鳴の音に似た発射音と共に散弾が撒き散り、前方の敵を吹き飛ばす。

改造により、メリケンサック状のループ・レバーを取り付け回転させる事により、片手でスピニング・リロードを可能としているため、再装填にタイムラグはほぼない。

コンマ5秒で後方に銃口を向けると、再度発砲した。

(さて……)

もう一度ショットガンを回してリロードしてから、ホルスターに戻す。

(ナイフは投げちまったし、もう銃もほとんど捨てたな……)

お陰で体は大分軽くなったが、戦闘力はがた落ちしている。
一撃必殺のレイジングブルやダブルイーグルの残弾数と、防御の薄い兵士型、飛行型の残存数はほぼ一緒。
これは解決として、問題なのは……。

(ゴツイ砲撃型、要塞型、それから統率個体か……)

固そうな連中が合計20体。

「……ハハ」

圧倒的不利な状況で彼は笑う―――

「ハンッ。いいぜ、やってやる……」

腰のホルスターからダブルイーグルを抜いて、ちょうど近寄ってきた敵の額を撃ち抜く。

「オアアアアアァァァァッ!!」

咆哮をその場に置き去りにし、レイは敵の密集地帯に飛び込んだ。鏡の破片のような光ながら宙を舞い、やがて消える。


地上も空も、彼の通った後に敵影は存在しない。


兵士は吹き飛び、鳥は堕とされ、砲台は潰され、要塞は砕かれた。


ただその場にはモンスターの死亡を表す、光が舞っているだけだった。そして―――、


「さて……Are we having yet(お楽しみはこれからかい)?」


対峙するのは彼の何倍もの巨躯を誇る統率個体。

巨大な戦斧を両手に1つずつ。

それを喰らえば彼の残りのHPなど、容易く吹き飛ぶ。

それでも彼は狂笑を止めない。タガの外れた《闘争心》は彼をただ前へと押し進める。

空手になった拳を突合せ、走り出す―――――





レイの残存武装――――ゼロ。








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都内某所―――高層レストラン《Perla》



仮想世界での戦いがあれば、現実にもまた戦いはある。

誰も望まずとも、水面下でのさぐり合いは既に始まっていた。

「よう、待たせたな」
「……全く、呼び出しておいて何様?」
「水城家次期当主様だ」

どや顔で即座にそう返す水城蓮に山東桜はガラにもなくこめかみを押さえた。彼女にとって数少ない天敵である(腕力で敵わないという意味で)義兄(歳は同じだが)に主導権をにぎられると、大抵ろくな事にならない。

「……それで、次期当主様は如何なる理由で私をこんなとこに呼びつけたのかしら?」
「気に入らなかったか?お前の好きなシュチレーションに合わせたのに」
「……………」
「……一応報せとこうと思ってな」

視線に冷気を込めたせいか、蓮はつまらなそうに答えた。

「親父……水城悠斗(はると)が近々帰国するそうだ」

暫しの沈黙の後、桜が震える口を開いた。

「……笑えないわよ。その冗談」
「わざわざこんなとこに呼びつけて冗談言うほど暇じゃねぇし」

ニヤリと笑う蓮の目は爛々と輝いている。……楽しみで仕方無いのだろう。

「……で、私にそれを話してどうするの?」
「おいおい。分からないフリは止せって。……脅迫に決まってんだろ。山東家への、な」
「……なるほど。得心したわ」

必死に冷静さを保つが、グラスを持つ手が震え、波紋を立てた。彼女が動揺する事はめったにない。しかし、聞かされた事実はそれだけのものだった。

「そうだ。それでいい。ちぁんと報告しろよ?旦那様に」
「……フン」

やはり来るべきで無かったと激しく後悔しながらグラスを口に運ぶ。





―――水城悠斗、またの名を《剣帝(マグナ)》。



その名は彼女―――いや、山東家にとって悪夢そのものだった。
 
 

 
後書き
一向に終わらないFB。予定では後一話だったのに後二話になりそう……。
次長めにして、無理やり一話にしようか……よし、そうしよう!

というわけで、次話は長めになる予定。質を落とさないよう頑張ります!


そして、自分的にはやっと出せた感のある水城悠斗氏。
激強! な放蕩(?)親父殿はMRで登場!期待してて下さい。



でわ ノシ 
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