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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第五十話 うし! 戦闘開始だ!

 『アクォース山』は、グレイハーツ王国から八十キロ以上離れたところにある。
 本来なら馬車で移動するのが普通なのだが、闘悟は歩いて行くことにした。
 何故なら、魔力で身体能力を上げれば、高速で目的地に着く。
 本気を出せば、恐らく数分とかからないくらいで到着する。
 もちろん、本気で魔力は使用しない。
 自分の魔力が異常だとは闘悟も認識している。
 下手をすれば、世界にも影響を及ぼすかもしれない。
 だからある程度の速さで行くことにする。


 この『ネオアス』に来て、すぐにクィルと出会ったので、こうして一人で世界を歩くのは初めてだ。
 初めての経験に、闘悟は知識欲が疼(うず)いて堪(たま)らなかった。
 見るもの全てが新鮮で、本当に興味が尽きない世界だと思う。


 二時間ぐらいで目的地に着いた。
 闘悟にしては少し時間が掛かった。
 理由は、来る途中に珍しい草花や生物に目を奪われて、観察していたからだ。
 だが、これだけでも闘悟の異常さが理解できるのも間違いない。
 普通はとてもではないが、生身で八十キロの道のりを、二時間で制覇できはしない。


 闘悟はホクホク気分で、『アクォース山』に辿り着いた。
 『アクォース山』は危険度Cランクの区域である。
 そこに生息している魔物もCやDランクがほとんどである。
 本来なら、チームを組んで足を踏み入れるような場所である。
 だが闘悟は一人で、しかもFランクだ。
 他人から見れば、完全な自殺行為だと捉えられても不思議ではない。
 しかし、当の本人は緊張もせずに、サクッと歩を進める。


 岩石に囲まれている山で、緑っ気はほとんど見当たらない。
 標高は二千メートルと、かなり高い。
 闘悟にとっては何でも無い高さでも、普通の人には厳しい山登りになる。
 だが闘悟はほとんど手ぶらである。
 街で買った水だけ携えている。
 まるで散歩にでも来たような軽装だ。


 この世界に来た服装は青のジャージだった。
 今もそうだ。
 ギルドに行った時、視線を受けたのも、半分はこの格好が響いているのかもしれない。
 本人は動き易いし、気に入っているが、とてもこれから山登りを始める人物には到底見えない。
 少し歩いていると、闘悟は足を止めた。
 何かの気配を感じたからだ。
 その気配の意識が、自分に向けられてることを敏感に感じ取る。


「あの岩の後ろか……」


 幾つも立ち並んでいる岩の中で、一際大きな岩の後ろから闘悟は何かの意思を感じ取る。
 すると、岩の上にその何かが現れる。
 その正体は、ゴリラのような生物だった。
 だが、その大きさはゴリラの二倍はある。
 爪も牙も鋭く、その体躯(たいく)からとてつもない破壊力を秘めているのが分かる。
 無防備に受ければ、肉だけでなく骨が飛ぶ。
 この生物も魔物なのだろう。
 敵意がビンビン感じる。


「ガアァァァァァッ!!!」


 魔物が声を震わせ威嚇(いかく)をしてくる。
 それを平然と闘悟は見つめる。


「おお~これが戦闘開始ってやつだな!」


 場違いのように、楽しそうな声を出す。
 魔物は岩から勢いよく闘悟に向かって跳んできた。
 闘悟はそれをヒュルリと避わす。
 振りかぶってきた腕の風圧から、当たれば痛いでは済まなさそうだと悟る。
 魔物は避けられたことに怒りを覚えてるのか、シコを踏むようにして地面に当たる。


「よ~し、今度はその威力を試してみるかな」


 闘悟は岩を背にして、魔物を挑発する。
 魔物はそれに乗り、向かって来る。
 大きく腕を振り上げ、闘悟目掛けて振り下ろしてきた。
 闘悟はニヤッとしながら、素早くそこから脱出する。


 ドガァッ!!!


 闘悟の背後にあった大岩を破壊する。


「うひょ~やっるぅ~!」


 闘悟は魔物の攻撃力を、岩を使い試してみた。
 だが、あっさりと大岩を破壊したことから分かるように、その威力は人間を簡単に殺せるほどだ。


「よし、あんまり時間掛けてもなんだし、ここらで寝てもらうぞ」


 闘悟は全身に魔力を行き渡らせる。
 すると、魔物はピクッとして、動きを止める。


「やっぱ野生の生物だな。本能で理解したか」


 オレに勝てねえってことを。
 闘悟はその場から一瞬で消える。
 魔物も闘悟の姿を見失う。


「おいおい、気づいてねえのか?」


 闘悟の言葉に魔物はようやく自分の腕が掴まれていることに気づく。
 魔物は慌てて闘悟に攻撃を加えようとする。


「遅えよ」


 グイッと魔物の体が持ち上がる。
 そして、そのまま近くにある岩に叩きつけられる。
 岩を破壊するほどの衝撃が魔物に伝わる。


「グギャァァァァッ!!!」


 断末魔(だんまつま)のような悲鳴を上げる。
 闘悟は腕を離し、魔物を見下ろす。
 魔物は大口を開けながら沈黙している。
 どうやら倒したようだった。
 闘悟は倒したはいいが、少し悩んだ。


 そう言えば、コイツの討伐部位ってどこだろ?
 そうなのだ。
 倒したはいいが、その証拠としてギルドに提供する討伐部位が分からない。
 それが無ければ、証拠として扱われはしないし、換金屋などで買い取ってももらえない。


「ん~とりあえず目立つ部分を持っていくか」


 闘悟は大きな爪と牙を折って手に取る。
 だが、かなりの大きさでもあり、闘悟はそれを入れる袋さえ持ってはいない。
 ずっと手に持ったまま歩くわけにはいかない。
 しかし闘悟は、少しも焦ってはいなかった。
 手に持った爪と牙に、自身の魔力で覆う。
 すると、段々と小さくなっていく。
 最終的には人間の爪程度の大きさになる。
 それをポケットに入れる。


「やっぱ、改変魔法は便利だよなぁ」


 闘悟は自分の力に感謝する。


「さてと、依頼内容は巨大生物の調査だったよな」


 闘悟は顎に手をやって考える。
 まだ山の手前だ。
 その巨大な生物は、もっと上の方にいるのかもしれない。
 このゴリラでは無いような気はする。
 とりあえず山頂まで行ってみることにする。


「まあ、いるかいないかも分からないんだよなぁ」


 だが闘悟の思いは、いてほしいということだった。
 せっかく来たのだから、是非巨大なファンタジックな生物を目にしたいと思っていた。


「ま、登ってみれば分かるか」


 闘悟は楽観的にその場を後にする。
 
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