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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-23魔女の教室

 二度目の手合わせもアリーナの勝利に終わり、アリーナと少女は鍛練を終える。

 少女はパトリシアの様子を見るため(うまや)に向かい、アリーナも物珍しさもあって付き合う。


「お前が、パトリシアか!ユウの仲間になった、アリーナだ!これから、世話になる。よろしくな!」

 馬に向かい、気さくに挨拶する王子。

 パトリシアが、鼻を鳴らして(こた)える。

「パトリシアは、賢いな!」
「そうなの。人見知りするって、ホフマンさんが言ってたけど。アリーナのことも、気に入ったみたい」
「そうか!それは嬉しいな!ありがとう、パトリシア!」

 少女はパトリシアを()かし、アリーナも見様(みよう)見真似(みまね)で手伝い、手入れを終えて部屋に戻る。


 食堂に向かい、朝食の席に着く。

 アリーナがブライを物問いたげに見るが、ブライは()()らぬ顔をする。

「さて。今日の予定ですが。船の積み荷の準備に、魔法の講義ですな。そして、クリフトは身体(からだ)を休めると」

 クリフトは大事を取って部屋で朝食を()っており、この場にはいない。

「あたしは魔法は関係ありませんから、積み荷の準備にかかりますけれど。ひとりでは、さすがに厳しいですわね。」
「それなら、俺も関係無いからな。俺もそちらに行こう」
「あら。いいのかしら。アリーナさんに、荷物運びをさせるだなんて。」
「力はあるからな。むしろ適任だろう」
「ふむ。背に腹は代えられませぬな」
「あたしも力はあるし、馬車があるから、ふたりいれば十分ですわね。みなさん、お勉強頑張ってくださいね。」
「魔法の講義も、街中(まちなか)では本当に講義しか出来ませんからな。馬車を出されるときに、共に船の近くまで行くとしましょう。そのときの作業なら、手伝えますでな。声をかけてくだされ」
「わかりましたわ。」
「さすがに、ばあさんに力仕事させるわけにゃあいかねえな。オレらに、やれってことか。まあ、いいが」
「うむ。わかっておるの」


 朝食を終え、ブライ、マーニャ、ミネア、少女は、宿の一室に集まる。

「まずは、既に覚えておる呪文と、適性の確認じゃな。素質の無いものを、覚えようとしても、無理じゃての。知識を増やすことは無駄にはならぬが、今は時間が無いゆえ。覚えられるものから、教えていくとするかの」
「適性の確認とは、どうするのですか?」

 ミネアが問い、ブライが答える。

「これも素質じゃがな。見る目を持つ者が見れば、(おの)ずとわかるのじゃ。魔力の波動を感知するとも、表層(ひょうそう)に現れるものを視認するとも言われるが。まあ、感覚じゃの。経験を重ねることにより、わかるようになる場合が多いの」
「兄さんのは、それだったんですね。勘ではなかったと」

 長年の疑問が解け、納得するミネア。
 ブライが、驚きを(あらわ)にする。

「なんと。マーニャ殿も、わかるのか。その若さでのう。魔法の使い手を見る経験を重ねたとは思えぬから、生まれついての才能か。ますます、()(がた)いの」
「つっても、知らねえ呪文はぼんやりわかるだけだからな。そろそろ、役に立たなくなってくるな」
「ふむ。時間があるときに、知識も増やしてもらうとするかの」
「げえ。勘弁してくれよ」
「ほっほっ。高等呪文を覚えたくは、無いかの?」
「……汚えぞ、ばあさん」
「まあ、まずは目の前のことじゃ。マーニャ殿、使える呪文を言うてみよ」

 マーニャが、渋い顔で応じる。

「……メラ、ギラ、イオに、メラミ、ベギラマ、イオラ。あとは、ルカニ、ルーラ、リレミトだ」

 目を細め、ブライがマーニャを見据える。

「ふむ。……補助の呪文では、マホトラ、トラマナ。攻撃呪文では、ベギラゴンが、現在の魔力で使えそうじゃの。いずれ使えるであろうものは、後にするでな」
「マホトラにトラマナってのは、なんだ?」
「マホトラは、相手の魔力を奪い、我がものとする呪文。トラマナは、毒の沼地や魔法の障壁(しょうへき)などから受ける被害を防ぐ呪文じゃ」

 ブライの説明に、マーニャが興味無さげに返す。

「たいして役に立ちそうもねえな。魔力が切れたこたあねえし。毒の沼地やら魔法の障壁も、そうそう見ねえだろ」
「何を言うか。マホトラは、魔力を奪うことにより、魔法の使い手を無力化する使い方もできよう。トラマナは、適性の持ち主が少ない希少な魔法じゃ。わしも、使えぬ。この先、どのような場所に行くかもわからぬでな。何が何でも、覚えてもらうぞよ」

 (とが)めながらも、呪文の有用さや希少さを()くブライの言葉に、若干気を引かれるマーニャ。

「ばあさんでも使えねえのか。仕方ねえから、覚えるか」
「うむ。これを覚え次第、ベギラゴンを伝授しようぞ」
「よし。さっさと始めようぜ」

 気持ちを切り替えたマーニャを、ブライが(たしな)める。

「待ちなされ。先に、ミネア殿とユウちゃんの確認じゃ。ミネア殿」
「はい。ホイミとベホイミ。キアリーにキアリク。ラリホー、バギが使えます」
「……補助呪文のラリホーマ。攻撃呪文の、バギマ。蘇生(そせい)呪文の、ザオラル。回復呪文のベホマ。これらが、使えそうじゃの」
「蘇生呪文、ですか?」
「うむ。素質を持つ者は、回復魔法の使い手には多いのじゃが。実際に使えるようになるまでに魔力が高まることは、ほとんど無いの。苦労なされたの」
「……死者を、呼び戻すことが、できるのですか?」

 慎重に、言葉をひとつひとつ確かめるように問いかけるミネアの様子に、片眉をぴくりと動かして反応しつつ、必要な説明だけをブライが返す。

「条件があっての。()いや(やまい)による死でないこと。死後、()も無くであること。……つまり、魔法で回復不能な損傷を受けた肉体では駄目ということ、魂がこの世に(とど)まっておるうちしか、効果は望めぬということじゃな。その上、必ずしも成功する保証も無い。当てにするべきものでは、無いの」

 ブライの説明を咀嚼(そしゃく)して飲み込み、ミネアが一瞬、視線を落とす。

「……そう、ですか。……わかりました。ご指導、よろしくお願いします」
「うむ。そうは言っても、万一に備え、非道な手段を用いてでも使い手を抱え込もうとする(やから)はおる。厳しい旅路(たびじ)となるであろうから、教えはするが。無闇に、吹聴(ふいちょう)せぬようにな」

 ミネアの態度に言及すること無く、あくまで必要な注意を与えるブライ。
 ミネアも完全に普段の態度に戻り、返答する。

「わかりました」
「うむ。次は、ユウちゃんじゃの」

 ミネアに頷き返しながら、今度は少女に話を振るブライ。

「うん。わたしは、まだ使えなくても、習ったものも、あるけど。もう使えるのは、覚えた順で、ニフラム、ホイミ、メラ、ベホイミ、ルーラ、ギラ、トヘロス」
「ふむ。リレミトに、ラリホーマが、使えそうじゃの。習ったかの?」
「うん。習った」
「ならば、発動を確認するだけじゃな。他に、何か習ったかの?」
「ザメハ、マホステ、アストロン、イオラ、ライデインは、習った。ライデインは一度聞いただけだから、少し自信がないけど」
「ふむ。ならば、当面教えねばならぬことは、無いが。その先のことがあるでな。時間があるときに、教えていくとするかの」
「うん。よろしく、おねがいします」
「イオラ以外は、全部聞いたことねえな」
「どんな効果の呪文なのですか?」

 マーニャとミネアの疑問に、ブライが答える。

「ザメハは睡眠から覚醒させる呪文、マホステは我が身を魔力の霧で覆い、他者の魔法を届かなくさせる呪文。アストロンは自分を含めた仲間の身体を鋼鉄と化し、いかなる攻撃も受け付けなくなる呪文。ライデインは勇者の呪文と言われる伝説の攻撃呪文、その初歩じゃ」
「……マホステは、見たな」
「……ああ、あれね」

 何かを思い出し、遠い目をするマーニャとミネア。

 ふたりの様子に構わず、ブライが話を進める。

「さて、無駄話をしておる時間は無い。早速、始めるぞよ」
「わたしは、どうすればいい?」
「ミネア殿に教える呪文は、いずれユウちゃんも使えるようになるものがあるでな。マーニャ殿に教える呪文を知っておくことも、無駄にはなるまいて。一緒に、聞いておくといいじゃろう」
「うん、わかった」



 トルネコとアリーナは馬車を連れ、必要な物を買い揃えていく。

「女性に力仕事をさせるのは、どうかと思ったが。トルネコも、なかなか力があるな」
「それを言うなら、王子様に雑用をさせるほうが、問題がありますわね。力と体力だけは、昔から自信がありますの。夫が体力が無いものですから、家では力仕事は、あたしの役目でしたわ。」
「そうか。色々あるのだな」
「そうですわね。ユウちゃんも、力は強くなってきていますし、どうも女戦士さまも加わりそうな様子ですし。なんだか、アリーナさんのほうが、珍しいようですわね。」
「マーニャもミネアも、魔法のほうが得意らしいからな。そう言われれば、そうだな」

 他愛(たわい)も無い話をしながら、通行人が目を見張るような大荷物を(なん)()く抱え、どんどん馬車に運び入れていくふたり。

「これだけ力があるなら、トルネコも鍛えればもっと強くなりそうだな」
「それがねえ。あたしもそう思って、剣の使い方を習ってみたことが、あるのですけれど。習った通りに動こうとすると、なんだかこんがらがっちゃって。とうとう先生に(さじ)を投げられてしまって、それで断念したんですのよ。あなたは自分の動きやすいようにするのが、一番ですって。」
「そうか。色々あるのだな」
「そうですわね。さて、買い物はこんなものかしら。一旦(いったん)戻って、みなさんに声をかけましょう。」
「そうだな。馬車を任せて良ければ、俺が行って呼んでこよう」
「それでは、お願いしますわ。」



 アリーナに呼ばれて勉強組が合流し、馬車を連れて船を目指す。

 トルネコは馬車の中で荷物が崩れないように支え、ブライが手綱を取る。

 マーニャ、ミネア、少女は魔法の発動確認のため、標的となる魔物を探しながら歩き、アリーナが支援につく。

「座って話を聞くだけってのは、(しょう)に合わねえんだよな。さっさと試したいぜ」
「それでも、いつもよりは集中してたね。さすがブライさん」
「そっちを()めるのかよ」
「どう考えても、ブライさんのおかげだからね」
「おばあちゃんの、教え方。わかりやすかった」
「魔物が出ても、倒してはいけないとは。初めての経験だな」
「すみません、アリーナ」
「いや、いいんだ。倒さないようにあしらうというのも、いい経験になるだろう」
「この先も、あんまりひとりで片付けられても困るからな。いい機会だな」
「そうだな。……来たな」

 雑談の最中(さなか)、魔物の気配を察知したアリーナが、そちらに視線を向ける。

「よし。まずは、補助呪文からだな」

 向かってくる魔物たちをアリーナが引きつけ、マーニャがマホトラを、ミネアと少女がラリホーマを、それぞれ唱える。

 魔法が発動して二体の魔物が眠りに落ち、吸い出された魔力がマーニャの身体に納まる。

「お、なかなか面白えな」
「ラリホーよりも、()きが強いということだけど。効き始めも早いような気がするな」
「……できた。」

 アリーナが、起きている魔物の攻撃を(かわ)しながら言う。

「次は、どうするんだ?」

 三人の方を向きながらも、確実に攻撃を()けていくアリーナ。

「すげえ動きだな」
「兄さんも、身は軽いけど。無駄が無いというか危なげが無いというか、もう片手間だね」
「倒していいのか?」
「待て。魔法で攻撃するから、一旦離れろ」
「わかった。()けるから、そのまま撃ってくれ」
「……いいのかよ」
「大丈夫だ」
「知らねえぞ」

 マーニャは確認したあとは頓着(とんちゃく)せず、ミネアはブライが()めないことを確認し、それぞれベギラゴンとバギマを唱える。
 激しい火炎と真空の(やいば)が、アリーナと魔物めがけて殺到する。

 兄弟と少女は一瞬息を飲むが、炸裂する寸前にアリーナが大きく()退(すさ)り、魔物だけを巻き込んで、炎と風が渦を巻く。

 暫し絶句した(のち)、兄弟が呟く。

「……凄えな」
「……凄いね」
「ああ。凄い魔法だな」
「そっちじゃねえ」
「完全に、驚きを持って行かれたね」
「三人とも、すごいね」
「魔法を直前で()けるとか、アリかよ。当たらねえじゃねえか」

 驚き呆れるマーニャに、ブライが説明する。

「王子は、サントハイムの魔法兵とも、よく手合わせなされたでな。魔法を使わねば、全く相手にならぬと(おお)せになって。魔法を使わせて()けることに一時期、熱中しておられた。今では、目の前で範囲の広い魔法でも展開されぬ限りは、お()けになりますな」
「……嫌な相手だな。絶対に手合わせとか、したくねえ」
「そう言うな。マーニャとも、手合わせはしたいと思っていたんだ」
「冗談じゃねえ」
「そうか。まあ、気が変わったら頼む」
「期待しねえで待ってな」
「ミネア殿。魔物の(しかばね)であれを、試してみなされ」
「はい」
「王子。念のため、側についてくだされ」
「わかった」

 ブライの促しに応じ、ミネアがザオラルを唱える。

 魔法が発動した気配があるが、効果を()すことは無い。

「……これで、いいのでしょうか?」
「うむ。間違い無く、発動したの」
「実感がありませんが、そうなんですね。ではあとは、私のベホマに兄さんのトラマナ、ユウのリレミトですね」
「いずれも、今は試せぬな。ミネア殿のベホマは特に、早いうちに確認しておきたいがの。まあそのうち、機会もあろうて」
「そうですね。まずは、荷物を運んでしまいましょう」


 馬車は船に到着し、トルネコの指示で荷物を各所に運び込む。

 アリーナは荷物を運びながら、物珍しげに船を観察する。

「これが、トルネコの船か!なかなか立派だな!」
「ふむ。城の御用船(ごようせん)には、流石(さすが)に及びませぬが。個人が持ち、冒険者が使う物としては、有り得ぬ豪華さですの」
「長い旅では、生活の場になりますからね。いろいろと、奮発(ふんぱつ)しましたの。あら。そう言えば。マーニャさんとブライさんに、見ておいていただきたいものが、ありますのよ。」

 トルネコの発言に、マーニャが怪訝な顔をする。

「なんだ?今さらオレまで、改めて見るようなもんがあんのか?」
「ええ。今のところ、船で生活することはなかったから、お見せしてなかったのですけれど。とにかく、来てくださいな。」
「俺たちも、行っても良いか?」
「もちろんですわ。おふたりには、ご協力いただきたいことがあるのですけれど。みなさんにも、関係あることですから。」
「では、私たちも行きましょう」
「うん」

 トルネコの先導で、船の奥に入る。


 船の奥には、湿気がこもらないように工夫された造りの続き部屋がふたつあり、奥の部屋には金属製の大きな箱が置かれていた。

「なんだ、こりゃ?」
「手前の部屋は脱衣所、奥の部屋は浴室。そしてこれは、浴槽ですわ!ちゃんと、男湯と女湯も、分けてありますのよ!」
「つまり、風呂か。なんで、オレとばあさんに?」

 ますます怪訝な顔をするマーニャと、明るく声を上げるブライ。

「ほほう!なるほど、そういうことか!」
「わかっていただけまして?」
「うむ。わしの氷の魔法を水源として、マーニャ殿の炎の魔法で、沸かしてもらうつもりじゃな?」
「その通りですわ!ふつうなら、船旅では水も燃料も、無駄にはできませんけれど。炎と氷の魔法の使い手が揃っていれば、その心配はいりませんもの。用意しておいて、本当によかったわ!」
「うむ!トルネコ殿は、先見(せんけん)(めい)があるの!」
「そうでしょう!」

 話は理解しながらも、微妙な表情のままのマーニャが、疑問を口にする。

「……船を造ってたときは、オレもばあさんもいなかったよな。揃わなきゃ、どうする気だったんだ?」
「それは、無駄になりましたわね。」
「金属製の浴槽とか、特注品だろ?使うかもわからねえもんに、よく出したな」
「必要になってから、用意しておかなかったことを後悔しても、遅いんですのよ!」
「全くじゃて!これを無駄だなどとは、とんでもないことじゃ!」
「お風呂に、入れるのね。うれしい」
「……」

 トルネコとブライに加え、少女までもが喜びを口にし、さらに微妙な表情が深まるマーニャ。

 アリーナとミネアが、言葉をかける。

「マーニャ。こういうことで、女性に逆らっては駄目だ」
「そうですね。諦めが肝心だよ、兄さん。実際、助かるんだし」
「燃料はオレだがな」
「どうせ、魔力は余るだろ」
「気にしても、どうにもならないぞ」
「……そうだな。気にしたら、負けだな」

 盛り上がる女性陣に、諦めの溜め息を()くマーニャ。


 船の準備を整え終えて、一行はミントスの町に戻る。 
 

 
後書き
 魔女の教えと新たな仲間に、戦力を高める一行。
 死の(ふち)から生還した乙女も、一行に合流する。

 次回、『5-24乙女の想い』。
 8/14(水)午前5:00更新。 
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