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連隊の娘

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第一幕その八


第一幕その八

「絶対に何かあるわよ。フランス軍がここまで来るということは」
「やはり戦争ですか」
「そうだと思うわ。だから巻き込まれないように帰りましょう」
「左様ですね。それでは」
「残念だけれど」
 右手の日笠を寂しそうに見ての言葉であった。
「それではですね」
「帰りましょう」
「いえいえ、その前にです」
 何気なく言った主をここで止めたホルテンシウスであった。
「確かにお嬢様は見つかりませんでした」
「ええ」
「それでもです。奥様に何かあってはいけません」
「戦争に巻き込まれてはなのね」
「ついでに私もです」
 自分のことを言うのも忘れないホルテンシウスであった。
「だからです。ここはです」
「どうするつもりなの?」
「丁度あちらに軍曹殿がおられます」
「相変わらず怖い顔ね」
 そのシェルピスを見ながら話す二人だった。
「とてもね」
「ですがあの方を頼りましょう」
 彼の提案はこうしたものだった。
「是非共」
「是非共、なのね」
「はい」
 また主に告げるホルテンシウスであった。
「如何でしょうか、それで」
「そうね」
 彼の言葉を聞いてまずは考える顔になる夫人だった。
「それじゃあそうしましょう」
「それでは。あのですね」
 彼は夫人の言葉を受け早速シェルピスに声をかけるのであった。
「あの、軍曹さん」
「何でしょうか」
「御願いがあるのですが」
 こう言ってから申し出るのであった。
「私達はこれから帰りたいのですが」
「それで我々に護衛を頼みたいというのですね」
「駄目でしょうか」
「いえ、構いません」
 シェルピスは微笑んで快くその申し出を受けるのだった。
「無論隊長から許可は必要ですが今我が連隊は前線にはいませんので」
「それで宜しいのですね」
「はい。それでですが」
 ここで彼は言うのであった。
「どちらまで帰られたいのですか」
「ベルケンフィールドまでです」
 夫人が彼に告げた。
「そこまでです」
「ベルケンフィールドとは」
 その城の名前を聞いて眉を動かしたシェルピスであった。そしてこう言うのであった。その間にトニオとマリーは兵達のところに向かっていて今はいない。
「懐かしい名前ですな」
「懐かしいとは?」
「いえ、実はですね」
 ここで話をはじめるシェルピスだった。
「私が入隊した頃部隊にロベール=ベルケンフィールド大尉という方がおられまして」
「ベルケンフィールドですか」
「そうです。その方がです」
「あの人がおられたのね」
 それを聞いてこっそりと呟く夫人だった。
「何という奇遇」
「その方のことを思い出しました」
「そうですか。実はですね」
 軍曹の話を聞いてからここで言う夫人であった。
「大尉と私・・・・・・いえ妹にですけれど」
「はい」
「二人の間に女に子がいまして。大尉は戦死されましたが」
「ええ。残念なことに」
「実はその前に私に娘を託してくれたのです」
 こう軍曹に話す。
「その娘は我が家の家名と財産の相続人ですけれど」
「大尉の娘さんでしたら」
「もう死んでますよね。召使い・・・・・・いえ妹に預けてそのまま夫に会いに前線に出てそこで巻き込まれて」
「生きていますよ」
 しかし軍曹は言うのであった。
 
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